孔明の罠だ!
♪♫~
「…………………………」
3人で耳を澄ましてスマホからの音楽に聴き入る。
あ、かっこいい曲、私結構好きかも。
ジャ、ジャカカン!
あ、終わった。
「どうです、凄くいい曲でしょ、これを内海さんの声で歌ってるのを想像してみてくださいよ、ゾクゾクしませんか」
リピートで繰り返し曲が流れる中、お兄ぃが中山さんに質問する。
「……このギター、作曲家の人が弾いてるんですよね?」
「えぇ、ご本人演奏のデモ音源です」
兄が珍しく真面目な顔をして考え込んでいる?もう酔いは冷めたのかな。
「お姉ちゃん、このギターがどうかしたの?」
「バカ、お前このテレキャスターの音聴いてわからないのか、この曲作ったの世界的ギタリストのM-HOTOMIさんだよ」
バカって言ったな、このギターバカ!聴いただけでわかるかボケ、でもM-HOTOMI?
「えっ、確か何年か前にアメリカのスーパーボールで演奏した人だっけ?」
「うわマジか、凄え鳥肌たった、まだ世に出てない曲を先に聴いちゃった~」
「フフフ、我が社も彼に頼むのには、結構お金使いました」
M-HOTOMIさんなら結構なお値段だろう、でもこれ新人歌手には荷が重いんじゃないか、洋楽ロックでブルージィーなメロディーなんてカッコよすぎて普通のアイドルの歌声じゃ曲に負けちゃうぞ。
「この指弾きからのスラップなんて痺れるわぁ、あの人ピックだけじゃないんだな、最高!」
「お姉ちゃん、ギターにばっか感動してるけど歌の方は大丈夫そうなの?」
このデモ音源、ご丁寧に仮の歌い手で歌が入ってるのだ。
なるほど、確かにちょっと曲にクセがあって歌いづらいかも、でも今の兄の声なら行けそうな気もする。
「いや、このギターリフを弾くことを思えば歌なんておまけみたいなもんだろ、どうとでもなるんじゃね」
「ハハハ、この歌がおまけですか、内海さんにとってはギターの方が重要なんですね、ちなみに本番でのベースは阿吽の山本光さんをゲストでご用意しますよ、ドラムはそうだな~、ゲスの穂奈さんとかどうでしょう」
「豪華すぎる!」
えっ、やまもとひかるって誰?ほなさんって人も女性なの、女だらけで固めてビジュアル重視かよ!
駄目だ、お兄ぃ思いっきり心掴まれちゃってる、おいおいギター取りに部屋に行ってんじゃねえよ。
弾き出すなよ、まだ決まってない話だってわかってる、やる気になってんじゃねぇよ!
ほら~、中山さんニコニコで喜んじゃってるよ、もう。
「今日はレスポールじゃないんですね、白のストラトも清楚な感じで内海さんにとてもお似合いですよ」
使い込まれたボロっちいギターで清楚な感じは出ない気がするけどな。
中山さんが胸ポケットから別のスマホを机にコトリと置くと、何やらアプリを起動させる、スマホが2個、何、録音でもするの?
ジャラルリラン♪
気を良くした兄が愛用のギターに指を這わせると、歌い出した。
えっ、お兄ぃ、もう覚えたの!そんなに記憶力良かったっけ?
♪♫~
ジャ、ジャカカン!
兄が音源に合わせて最後まで弾き語った、ほへ~マジでかっこいい曲かも。
しかもお兄ぃ普通に歌えてるじゃん、うまいうまい。
「素晴らしい!やっぱり私の目に狂いはなかった!」
「難、これ1週間で弾くのキツイわぁ」
「あ、無理とは言わないんだ」
私はギターの事はよくわからないけど、2回聴いただけで歌えるなんて兄は意外と凄いのかもしれないぞ、これも女になった影響か?
チャンチャカチャラリヤチャンチャン♪
机に置いた中山さんの右のスマホに着信がかかって来た。そっちが仕事用?
ポチ
「あぁ、HOTOMIさんどうでした、えっ、OK、そうでしょうそうでしょう!だからそう言ったじゃないですか、でもBメロの入りをアレンジし直す、はい、じゃあ明日の朝にはメールお待ちしてます、はい、よろしくです〜」
中山さんが誰かと話してる、今、HOTOMIって言わなかった?それってこの曲を作ったって人…。
ポチ
「内海さんすみません、今の内海さんの演奏をロンドンにいるHOTOMIさんに聴いてもらってたんですが、ちょっとBメロ部分弄るみたいなので完成品は明日まで待っていただけますか」
「「はぁ!」」
中山さんの仕事の速さにビックリだよ、何そのリアルタイムな進行、ロンドンって外国だよねネットワーク社会怖っ!
「えぇ、弄る所なんてあったかな?スゲぇいい曲だと思うけど」
なんでお兄ぃはそんな上から目線なんだよ、素人のくせに。
なんかすっかりその気になっちゃってるぞ、中山さん交渉上手いな、お母さんを味方につけ、秋刀魚で興味を引き、お酒で油断させ、最後に曲で落とす、この策士め外堀から埋めるタイプか。
う〜ん、明日、陽子に相談してみよう。
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