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フリージア王国備忘録<第一部>  作者: 天壱
怨恨王女と祝勝会

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648.継承者は知らされる。


「この度は多くの助けを受け、我々はラジヤ帝国からフリージア王国を守り抜きました。」


女王、ローザの威厳を纏う静かな声が広間に響き渡る。

守り抜いた騎士達への労いと賞賛、そして自国の勝利とラジヤ帝国に締結させた条約の詳細。来賓はその全てに息遣い一つにすら気を払いながら聞き入った。

ローザの語りの後、一度詳細説明が摂政のヴェストへと託される。彼の口から一度民の前でもローザから宣明された今回の経緯と事実について。アダムの特殊能力やプライドが操られたことこそ伏せられたが、真実に悉く近い形で全てが告げられた。

ラジヤ帝国によるプライドの服毒。

皇太子アダムが狙うプライドとの婚姻とフリージア王国の奴隷制度。

条約違反とそれに伴うフリージアへの侵攻。

それを知り、命からがら伝えた騎士アーサーの功績。

アダム一味による内部侵攻と重体の身で人質に取られたプライド。

城下への避難指示と騎士団による迎撃、防衛。

秘密裏にプライドの昏倒から犯人特定等に協力していたセドリック。

侵攻を聞きつけたレオン率いるアネモネ王国からの援軍。

黒幕だったアダムの死亡。ラジヤ帝国軍の沈黙と捕縛。

プライドの奪還、そしてラジヤ帝国皇帝から正式な敗北と和平条約違反による罰則締結と承認。

それらの鮮明な説明を終えてから、再び言葉の襷がローザへと渡され、一度前に出たヴェストが元の位置へと下がった。ヴェストの語りを終えても未だ、締め括る様子のないローザに来賓は固唾を飲んで言葉を待つ。


「そしてこの度にはもう一つ……重要なお知らせがあります。」


来た、と誰もが思った。

ローザの優雅な笑みと共に放たれた言葉に誰もが視線を上げて注視する。ヴェストと入れ替わるようにして、次は王配のアルバートが彼女に並んだ。

王配が前に出たことに、更なる宣告が待っているのではと身を硬くする。緊張で顔まで強張らせる来賓に、ローザはゆっくりと薔薇のような唇を開いた。指先まで意思が通ったその手で合図を示せば、ローザとアルバートの間に並ぶようにして第二王女のティアラが前に出た。

今までの経緯説明に全く出なかった第二王女の存在。それ自体は誰も疑問には思わなかった。人質になったプライドとは別に第二王女であるティアラは安全な場所に避難していたのだろうと誰もが考えた。王女である彼女達は本来、身を守ることが最優先事項なのだから。

一体どうしたのか、ティアラの身に何か起こったのかと案じて息を飲む。来賓の前で姿勢を正し、胸を張ってこそいるが彼女の表情は硬い。ローザに面影の酷似したティアラがその表情を引き締めれば、更にその姿はローザに瓜二つだった。来賓の前でも柔らかな表情を崩さない彼女の引き締まった表情に誰もの胸が騒ぎ出す。

しかし、次のローザの言葉は彼らの予想を遥かに上回るものだった。



「我が第二王女ティアラ・ロイヤル・アイビーはこの度、予知能力を開花させました。」



……⁈

最初は誰も反応ができなかった。

数秒の沈黙こそが彼らの困惑を明確に表し、その直後に抑えきれない響めきが広間に響き渡る。何と言えば良いかもわからず、喜べば良いのか焦燥すれば良いのかすら女王ローザとティアラの視界の中で素直にそれができる者はいなかった。

既に真実を知っていた一部の騎士達やハナズオ連合王国のみが心の底でとうとう公表に至ったのだと受け止める。周知であったことを隠す為に他の来賓に気付かれないように取り繕いながらローザの言葉の続きを待つ。

その間も何も知らなかった来賓の動揺は収まらない。本当なのか、一体何故、歴史上でも初めてだ、ならばプライド様はと、疑問しか言葉にすることができない。そして最後には王位継承権がどうなるのかと、そればかりが頭に浮かび上がった。

レオンすらその事実に思考がすぐには追いつかなかった。翡翠色の瞳を丸く揺らし、俄かに口を開いたまま驚愕を露わにする。そして巡らす思考の中でふと、数日前に話したプライド達との会話を思い出した。何故あの時、予知能力者であるプライドが王位継承権を失うなどというたとえ話をしたのか、その真意をとうとう正しく理解する。

来賓が戸惑いを露わにする中、ティアラは気づかれないように口の中だけを噛み締めた。

自分が最も恐れていた当然の困惑だ。拳を握らないように意識をすれば、代わりに肩が強張った。すると、顔を向けることもなく静かにアルバートはティアラの細い肩に優しく腕を回し、手を置いた。突然の感触に肩を揺らしたティアラだが、真っ直ぐ前だけを見据えた父親の横顔に自然と呼吸が大きくなった。

来賓の響めきを止めるように、再びローザが沈黙をと両手を掲げて見せる。それに気付いた来賓が次々と口を噤み、彼女を見上げた。


「ティアラ・ロイヤル・アイビーの予知能力はプライドとも……そして、()()()()()()()()()()()()()()()()だと判明しました。」


その言葉に再びざわりと息を飲む音が重なった。

予知能力でありながら、また新たな形。王族のみに許される特殊能力である予知能力はその詳細こそ語られないが、予知の回数頻度などいくらか個人差があることだけは周知の事実だった。

しかし今回のように「異なる」と明確に宣言されたことは歴史上でも希有だ。一体どういうことか、どちらの特殊能力が優れているのかと疑問が過ぎる中、ローザは緩やかに続きを語る。ティアラへと〝定められた〟その事実は










「〝啓示〟の特殊能力。」









高らかに、迷いない女王の言葉に誰もが口を閉ざし、聞き入った。

騒めきを止めずに放ったローザの言葉は、その瞬間に誰もの口からも言葉を奪う。

数拍の間を置いて、戸惑いと焦燥、疑問を露わにしていた来賓から「おおおおぉぉぉ……」と期待も孕んだ声が放たれた。


「予知能力に()()()()それを、我々はそう名付けました。ティアラはこの〝啓示〟の能力で奪還戦にて一つの悲劇を回避しました。」

今度は来賓から素直な感嘆や歓喜の声が上がり出す。

〝予知〟ではなく〝啓示〟と名を変えられ、そして何よりもローザの口振りは間違いなくティアラの功績を喜ばしいものとして報せるものだった。多くが目を輝かし始める中、ローザはティアラの特殊能力を語り出す。


「彼女は〝取るべき行動を告知する力〟を特殊能力として覚醒させました。我々はこれをまた〝予知能力〟と()()、ティアラを〝王〟としての素質を持つ者として判断しました。」

全てが既に最上層部の中で決められた語りだった。

プライドを、ティアラを、在るべき座として民に受け入れさせる為に考えられたその流れに来賓は一人残らず飲まれていく。

それを肌で感じたステイルはローザ達の背後で気付かれないように小さく笑んだ。そのまま目だけを動かし、自分達の更に一歩後方に控えるジルベールの方向へと向けた。顔ごと振り返ることができずとも、彼が笑みを浮かべている姿がステイルには安易に想像がつく。

最初に、ティアラの特殊能力の名を新たにするように提案したのはジルベールだった。

セドリックも含めた検討会の後、改めてティアラから特殊能力の詳細が語られた際、緩やかな笑みで彼はそう語った。


『言うなれば〝啓示〟の特殊能力と呼ぶべきかと』


未来を示す特殊能力。

予知した未来を他者にも見せ、そして〝どうすべきか〟までを知ることのできる力。

別称を与えるだけで、ティアラの特殊能力は〝別物〟としての色が強まった。更に彼が語ればローザ達最上層部だけでなくプライドやティアラ本人までもが納得させられた。

そして今、その語りが女王ローザの威厳ある唇から来賓へ堂々と放たれる。


「それにより我々は〝啓示〟の特殊能力者ティアラを……」

人を操り動かす天才謀略家ジルベールの手腕により決められた語りと流れ、女王の口から語られたそれを誰もが真実だと受け入れる。

上層部も、騎士も、ティアラの力を目にした近衛騎士も騎士団長も副団長も国王もレオンすらも。ティアラの力を予知に()()()()()()()()だと語られずとも理解する。



「次期〝王妹〟とし、現王配の座を継承するに相応しき王女。次期女王となるプライドを支えし片腕と認めました。」



おおおおおおおおおおおおおおおおおっっ‼︎‼︎‼︎

来賓の誰もが声を上げ、歓喜の一色のみに染まり上がる。

同世代に産まれし予知能力者。史上初となる二人の王の資格者。それを得た事実に誰もが新しい時代の幕開けだと胸を躍らせた。

歓声が際限なく上がる中、ローザが悠然とした微笑と共に合図を送る。彼女の許可を受け、背後に控えていたプライドとステイルが更に前に出た。ティアラの新たな座を祝福し、歓迎するように笑い掛け、アルバートと共に細い肩へ二人で手を添えれば来賓の歓声は津波のように大きく波打った。

ティアラ様!プライド第一王女殿下!ティアラ第二王女殿下!プライド様!ステイル第一王子殿下!フリージア王国万歳!といくつもの歓声が重なり合う中で、プライドがそっとティアラのウェーブがかった柔らかな金髪を撫でる。それに気付き、ティアラが振り返れば喜びを隠さずに頬を綻ばせるプライドと目が合った。

柔らかなプライドの微笑みに、ティアラの緊張の糸が急激に緩む。思わず泣きそうになって下唇を小さく噛めば、今度はステイルが姿勢を伸ばさせるようにその背中を手のひらで優しく叩いた。

ポンっ、という軽い感触に驚いたティアラの背中が過剰に反った。涙腺が引っ込んだまま兄へと振り向けば、ステイルが一歩引いて正面を向いたまま位置を変えるところだった。

ティアラをプライドと一緒に挟む位置から、二人の背後を通り過ぎ、ティアラと二人でプライドを挟む位置へと変える。

そして腕を伸ばし、プライドの背後からそっとティアラの手を握った。突然のことに驚いたティアラがステイルへと顔を向ければ、握られた手がそのままプライドの背中へと当てられた。

ステイルはそこで一度手を離し、プライドの背中に当てさせたティアラに改めて自分の手を重ねた。ステイルと二人でプライドの背中を支える形に気付いた瞬間、ティアラは照れたように笑んだ。ステイルと共にプライドを支える立場に初めて立てたことを実感し、目を赤くしながら笑い皺ができるほどくしゃりとした顔をする。


「フリージア王国の新たなる時代が遠くないことを、ここに宣言します。」

ローザの高らかな宣言に、大広間中の熱が上がる。

間も無く国中にも正式に公布がされるでしょう、という女王の宣言に来賓の目はこれ以上なく歓喜に燃え上がった。誰もの興奮が冷めないままに祝勝会の閉幕が告げられれば、最高の終わりとして彼らの記憶にも刻まれた。

多くの喝采と歓声の中、退室の為に大広間の扉が開かれる。

語り合いことを許された来賓が熱を上げた身体で語り合う。フリージア王国の歴史的瞬間に立ち会えた喜びに身を焦がし、すぐに退室しようとする者はいなかった。語り、逸り、声を弾ませ、腕を振り上げる中で




「……よし…………‼︎」




一人の王弟が、降ろした拳を爪が食い込むほどに硬く握り、第二王女の幸福に喜びを噛み締めた。


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