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フリージア王国備忘録<第一部>  作者: 天壱
破棄王女とシュウソク
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681.副隊長は躊躇い、


「えっ?!エリックお前まだ試し撃ちしてねぇのかよ!!」


嘘だろ?!と目を丸くして叫ぶアラン隊長に俺は思わず苦笑う。

プライド様から頂いた深紅の銃を受け取ってから、遅めの休息時間を取った俺は演習が終わる夜になるまで一度もその銃で試し撃ちをしていなかった。騎士団演習場に戻ってから残りの休息時間も、他の騎士達に腫れた瞼と涙の痕を見られる前に部屋へ逃げ込んだ。

結果、近衛騎士任を終えてから戻ってきてすかさず俺に「どうだったよ?!」とアラン隊長が飛びついてきたけれど、撃った感想は話せなかった。

本当に夢のような時間も、俺には不相応と思えるほど立派な銃も嬉しくて、アラン隊長と一緒に様子を見に来てくれたカラム隊長にも改めてお礼は伝えた。だけど、アラン隊長が一番に聞きたがってくれたのは銃を使ってみてからの感想の方だった。そして俺がまだ使っていないことを正直に話すと、……これだ。


「いえ……その、すぐ使うのも勿体ないというか。それに、他の騎士に見られることも考えると演習中に出すのも……。」

「まぁ〜演習中は出せねぇよな。」

腕を組んで苦笑うアラン隊長に、はははっ……と笑いが溢れる。

そのまま正面から俺の両肩を掴む腕から僅かに背中を反らしてしまう。カラム隊長も「確かに」と同意はしてくれたけれど、アラン隊長はまだ納得いかない様子だった。「でも使ってこその銃だろ?」と言った瞬間、カラム隊長に「危険な思想に聞こえる発言は慎め」と今度は怒られる。

実際、本当に演習の合間にでも使おうか悩みもした。だけどまだ手に馴染むかもわからない銃は、懐にしまっていても特別感が強い。自意識過剰だとはわかっていても、ただでさえ他の銃とは一線を引く深紅色の銃は一目で騎士達に気づかれてしまうんじゃないかと思えば出したくても出せなかった。今朝、アラン隊長達の叙任式で参列できなかった騎士がアラン隊長達に不満をぶつけていたのに、ここでプライド様から頂いた銃なんて知られたら一気に詰め寄られるに決まっている。

演習場に一緒に帰ったアーサーですら、始終きらきらした目で銃を見つめていた。俺の情け無い顔に何も言わないでいてくれていたのはありがたかったけれど、あんな食い入るように銃ばかり凝視していたのを思い出すと、いっそ本当に俺の顔は目に入ってなかったんじゃないかとも思う。「すっげぇ格好良いっすね!」「いえ!エリック副隊長にこそ相応しいンで!!」「でも撃ってるとこは見てみたいです!」と剣が一番好きなアーサーですら目を奪われていた。なら、他の騎士にとっても絶対目を引くのは確実だと思う。

それに何より、……あの刻印と刻まれた文字を見られたら注目が百倍以上に跳ね上がる。しっかりと銃には〝プライド・ロイヤル・アイビー〟とプライド様の御名前と王家の紋章が刻まれているのだから。しかも、あの言葉まで騎士達全員に読まれたら恥ずかし過ぎる。流石に平然としていられる自信はない。……今、こうしてプライド様から頂いた言葉を思い出すだけで熱が上がるのだから。


「ですが、この後ちゃんと撃ってみようとは思います。深夜なら人に見られる心配もありませんし。」

演習が終わった今なら、自主鍛錬している騎士も珍しくはない。

どこか空いている演習場で試し打ちをすれば他の騎士に見られる心配もないだろう。そう思いながら、俺は先に夕食へ向かいましょうとアラン隊長達に続けて声を掛け




「「………………。」」




……あれ?

何故か、アラン隊長とカラム隊長が微妙な顔をしている。

苦笑いのまま口の端がヒクついているような表情に俺も言葉を止めて二人を見返した。どうかなさりましたか?と尋ねると、二人はその表情のまま無言に互いで目を見合わせた。

アラン隊長の尋ねるような表情にカラム隊長が意思を持ってヒクついていた唇を結び、小さく首を横に振った。目と小さな動作だけでも二人が「どうする?」「駄目だろう」と言っているのがわかる。だけど、何が駄目だというのだろう。

瞬きを繰り返しながら二人の返事を待っていると、暫くの間の後にアラン隊長が「あーーーーーー……エリック?」と俺に顔を向けた。さっきよりは引き攣っていないけれど、まだ苦笑の残った表情で俺に笑いかける。はい、と俺が一言返事をすると、隣にいるカラム隊長の肩中を叩きながら口を開いた。


「その試し撃ち、俺らも付き合って良いか?」

勿論です……?と返しながら、俺は首を捻る。

むしろ話しをしたら絶対にアラン隊長は付き合ってくれると言い出すのだろうとは思ったけれど、何故そんなに二人で躊躇うような空気を出したのだろう。

不思議に思いながらも承知した俺にアラン隊長は「じゃっ、決まりな!」と笑いながら食堂に向けて歩き出した。抜きざまに俺の肩を叩いて「アーサーも誘ってやるんだろ?」と尋ねられる。

確かに銃を撃つところを見てみたいと言ってくれたアーサーも誘うつもりではある。だけどさっきの謎の沈黙の理由は教えてくれない。ぽかんとしている俺に今度はカラム隊長が俺の肩に手を置いた。


「場所を少し指定するだけだ。心配しなくてもいい。……それは間違いなく良い銃だ。」

とんとん、と置いた手でそのまま安心させるように叩いてくれる。

俺の不安もお見通しのように落ち着かせた声で言うカラム隊長は、そのまま食堂が閉まる前に行くぞと促してくれた。俺もそれに答え、カラム隊長やアラン隊長と一緒に早足で食堂に向かう。

腹は空いている筈なのに、今はふわふわと胃の中が浮かぶ感覚がする。食事よりも、早く試し撃ちをしてみたいという感覚に気がつけば両手が疼いていた。


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