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フリージア王国備忘録<第一部>  作者: 天壱
惨酷王女と罪人

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80.惨酷王女は気がつく。


「予定より大分遅くなってしまいましたね。」


ステイルが馬車から窓の外を眺めながら呟いた。ティアラも釣られるように窓の外を覗き込んでいる。

「ええ。でもこの後は予定も無いし、夕食に間に合えば平気よ。」

もともと視察で遅くなるかもと予定には組み込んでいた。…まぁ、遅くなったのは視察よりもジルベール宰相の娘さんのステラをついつい愛で過ぎてしまったからなのだけれど。馬車を降りたらまずティアラが大量に買った本を衛兵達に部屋まで運んで貰わないと。

そんなことを思っていたら、そろそろお城につきますよ!とティアラが声を上げた。私も窓の外を覗き込むと、確かに見覚えのある光景になってきた。アーサーが扉を開ける準備をしようと身体を起こした、その時だった。


ガタッ…ガタ…


馬車が緩やかではあるが突然動きを止めたのだ。変に思い、私とティアラは再び窓から顔を覗かせ、アーサーとステイルはそれぞれ静かに剣を構えた。馬車の向こうから衛兵の声で「おい起きろ‼︎」「早く退かせ‼︎」と騒ぐのが聞こえる。

「どうした!何があった⁈」

私とティアラを守る為に剣を構え続けるアーサーをステイルが扉前から退かし、扉越しに外に居るであろう衛兵へ声を荒げた。

すぐに慌てるように衛兵が駆けてくる足音が聞こえる。申し訳ありません!という返事とともに扉越しから報告が入った。

「浮浪者が行き倒れて道を塞いでおりまして…ただ今退かしておりますので少々お待ち下さい!」

浮浪者…それ自体は我が国でも珍しくもない。ただここは王族が住む城のすぐ傍だ。こんなところに何故?ステイルやティアラも同じ意見なのだろう。本当は自分の目で確認したかったけれど、稀に王族を狙った野党や情けを狙ってわざと王族へ物乞いをする輩もいるから私達は扉を開けずに席に座って待った。衛兵には生きているようなら水と食料を少しだけ分けるように伝える。

暫くしてドサッと何かを放る音と共に馬車が動き出した。私もティアラも気になって通り過ぎ際に窓からそっと浮浪者が退かされたであろう方向を覗く。ボロボロの衣服とフードで身を包み、ぐったりとした様子で倒れていた。後でアーサーにお願いして様子を見に行って貰おうかと考えた時だった。


衣服から出た、褐色肌の手足に気がついたのは。


「!とめて下さいっ‼︎」


考えるより先に思わず声を上げた。私の命令で馬車が急遽再び動きを止め、蹄と車輪の音とともに馬車が前のめりに激しく揺れた。

アーサーが転がりそうなティアラを受け止め、ステイルが足に力を込めて踏ん張る中、私は勢いに任せて扉に手を掛けて馬車から飛び出した。

衛兵が驚いた様子で手を伸ばし、馬車の中から三人が私の名を呼び、近衛騎士のアーサーが私に続くように追従し、ステイルもさらにそれに続いた。お待ち下さいステイル様、ティアラ様、プライド様と衛兵がそれぞれ私達を引き取めようと駆け出す。でもそれに答える場合じゃなかった。走りながら、私は四年前のことを急速に思い出す。


『貴方がもし己ではどうしようもない事態に直面し、心から誰かの助けを望む時は私の元へ来なさい。』


もし、もし彼が、本当に


『貴方がそういう事態に陥らなければ杞憂で終わる命令です。』


本当に、杞憂で終わってなかったら‼︎


「ヴァル‼︎」

力の限りに声を張り上げ、地面に横たわる彼に駆け寄った。私が足を止めると同時に背後からプライド様、とアーサーの声がかけられた。大丈夫、と断って私は彼の様子を見る。

彼に反応はない。完全に気を失っているようだった。私が膝をつき、恐る恐る彼のフードを取る。間違いなく、彼だった。四年の月日を経て顔付きが少し変わっていたけれど、むしろゲームに出てきた時の顔と殆ど同じだった。息はしているけれど、少し魘されている。自分の膝に彼の頭を乗せ、衛兵が置いていったのであろう水の入った袋を手に彼の口へ注いだ。その間に今度はステイルが駆け寄ってきた。姉君、と叫んだ後にヴァルを確認して「この男は…」と目を見張った。

ヴァルは一瞬ガフッ、と咽せた後に細く目を開いた。段々と焦点が合ったのか一瞬だけ私を見て大きく見開き、また…気を失ってしまった。

「プライド様、その男は…」

アーサーは覚えていないようだ。映像で見たとはいえ、直接会うのは今回が初めてだから無理もない。 どんどんと今度は衛兵が集まってくる。どうかなさったのですか、お怪我はと口々に言いながら。ステイルは衛兵やアーサーにどう言うべきか少し戸惑っているようだった。だから敢えて私はここで断言する。


「彼の名はヴァル、私の客人です。このまま連れて行きなさい。」


ステイルが驚愕し、アーサーはポカンと口を開けている。

まだ、わからない。彼が偶然この場に居合わせたのか、それとも私に会いにきたのか。彼を再び野に放つのはそれを確認してからでも遅くはない筈だ。


彼を隷属の身に堕とし、それを命じた私にはその責がある。


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