文化祭前夜
「あれ、陽子ちゃん」
「おかえりなさいませ、お姉様ぁ!」
なぜか家で明日に迫った文化祭の打ち合わせをしていると、仕事を終えた兄が会社から帰って来た。
まぁ、自分の家だから帰ってくるのは当然だが、嬉しそうに兄に駆け寄る親友を見るとなんかモヤっとするし、心配になるのはいた仕方ない事だと思う、これでも親友なのだ。
「陽子の将来がちょっと心配だよ、変な道に走らないでね」
そして学校ではなくわざわざ家に来て、打ち合わせする理由がこれだった、陽子は前から文化祭に兄を誘っていたのだが、前日まで仕事がどうなるかわからないと言われていたので、最後のダメ押しに家まで押しかけたのだ。
兄に会わせろって陽子がしつこかったんだよ。
兄は一旦自分の部屋に行くと部屋着に着替えて出てくる、部屋着と言ってもTシャツに短パンだが。
陽子、兄の生足に興奮するな、息が荒くてキモイぞ。
良い匂いするとか小声で言ってんじゃねぇよ。
「いよいよ明日だね文化祭」
兄が私たちが机の上に広げていたパンフレットとスケジュール表を覗いて言う。
「そうですよお姉様、で、明日はご都合はつきそうですか?」
「ん、午後からだったら少し時間とれそうかな」
「やったー!!では明日は玄関のアーチでお待ちしてますね」
「でも陽子ちゃんは副会長なのに、俺の相手なんかしてて大丈夫なの?」
生徒会副会長が文化祭で暇なわけない。
「えぇ、今日はそのために春夏にフォローを頼みに来てますから!」
「私はクラス委員だけど生徒会の人間ではないぞ、何させるつもりだよ」
全く、兄が姉になってから陽子の推し活?が加速している、何かと家に来たがるし、親のコネまで使って兄の会社に貢いでいる、おかげで兄は今月も会社の売り上げNo.1のキャバ嬢だ、ありがたやありがたや。
この件があるから陽子にはどうしても甘くなっちゃうんだよな。
「そう言えば父もお姉様の事を褒めまくってましたよ、お仕事出来るお姉様素敵です!」
「ありがと、けど、陽子ちゃんのお父さん、桐山部長こそ凄かったよ、ターゲットの絞り込みの指示とかプランニング完璧だったもの、あと同じ部署の藤野くんにもお仕事貰っちゃった」
「そんな若造の仕事は適当でいいですよ」スン
陽子が冷たく言い放つ、この警戒ぶりからしてナンパしてくるような人かな?
陽子のお父さん、何やら大きな会社の広報部長なのだが、そのお父さんと兄は一緒に仕事をしたらしい、大成功で随分と儲かったと丸山さんから電話で話してくれた、丸山さんも兄が姉になってから前より頻繁に電話をくれるようになった、しかしいきなり性別が変わったにも関わらずお仕事が順調で何よりだ、日本の多様化もここまで来たか。
「では、お姉様、また明日、アーチの下で待ってますね」(泣)
陽子が帰った、随分と未練がましく粘っていたが。
今回は兄は家に送っていかなかった、タクシー券をなるものを父親から貰ったらしい。気遣いの出来るパパさんだね。
陽子が帰り、静かになったリビングで兄に話しかける。
「悪いねお兄ぃ、なんか陽子が無理言っちゃって」
「ま、パンフレットも作っちゃってるし、これも営業の一環でしょ」
兄の会社は関わった仕事のクライアントには積極的に顔を出す方針だから、それほど苦にはならないか、よくチラシを作ったイベントには出かけてるもんな、でもイベントとは言っても今回は高校の文化祭だからなぁ、学校の予算だしそれほど大きな儲けは無いよね。
来年も継続でお仕事出してもらえるように、陽子の後輩に売り込んでおくか。
「それより明日、何着て行こうかな?」
兄がビールをカシュと開けながら呟く、お、着て行く服を気にするようなるとは兄も成長したね、良い傾向だよ、女になった自覚がようやく出て来たかな。
「そうね、私も学校で自慢したいから気合い入れて来てね」
「なにそれ、いつものスーツじゃ駄目か?」
「この前、お母さんが持って来た服でいいんじゃない、あの白いやつ」
「あれか、ちょっと目立ち過ぎない?」
ふふ、あの服なら童貞高校生男子なんかイチコロよ、ん、竜太の奴もホイホイ寄って来そうだな。
ん~~~、ま、いっか。
しかしお母さんもあの服どこで兄に着せるつもりだったんだろう、流石にパーティーとか行く予定はないぞ、セレブじゃあるまいし。
感想や★★★は作者のモチベーションの向上に繋がります。是非お願いいたします。




