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それが私の生きる道

「は、芸能事務所?」


「そうです、なんかこの前の学園祭のライブ配信見た人から、学校に問い合わせが何度も来てるんですよ」


「あんな高校のカラオケ大会の動画で?」


「今は学校でもプライバシーにはうるさいじゃないですか、あれ、コンプライアンスでしたっけ?だからそう言う問い合わせとか、学校としては個人情報は教えられませんって断ってるんですけど、結構毎日かかって来るんですよね」


「あ~ごめんね、陽子ちゃんも副会長さんだから苦労かけちゃったね」


「いえいえ、元々は私がお姉様を学園祭にお誘いしたのが原因ですから、これくらい全然大丈夫です」


う~ん、こんな田舎の学園祭の動画がね、今の世の中どこで誰が見てるかわからないな。ネットワーク社会怖いわぁ。


「でも、お姉様が芸能界にデビューをお考えなら私は絶対に応援しますよ!」


「流石にこの歳でデビューしても売れないでしょ、そこまで甘い業界じゃない気がするよ」


「え~っ!お姉様なら普通に推せますよ!」


「陽子ちゃんありがとう、でも今は芸能界には興味ないんだ、あまりしつこいようなら連絡先は聞いといて、私から連絡するようにするから」



ポチッ


陽子ちゃんからの電話を切ると、聞き耳を立てていたのか丸ちゃん先輩がススッと寄って来た。


「何々、内海くん、芸能界に行くの?デビューはいつ?」


なんでもうデビューの話になってるんだ。


「いえいえ、そんな暇はないですよ、じゃ、時間なんでクライアントとの打ち合わせ行って来ます」







建築会社の2階の事務所、その南側の応接で二人の人物が話し合っている。


「情報を入れたい社長さんの気持ちはわかりますけど、この紙面サイズじゃ文字が凄く小さくなって読めませんよ」


「そうかな、詰め込めば入だろう?前やった時は入ったが」


「無理です!社長さん、広告を出す意味わかってますか、紙面広告は目立ってナンボですよ、辞書みたいに文字だらけの広告なんて誰が見るんですか」


あまり広告を出すことが少ない企業ほど、あれもこれもと小さい紙面に多くの情報を入れたがる、その結果誰にも見られないつまらない広告の出来上がりだ、今はwebでいくらでも情報を入れる事が出来る時代、でもwebはお客が見ようと思わなければ検索すらしてもらえない、紙は新聞でもチラシでもポスターでも自然と目に入る、そこで読みやすく目立つ事は1番に考えなければならないのだ。

それに文字の拡大が出来るスマホに慣れた若年層も老眼の高年齢層にも文字は大きい方が絶対に読みやすい。


「御社はホームページを持ってますよね、こことこの情報はホームページに載せれば必要ありません、削ってください」


「う~ん、内海ちゃんがそこまで言うなら、そうしてみるか」


「ありがとうございます社長、素敵です!」


良し、ここでもう一押し、社長の手を握って微笑む。ニコリ


「え、いや~そうかな~」


フ、チョロいぜ。


「私が社長さんの考えを形にしてみせますね、お任せください!」




社長さんとの打ち合わせが終わって玄関に向かって廊下を歩いていると、この会社の事務をしている諸橋さんが話しかけてきた。

諸橋さんはこの会社で10年は働いている女性で、いつもキリッとしてて仕事が出来るメガネ美人の事務員さんだ。

はっきり言ってタイプの女性で、男だった時に一度飲みに誘ってあっさり断られた苦い覚えがあるのだ。


「内海さん、凄いですね。社長があんなに素直に言うこと聞くなんて」


「あ、諸橋もろはしさん、お世話さまです、今日もお綺麗ですね、輝いてます」


「あら、お上手」




「社長さんには私の説明をご理解いただき、助かりました」


「ふふ、前にチラシを作った時のデザイン会社さんは、社長のゴリ押しの指示で文字だらけになってしまって評判悪かったですから」


「諸橋さんが言っても駄目だったんですか?」


「私ごときでは聞く耳持ちませんよ」


「そんな、私だったら諸橋さんに言われたら、すぐに従っちゃいますけどね」


「内海さんは本当にお上手ね、まるで口説かれてるみたいだわ」


この切り返し、やっぱり大人の女性は違うな、女の立場として凄く参考になる。


「口説くと言えば、弟さん会社辞めてしまったのね、とても残念だわ、今度来たらと…」


本当に残念そうな表情、あれ?もしかして脈あったのか?


そう考えた時には諸橋さんを壁際に詰め寄っていた、いわゆる壁ドン状態。

至近距離で諸橋さんの驚いた顔が迫る。



「私が口説いちゃ駄目ですか?だって私も諸橋さんの事大好きですもの」ニコリ


ポッ


「も、もう、内海さんはぁ」



私の言葉に顔を赤くした諸橋さんは逃げるように去って行く、あれ?もうちょっとお話ししたかったのに残念だ。






ヴァボッボ


それからもう1件回って会社に戻ると駐車場に一人の中年男性が立っていた、誰?




事務所のソファーで男性と向かい合って座った。ふむ、人当たりの良さそうな笑顔、逆に緊張が走る。


「初めまして、私こういう者です」


名刺を渡され、見てみれば。


「アミュズプロダクション、中山さん?」


「はい、単刀直入に言います、内海さん、うちでアーティストとしてデビューする気はありませんか」


「「「ハァ~!!」」」



事務所にいた丸ちゃん先輩と藤崎、それに俺の驚きの声が重なる。だから聞き耳立てるなよ。


「内海さんの学祭の動画を拝見しました、その美貌、声、性格、ギターの腕、どれをとっても凄く魅力的でした」


おい、丸ちゃん先輩、隣に座って大きく頷くなよ、恥ずかしいだろ。

藤崎、何だよ、その苦虫を噛んだような変顔は、どういう意味だよ。


「はぁ」


「動画を見ていてもたってもいられず、学校に問い合わせたのですが断られ、失礼ながら勝手に調べてここを訪ねてしまいました、お許しください」


「はぁ、でもよくここがわかりましたね」


あの動画だけでここにたどり着くとはもしかして優秀な人なのか。俺は女になって日も浅いしあまり出歩いていない、それほどの知名度も目撃例も無いと思うんだが。


「ご実家にご連絡したら、お母様がこちらをご紹介をしてくださいました」


「母さんか!!」


高校の時にも勝手にオーディションに応募したりとか、あの人はやたらと俺に芸能関係を勧めて来るんだよな。


さて、どうしたものか。

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