ギタリズム
ヴァボボ
「ん?」
外回りから事務所に帰ってくると、駐車場になんか凄い車が停まっていた。
まさか、また中山さんじゃないだろうな、でもハイエースじゃないしな。
おぉ!このエンブレム、アストンマーチン V8ヴァンテージか、これっていくらするんだっけ。
事務所の前では藤崎がタバコを吸いながら体を揺すっていた、何イライラしてんだよ、俺を待っていたのか?
「来た!おせえよ、内海!」
「むっ、なんだと、せっかく美味しいCMの仕事とってきた者に対してその口の聞き方はどうかと思うぞ」
「いや、CMなんざどうでもいい、いいか、落ち着いて聞けよ、M-HOTOMIさんがいらっしゃっておられる、世界的ギタリストのM-HOTOMIだぞ!しかも本物!」
「はぁ?」
偽物っているのかな?モノマネ芸人とか。
事務所に入れば、確かにソファーに座った背の高い細身の男性が居た、黒のジャケット似合ってるなぁ、カッコいい。
その正面には丸ちゃん先輩がチョコンと座っている、あ、気づいた、こっち来た。
「お、お帰りなさい内海くん、ホ、ホトミさんが突然いらして、私インスタントコーヒーなんかお出しちゃったけど、だ、大丈夫かな?」
ハハ、テンパってる丸ちゃん先輩を見たら少し落ち着いた。
「お待たせしました、HOTOMIさん。内海です」
ソファーに座るHOTOMIさんに挨拶する、あ、ギターケースだ、どれが入ってるんだろう?やっぱフェルナンデスかな。
「君がUTUMIちゃんか、初めまして今回君の曲を作曲をさせてもらったHOTOMIです」
HOTOMIさんが立ち上がって握手を求めてきた、立ち上がると迫力増すな、うわうわ、指先硬え、この手が数々の名曲を。モニモニ
「へぇ、綺麗な手をしているね、とてもあの曲を弾いた手とは思えないな」
HOTOMIさんにマジマジと俺の手を見られる。
あ、そうか男の時だったらギターダコの出来たゴツゴツした手だけど、今はまだまっさら状態だもんな。
「いや、疑うわけじゃないんだ、実際に弾いてる映像も、音も聴いているからね」
「あ、ありがとうございます。そ、それで本日は…」
世界的ギタリストが俺を訪ねて来るなんて、やべサイン貰っといた方が良いかな。
「大した理由はないんだ、ただこの前の演奏を聴いて君に興味が出てね、会って見たくてロンドンから戻ってきてしまったんだ」
「「ま、マジDE!」」
おい、藤崎いつの間に隣に来てんだよ。あ、丸ちゃん先輩までいつの間に。
アミュズプロダクション喫煙所で、機嫌良さげに紫煙を燻らす男が居た。
「あれ?中山さんどうしたんです、そんな機嫌良さそうにしてニマニマと」
「いや何、ちょっと内海ちゃんを口説くのにどうしようかなと思っていたら、今朝HOTOMIさんが私のとこにやって来てねぇ」
「えっ、凄いじゃないですか、今ロンドンに住んでるんですよね、戻ってきたんだ」
「そう、それが突然やって来てUTUMIの住んでる場所を教えろって、教えたら長野に行って来るって飛び出して行ったよ」
「マジっすか、直々にスカウトしに来たンスか」
「フフフ、流石にHOTOMIさんに直接スカウトされたら内海ちゃんも断れないでしょう、内海ちゃんギター大好きだしね、フフフフ」
「中山さん、悪い顔してますよ」
「ハハハ、これでUTUMIを本格的に売り出す事が出来る」
中山は吸っていたポールモールを灰皿で揉み消すと、笑いながら自分のデスクに戻って行った。
「うわぁ、UTUMIもえらい人達に目つけられちゃったなぁ、南無」
「60を超えて、こんなカッコいい曲を作れるなんて本当に尊敬します!流石です」
「HAHAHA、こう見えて曲を作るのは得意なタイプなんだよ、もちろん弾くのも得意だけどね」
「「知ってます!」」
あ、藤崎と声かぶった。
しかしHOTOMIさん、イメージと違って話しやすいな。
「そう言えば中山さんにUTUMIちゃんはお酒が好きだと聞いたけど、シングルモルトは大丈夫かな」
HOTOMIさんが机の上にロゴ入りのシルバーの箱をコトリと置いた。
「そ、それは、幻のアバンギャ…」
HOTOMIプロデュースで販売したシングモルトウイスキーじゃん、これって凄い高かったよな。しかもオリジナルロックグラス付き!
藤崎の奴、ファンだから凄え飲みたがってたよな、こうして見せられたら一人じゃ飲めないな、後で何言われるかわかったもんじゃない。
「手前味噌で悪いけどね」
「いえ、最高です!あ、あの、HOTOMIさんお時間ありましたら、この後私の家で一緒に飲みませんか、まだお話も聞きたいし」
「いいね、別にスケジュール空いてるし、UTUMIちゃんのストラトも聴きたいな」
隣に座ってる二人も。
「藤崎も丸ちゃん先輩も来るでしょ」
「内海ぃ、お前実は良いやつだったんだなぁ〜」
てめ、何涙流しながらディスってるんだよ、やっぱ誘うの辞めるぞ。
「内海くんのお家…」
丸ちゃん先輩も何顔赤らめてるの?
4人だから丸ちゃん先輩の軽バンで行けばいいか。部屋はこの前掃除したし綺麗だったよな。
あ、春夏にライン入れといた方がいいかな。
「う〜ん、やっぱサプライズで」
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