妹の悩み
「う〜ん、やっぱり東京観光はしたかったな、あれじゃ蜻蛉返りだったもん」
せめて東京タワーは見たかったなぁ、上野動物園のパンダは……今いないのか。
おのれ中華人民共和国め、パンダの独占は国際関係を悪くするぞ。シャンシャンは日本生まれで上野は台東区なんだから東京区民だろ、日本に帰化申請を要求する。
「まぁ、スケジュールがねぇ、それでもライブはしっかり見れたんでょ」
「私、あんまりアイドルとか詳しくないから、誰が歌ってんのか区別つかなかった、INIとJO1ってジャニー○?」
「うわぁ、もったいない!猫に小判だわ、私が行けば良かった」
学校の昼休み、お弁当を食べながら陽子に愚痴をこぼす。
「今日だよね放送日、楽しみだわ」
「そうだよ、お母さんなんか何度も確認の電話入れてきて凄くウザいの」
ラインで済ませろよ、それなら文章で確認出来るだろうに。
「何、春夏、この前のお姉さんと東京行ってきたって話?デェズニーとか行った!」
陽子と話していると購買に行って戻って来た竜太が私達の会話に混ざってくる、竜太にはまだ兄のスカウトの話はしてないんだよな。
あ、カツサンドまだ残ってたんだ、良かったじゃん。
「デェズニーなんか行かないわよ、お兄ぃ、ミッ○ー嫌いだし」
「え、お姉さんってミッ○ー嫌いなの?」
「なんか小学生の時にランド行って、怖かったんだって」
まぁ、小学生にはでっかい黒ネズミだしね。
「お姉様、お可愛いですわ!」
「あ、そうだ竜太。今日のミュージックセッションは絶対に見ないでね」
「へ、歌番組、なんで?」
「なんでも」
「まぁ、いつもは金曜ロードショー見てるからいいけど、なんかあるの?」
「いや、竜太が見るのが厭なだけよ」
「……」
何よ、陽子、なに笑ってるのよ。
竜太が音楽に興味ないのは知ってるけど一応釘刺しておいただけでしょう、自分の兄見て興奮する彼氏なんて嫌でしょう。
そんな事言われたら余計に見たくなるって、しまったぁ!
けど、この学校の生徒はこの前の学祭でお兄ぃの顔覚えられちゃってるからなぁ、番組見た人にはバレちゃうよね。
やばいな、そこまで考えてなかったぞ。
今日はこの前に収録したミュージックセッションの放送日。
夜の9時、自宅で兄と二人でTVの前にちょこんと並んで座る、実家のお下がりの32インチだから二人で並んで見れるのだ、とりあえずレコーダーに録画予約はしておいた。
一応お兄ぃがTVに出れた記念だしね。
「「あ、始まった」」
番組開始、画面に映るヤモリさん、あ〜そっか!サインもらっておけばよかった、帰りに廊下ですれ違ったのに。
あれ、お兄ぃ、来週だったらクリーピーナッツが出演したらしいよ、残念だったね。
「マジで…」
へこんでるへこんでる、長野じゃあまり芸能人を生で見る機会は少ないからね。
あ、私この前、小島よしお、長野駅で見たよ〜いいでしょ。
お、最初はお兄ぃ達の出番だね。
♪♫~
あれ?こうして画面に映るお兄ぃはなんかカッコいいぞ、しかも歌上手くね、音声加工してる?
ふと隣を見れば、お兄ぃはエアギターのつもりなのか指を動かしなら口ずさんで体を揺らしていた。
「?」
画面越しに見ると物事を客観的に見ることが出来ると言う、音響設備もメンバーも観客の盛り上がりもこの前の学祭とはレベルが全然違う、プロの仕事って感じでキラキラして輝いて見える、照明の所為。
ジャ、ジャカカン!
あ、終わった。
「おお、なんかカッコいくね俺、ソロの部分もミスなかったよな」
「う、うん」
なんだろう、なんかまともにお兄ぃの顔が見れない、もしかして私お兄ぃの芸能界入りを邪魔しちゃったかな。
チャンチャンチャララ♪
お兄ぃのスマホの着信音が鳴る。
「げっ、母さんからだ」
ポチ
「ああ、春夏と一緒に見てたよ、結構ギター上手かったでしょ、うん、衣装もカッコ良かった、ありがとう、うん、うん…」
お兄ぃのスマホからお母さんの嬉しそうな声が漏れて聞こえてくる、お母さんはお兄ぃが歌手になる事は賛成なんだよね、下手すりゃマネージャーやるとか言いそうだもんな。
「わかったって、じゃあ切るね」
ポチ
「お母さんなんだって?」
「なんか色々ダメ出しされた、最後はカメラに向かってウインクするくらいのサービスしなさいって、バカじゃないの」
だけどお兄ぃ、学祭の時は投げキッスしてたよね、そこはツッコむべきか?
「はは、お母さんらしいね、でも喜んではいたでしょ」
「ああ、凄えはしゃいでた」
お兄ぃは横を向きながらぶっきらぼうにそう言った。耳赤いぞ、ふふ、照れてやんの。
あ、私も陽子からライン入ってる、ゲッ、竜太からも。
「あいつ〜TV見やがったなぁ!」
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