表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フリージア王国備忘録<第一部>  作者: 天壱
無礼王女とホームパーティー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/877

72.無礼王女は贈る。


「よくぞお出で下さいました、プライド様、ステイル様、ティアラ様。」


父上とともに馬車を降りて早速、私達はジルベール宰相に笑顔で迎えられた。

そのまま降りてくる父上と握手を交わし、「ありがとう」と笑うジルベール宰相は本当に穏やかそのものだった。

招かれるまま屋敷の中に入る。流石宰相なだけあってなかなか立派なお屋敷に住んでいた。

既に殆どの来客が寛いでおり、私達が入ると全員に畏まられた。…やっぱりアットホームという訳にはいかないわよね。と私は少し残念な気持ちになる。

広い屋敷にしては人数は大分少なかった。いや、搾られていたというべきだろうか。侍女のマリー、ロッテ、衛兵のジャックは少し緊張で居心地悪そうにしていたけれど、ジルベール宰相に招かれた城の隠し部屋でマリアの看病や護衛をしていた城の侍女達や衛兵との話しは楽しそうだった。

騎士団長や騎士達の中にはアーサーもいた。あとは法案協議会にもいた上層部の人達。殆どが私の悪評が広まってた時にも親しくしてくれた人達だったけれど、一部最近になって私と親しくしようとしてくれている人達もいた。ジルベール宰相の使用人を抜けば、本当に十数人くらいしかいない。折角のパーティーならジルベール宰相の家族…は確かゲームの設定で天涯孤独だった。でも、マリアの家族はどうしたのだろうと思い、何気なくジルベール宰相に尋ねた。

「良きパーティーの為、省きました。」

そう言ってにこやかに笑うジルベール宰相からは仄かな黒さを感じ、恐らく何か理由があるのだろうと察した。

マリアは一番奥のソファもたれるようにして座っていたけれど、私達の姿を確認するとゆっくり立ち上がって挨拶をしてくれた。

「マリア、この度は御招きありがとう。」

そう言って、私はマリアにティアラが綺麗に飾り付けてくれた中ぐらいの小瓶を手渡した。

これは…?と小さく首を傾げるマリアに苦笑いしながら私は答えた。

「林檎ジャム…です。一応、私達四人の合作の…。」

マリアが驚いたように目を丸くし、四人という言葉に残りの一人を考え始めたところでステイルとティアラが目配せで騎士達の中から小さくマリアへ会釈するアーサーを示した。私もアーサーの方を目だけでみると、ちょうど騎士団長や他の騎士達はジルベール宰相と談笑中だったらしく、そのまま周りに気づかれないように私にも会釈をしてくれた。私もすかさずそれに笑みで返す。

「…ありがとうございますっ…!」

マリアの声で振り向けば、嬉しい…と小さく零すように呟き、本当に嬉しそうにジャムの瓶をきらきらした目で見つめ、そのまま大事そうに握り締めてくれた。

…そう、一応は合作だ。私は殆ど手は付けていないけれど。

私の林檎惨殺事件の後、落ち込んだ私を三人が慰めてくれながら話し合った結果、林檎ジャムを作ることになった。この世界にもジャムはあるけれど、取り敢えずは私の前世の知識流で。ただ、私が触るとまた液状化の黒焦げになる可能性があったから私は指示をするだけで三人が料理をしてくれた。

…そして更に落ち込む事に、私以外三人とも料理ができた。まず、ステイルは所謂〝人並み程度〟ではあるけど上手だった。手先が器用なこともあり、指導さえすれば坦々と難なく料理工程もこなしてしまった。そしてアーサーは、…ものすっごく上手だった。てっきり剣しかできない不器用タイプだと期待したのに、手慣れてさえあった。聞いたら、お母様が小料理屋を営んでいてよく手伝いをしていたらしい。多分、前世の私よりも上手だろう。そして、最年少十一歳のティアラ。


恐るべし、乙女ゲームの主人公。


全部が全部初めてなのにも関わらず、最初から林檎をくるくる剥くし、本当に危なげなくまるでプロの料理人レベルにナイフや包丁を使う。料理が初めてとは思えない程で、試しにジャムを煮込んで貰っている間に卵焼きを私が言葉で指導してやってみて貰ったらこれまた綺麗にくるくるの玉子焼きが出来上がった。「お姉様のお陰ですっ!」「美味しいです」と三人とも喜んでくれたけれど、私は実質何もしていないから複雑だった。確かにティアラはゲームでも攻略対象者に贈り物でお菓子を作ったり、ジルルートでは暫く城から離れて庶民に紛れて過ごす中で自炊を見事にこなしていた気がする。私がラスボスチートというのならば、この子は確実に女子力チートだ。私が料理に携わるだけで黒焦げ液状化現象を引き起こすなら、ティアラが携わった料理は確実に美味しく仕上がるのだろう。…次から異世界料理の時はティアラに協力を仰ごう。

ちなみに、煮込んだ林檎は三人が剥いてくれたのと一緒に私が惨殺した林檎も一つひとつ三人がそれぞれ皮を剥いて林檎の果実部分をちゃんと加えてくれた。三人とも私は何も言わなかったのに当然のようにその作業をしてくれるものだから本当に優しさが染みて泣くのを堪えるのが大変だった。

ティアラやステイル、アーサーの助けのお陰で味見した林檎ジャムはかなり美味しく出来上がった。王族としての手土産は既に父上がジルベール宰相に渡しているし、このジャムもなかなか良い贈り物になったと思う。

ほくほくと嬉しそうに笑うマリアは、なんとなく五年後のティアラを彷彿とさせられた。ゲームでジルがティアラを愛しく思った理由を少し垣間見た気がする。

マリアから御礼を受け私達は暫く談笑を楽しんだ後、一度その場を離れた。そのまま今度は父上がマリアと色々話し込み始めた。父上があんなに肩の力を抜いて大人の人と話すのも久々に見た気がする。そのまま、王族の私達は慣れた流れで一度バラバラになった。


それぞれ、他の来賓との挨拶のために。


ただ…私と反対方向に歩むステイルが一目散に向かった先に、一抹の不安を覚えたけれど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ