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フリージア王国備忘録<第一部>  作者: 天壱
破棄王女とシュウソク

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678.騎士達は浮き立つ。


「まさか謁見の間まで貸してくれるとはな〜!てっきり演習所のどっかで軽くやると思った。」


叙任式後。

騎士団長のロデリックと共にプライドと挨拶を済ませたアラン達は、再び騎士団演習場へと向かっていた。

他の騎士達と共に帰路を歩きながら、後頭部に両手を回すアランは空を見上げながら上機嫌そのものだった。その隣をカラムも並んで歩きながら、前髪を指で払う。「確かに」と頷きながら、軽く背後に佇む王居を振り返った。


「まさか正式な儀式の場に、装飾まで完全に用意されるとは。」

思い出せば、カラムからも溜息が漏れる。

本来であれば年に一回しか許されない儀式。それを自分達三人の為に正式な場も装飾も参列者まで全て用意されたのだから。今朝、朝礼で王居へ集合するようにと言われた時にはまさかとすら思った。後の祝会こそ行なわれなかったが、完全に儀式は叙任式そのものだった。

アランもカラムも、そしてハリソンもプライドとの誓いさえ許されれば場所も参列者を問わなかった。場合によっては彼女の近衛任務中にひっそりと行われるだけでも充分だったのだから。そんな彼らにとっては信じられないほどの高待遇だった。

既に王居からも大分離れたというのに余韻が抜けきれないカラムにアランは「な?」と背中を叩く。自分の体重を乗せてくるように当てられた手に振り向けば、アランがニカッと楽しそうな笑みを向けていた。


「やっぱ俺の案に乗っておいて良かったろ?」


今回の叙任式。

全てはアランからの提案から始まったものだった。プライドから褒美に何が良いか尋ねられた帰り道、アランが最初に二人へ意思表示をしたのだから。


『プライド様に改めて叙任式を受けさせて貰う。……やっぱ俺はあの人が良いからさ』


本来、叙任式はどの騎士でも一生に一度しか行わない。

新兵から本隊への入隊試験を通り、騎士になることを認められた者が始めて〝騎士〟としての名乗ることを許される為の儀式なのだから。

しかしアランは〝二度目の〟叙任式をプライドに望んだ。

あまりに突飛で、想定外のアランの提案に戸惑いが隠せなかったカラムとハリソンだが、アランがそれを望む意味も意図もすぐに理解した。そして同時に「自分も」という欲求に逆らえなかった。


「……まぁ。」

いつもならアランの言葉を窘めるカラムだが、流石に否定できず短く肯定する。

自分自身、アランの望みがどれほど思い切り過ぎた要求だとわかった上で乗ってしまったのだから。ハリソンならばともかく、カラムはたとえ思いついたとしても一人であれば確実にそこまで踏み切れなかった。捉え方によっては、女王ローザに騎士団が反感すら買いかねない望みだ。しかし自分が望もうと望まなかろうと、一度決めた行動を変えないアランがいたからこそ踏み切れた。

アラン一人に叙任式を行うならば、自分が便乗しても結果も手間も変わらない。ならば、と。半ば狡いとは自覚しながらもカラムも乗った。そしてハリソンも、アランの提案を目の前にぶら下げられては食いつかない訳にはいかなかった。


プライドの騎士になれる唯一無二の好機を逃せるわけがない。


「エリックの代からだもんな〜、プライド様が騎士の叙任式を司るようになったのっって。」

今でこそプライドが毎年担っている騎士の叙任式。しかしアラン、カラム、ハリソンの時はその叙任式を司っていたのは現女王であるローザだった。

三人とも、女王に騎士の誓いを受けたことに不満があったわけではない。ただそれ以上に〝プライドの〟騎士でありたかった彼らにとって、彼女へ直接騎士の誓いを立てられたエリックやアーサー達は羨ましくもあった。近衛騎士には叙任式も任命式も行われていない。その旨の通達が来るだけなのだから。


「アラン。……あまり大声で言うな。また騎士達を煽ることになるぞ。」

未だに興奮が収まらない様子のアランをカラムが今度こそ窘める。

カラムの言葉に「わかってるって」と苦笑しながら、アランは自分達の数メートル空けた背後に続いている騎士達を気配だけで確認した。今すぐにでもアランとカラムに話しかけたいが、隊長格二人の会話に安易に入れない状態だ。

二人の前を歩いているのは騎士団長であるロデリックと副団長のクラーク、そしてハリソンと自分達以外の隊長格のみ。時々振り返る隊長格が羨ましそうな目でじろ〜と見てきては、アランは笑いながら片手を上げて返していた。きっと演習場に戻ったら、速攻で「ずるいぞ!」「幸せ者!」と掴み掛かられるんだろうなと思う。


「今朝の時点ですごかったもんなぁ。」

アラン達の叙任式が正式にロデリックから騎士達へ通達されたのは、同じく早朝演習前の朝礼だった。

発表をすれば確実に騒ぎが大きくなると確信したロデリックにより、当日までアラン達の叙任式については隊長格にも伏せられていた。そして実際に伝え、朝礼を終えて解散の許可が出された直後は予想通りにアランとカラムの元に騎士達が殺到する事態になった。

一体どういうことですか、お前抜け駆けだろ、どうすれば許可が取れるんだ、エリック達は知ってたのか、近衛騎士になれたら叙任式も受け直せるのか、ずるいだろ、どうやったのですか、プライド様からの計らいですか、カラム隊長達から望まれたのですか、アラン絶対お前だろ、まさかハリソン副隊長が、参列したいのですがと。

次々と押し寄せてくる騎士達にはアーサーとエリックも混ざっていた。高速の足で即時逃亡したハリソンと違い、二人は彼らからの猛攻に逃げられるわけもなかった。

事前にロデリックに釘を刺されていた通り、これが特別な処置であり、プライドからの厚意に自分達が望んだ結果だと二人で百に近い数は繰り返して説明した。

エリックの代以前に本隊騎士になった騎士全員がアランとカラムの特別処置を羨んだ。彼らもまた、新兵が本隊騎士になる度にプライドからの宣言と誓いを羨ましいと思っていたのだから。もし、プライドの騎士になれる方法があるのならば是が非でもと詰め寄りながら息を荒くする騎士もいた。


その上、騎士団から参列者として招かれる騎士の抜粋も争奪戦が起こった。

プライドが取り仕切る叙任式というだけでも毎年倍率の高い叙任式だが、更には騎士達からの人望も支持も高い二人の叙任式とあれば参列を切望しない騎士など殆どいなかった。

もともとは争いが起こらないように、既に数十名の騎士を指名するつもりだったロデリックだが、あまりの騎士達の血気状態を前にそれも諦めた。基本的に基礎や筋力と体力作りを主とされている早朝演習を特別に変更し、模擬剣を使用しての一斉勝ち抜き戦が行われた。

本来であれば、新兵が入団試験で行った試練を隊長格以外の本隊騎士達が行ったことと、早朝演習とは思えない激しさに新兵達は全員血の気が引いた。銃と特殊能力使用禁止と模擬剣での使用でなければ、救護棟送りが確実に出ていたほどの戦場だった。

お陰で叙任式では健全に身体を動かし、血の気も収まりある程度頭の冷えた騎士達が無事に参列を許された。


「だが、最後には全員祝してくれたことは感謝すべきだろう。……アーサーとエリックも驚いていた。」

だな、とアランもそれには穏やかな声で同意した。

アランもカラムも、ハリソンも二人には自分達の褒美について何も話していなかった。プライドの近衛騎士として無条件に参列が確定した二人は他の参列者の騎士達とは違う特等席で目にすることになったが、自分のことのように緊張していた。アーサーもエリックも先輩騎士である三人の叙任式など見たこともなかったのだから。

それを自分達の目で見れる喜びも、更には同じ近衛騎士である彼らが正式にプライドと誓いを交わした騎士になることも嬉しくて堪らなかった。

叙任式後にロデリック達と共にプライドへ挨拶にカラム達が来た時には、アーサーだけでなくエリックまで興奮で肌を紅潮させ目をきらきらと輝かせていた。プライドの背後から「すっっっっっっげぇ格好良かったです……!」と力説するアーサーにエリックも全力で同意した時には、流石のアランとカラムも照れた。その為今はハリソンもこの上なく機嫌が良い。

先頭をロデリックとクラークが歩いている手前、それに準じているが、そうでなければ確実に高速の足で走り回っているか、今この場にいる八番隊の部下に斬りかかっているだろうとアランもカラムも思う。アーサーに「格好良かった」と言われたハリソンは、目を見開いたまま数秒硬直していたのだから。クラークに背中を叩かれるまで「そうか」の一言すら出せなかったということは心中では相当動揺していたのだろうとアーサー以外その場にいた全員が理解した。


「ま、この後すげぇ殴りかかられそうだけど。」

「それは、早朝から始終顔のにやけが治らなかったお前だけだアラン。」

実際、ロデリックからの通達後に騎士達に詰め寄られたのはアランとカラムだが、掴み掛かられたのはアランだけだった。

あまりにも正直な心境が顔に出ていたアランに、同期の騎士や騎士隊長から羨みの嵐だった。カラムがプライドの婚約者候補だと黙過で察した騎士達の百倍以上の羨みをぶつけられていた。彼らにとっては第一王女の婚約者候補という空の上の話よりも、あのプライドから直々に騎士の誓いを許されたことの方が遥かに羨ましい。

しかも、その最初の提案者がアランだと発覚すれば全員が「やっぱりお前か!」だった。アランがプライドをこの上なく慕っているのは騎士団で知らない者はいない有名な事実だった。途中からは「いつかはやると思った」と言わんばかりの空気まで流れ出していた。


「あー、でもさ。」

そこでふと、アランは思い出したように声を上げた。

さっきよりも声量の上がった声はうっすらと背後にいる騎士達にも届いた。今度は顰める必要のない話か、とカラムが両眉を上げて見返すと







「〝この後〟のお楽しみの方がずっと羨ましがられると思わねぇ?」






バレたらさ、と。

そう言ってニカッと笑うアランの顔はこの上なく楽しそうな満面の笑みだった。

アランの言いたいことがわかり、カラムも今度は少し含むように笑った。「そうだな」と返しながら、風に吹かれた前髪を押さえつける。

きっとそれは自分達が近衛任務をアーサー達と交代した直後だろう、と思いながら二人は前を向く。叙任式を無事終えた今、まだ次の楽しみが残っている今日は一生忘れない良き日だと思う。


演習場に到着後、早速待っていた騎士達に飛びかかられ、更に参列した騎士には興奮した息で褒められ祝われ、もみくちゃにされることになるのをまだ彼らは知らない。


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