決意し、
「この部屋だ、ジルベール。好きに使うと良い。」
「ありがとうございます、旦那様。」
中流階級の家の使用人になった私は、頭がよく回ると気に入れられ、屋敷内に寝泊まりの部屋を与えられた。…と、いってもただの物置部屋だ。元々が書庫だったらしく、私が横になれる範囲を残して全てが蔵書の山で埋め尽くされていた。
マリアの婚約の話を聞いてから私は、仕事以外のマリアと逢えない時間は毎日のように朝も夜もひたすら本を読み漁るようになった。字の読み書きも理解し、どうにかマリアと共に生きていける方法をと探し続けた。どのような知識でも関係なく貪るように蔵書の知識を蓄えていった。
そして、ちょうど一週間後のことだった。
その日は屋敷の夫人が友人を招きパーティーを開いていた。私は給仕係としてその広間で皿を片付けながら、煌びやかな金や宝石の装飾を召した女性や、その手を取る男性の姿を何度も目にした。
そして夜遅くまで片付けを行い、自室へ戻りマリアへ想いを馳せた。昨日、彼女は上の姉二人が父親に買って貰った装飾品を自慢された話をしていた。とても綺麗だったと、憧れたと話していた。
ー もし私が大人になり、彼女にあのような煌びやかな装飾を贈れたらどれほど幸福だろうか。
そう、大人になった自分とマリアの姿に夢を膨らませていた時。
…急激に私の身体が成長したのだ。
まるで背伸びをするような感覚に違和感を覚え、自分の身体を見直すと次第に背が伸び、手足が長くなり、数着しかない服が破れかけていた。
特殊能力。
我が国独自の存在。能力は人によって異なり、その価値は有用性と希少性で決められることが多い。私は興奮が冷めきらないまま、以前読んだ特殊能力に関しての書物を手当たり次第に読み漁った。
そして、年齢操作という特殊能力者が過去に一人だけ存在したこと。不老人間…己が寿命すら操作できてしまう、極めて稀な特殊能力者。また、国の上層部になる為には家柄ではなく希少且つ優れた特殊能力を持つことが重視されていることが記されていた。
これだ、と確信をした。
この力さえあれば、私は国の上層部になれるかもしれない。そうすれば今より良い暮らしもでき、マリアを迎えられるかもしれない。
この特殊能力は神からの授かりものだ。マリアを救う為に天からの手を差し伸べられたのだ、と心から思った。
「これから暫く逢えない。」
彼女にそう打ち明けたのは二日後の夜だった。私の言葉に彼女は酷く狼狽し、もう時間が無いのだと涙を流した。だから、私は彼女の両手を握り、その目を見つめ、誓った。
「必ず迎えに行く…!君が十六歳になる前に、必ず。」
そう言って、私は特殊能力を使う。
彼女が目の前で成長する私に目を丸くさせた。特殊能力に目覚めてから私は何度も練習し、たった二日で思い通りに自分の年齢を操作できるようにもなっていた。
私はゆっくりと身体の成長を促し、彼女の前で大人の姿になってみせる。
「この特殊能力で、必ず城の上層部になってみせる。…そして、マリア。君を迎えに行く。」
だから、会えない。一日でも…一分一秒でも長くそして多く、知識も技術も身につけなければならない。
マリアは頷いてくれた。目に大粒の涙を溜めながら「待ってる」と何度も何度も言ってくれた。
彼女と一時的な別れと約束を交わした私はその日から勉学に没頭した。知識も、格闘術や護身術も座学から埋めていった。
本当は使用人も辞めて勉学に励みたかったが、使用人を辞めては今の部屋の蔵書で学ぶことも、新しい書物を買うこともできない。使用人を続けながら、私は寝る間も惜しんで勉学に打ち込み続けた。
彼女を必ず、幸せにする為に。