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フリージア王国備忘録<第一部>  作者: 天壱
怨恨王女と祝勝会
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664.騎士団長は笑む。


おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉおおおおぉぉおおおおおおおっっ!!!!!


宴が続く事を知らされた騎士達は、興奮のままに唸りを上げた。

パーティーが始まってから時間を気にしなかった騎士はいない。この宴がいつまで続くのかと思った者も多い。時間内に少しでも、一秒でもプライドと言葉を交わしたいと願った者が殆どだ。

ジルベールが話を始めた時には、誰もが宴の終わりを感じた。プライドと関われた騎士も名残惜しく思い、そしてまだプライドと話をすることも叶わなかった騎士は少なからず消沈した。騎士の人数が圧倒的に多い為、あぶれる者がいるのは当然だった。

ひと目プライドの姿が確認できただけで良かったとも思う。しかし、それでもあと少し時間があれば、もう少しだけと欲に思わなかった騎士の方が少なかった。いくら自制のできる騎士とはいえ彼らも人間である。

そんな中で、夜通しのパーティーは吉報でしかなかった。

誰一人、大広間から去ろうとする騎士はいない。関わりや宴に興味のない八番隊の騎士すら一人も出口には向かわなかった。

騎士達は第一王女と時間を過ごせる事を喜び、軽快な音楽に胸を躍らせた。ジョッキやグラスを掲げ、中には音楽に合わせて踊り出す騎士まで現れる。彼らが喜びをそのままに讃える名は、自分達に時間を割いてくれたプライドの名。そしてもう一人は


「ロデリック騎士団長‼︎ありがとうございますッ‼︎」

「流石です騎士団長‼︎」

「騎士団長は一体いつの間にプライド様と……⁈」

「プライド第一王女殿下とロデリック騎士団長に乾杯ッ‼︎」

「騎士団長から許しを頂いたんだ!飲むぞぉおお‼︎」


「……お前にしては珍しい配慮だな、ロデリック。」

騒ぎ、燥ぐ騎士達を前に、副団長のクラークが隣に並ぶロデリックへと投げ掛けた。

くっくっ、と喉を鳴らして笑いながら肘で軽く友を突く。実際、常に厳格をそのまま形にしたようなロデリックが、王族と夜通しのパーティーを推奨するどころか自ら本人に願ったことなど初めてだった。

予想通りの燥ぎようを目の当たりにするロデリックは、深く長い溜息を吐いた後に敢えて低めた声をクラークへと返す。


「…………今日までプライド様の謝絶を望んだのは私だ。双方の為にも今夜くらいは良いだろう。」

「まぁ、騎士達の為にひと肌脱いでやったと思えばお前らしいか。」

ちゃんと聞いていたのか、とロデリックは心の中で思ってクラークを睨んだが、口には出さなかった。

確実にまた頭の中を覗かれたなと思う。睨んだ先のクラークは清々しいほどの笑顔だった。騎士達も大喜びだ、と言われればもう否定のしようもない。実際、その為にプライドへ願ったのだから。

奪還戦以降、緊張感を保つ為にプライドからの面会謝絶を望んだロデリックだが、全てが終わった後はしっかりと彼らとプライドとの関わりの時間も持たせたいとも思っていた。プライド自身が騎士達との関わりを望んでいるのなら、余計に。

そんな時にステイルから打診を受けた第二部の祝勝会は願っても無い機会だった。公式な場の祝勝会こそ騎士達は招かれないが、代わりに他の目を殆ど気にせずプライドと関われるのだから。更には何人かはプライドとダンスの機会も持てるのならば、これ以上の労いもない。


プライドの奪還を終えてから、彼女の話や噂は騎士団で絶えなかった。

毎日のように次のプライドを一目でも見れる可能性のある警備箇所では、配属の取り合いが起こり、近衛騎士も含めてプライドをひと目でも見れた騎士は、夜には他の騎士達に囲まれ詳細に話を絞り出された。本命は間違いなく半日近くプライドと共に居られる近衛騎士からの話だが、そうでなくても「プライド様はお元気そうだった」「笑っておられた」「ティアラ様と仲良く手を繋いでおられた」「専属侍女と笑い合っていた」「見舞いに行った病室の向こうから笑い声が聞こえた」と、それだけで騎士達の気持ちは常に跳ね上がった。

今まで病で伏している以外情報が遮断されていた彼らにとって、プライドの健在が知れる事だけでも幸いだった。

そして、そんな彼らの姿を見る度に若干胸が痛まなかったロデリックでもない。彼が面会謝絶をしなければ、間違いなく体調回復後にプライドは騎士団演習場に足を運んでくれていたのだから。

だからこそ、こうしてプライドの元気な姿を見せる機会を、直接関わる機会をと自ら彼女に望んだ。今日まで文句一つ言わずに役目に努めてきた部下達の為にも。そして、ロデリック自身も


「プライド様のお元気な姿が見れて私も嬉しいよ。……あんなことがあった後だからな。」


また覗かれた。

そう思いながらクラークの言葉にロデリックは無言で頷き、腕を組んだ。プライドがいつものように元気でいる姿を確認したいと思ったのは騎士団〝全員〟の願いだったのだから。

パーティーがまだ終わらないと聞いた瞬間の騎士達の歓喜する姿を見れば、やはり願ってみて良かったとも思った。もしプライドがそれを願ってくれたとしても、騎士団長である自分が「明日も演習があるので」と断れば当然不可能だった。騎士団長とプライド、双方の希望があったこそ叶ったからこその宴だ。

今も自分とクラークがこうして言葉を交わす間も騎士達が次々と「騎士団長‼︎」と感謝の声を上げている。ジルベールからの布告にロデリックの名前が出た途端、騎士達は誰もが目を皿にして彼を見た。それほど騎士達にとってもロデリックからの許可は予想のしないものだった。


「本当はお前が一番浴びるほど酒を飲みたい筈だろうロデリック。」

「……明日で良い。」

軽く肩にを叩いてくるクラークの言葉に、ロデリックは低い声で答えた。

こればかりはクラークが相手でなくても否定のしようがない。今日、もし第二部の祝勝会が開かれなければ自分はクラークを連れて潰れるまで呑んだことを誰よりも自覚しているのだから。


アーサーの表彰と、聖騎士の授与。


騎士団長として、そして父親として喜ばしいことでしかない。

アーサーが多くの民に認められ、そして讃えられた光景は未だに目に焼き付いている。あのひと時の間に何度も込み上げ、目頭すら熱くなった。

聖騎士など、ロデリック自身も騎士を志した時に憧れを抱いた存在だ。それをまさか、自分の息子であるアーサーが継承することになるとは思わなかった。本来ならばすぐにでも妻に報告してやりたいとも思ったが、今は騎士団長としても職務が優先だった。きっと妻も小料理屋で噂くらいは届いてしまっているだろうとは思う。それが自分の息子だということまで届いているかはわからないが。


『それより父さんの話が良い!』


まだ、アーサーが騎士になる夢を諦めてもいなかった幼い頃を思い出す。

騎士になりたいと口癖のように言うアーサーに、夜寝る前に騎士の伝説や昔話をしようとしても必ずそう言われてしまった。

伝説の騎士よりも自分の任務の話ばかりをせがみ、目を輝かせるアーサーに毎回自分の方が折れていた。今やその時に語り聞かせようとしていた伝説の騎士の異名をアーサーが引き継いでいると思うと感慨深く、夢でも見ているかのようだった。

七年前の自分に聞かせても確実に信じないだろうとも思う。そして、……七年前に死んでいたら決して知れなかったと思うと恐ろしくすら思う。騎士を諦め、恥だと否定していたアーサーが、今や八番隊の隊長で聖騎士など誰が想像できたことか。


「…………プライド様の健在な姿が見れて、何よりだ。」


笑顔でいる。

七年前のあの時、自分とアーサーの運命を変えてくれた少女が多くの者に囲まれて笑んでいる。それだけでも充分に、この奪還戦で自分達は命を懸けた価値があったとロデリックは思う。

奪還戦では、ローザ達の護衛の為にその場を離れられなかった。しかし、通信兵からの映像で見たプライドが酷く取り乱していたことは知っている。

正気を取り戻し、引き止められ、己が過ちを覚えていながらも生きることを選択してくれたことが心から喜ばしい。もし、あの時に誰もが引き止めきれずプライドが死を選び取ってしまっていれば今この場には誰一人笑顔でいれた者などいなかったと確信する。


ロデリックの言葉に今度はクラークが静かに頷いた。

穏やかに笑みを浮かべながら、そうだなと口の動きだけで呟く。示し合せることもなく、二人が同時に視線を向ければそこは騎士達が集う中心だった。周囲にはステイルやティアラと話そうとする騎士達も集っていたが、やはり一番大きな渦の中心は彼女だ。

椅子にかける彼女より高い位置で話さないようにと気を配り、膝を立てる騎士達の顔は輝いていた。間違いなく自分達が奪還した第一王女を前に誰もが胸を、焦がす。


「残念ながら酒場は明日にお預けだな、友よ。」

「……そうだな。」


その光景に、二人は同時に口元を緩めた。


582-3

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