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フリージア王国備忘録<第一部>  作者: 天壱
破棄王女とシュウソク

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682.破棄王女は観覧する。


「今日は、宜しくお願いします騎士団長。……お忙しい中本当に申し訳ありません。」


非常に申し訳なくなりながら、肩を狭めた私は騎士団長に小さく顎を引く。

叙任式を終えた二日後。とある理由で騎士団演習場に訪れた私は馬車から降りて早速迎えてくれた騎士団長に苦笑いを返すことになった。背後から続けてティアラ、ステイル。二人もきっと苦笑いかぷんすかを堪える顔をしているのだろうなと振り返らなくてもわかる。馬車の中の時点でそうだったもの。

更にそして後続の馬車が私達を追うようにして停まる。近衛騎士のアーサーとカラム隊長も控えてくれている中、一言返してくれる騎士団長に今度はステイルが一歩前に出る。


「僕からもお詫びします、騎士団長。元はと言えば僕がうっかり話してしまったことが元凶ですから。」

眉を垂らしながらもにこやかに笑うステイルは、わりと機嫌は良い。……というか本音はちょっぴり楽しみなのかもしれない。


「いえ、……一部の騎士にも、望む者はおりました。こちらこそ宜しくお願い致します。」

そう言って頭を下げてくれる騎士団長に、ティアラが唇を尖らせたまま私の腕にぎゅむぅと両手でしがみついた。

じじじっと金色の瞳をそのままステイルへ向けている。ティアラの珍しいその様子に騎士団長と一歩後ろの副団長が気付いた時、今度は後続の馬車からも扉が開かれた。その途端、私達を迎えてくれた騎士達が再び迎える体勢になる。


「この度はお忙しい中にも関わらず、貴重な御時間を割いて頂き感謝致します。ロデリック・ベレスフォード騎士団長殿、クラーク・ダーウィン副団長殿。」


タン、タン、と軽やかに馬車の段差を降りた彼は、胸に手を置き深々と礼をした。

黄金の髪を靡かせ、丁寧な言葉に反して生き生きと目を輝かす彼は赤い瞳が燃えるかのようだった。既に何度か騎士団演習場を訪問したことのある彼は、軽く周囲を見回すと私達から一歩引いた位置で立ち止まる。今回は彼のお兄様達は母上とのお話で来れなかったけれど、その背後には彼の国の侍女や従者、護衛が付いている。

セドリック・シルバ・ローウェル。

以前の祝勝会からそのまま次の式典まで滞在しているハナズオ連合王国、その王弟である彼が今日は訪問の主題だった。

騎士団長達と挨拶を交わし合った彼と一緒に演習場の奥へと案内される。道を作るように左右へ整列してくれた騎士達の視線が熱い。ティアラやステイルへだけでなく、私にも刺さっている気がする。緊張で息が止まっているのか何人かは顔も赤い。あんなことをやった後だし仕方ないとは思うけれど、一緒にダンスを踊ったり話した騎士まで緊張で顔が赤いとちょっぴり切ない。……いや、単に私の体調をまだ気遣ってくれているのかもしれない。あの時も一回無理してドクターストップがジルベール宰相から出されたもの。この年で目が離せないと思われていると考えればどちらにせよ色々と情けないけれど。

そして更に、今はセドリックにも多くの視線が向いている。騎士団長達の背後を歩きながら、周りの騎士達の視線が彼へもチラチラ向けられているのがよくわかる。無理もない。だって今日の用事は〝それ〟なのだから。


「こちらが手合わせ場になります。こちらの部屋で着替えも用意させております。」

騎士団長が案内してくれたのは、いくつもある演習場の中でも一番設備が充実した室内の手合わせ場だった。

まるでドームのようなそこは、王族であるステイルの稽古場よりも遥かに豪華で広い。今回のような用途の他では特別な時のみ使うから、使用率は低くて手入れは念入りに行き届いている為ピカピカだ。騎士団長に示されたまま、礼を返したセドリックは侍女達と共に示された部屋へと向かっていった。



騎士達と手合わせの為に。



『その御活躍と立ち回りに我が騎士団の中にも、是非セドリック王弟殿下と手合わせを願いたいと考えている騎士達が大勢いるくらいです』

『この滞在中は可能でしょうか……⁈』

……きっかけは、祝勝会でのステイルの何気ない一言だった。

暫くは祝勝会で疲労した私達と叙任式や式典とかの為にフリージア王国の都合を鑑みてくれていたセドリックから、つい昨日とうとう正式にハナズオ連合王国王弟として申し入れがあったらしい。


〝都合がつけば是非ともこの機会に、フリージア王国騎士団の実力を直接手合わせで見せて頂きたい〟と。


特殊能力を使う事を抜いても、他国より圧倒的な戦闘力を誇る騎士団の実力を試したいという同盟国からの希望は少なくない。

来賓として訪れた同盟国の王族やその護衛に力を試させて欲しい、と手合わせの希望もある。我が国の王族だけでなく、そういう来賓の希望を叶える為の手合わせ場がここだ。そして、今や同盟国の王弟であり今回の奪還戦でも功績を立ててくれたセドリックの希望は当然ながら通った。

勿論、騎士団の予定と照らし合わせてではあったけれど、母上から通達が来た騎士団からの返答は〝是非、明日にでも〟とのことだった。……まぁ予想はできたけれども。

私もステイルやティアラ、近衛騎士達から聞いただけだけれど、奪還戦でセドリックは単身で我が国の騎士団と見事に渡り合ったらしい。

その結果、倒された騎士は再挑戦を。そして話に聞いた騎士は是非手合わせしてみたいとセドリックに直接は言えずとも熱望していたらしい。そして、ステイルからその話が通ったセドリックも前のめりにそれを熱望……という、恐ろしくも需要と供給が合ってしまった。

ただでさえ近衛騎士四人分の戦闘指導を受けた彼が、今度は百人組手希望なんてもう今から怖い。身体能力こそ平均より高いくらいのセドリックが、戦闘技術をどんどんアップデートしまくるとか。既に我が国の騎士を何人も倒せた時点で色々と恐ろしいのに。無限進化な才能の塊本当怖い。

一応今回、武器は模擬剣以外使用禁止だし、多分は安全……だと思いたい。セドリック曰く、あの時は自分は怪我をさせてはいけない保護対象者で、更にはレオンから借りた武器を大盤振る舞いしまくったというハンデがあったら勝てたと言い張っている。でも、通常その程度で我が騎士団が何人も負けるわけもない。

騎士団長もセドリックの実力は気になっていたらしく、騎士達の熱望を叶える形で騎士団全体で時間を取ってくれた。騎士達の実力を贔屓目なく理解しているからこそ、他国の王族に騎士が負けたことが気になったのだろう。

アラン隊長達の話だとセドリックだけでなく私との手合わせ希望の騎士も昔から、そして最近は更にも増して多いらしいけれど、流石に王子のステイルなら未だしも王女の私が大勢の前で正式に手合わせは難しい。ティアラも一緒だ。

ステイルへも手合わせの希望の声はあるらしいけれど、本人にその気がない。アーサーと手合わせできれば充分、ということと、必要以上に自分の実力はひけらかしたくないと断言していた。相変わらずそういうところはステイルらしい。

既に騎士団に今日伺いますと時間を指定してから、セドリックと手合わせする騎士は騎士団長達が選別してくれている。今も起立して着替え中のセドリックを騎士達が神妙な面持ちで待ち構えていた。……既に何だかいつもの来賓との手合わせとは圧倒的に違う緊張感と闘気を感じて、観覧席まで階段を上って移動する私まで肌がヒリつく。若干殺気も混じっている気がするけれど、今は気付かなかった振りをする。私の背後に控えているアーサーからも喉を鳴らす音が聞こえてきた。カラム隊長も目だけで振り返れば真剣な眼差しで騎士達を見下ろしていた。

一対一の模擬戦形式の手合わせの為、騎士達が順々に一列で横並びだ。勝敗に関わらず、基本的にはセドリックと決着ついたら次の人へ移るということで、全員を相手にするかどうかは彼の体力次第だと。……多分全員なんだろうなぁと心の中だけで思う。騎士団長は知らないみたいだけれど、セドリックは近衛騎士と連続で何度も何度も千切っては投げられを繰り返しては満面の笑みでおかわりを所望した経歴の持ち主なのだから。

騎士団長達に案内された特別席にステイル、ティアラと並んで腰掛けると、それから順々と騎士達が他の観覧席に入ってきた。流石に全員は入らないけれど、広いドーム内を埋め尽くすだけの騎士が素早く席に着き始めた。アーサー曰く、前回叙任式に参加できなかった騎士が今回は優先的に観覧を許されたらしい。勝ち残り戦で勝てなかった騎士に実戦を見て勉強しろという主旨だと。

そしてこれから始まるセドリックとの手合わせを許されたのは、彼に奪還戦での再戦希望の騎士と


「ハリソンさん……。」


ハァ……、とアーサーが背後から小さく溜息を漏らすのが聞こえた。

カラム隊長がすかさず労うようにアーサーの肩に手を叩く。その様子にステイルは小さく口だけで笑った。アーサーの視線の先には、セドリックを待って控える騎士達の一番最後に並ぶハリソン副隊長の姿があった。

今回、優先された騎士達全員の後ではあるけれど、ハリソン副隊長もセドリックとの手合わせを許された。というか、そうしないと収拾がつかなかったらしい。何でも奪還戦以来、セドリックに八番隊の騎士を倒されたハリソン副隊長はずっと御怒りだったらしい。……その、騎士に。

八番隊は完全実力主義の戦闘部隊だからどの隊よりも〝個〟の力が重視される。狙撃部隊の五番隊が狙撃を失敗したような大失態に激怒したハリソン副隊長に、その騎士は終戦後は殆ど毎日襲撃を受けていると。いつもよりも手心が薄い状態のハリソン副隊長の奇襲に、時にはアーサーが間に入って仲裁することもあるらしい。

アーサーとしては不意打ちもあったし、寧ろ八番隊の騎士がちゃんとセドリック相手に手心や怪我を負わせないように意識や配慮があったことを褒めたいくらいらしいけれど、ハリソン副隊長は真逆の思考だった。一応アーサーが止めに入れば毎回すぐに構えを解いてくれるらしいけれど、その騎士への奇襲の鋭さは毎回変わらないとか。

結果、まさかの今回はハリソン副隊長の熱望だけでなく、彼の上司でもあるアーサーからも騎士団長達にハリソン副隊長とセドリックの手合わせの許可をお願いしますと隊長として頭を下げに行ったらしい。……何か、部下の面倒をちゃんと見ているアーサーがすごく感慨深い。立派に隊長をしてるんだなぁとしみじみ思う。


「お待たせ致しました。どうぞ手加減無く宜しくお願い致します。」


暫く経って、戦闘服に着替えたセドリックが模擬剣を片手に現れた。

手合わせ場に出てすぐに特別席にいる私達に挨拶をしてくれた彼は、ハナズオの防衛戦まで剣を握ったことがないとは思えないくらい見事な構えで騎士を見据えている。同時に、一番最後尾で待つハリソン副隊長の殺気が跳ね上がったのがここまで届いた。


…………どうか、どうか怪我人なく終わってくれますように……‼︎


せめて骨折以下に……‼︎と思わず膝の上で指を組みながら、セドリック達を見つめる。

そして審判を担う副団長の号令の下、第一戦目が始まった。


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