表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フリージア王国備忘録<第一部>  作者: 天壱
第一王位継承者の名は

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

870/877

そして回収する。


「あ〜〜……久々に吐きかけた。」

「言葉を選べアラン。そしてお前は常にそのくらいの緊張感を持て。」

「お疲れ様です、カラム隊長。……ですが、自分も今回は胃にきました……。」

「!カラム隊長、アラン隊長、エリック副隊長お疲れ様です。すみません、ハリソンさん見ませんでしたか……?」


プライドの退席後。

残された大広間で順次退室していく来賓の中で、一角に騎士達は順次集まっていた。

少し離れた位置には騎士団長のロデリックと副団長のクラークが来賓と最後の挨拶をかわし合っている。二人と来賓の邪魔にならないように数歩分距離を空けた位置に控えるアランとエリックに、貴族の装いのカラム。近衛騎士の殆どが集まっていることに気づいたアーサーも、途中から早足で歩み寄った。そして隊長格の中で後一人がいないことに気付いた彼はそのままきょろきょろと周りを見回す。

誕生祭の主役であるプライドの関係者として、今回は近衛騎士全員が招待されていた。しかし、今この場にハリソンの姿だけがない。いつもならアーサーが大声で呼び掛ければ何処からか現れるハリソンだが、来賓がまだ大勢いる中でそれはできない。


「あー……まぁその辺にいるだろ。もうプライド様もいねぇし、まだ大広間中で目を光らせてるんじゃねぇか?」

「一度全員散開しちゃいましたからね……。」

「大丈夫だ、あいつも退室時に副団長か騎士団長を待たせるような真似はしない。」

アランの言葉に苦笑うエリックに、カラムが頷きながらもフォローする。

いつもは騎士団としてひと塊りになっていることが多い彼らだったが、今回はプライドの話が始まる前から四方に分かれていた。彼女の公式発表に危惧を抱いていたのは彼らもまた、いつまたもしものことが起こっても対応できるようにと自ら大広間の各箇所に控え、彼女が退場する瞬間まで人知れず警戒を強めていた。来賓として招待された彼らは、今は警備の責任はない。その為の衛兵も騎士も別で控えているのだから。しかし、それでも構わず近衛騎士達はロデリックの許可を得て自主的に遠巻きから彼女の警護についた。貴族として招かれているカラムはさておき、アラン達には大人しく招待客らしく控えていろとも命じられたロデリックだが、彼らの気持ちを考えれば「あくまで警戒だけだぞ」と命じた上で許可をせざるを得なかった。プライドにまた何かあればと危惧する気持ちは自分やクラークも同様だったのだから。四方に散らばらった彼らは、更に死角を無くしつつ、たとえまた何が起ころうともすぐに変化に気付き、対処できるように気配を消して控え続けた。

近衛任務中に、学校制度の導入や国際郵便機関についても業務中のプライドの背中越しに把握していた彼らだったが、たとえそうでなくてもその意識はプライドの安全ただ一つに向いていた。ハリソン以外全員が、彼女が苦しみ倒れた姿を遠巻きから目の当たりにしたのだから。また彼女が、とそれを一瞬でも想像してしまえば呑気にひと塊りで傾聴などできるわけがなかった。プライドが退場してやっと安堵できた彼らは、今再び自分達に許可を下ろしてくれたロデリックの元へと集まっていた。退場と最後の挨拶で入り混じり合う来賓の中で白の団服を頼りに互いを見つけ出すのは至難の技だった。唯一の救いは来賓にいつもほど引き止められなかったことだ。毎回来賓からの挨拶と探りに揉まれていたカラムも、今回はプライドとハナズオ連合王国に注意が集中されたお陰でレオン無しでも無事に円滑に彼らと合流することができた。


「それにしてもさぁ、すげぇよなぁプライド様。こんなに来賓に囲まれた中で俺達のこと見つけるとかさ。」

後頭部に両手を回し笑うアランにカラム達も大きく頷く。

それぞれプライドをいつでも守れ、駆け付けられる距離と位置を取っていたとはいえ雑踏の中だ。普通なら見過ごしてしまうところをプライドはその一人一人を見つけてはロデリックを始めとする招待した騎士全員に挨拶がわりの笑みを向けていた。既にダンスパーティー前にはそれぞれ挨拶を交わし終わり、たとえ偶然気付いた上で見て見ぬ振りをしても誰もが咎めるないにも関わらず。退室までプライドへ常に意識を集中させていた彼らは、当然ながら自分に注がれたプライドの視線にも、そして他の騎士とプライドが目が合ったことにも気付いていた。つまりは確実に彼女は自分達を目で探してくれていたのだろう、とそこまで理解すれば少なからず熱が上がった。


「ところでアーサー、お前はプライド様の傍に行かなくて良かったのか?」

「確かに。折角女王陛下からも許可も得た上での〝聖騎士〟だろう。私達と違って、プライド様達の傍まで控えることも可能な筈だ。」

エリックの言葉にカラムも腕を組んで頷く。

奪還戦の功績で、褒美としていつ如何なる時もプライドを護る優先権を与えられたアーサーは〝聖騎士〟の称号も合わせて王族が密集している場に立ち入ることも可能だった。やろうとすれば彼女に一番近い位置にいた護衛やステイルに並ぶ事もできた。が、彼はあくまでエリック達と同じように距離を保った上での潜みつつの護衛を選んでいた。


「いえ……やっぱあンだけ王族しか居られない所に自分がズカズカ入るのはちょっと……。あんだけ緊張したプライド様に自分まで話し掛けたら確実に緊張うつすだけですし……。」

「お前、ほんとそういうところ真面目だよな。」

あくまで騎士としての距離を護ろうとするアーサーに、ぷはっとアランが笑う。

だが、アーサーとしては本気であの場に自分が行ってはいけない気がした。王族ばかりが集まり、更にはレオンやセドリック達すらプライドからは数歩控えている中で自分がそれを堂々と押しのける気にはなれなかった。その上、自分までもプライドの身の心配で緊張の糸が張ってしまっていた。そこで彼女に声を掛けたところで確実に自分の方がプライドに気を遣われ励まされてしまう気がした。王族の公務関連では、騎士の自分よりもステイルやティアラ、そしてジルベールや同じ王族のレオンやセドリック達の方がずっと彼女を励まし、力になれると思えてしまった。実際は、彼の存在も間違いなくプライドの緊張や不安を和らげる助けになっていたにも関わらず。


「だが、次からは遠慮なく行くと良い。その為の褒美だろう。」

カラムが励ますように肩に手をポンと置けば、アーサーは頭を下げながら小さく答えた。

プライドを護る為に、更に踏み込む許可を得て彼が彼女の傍についてくれていれば心強いのはカラムもアランもエリックも同じだった。だが、同時に騎士団の中でも謙虚な彼がそれに慣れるのは少しずつ負担に思わない程度からで良いとも思う。

そうしていると、不意にエリックが別の方向に顔を上げる。見れば、ロデリックの隣に並ぶクラークが手振りだけで彼らを呼び掛けていた。小声でエリックがアラン達にもそれを伝えれば、全員がクラークの方を向く。ロデリックが来賓と会話を続ける中、相手の貴族に気付かれないように笑いを噛み殺したままクラークはまた下ろした手で指示を出す。あっちを見ろ、と示された同時に彼らが従い視線を移す。すると、人混みの中にちらちらと長い黒髪の人物が見えた。

見れば、睨むような表情のハリソンが来賓の一人に何かを一方的に話しかけられている。もともと人付き合いも社交も得意ではないハリソンは式典にも慣れていない。


「ハリソンさん……。」

「あ〜……今夜、エリックと同じでプライド様と踊ったからなぁ。」

「それは一番最初に手を取られたお前もだろう、アラン。」

「自分は以前、公式の場でティアラ様にも踊って頂きましたが……ハリソン副隊長は今夜が初めての出席でしたからね……。」

ハリソンの名を呟くアーサーに、アラン、カラム、エリックもそれぞれ察する。

今回、アランとエリックと同様にプライドに手を取られたハリソンだが、彼が式典に姿を現すの自体、今回が初めてだった。

クラークに「式典だし、ダンスも誘われるかもしれないだろう?」と言われるままに、長い髪を半分背後に結ったハリソンは、左右の長い髪に顔が隠されることもない為、いつもの近寄りがたい風貌ではない。バッツリと切られた前髪の下の顔が今だけはどの角度からも露わになり、黙っている限りはアラン達と変わらない騎士の姿だった。その為、いつもなら屈強な騎士達すら遠巻きにされるハリソンが、今は貴族にも気軽な様子で話しかけられる。

今も貴族相手に無碍にする訳にもいかず、大人しく話を受けてはいる。が、その様子は明らかに拒まずそして逃げられずといった様子だった。今はロデリック達も来賓の相手で止まっているから良いが、ここでロデリック達の話が終わり、自分が彼らを待たせているとハリソンが判断すれば一気に苛立ちが溜まるか、もしくは無礼関係なく「失礼致します」の一言と共に高速の足で逃亡することは目に見えていた。

第一、遠巻きで見えるハリソンの顔は相手に興味を全く示していない。


「自分ちょっと迎えに行ってきます!」

すぐ戻ります‼︎と、血相を変えてアーサーが元隊長の救出に向かう。

相手がハリソンとはいえ、部下の面倒を見ているようにも見えるアーサーの後ろ姿が微笑ましいともアラン達は思う。そしてクラークもまた、遠巻きから自身の予想通りの展開にこっそりと笑いを堪える。

ロデリックも来賓に受け答えを続けながら、クラークの反応に気付き、眉間の皺を寄せないようにと苦労した。来賓の相手さえしていなければ「楽しんでいるだろう」と言いたかったが、今は後回す。アーサーが部下の面倒を見るのは良いが、ハリソンとアーサーの様子を誰よりも楽しんでいるのは間違いなくクラークだろうと彼は思う。

プライドの無事退室で肩の力の抜けたアランとエリックもその光景に笑い、そして救出に行ったところでアーサー自身も会話の立入や切り上げが不得意だと知っているカラムが更に彼ら二人を助けに向かった。


閉幕から来賓全員が退室しきるまで、穏やかな時間が続いた。




─ その、後




「…………プライド様……?」


バサッ。

名を呼ばれると同時に、震える手から紙の束が滑り落ちる。

顔面蒼白となった第一王女に、専属侍女のロッテが髪を梳かしながら言葉を掛けた。着替え終えたドレスを片付けていた専属侍女のマリーも不穏に気付き、振り返る。即座に駆け寄り声を掛けるが、鏡の前で目を丸くしたまま硬直し、息を震わせるプライドに反応の余裕はなかった。



─ 第一王女は受け取った資料から



プライド様、まさか、一体どうなさりましたか、どうかお気を確かにと繰り返し叫ぶ専属侍女達の声よりも遥かに心臓の音が勝る。急激に喉が干上がり、頭の中が忙しなく伝達信号を送り合い、思考が纏まらず巡り合う。

誰か医者を、とマリーがとうとう声を上げる。

その途端に勢いよく扉を開けた近衛兵のジャックを含め、多くの衛兵が飛び込んできた。更に騒ぎを聞きつけたティアラと下階のステイルも部屋から飛び出し、彼女の部屋へと駆けつける。お姉様!プライド⁈と既に悲鳴に近い声で部屋に飛び込んだ彼女達は、息を吐く間も無くプライドへと駆け寄った。

頭の隅で愛しい弟妹が来たのに気が付きながらもまだ反応まで思考が及ばない。大丈夫よ、の一言が反射的にも出ず、駆け寄る足音に紛れて彼女の口から紡がれたのは





















「…………二作、目……⁈」


















─ 〝バド・ガーデン〟の名を、見つけてしまっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ