上京
「ここは何処?私はだあれ?」
思わずそう言いたい気持ちになっている。
北陸新幹線E7系あさまが東京駅に到着する、長野から東京までわずか約1時間半の短い旅。
内海が生まれて25年、その間で東京の地に足を踏み入れたのは一度きりだ、幼稚園、小学校、中学校、高校、大学とずっと長野だった、なぜか大阪には10回以上行ってるが東京には一度しか行っていない、もう大阪が日本の首都でいいんじゃないだろうか。
社会人になっても基本的に地元密着型の会社方針のせいで出張に出かける事もない、東京に来るのは実に小学校の時以来である、しかもその時は親に手を引いて連れられていた、ディズニーランドに行ったのだがそこで遭遇したネズミの着ぐるみが怖くて大泣きしたらしい、これがトラウマとなったのかもしれない。この長野っ子め。
ちなみに春夏も初の東京上陸だが、これはコロナ禍で旅行に出れなかった影響だ。
20番線ホームを降りた兄妹はお互いの顔を見る。
「「大都会だ!」」
完全におのぼりさん状態だ。
ギターケースを持って帽子にサングラス、そして隠しきれない美貌をしていたので、見た目は芸能人ぽかった、そのため周りからはヒソヒソと話しながら内海兄弟を見る者も多く、悪目立ちしている。
「丸の内ってどっち行けばいいんだ?」
「ちょっと待って今スマホで調べるから」
「いや、駅広いし駅員さんに聞いた方が早いだろ」
兄が若い男の駅員に素早く近付いてニコリと微笑む。
「よろしいかしら、丸の内に行くにはどう行けばいいのかしら?」
田舎者のおのぼりさんの癖に態度はセレブみたいに堂々としてる、この辺がやっぱ営業もやってる社会人なんだな。
若い駅員は嬉しそうに鼻の下を伸ばして、そして暇じゃないだろうに自ら出口まで案内してくれた、だが駅員よ私の存在を無視するのは如何なもんかな、これでもアイドルグループに入れる可愛さは有ると言われているんだが。
駅を出て後ろを振り返ればレトロなレンガ作りの東京駅、ほ~、ドラマでは見たことあるけど、本物はやっぱ味があるね、長野も善光寺があるんだからお寺さんみたいな建物にすればいいのに。
中山さんが迎えに来てるのはずなんだけど。あ、来た来た。
「やあ、内海さん。わざわざ東京まで来て頂いてありがとうございます、今日はよろしくお願いしますね」
中山さんがニコニコと挨拶してくる、兄と私は揃って頭を下げた。
中山さんがスマホで何処かに電話をかけながら歩き出す、それについて行くと目の前に白いハイエースがキュっと止まってドアが開いた。
「さぁ、お乗りください、TV局までご案内します」
おぉ、よかった誘拐じゃなかった、東京は物騒だからな、白のハイエースなんかで来るなよ。
今日のミュージックセッションの収録はTV局でやるらしい、土地勘の無い私達にとってはこの送迎は非常にありがたい、私達だけだったら絶対に迷子になる自信がある。
「あ、お姉ちゃん皇居だよ皇居!わぁ!」
「本当だ!天皇陛下とか居るかな」
そんな事ではしゃぐ私たちを助手席に座る中山さんが微笑ましく見ている、すみませんね田舎者なもんで。
「おお、国会議事堂!石破居るかな」
「さぁ着きましたよ」
「え、もう。結構近いんですね」
「テレビ朝日って六本木ヒルズだったんだ」
兄妹揃ってポケ〜っとテレビ局の建物を見上げる、ちょっと間抜けかも。
中山さんが受付の守衛さんに挨拶すると、いよいよテレビ朝日の中に入る、デッカいな〜小学校の社会見学で行ったテレビ信州とは規模が全然違うね。
「収録は地下1階の第一スタジオで行います、会場入りが3時からなので、その前の午前中に出演者のリハーサルがありますので、今日のゲストメンバーに内海さんをご紹介しましょう」
中山さん、なんか顔パスでズンズン進んで行くんだけどいいのかな。
UTUMIと書かれた札がかかった楽屋部屋のドアを開けると、二人の女性が会話していた、この人達が光さんと穂奈さんかな?
30は行ってる感じのソバージュの女性とピンクの髪したお姉さん、どっちがどっちだろ。
二人が立ち上がって挨拶してくる。
「あ、中山さんご無沙汰です、今日はサポートで呼んでもらってありがとうございます」
「お疲れ様です」
「いえいえ、今日はうちの内海のために来てくださって、感謝するのはこちらのほうですよ」
「じゃあ、そちらが」
兄がペコリと頭を下げる。
「内海です。山本光さん可愛いくてベースも上手いなぁっていつも思って聴いてます!ファンです!それと穂奈さんのこの前出たゲスのアルバム凄く良かったです!」
兄が頭を上げると二人に詰め寄って捲し立てる、ピンクの髪が光さんか、でこツルツルで可愛いな兄と同じくらいの歳かな。
じゃあ、ソバージュの方が穂奈さんか、アルバム出してるの?
「「お、おぅ」」
兄が勢いよく詰め寄るとお二人が一歩後ずさる。
そんな有名な人なのか?私、音楽業界全然知らないからわかんなかったよ。
でも穂奈さん落ち着いた感じで綺麗だな、女優でもいけるよその顔なら(何故か上から目線)。
さて、私も挨拶をしておきますか。
「初めまして、今日は姉の付き添いでお邪魔します、妹の春夏、17歳で~す」キャルン
あ、やべ。キャラ作り過ぎたか。
内海達が来る少し前の楽屋。
私、山本光はベーシストだ、基本は阿吽と言うグループでベースを弾いているけど、最近は名前も売れて来て色々なアーティストのコンサートでサポートメンバーで弾くことも多い。
そのおかげか業界ではそれなりに信用を得れるようになった、今日はアミュズの中山さんにサポートで呼ばれてミュージックセッションのTV収録に来ている。
しっかし、新人のサポートかぁ、下手くそな歌だったらやだなぁ、せっかくHOTOMIさんが作曲してるんだからそれなりの音にしたいよね。
そんな事を考えながら案内された楽屋に行くと、ゲスでドラム叩いてる先輩の穂奈さんが居た、えっ、あの穂奈さんがドラム叩くの、何よその高待遇、どんな新人なのよ。
「お久しぶりです、もしかして穂奈さんもサポートメンバーで?」
「うん、中山さんに頼まれちゃったから」
やっぱり、私のベースに穂奈さんのドラムか、じゃあギターがもう一人とボーカルで4人編成かな。
「光ちゃんはもう、音源聴いた?」
「ええ、HOTOMIさんやっぱカッコいい曲書きますよね、今回ギターは誰が来るんでしょうね」
あの曲のギターは表現が難しいぞぉ。
「あぁ、光ちゃんはまだ本人の歌が入ったのは聴いてないんだ、ふふふ」
穂奈さんが優しく微笑む、流石女優を兼業でやってるだけの事はある、華があるね。
「えぇ~、なんですかそれ、教えてくださいよ穂奈さん」
カチャ
あ、中山さんだ。
穂奈さんと話していると中山さんが入ってきた、その後ろには2人の女の子、一人はギターケースを持った凄く綺麗な女の人、じゃあこっちの女子高生みたいなのがボーカルのUTUMI?
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