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フリージア王国備忘録<第一部>  作者: 天壱
無認可王女と混迷

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落胆し、


「でも、私は第一王位継承者のままだから。変える必要もないわ。」


ステイルの言葉にプライドはやんわり断る。

内密、というから一体どんな相談かと身構えていたプライドは若干力が抜けてしまった。自分の話題かと思えば自然と緊張感も薄れてしまう。

しかし、プライド以外はそうではない。彼女の言葉に「あります」とはっきり断じたステイルは、背もたれに預けた状態から僅かに前のめりになって顔を険しくさせた。ふんにゃりと笑うプライドに、真面目に聞いてくださいと言わんばかりに眉を寄せる。


「確かにプライドは次期女王のままです。ですが、相手の立場は大きく変わります。〝次期王配〟とはいっても、王配としての業務権利はありません。それはティアラの仕事になりますから。」

ティアラの王妹としての権利が確立し、公表された今だからこそはっきり言う。

ステイルのその言葉にティアラは小さく俯いた。自分で望んだこととはいえ、プライドの隣に立つ相手の権利を自分が奪ってしまったのだという事実に罪悪感を感じてしまう。膝の上で小さく拳を握るティアラに、ステイルは「お前が気負うことではない」と断ると、またプライドへ漆黒の視線を移した。


「たとえば婚約者候補の一人が国外の人間であれば、我が国の王配となった時点で立場を無くします。王族としての権利こそありますが、……言い方は悪いですが〝お飾り〟となります。」

言いにくそうに、それでも強く明言するステイルの言葉に、プライドはふとゲームのレオンを思い出す。

女王プライドの婚約者でありながら、その業務は全てジルベールとステイルが担っていた。部屋に引き籠り、外界を遮断していた彼もそういえば〝お飾り〟扱いされていたなと考える。

今、現実ではその王配の職務をティアラが担うことになった。つまり、王配となる人物に担当業務はない。あるとしても式典などの時に参列したりするくらいのものだ。ステイルの言葉はまさに適格な表現だとプライドもティアラも思う。


「もし国内の者だったとしても、……プライドに限ってその心配はないとは思いますが。ですが、もし権利ばかりを貪るような者が紛れ込んでいた場合!職務もなく〝お飾り〟でいられる王配など最高の寝床です。」

国内の人間であれば、婚姻しても職務に準じることはできる。

しかし、本人が王配としての職務のみを望めば、それはただの金食い虫だ。人前に出てそれらしい形を取り、あとは民の税のみを貪り贅沢三昧をする。そのような人間を王配にし、そしてプライドの夫にしたくないとステイルは心から思う。

しかし、それでもプライドの様子は変わらない。少し困ったように笑いながらも「大丈夫よ」とその一言だけで済ましてしまう。深刻でない話だったことに安堵してしまった所為もあり、寧ろ眠気がふんわりとシルクのように薄く覆ってきた。ステイルが真面目な話をしてくれているのだからと目を覚ますためにカップを一口含んだが、ステイルの目には何を悠長な!という気持ちが強くなる。

ステイルも、プライドが婚約者候補にそのような人間だとわかって選ぶとは思わない。しかし、アダムのような表裏の激しい人間であればと不安は消えない。今、王配の立場はプライドという素晴らしい女性の隣に立ち、国へ最上層部としての権利を持ち、そして面倒な職務はティアラに丸投げできるという、国で最も贅沢な立場になるのだから。

摂政業務や王配業務の合間にヴェストやアルバートにも相談したが、二人とも返答は「プライドに一任する」だけだった。婚約者候補を知らない筈のジルベールすらも「プライド様が仰るのならば問題ないと」とあまりにも楽観視な発言だった。人前でさえなければ「過去のお前のような輩が相手だったらどうする!」と言葉で殴りつけたかったステイルだが、アルバートとヴェストの手前、睨みつけることしかできなかった。

意に介さないプライドに、それでもとステイルは食い下がる。


「もし!仮に!相手が一定基準以上の地位を確立した騎士〝など〟であれば問題はありません。我が国を守る騎士であれば、充分民に報いているとも言えるでしょう。王配業務をティアラが担い!そして王配が騎士隊長として騎士を率いるのも良い在り方だと思います。我が国の歴史でも王族でありながら騎士として名を馳せた王子もいますし、国王が騎士団を率いる国も存在します。」

高ぶる感情を抑えながら、ステイルはビシッ!!とプライドの背後に立つカラムを指さして言い放つ。

「もし」「仮に」「など」と言いながら、その発言は明らかに彼を指していた。あまりに断定された発言にカラムが「ステイル様……!その、それは」と何とも言えずに耳まで赤くする。未だに顔すら上げられず、ステイルに指を指されていることには気づいていないのがせめてもの救いだった。

しかし、ステイルは今カラムを顧みる余裕はなかった。婚約者候補が誰なのかは知らない。だからこそ手紙の差出人のように調査することもできない。今度こそプライドの婚約者を間違わせない為にもこれだけは譲れなかった。いっそもうここでカラムに確定してしまえと言いたくなるくらいには差し迫っていた。

もし万が一にもプライドの優しさに付け込むような人間と婚姻し、彼女が苦しんだり悲しむような結果を生み出せば今度は自分がその男を殺しかねない。プライドの未来を考えれば、これだけは厳しくはあっても彼女に言い聞かせるべきだとステイルは思った。

そして今度は同意を求めるようにアーサーに眼差しを刺す。お前からも何か言え、と焦がす眼光だけで語るステイルに押されるように口を開く。


「その、……ステイルの言うことは俺も正しいと、思います。……大事なことですから。せめて〝残りの二人〟は再検討して頂いた方が良いかと……。」

こういう話題に慣れていないアーサーはたどたどしく言いながらも顔を熱くする。

さっきまでカラムとステイル、そしてプライドを何度も見比べながら自分一人が蚊帳の外に感じていたアーサーにはそれしか言えなかった。そして悪気は全くないアーサーの発言にカラムは「アーサーお前までっ……」と小声で訴えながら堪らず肩を掴む。

既に近衛騎士であるアーサーに知られている事実だが、ここでさらりと肯定されてしまったことが死ぬほど恥ずかしい。カラムの茹った顔に、アーサーもこの場の全員が知っているとはいえ極秘事項だったと思い直し「すみません!!」と慌てて叫んだ。

ステイルに続き、アーサーにも窘められ、プライドの肩が狭くなる。しかし、それでもプライドは頷かない。代わりに落ち込むように俯いてしまった。


「兄様の心配も、すごくわかりますっ。……けれど、お姉様はそれでも大丈夫だと思われるのですよね?」

ステイルを刺激しないように言葉を選びながら、ティアラが口を開いた。

ちょこんと首を小さく傾げながら隣に座るプライドを覗き込む。唯一味方発言をしてくれるティアラを天使だと思いながら、プライドは無言で頷いた。

なら、お姉様を信じましょうとでも纏めそうなティアラに、それでも今回ばかりはとステイルが先に言葉を打つ。落ち込ませてしまったプライドの姿と可愛い妹の説得が加われば、うっかり揺らぎかねないと誰よりも自分自身がわかっている。


「それに。……相手の婚約者候補側が不満に思わないとも限りません。」


バッ、と今度ははっきりとプライドの顔色が変わった。

目を見開き、僅かに開いた口で正面にいるステイルを見返す。やっと楽観以外の反応をしてくれたと、ステイルは少し心の中で安堵してから落ち着けた声でプライドに説く。


「既に、母上から相手に了承は得ていると思います。ですが、フリージア王国の第一王女からの指名を断れる立場の人間はそういません。それが、我が国の誉れ高き王配という任であれば栄誉ですが、現状ではそれを恐れる者もいます。」

〝お飾り〟の王配と。もし、相手が王配としての職務で国に従事したいと願う人間だった場合、それ自体は悪ではない。しかし、それで今の王配の立場は残酷でしかないとステイルは思う。仕事も何もない席に永久に座らされてお飾りと思われるのだから。

それこそ、最初の婚約者であったレオンと同じように、プライドとの婚姻で苦しむ人間が現れるかもしれない。そうすればまた同じ過ちの繰り返しになる。たとえ、自分の立場がお飾りでしかなく、そんなのは嫌だと突っぱねたくても拒める者などいない。そして、婚約が成立してからその事実を知れば一番苦しむのがプライド自身であることは間違いなかった。


「だからこそ、プライドにはちゃんと考えて頂きたいのです。〝変えろ〟とは言いません。ですが、せめてやはりもう一度考える時間をと母上に願い出て下さい。式典も近いですし、ティアラの王妹が公表された今、もう一度相手の気持ちを確認することも貴方には必要だと思います。」

単純なパートナーではなく、その相手の幸せも考えてしまうプライドだからこそステイルはそう思う。

ステイルの優しくも静かな声にプライドは視線をまた落とした。確かにその通りだと。自分の立場を考えれば当然ながら相手に拒否権はない。その上で、相手に今の王配の立場を押し付けてしまうのは自己中心的な判断だったと反省した。

そうよね……と声を地に着くほどに沈めるプライドにティアラが肩を優しく撫でた。ステイルの今の意見は尤もだとティアラ達も思う。もし相手が王配の職務に目を輝かせるほどに志の高い人間であればあるほど絶望は大きい。そしてプライドが選ぶような相手であればそういう人間である可能性も大いにある。

更にはプライドという立派な女王の夫となれば、期待も、そして比べられることにもなる。立派な女王と、お飾りの王配と。それなりの立場を国内で確立していない限り、その未来からはどうしても逃れ
















「カラム隊長と同じようにステイルもアーサーも選ぶ権利があるもの……。」
















…………⁈


時が、止まる。

落胆と共にうっかりと口から零れ落ちてしまった、王女の失言に。


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