いざ本番
【山本光】
リハーサル。
ボンボン、ベキョベキョ♪
ステージでの立ち位置やカメラの場所をスタッフに教えられながら穂奈さんとUTUMIと3人で音を合わせる。
それにしてもUTUMIがギターボーカルとは思わなかった、確かにめっちゃ綺麗な人だけど新人ちゃんにこの曲を弾きながら歌えるのか?
基本TV収録でのリハーサルでは曲を通しで弾く事はあまり無い、1グループごとに時間が限られてるからだ。
大体が機材チェックをメインに、しかし私達はそれぞれが曲を練習してきてはいるが今日が初めての音合わせだ、1回くらいは通しで演奏しておいた方がいいだろう。
そう思っていると観客席に立っていたプロデユーサーがUTUMIの顔を見て、指示を出す。
「君達は今日が初顔合わせなんだろう、とりあえず1曲通しでやってみようか、カメラアングルも確認したいから」
うん、UTUMIの容姿はTV映えしそうだし、プロデユーサーとしてはカメラアングルは確認しておきたいよね。
「じゃ、始めま〜す」
♪♫~
ジャ、ジャカカン!
「……………………」
【内海春夏】
本番前、楽屋でお姉ちゃんのステージ衣装を確認する、お母さんがこの日のために作ったスペシャルだよ。
ショートブーツにサイドにスリットが入って太ももがバッチリ見える短めのタイトスカート、おへそ丸出しのタンクトップに合わせるのは光沢のあるライダース風のジャケット、背中にはワンポイントで薔薇の刺繍が入っている、色調は黒のモノトーンでロックな曲調に合わせたロックな感じだ。
お母さん、こんな生地どこから仕入れてきたんだろう?
兄は初めて履いた網ストッキングに妙に感動していた、ハイハイ、エロいエロい。
髪はサイドと前髪を緩く巻いて顔を良く見えるように、こういう時小顔は得だよね、仕上げのメイクは光さんのアドバイスで遠くからでもわかるように少し濃いめに、ルージュはしっかりと引く。
最後に兄愛用の白いギターを肩から掛ければ、美女ロッカーの完成だ。
うん、バッチリだね。
隣で見ていた光さんも親指を立ててOKだよと笑っている。
【山本光】
いざ本番、続々と観客席に人が入れられ、収録が開始される。
♪
番組テーマが流れ、司会のヤモリさんが登場すれば歓声が起こる、私達はトップバッターなのでインタビューも一番先だ。
私は隣に立つUTUMIをそっと見る、やば、メイクした後はマジでハンパなく綺麗だなこの娘。
「今日のトップバッターは、本日デビューの新人アーティストUTUMIの登場です」
ザワザワ
まばらな拍手、観客席がざわつく、無理もない無名の新人がいきなり登場と言われても戸惑うのはよくわかる、それほどまでにこの世界は知名度が重要なのだ。
「いや〜、それにしても新人なのに落ち着いてるね、本当に今日がデビューなの?」
「そうですね、実は生ヤモリさんに会えて感動してます!」
UTUMIがヤモリさんのインタビューに答えている、初めてのTVだと言うのに本当に落ち着いてるな、度胸もあるねぇ。
「UTUMIちゃんはギター持ってるって事は弾き語りのスタイルなのかな、バックのメンバーも豪華だよね」
「そうですね、今日は私のためにわざわざゲストで来てくれた光さんと穂奈さんに、ガッカリされないように頑張りたいと思います」
この会話に観客席には私と穂奈さんをを知ってるお客さんがいるようで少しざわつく。
フフン、二人とも活動は長いからね。
「この曲、作曲はあのHOTOMIさんなんだって」
「そうですね、凄くカッコイイ曲なんですよ」
「へぇ、そうなんだ、そりゃあ期待できそうだね、ではスタンバイしてもらおうか」
「は〜い」
UTUMIが観客に手を振りながらステージに向かって歩いて行く、それだけで観客席の男どもは盛り上がる、本当にUTUMIは見た目が良いし華があるんだよな。
このステージに緊張する様子もないし、その堂々とした態度はベテランかと錯覚するほどだ。
それぞれが自分の立ち位置に収まる。
さぁ、気合い入れて行きますか!
【UTUMI】
「わぁ、お客さんがいっぱいだな」
リハーサルの時にはいなかった観客を見ちゃうといやが上にも気分が上がる。
照明が一度落とされ、スポットライトが再び俺たちを照らす、それを合図に…。
チチチチチチッチ、スダムッ!!
ハイハットからの穂奈さんのドラムが始まりリズムを刻む、凄い音圧、流石プロで長くやってるだけの事はある。
ボン、ベキョベキョベキョベキョ!!
ドラムに被せるように光さんのスラップベースが重低音を響かせる、まるで喧嘩腰な激しい音、光さん可愛い顔して相当負けん気が強いんだな。
楽しくなってきた。
じゃあ俺のギターも混ぜてもらおうか!
ガギャーーーーーーーッ!キュイン、ギャギャ
今時の曲としては少し長めのイントロ、基本ピック弾きが長かったので、指弾きやスラップを多用するこの曲は俺にとっては難しいんだよな、でもこの1週間、時間の限り弾きまくったせいでようやく形になった。
さて、歌いますか。
LaLaLa〜~~~~~~~~~~~~♪
「……………………ワァーーーーーーーーーッ!!」
男と女の中間を行くような、唯一無二のハスキーボイスが会場を一気に駆け抜ける。
一声、たった一声でスタジオに集まった観客が一瞬にして引き込まれ、心を鷲掴みにされる。
♪
ジャカジャカザンキュィィィィィィン、ジャカジャカ
ステージギリギリの位置で観客を煽るようにギターを掻き鳴らす、HOTOMI独特のブルージィーなギターソロが白いストラトから溢れ出した。
「ドワァーーーーーーーーーッ!!」
弄りまくったBメロの入り、このリフは絶対に流行る。
「カッコいい……」
最前列に座っていた女性が熱っぽく呟く。
その美しい容姿と色気、激しいイントロで惹きつけ、ハスキーな第一声で鷲掴みにされ、ソロのギターで完全に沼に落とされた。
「お姉様ぁ♡」
「色っぽいのにカッケェ!」
アイドルグループには無い硬派なロックサウンド、楽しげにギターを掻き鳴らし絶唱する内海の姿は、男女問わず会場中に強烈なインパクトを与えた。
第一スタジオの音響サブルームではプロデューサーがステージが映ったモニターを眺める。
「これがアミュズが強引に推して来たって娘か、リハでもびっくりしたが本番はさらに凄えな、とてもデビューライブとは思えねぇや、確かに顔は抜群に綺麗だが、それだけじゃない…何か特別なものを感じる、こいつは売れるぞ」
ジャッジャッジャガ
「オイ、カメラ寄せろ!顔もっとアップで映せ!」
♪♫~
ジャ、ジャカカン!
「「「「ウワァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」」」」
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!
鳴り止まぬ拍手の中、UTUMIのデビューライブは大成功をおさめた。
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