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文化祭当日

校門のアーチの横に一人の女性がたたずんでいる。

今日は陽射しが強いからか真っ白な日傘を指していた、腰まである長い黒髪、薄い黄色のサングラス、体型に合わせて作られたような白のワンピース、スリットから覗くスラリと伸びた脚にフィットしたヒール、彼女の横を通り過ぎる人が皆、そのあまりに美しい姿を見て何度も振り返っていた。


どこのセレブだよ!!

まぁ、私の兄なんだが。


兄の年齢は25歳、女性にとって気力、体力、美貌どれをとってもバランスが取れた状態である、年上のお姉さんの色気に男子高校生があらがえるわけもなく鼻の下を伸ばしながら視線で全身を舐めまわし顔をあからめている、女子高生には羨望の目を向けられていた。


私は2階の教室の窓からその光景を何気に眺めていた。


「やっぱ、あの格好じゃ目立つわな」


そう呟く私にすぐ後ろにいた竜太が反応した。


「えっ、あれって春夏はるかのお兄さんじゃん」


竜太が大きな声を上げる、こうなると連鎖的にクラスの連中が窓際に集まって来る。


「へ、どれ?あれが兄?何言ってんだ竜太、女じゃねえか」

「なんか東京にいそうなセレブだ」

「あれ、内海のお姉様なの?あれ?」

「うおっ、マジで~色っぺぇ」

「内海の姉さんなら、このクラスに来るよな、絶対来るよね?」

「綺麗…」


ん~~~~、この反応、あれが最近まで男だった奴かと思うと妹としては複雑な気分になるね。

お母さんの作った服と淑女講座の破壊力凄えな、一月あまりで女としての武器を完璧に使いこなして嫌がる。恐ろしい子。

あと、竜太には学校では兄のことは姉と呼ぶように念押しとかないと行かんな。


「あ、陽子が走ってく」





タッタッタッタッタッ


「すみませ~ん、お姉様ぁ、お待たせちゃって!」


「大丈夫、そんなに待ってないから」


「いえ、私からお誘いしたのにお待たせして申し訳ありません、出がけに馬鹿な後輩に引き止められちゃって」


深々と頭を下げる陽子、生徒会副会長だけにその顔を知る者も多い、そんな彼女が文化祭のアーチの横で頭をペコペコと下げていれば当然ながら目立ちまくっていた、頭を下げられている謎の美女もそれに拍車をかけているが。



「じゃあ、陽子ちゃん行こうか」


「はい♡」


このクソ暑い中、陽子は兄の横にベッタリと寄り添って歩き出した。浮かれやがって。



ガヤガヤ


「へぇ、今の学校祭も私の頃と変わらないね」


妹の春夏とは8つ歳が離れている、久しぶりな学園祭の楽しげな雰囲気に自然と笑みが溢れる。


「お姉様の学生時代!どこの女子校だったんですか!」


「陽子ちゃん、私が女になったのってつい最近なんだけど、知ってるよね」


推しとの学園祭デートイベントに浮かれる陽子にとって、細かい事?は気にならないのだ。


「あ、美術部見てっていいかな?」


「お姉様は、美術部だったんですか?」


陽子はデザイン会社勤めを知ってか、そう尋ねた。


「高校の時はね、中学では水泳部だったよ」


「お姉様のスク水姿!!」


「男の時だからね」


「ブーメラン、それはそれであり!!」


浮かれる生徒会副会長とセレブな姉ちゃんが美術部の作品展示を見て回る、目立ちまくった二人はいつの間にか噂になっていて野次馬の学生達がゾロゾロとその後をついて来ているのはご愛嬌。SNSの脅威。


「どうですか、プロの目から見て我が校の美術部は?」


「学生らしくて微笑ましいよね、昔を思い出しちゃう」


今でこそパソコンを駆使してデザインどころかイラストまで描いているが、学生の頃はやはり手作業でデッサンや絵を描いていたのだ、それも現在の仕事の時とは比べ物にならないほど長い時間と手間暇をかけて。

学生の頃はなんであんなに描くのに時間がかかったんだろう?おっ、この子は上手いなぁ。


「藤崎の奴はデッサン上手いから、なんて言うかな?」


「あぁ、お姉様の会社のバイクで来る人ですか」


「高校の時、あいつに誘われたから美術部入ったんだよね」



さて、そろそろ保護者として妹の教室を見にいかねばなるまい。

賑やかな廊下を歩いていると2-Aの看板が見えて来た、春夏のクラスはクレープの模擬店をやっているのだ。


「「「来た!!」」」

ザワッ


綺麗なお姉さんの登場に男子生徒は歓喜の声、それに呆れる女子生徒達、それらを尻目に春夏は自分の兄と陽子を出迎えた。


「やっと来た、遅いよ陽子!」


「ごめん、ついつい楽しくて」


うん、顔見りゃわかるよ。陽子は同じ2-Aの生徒だが、生徒会役員の関係でクラスの出し物にはあまり関わっていないのだ、仕事しろよ。


「は~い、春夏。儲かってる?」


兄が笑顔で手を振って来る。


「ふふふ、今から儲かるところよ」


「?」


私の返事に首を傾げる兄。私は二人がゾロゾロと引き連れて来た大勢のお客を見て腕まくりをする、確かにこの人数を捌くのは大変そうだ。


「あ、お姉様、クレープ食べます、奢りますよ」


陽子は我関せずを貫くようだ、マジで仕事しろよ。

興味津々で周りで見ているクラスメイトの中に、見知った顔を見つけた兄が話しかける。


「竜太くんも頑張ってね」ニコリ


「任せといてください!!」


なぜか誇らしげに大声を上げる竜太、当然ながら彼女である春夏の反応は冷ややかだ。


「じゃあ、竜太くんのオススメクレープを貰おうかな」


「はい!喜んで~!」


ここは居酒屋ではない。



竜太からトッピングてんこ盛りの豪華クレープを渡されて微笑むセレブ、その横でなんの変哲もない普通のチョコクレープをじっと見つめる陽子が口を開く。


「竜太、ここはお姉様と一緒ペアの奴が欲しかったんだけど」


「副会長がクラスを手伝ってくれたらな」


あからさまなエコ贔屓だが、高校生男子だからしょうがない、きっと10人いたら8人は同じ事をするだろう。しかし兄が「一口食べる?」と、あ~んなんてしたものだから陽子の機嫌はすぐに治った。



「じゃあ、皆んな頑張ってね♪」


クレープを食べ終えクラスを後にする兄と親友を見送ると、クラス中からため息が漏れる。


「うわぁ、お姉さんマジで美人だったじゃん!」

「クレープ食べてるだけなのにエロい」

「あぁ、あの口元についたクリームを舐める仕草な、たまらん」

「………スタイル良かったなぁ」

「おい、竜太なんでお前ばっかに話してんだよ、狡いぞ」

「ふふふ、羨ましいかぁ」


「お前ら呆けてないでクレープ焼けよ、お客さんが待ってるでしょ」


春夏が気の抜けたクラスメイトに喝を入れる、当然手は忙しなく動いたままだ。

一気に増えた客、これを捌ければ結構な売り上げになりそうである。





一通り校舎を巡り、最後に体育館に向かう。

体育館ではちょうど軽音部のライブが終わり、カラオケ大会が開かれていた。

どこからレンタルしたのか結構しっかりた機械だ、学園祭ムードで下手ウマながらも十分盛り上がっている、学生はやはりこうでなくては。

しかし採点機能付きの機械なんてどこから持ち込んだのだろう。


♪♫72点


「わぁーーーっ!」



「お姉様も出てみませんか、飛び入りも大歓迎ですよ」


「えっ、カラオケにはよく行くんだけど、女になってからはまだ歌った事ないな」


最後に行ったのって藤崎とだよな、あいつアニソンばっか歌うんだよな、男のくせに似合わない女性ボーカルの歌まで、おかげで変にアニソンに詳しくなってしまった。


「そうなんですか、でも今なら女性ボーカルの曲とか似合いそうです」


「ん、そうかもしれない、良し!」


確かに、今の声ならあの歌もいけるかも、それもありだな、舞台の横で軽音部らしき男の子がギターを持って立っているのが目に入った。


「ねえ君、ちょ~っとお姉さんにギターを貸してくれないかな?」


サングラスをずらしながら前屈みの上目遣いのお願い、イチコロである。


「は、はひっ!ど、どうぞ!」


「お、ギブソン・レスポール、いい奴使ってるね」


ジャルリラン♪


軽く弦に指を走らせる、チューニングは出来てるようだ。


「いつも弾いてるストラトとは違うけど、レスポールも好きなんだよね」





司会進行の生徒がマイクを持つ。


「次は飛び入りで参加のお姉さんです。あ、副会長の推薦ですね、それではどうぞ!曲は……」

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