乱戦し、
「イカサマ有りだったら配達人のところじゃねぇか?レオン王子もおられるし」
「いや、それを言ったらステイル様には策があるように見られる。そうでなければイカサマなど許されない筈だ」
「ですがアーサーはカードは苦手だと前々から避けてますし、総合で言えばやはりプライド様のチームでは」
アラン、カラム、エリックが傍観位置で眺める中、客間用の広いテーブルは四方が埋め尽くされていた。
従者により手配されたチップをそれぞれ均等に山積みにしたステイルは、ケメトから受け取ったトランプを手に全員へ細工がないことを示すように広げて見せるとそのまま二つに分け、バラララッと交互に重ねるようにして何度も交ぜた。一枚一枚嵩張ることも詰まることもなく交互に混ざっていく様子にプライドは前世の札束を数える機械を思い出す。
「エリック副隊長、宜しければ親役をお願いできませんでしょうか」
公平の為に、と。まるでそれを強調するように口ずさむステイルは、石膏で固めたかのように笑顔を崩さない。了承したエリックがカードを配り終わると、ステイルはすんなりと絶対位置からアーサーの隣へと下がった。
最初に配られたカードを受け取ったのはセフェクとケメト、ティアラ、そしてセドリックだった。手持ちのカードを手の中で広げれば、同チームの面々がそれぞれまじまじと中身を覗き込む。自分達の手札が有利か不利か、降りるか否かと交換が必要か吟味する。
その間ステイルは、自身の笑顔が味方であるアーサーだけでなく、プライドやティアラ、そして勘の良い者にも敢えてのものだとバレているのだろうと思いながらもそれをやめようとは思わない。今は腹の底を探られないことが第一。そしてその為に一番厄介であるアーサーを味方に引き込んだのだから。更には勝利の一手として選んだもう一人こそ
「ではセドリック王子殿下。賭けるのであればチップ二百枚からお願いします」
にひゃく……⁈と、その枚数に最初に声をあげたのはセドリックではなくプライドだった。
ティアラの手札から裏返った声で顔を上げれば彼女だけでなく全員が丸くした視線を彼に注いでいた。逆に逸らしているのは引き攣った顔で今にも逃げたそうにしているアーサーと、そして強張った顔でカードをテーブルに伏したセドリックだけだ。
二百枚、とその枚数に誰もが最初はステイルからの牽制や揺さ振りなどの策かと思ったが、指示を受けたセドリックは無言のまま手持ちのチップから二百枚分をテーブルの中央へと出した。
「す、ステイル⁇百枚って流石に多過ぎじゃ……」
「お気遣いありがとうございます姉君。まぁゲームですし、今回はチップ制限もありませんから」
不安でしたら降りても構いませんとも、と。プライドの制止もやんわり避けるステイルはにっこりとした笑みの後、挑戦的にその隣に佇むジルベールへ目を合わせた。
プレイヤーであるティアラではなく、あくまでその背後にいる宰相へと挑発を放つ。ジルベールもその笑みの意味を正しく受け取ると「おやおや」と少しおかしそうに肩を竦めて返した。どう見てもステイルの笑みは「ゲームだから」ではなく「かかってこい」の意思表示だったのだから。こしょこしょとアーサーが不安げにステイルに耳打ちで「良いのか?本ッ当に良いのか⁇?」と確認をとるように囁いたが、ステイルの意思は固い。
セフェクとケメトもあまりの枚数に目をパチクリさせたが、それからすぐにヴァルとレオンへ振り返った。気持ち的にはせっかくのゲームなのだから降りるよりも勝負してみたい。だが、勝敗が掛かっている以上は負けたくもなかった。二人の視線にヴァルは払うように「勝手にしろ」と面倒そうに手を振り、レオンは首を少し傾げた。
「ステイル王子のあの自信はちょっと警戒したくなるけれど……いっそ踏み込んでみたくもなるね」
最後だけ楽しそうに翡翠色の瞳を妖艶に光らせたレオンをうっかり視界に入れてしまったプライドは肩を小刻みに振るわせた。
気を紛らわせるべく可愛い妹へと視線を戻せば、レオンの妖艶な笑みを思考を打ち消すべく「ティアラはどうする?」と声を掛ける。
「兄様は絶対怪しいですし、でもっ……ここで降りるのも悔しいですっ」
ぷくっ、と兄の悪賢さを知りながらも競いたいと思ってしまう。
何より、ステイルやアーサーが相手ならば負けを認めて降りても良いと思えたが、自分と相対している青年を前に敵前逃亡はもっと悔しかった。それに手持ちのカードとしてもジルベールやプライドが交換不要と思うそれに、ここで勝負しても勝てるのではないかと思ってしまった。
最終的に様子見も含め3チーム全員が同額を乗せたところで、カード交換が始まった。
セフェクとケメトはルールこそジルベールの解説で理解したが、具体的な勝利手や駆け引きまではまだわからない。背後に控えるヴァルとレオンに振り返りながら交換する手札を相談していく。
ティアラもまた、ルールこそ理解しても実際にポーカーをするのが始めてなのはセフェク達やプライドと変わらなかった。交換しなくても良いと判断こそできたが、それでも一応プライドとジルベールの意見を聞くべく振り返った。カードの中身を見せて「このままで良いでしょうか」と目で尋ねるティアラにプライドとジルベールも頷く中、セドリックだけがアーサーやステイルに相談もなく三枚のカード交換をエリックに求めた。続けてセフェクとケメトが二枚、そしてティアラが交換なしを提示したところで
戦争は始まった。
「……フォーカード」
パサリ、と。セドリックが手持ちのカードを出したところで〝また〟勝負は決した。
既に開戦から激動の四回目となる戦いで、セドリックが出した手札に全員が言葉も出なかった。にこやかに黒い笑みを浮かべるステイルと、滝のような汗を流しながら目を泳がせているアーサーに挟まれたセドリックは、既に連戦連勝を重ねていた。
「流石セドリック王子殿下。カードがこんなにお強いとは僕も驚きました」
僕らの出番はないですね、と言いながらステイルは中央に出されたチップを次々と回収していく。
ジャラジャラと積み上げられたチップがセドリックの前に並べられ、置き切れない量になってきた。既に四回、何度も彼らは大量のチップを上乗せしては勝利を勝ち取っている。
「すごいなぁ。セドリック王子にもこんな才能があったなんて」
心から感心するように息を吐くのはレオンだ。
才能、という言葉にセドリックは一瞬だけ肩を上下させたが、敢えて押し黙った。一人勝ちを繰り返しているにも関わらず、彼の顔色もまた悪い。
イカサマだ、と誰もが心の中では思ったが言葉には出さなかった。セドリックの手腕はどう見ても正当なルールでやっているようにしか見えない。自分に配られたカード以外にはセドリックどころかステイルもアーサーも触れず、そして彼は決して全て強カードで勝負したわけではない。今、四回戦目で出したフォーカードもセドリックが今まで出した勝負手の中では強い方だ。それ以下のストレートやフルハウスで勝てたことさえある。ただ、その全てが一歩他の二チームより上手だっただけである。どこからどう見ても幸運が降り注いでいるだけにしか見えない。
幸運の女神に愛されている筈のティアラまでもが負けっ放しに唇を悔しそうに尖らせる中、プライドは一人ヒクついた笑みを抑えるので精一杯だった。
─ ……これ、イカサマって言って良いのかしら……?
同チームであるステイルとアーサー同様に、対戦相手チームのプライドもまた既にセドリックの手の内は読めていた。
が、読めた上でそれを指摘すべきか考えあぐねる。このままでは確実に勝負も駆け引きもへったくれもなく、制限時間までにただセドリックの前にチップを器用に積むだけのゲームになってしまうと危機感はあっても、口からは出せない。隣でジルベールがぼそりと「流石ステイル様」と愉しげに呟いた声にびくっと全身を震わせた。目だけをカチカチと向ければ怪しい笑みを浮かべているジルベールに、彼が怒っているのか楽しんでいるのかもわからなくなる。ただ切れ長な目だけが怪しく光を宿している。彼にもセドリックの手腕はわかっていない。そして実際、セドリックは特にイカサマの心得は持っていない。今まで彼がわざわざポーカーを交わすような相手は清廉潔白の兄達だけだったのだから。
五戦目となり、再びエリックによりカードが配られ手に取りながらセドリックは考える。本当にこのまま自分がカードを取り続けていいのだろうかと。金は賭けていないとはいえ、勝敗の掛かった試合で自分が台頭するのはそれだけで詐欺に等しいと彼自身がよくわかっていた。何せ、よりによって今使われているトランプはケメトが持参した〝使い古した〟カードなのだから。
─ スペードの1、ハートの5、ハートのK……。
ティアラ、そしてセフェクとケメト達のカードの裏面を見ながら考える。
セドリックは裏面を見ただけで彼らの持ち手全てを把握していた。最初にステイルがタネも仕掛けもないという確認の為にバラリと見せた際、ひと目でカードの並び順を絶対的な記憶能力で覚えていたセドリックは、その後にステイルの手で綺麗に〝交互に交ぜられただけの〟カードの位置を全て理解できてしまっていた。一枚目から五十四枚のカードを全てわかっていれば、その後三人分に分けられてもどのカードが誰の元へ行ったかはわかってしまう。しかもそのまま自分に向けて裏面を見せられれば、そのカードの裏面にどのような傷や汚れなどがあるかも使い古された物ならではの癖で見分けられてしまった。最初の一回戦に至っては、山札の中身すらセドリックには順番まで丸裸だったのだから。自分が何枚捨てて何枚取ればどんな手札になるかまでわかってしまったセドリックには、完全に出来試合にも近かった。
二回戦になれば、山札の一枚目以降はセドリックにもわからなくなったが、既に200枚もの賭けの勝ちと更には全員のカードが手に取るようにわかる彼には負けなどあり得なかった。確実に勝てる勝負でセドリックの神子を知ったステイルが、彼にカードを全て支配させる為だけに配る前からお膳立てを済ませてしまっていたのだから。
「なァ、ステイル……ほんっとに良いのかコレ……?」
「問題ない。前回ジルベールやヴァルはもっと卑怯な手を俺達に使っている」
フン、と鼻で息を吐くステイルは小声で尋ねてきたアーサーに憮然とした態度で返した。
以前、アーサーだけでなくジルベールやヴァルにもしてやられたステイルにとって今回はリベンジにも近かった。更には勝者には敗者への命令権。前回に敵わなかったプライドの手料理再びを熱望するステイルにとっては絶対に負けられない戦いだった。だからこそのアーサーとセドリックだ。
セドリックも最初にステイルに提案された時は、大恩あるプライドや恋心を寄せる相手であるティアラ、そして恩義のあるジルベール達にこんな手を使うのはと気が引けたが、惑う彼にステイルが囁いた言葉が完全に彼を味方へと引き込んだ。
『姉君とティアラの料理。もう一度食してみたいとは思いませんか……?』
完全なる悪魔の囁きだった。
当時の自分の愚行を鮮明に思い出せば火が出る想いだったが、同時に今度こそ食したいとも思ってしまう。あの時の味や香りも絶対的な彼の記憶では鮮明に思い出せるが、当時と今とでは心境が全く違う。
プライドと、そして何よりも片思い相手であるティアラの手製料理が食べられるならばと完全にセドリックはステイル側に傾いてしまった。更には公的に「イカサマも有り」と認められてしまったこともセドリックの罪悪感を削るのを手伝った。イカサマが有りということは、自分のこの記憶力での手腕もまたルールの範囲内ということになるのだから。さらにいえば、単なる記憶力である彼の場合は指摘されたとしてもイカサマとするのは難しい。カードを用意したのはケメトとセフェク。そして彼が細工をしたわけではなく、ただ覚えているだけだ。単なる折れ目や切れ目、汚れならばステイルやジルベールにも気が付き覚えることができたが、セドリックが記憶したのはどれも微かな傷汚ればかりだ。普通ならば気にも留めない傷をひと目で全て暗記するなどセドリック以外にはとてもできない芸当だった。
「……お姉様、どうしましょう……」
しゅん、と五戦目は途中で降りてマイナスを阻止できたティアラだが、それでも負けてばかりの状況に眉を垂らして振り返った。
猫だったら確実に耳が萎れていただろう妹の眼差しにプライドも惑う。イカサマは具体的に指摘して種明かしさえできれば止められる。いくら承認とはいえ、それはバレないように細工したイカサマに関してだけなのだから。しかしここでセドリックの記憶能力を指摘してしまっていいのか、そして指摘したとしてそれをイカサマといえるのか。だが、ポーカーでの最強カードとも言えるセドリックを手に入れ、お膳立てまでをも済ませたステイルへの対抗策はそれしかない。ここで止めないとただの負けゲームになってしまうとも思う。しかも幸運の女神であるティアラすら正攻法で敵わない。つまりはそれだけセドリック自身も彼女に拮抗するほど引きが強い証拠でもあった。
そ、そうね……と、それ以上の対策が思いつかないプライドが言葉を繋いだ、その時。
「ああもう!ヴァル‼︎あとやって‼︎‼︎代わりに勝って‼︎」
「ヴァル!お願いします!交代して下さい!」
アァ?と、二人の叫びが放たれた直後にヴァルの短い唸りが返された。
その声にプライド達も顔を向ければ、五回連続で負けぱなしにされたセフェクとケメトがとうとう最終手段の裾や腕を掴んでいるところだった。一回も一矢報いないままに自分で最悪の負け試合だけを擦りつけてくる二人にヴァルは不快を露わにするが、最終的には二人に無理やりプレイヤーの席に座らされた。
ドッカリと音を立てて座りながら「もうテメェらの順は来ねぇんだぞ」と確認を取った。一度プレイヤーを降りたら、もう一度はできない。が、二人ともそんなことよりも今は打倒セドリックに燃えていた。反対隣からはレオンも「君がカードするのを見るのも初めてだな」と楽しそうに笑いかけてくる為、更に顔を歪ませながらヴァルは仕方なく配られたカードを手に取った。
ステイルもこれには警戒し、賭けるチップの枚数をセドリックに押さえさせた。イカサマを許可した以上、ヴァルがどんな手でくるかわからない。もし妙な動きや自分の手札以外触れられない状況にも関わらず、前回のように他チームや山札のトランプに必要以上触れたらその場で指摘して止めてやると目を光らせた。が、
「ロイヤルストレートフラッシュ」
パサッ、と。
その監視の目も嘲るように、勝負の場になった途端そこで出されたのはセドリックすら出すのが難しかった最強のカードだった。
なっ……‼︎と、ステイルも予想はできていたが言葉を詰まらせる。カードには触れていない、カード交換の時すら隙を許さなかった。にも関わらずどうやってと、そうは思うが全く読めない。アーサーも始終ニヤニヤとカードを手にした途端に余裕の笑みで笑ってきたヴァルに、偽りは感じとれなかった。本当にヴァルは勝ちを確信してカードを取り、そして最強手を弾き出したとしか考えられない。
「どうしたぁ?別におかしかねぇだろ。五回も大勝ちしてる王子サマと比べりゃあなぁ?」
ケラケラと嘲笑いながら、ヴァルはテーブルに足を乗せた。セフェクとケメトが大喜びでチップを自分達のところへ回収する中、ざまあみろを全面に出した彼は捨てるようにカードを見せつけた。元々二人が大負けをして所持チップが少なかった彼らだが、それでも上乗せした結果は上々の見返りを手に入れた。
どういう手かはわからないが、確実にセドリック達がなんらかの必勝法を使っていることはヴァルも含めて周知の事実だ。テメェらが売った喧嘩だと言わんばかりに不快に見える笑みを浮かべた彼はさっさと次だと七戦目へと促した。
再びカードを交ぜ、配る。再びチップが置かれ、上乗せされていく中でティアラが降りる。確実にイカサマを使っているヴァルにそれこそ正攻法で勝てるわけがない為、今は身を潜めているというのがプライドとジルベールの総意だった。勝負に出る前に降りさえすれば、出費は最小限で抑えられる。が、しかし。
「まさかここまで来て降りるとはいわねぇよなあ?さっきまで王女サマとガキ共相手にお山の大将気取ってた王族サマが主が見ている前で尻尾巻いて逃げ出すかあ??」
明らかに挑発を投げてくるヴァルに、ステイルから黒い覇気が静かに放たれる。
挑発とわかっている。ここで乗れば負ける可能性の方が高い。既にセドリックの目でも読めなかった彼の手札がどうなるかは未知数なのだから。
そう。セドリックにも〝読めない〟カードは。
「……そ、そうですよねっ。ここで勝負しないのはイカサマよりずるいと思います!ねっ、お姉様!」
そうしている間にも降りたばかりのティアラが応援を放つ。
ティアラ!とステイルもまさかの奇襲に今度こそ声が出たが、既に何度も兄のチームに打ちのめされているティアラは彼の味方ではない。伝家の宝刀であるプライドに投げかけ、同意を求めればすぐに意図を理解したジルベールまでプライドの返事より先にそれに続いた。えっ、いえ、それは、まぁと実は最初の方からセドリックのトリックを知っていた上で黙認していた自分にここで彼らの逃げ場所を奪う権利はないとプライドは思う。しかし、ジルベールの悪戯な声色がそれをも打ち消した。
「一理ありますねぇ。まぁ確かにイカサマは有りと決まっておりますが。そこで同じ域に来られた途端相手に背中を見せるなど。あくまでこれは〝ゲーム〟なのですから、ここは大口で乗る方が興も乗るでしょう」
最初にステイルが行った〝ゲーム〟という言葉を出して逃げ場を塞ぐ。
暗にここでヴァル達に乗って上乗せしろと掲示してくるジルベールにステイルの覇気が増した。まさかコイツまでヴァルの味方をするとは、と奥歯を噛む。ここまで言われて降りるわけにはいかない。
ステイル達が勝つ条件はただ一つ、自力でヴァルより強い手を引くか、もしくは彼のイカサマを暴くかのどちらかだった。更にはプレイヤー席に座っているセドリックにとっても、ここでティアラに〝ずるい〟と言われるのは内臓に響くほどにショックが大きかった。自分でも狡いのではと何度も思っていた分、彼女からの言葉は殺傷力が跳ね上がっていた。そして最後の止めはプライドだ。
「ええと……、そうね。もともとセフェクとケメトの為のゲームだし……乗ってくれると嬉しいわ……」
お願い、と重ねた両手を合わせながら申し訳なさそうに言うプライドにとうとうアーサーもセドリックも、そしてステイルさえ何も言えなくなった。
仕方ありませんね……、と渋々ヴァルのふっかけたチップ量に乗ることを了承し、結果的にはそのまま恙なくゲームを進行することになった。が、しかし。
「ロイヤルストレートフラッシュ」
「ロイヤルストレートフラッシュ」
「ロイヤルストレートフラッシュ」
「ロイヤルストレートフラッシュ」
「ロイヤルストレートフラッシュ」
「〜〜〜〜ッあからさま過ぎるだろう‼︎⁈」
一度や二度で報復を止めるヴァルでもなかった。
あまりのイカサマ丸出しの必殺技にステイルが溜まらず声を荒げる。何度やっても何度カードを交ぜても切り分けてもカード交換をしなくても、開けられたカードは必ず最強の布陣になってヴァルの手から姿を現していた。
すごい!すごいです!と一気に形勢が逆転してチップが増していくテーブルに大喜びするセフェクとケメトに、レオンもいっそ関心したように彼らを眺めていた。背後からヴァルのトリックを目にしている彼は、当然彼のイカサマも黙認している。
「どうやら今日はとことん俺様がツイてる日みてぇだなぁ?」
「明らかにイカサマだろう‼︎一体何度やれば気が済むんだ‼︎‼︎」
「そこのバカ王子が席から降りりゃあなあ⁈」
ヒャッハハハハハハハハハハハハハッ‼︎‼︎と、怒り狂うステイルにヴァルは指を指して高笑う。
折角稼いでいたチップが半分近くヴァルのチームに吸い取られていくことにステイルも髪を乱せざるをえない。本当なら途中で上乗せ自体を降りたかったが、一度黙認した以上勝負に出るしかない。更にはプライドに鶴の一声を貰えばここで前言撤回するわけにもいかなかった。
トリックを暴こうと何度も目を凝らしたステイル達だったが、結局何度やってもヴァルの技を見抜くことができなかった。流石前科者だなと嫌味を言ってやる余裕もないほどに、何度見てもステイルですら暴けない。一体どうやってヴァルが
カードをすり替えたのか。
既にセドリックの絶対的な記憶力では、出された時からヴァルがすり替えたことはわかっていた。
他の記憶したカードと違い、ヴァルが出すカードだけは全て傷もない〝見覚えのない〟裏面だったのだから。傷もないそれが新しいカードだとわかったが、だからこそセドリックには判別できない。裏面に使い古しのサインがない限り表にされるまでヴァルのカードの中身を知ることは〝神子〟である彼にも不可能だった。しかも、再び彼が山に戻した後にエリックが枚数を確認してもカードの枚数も種類も変わっていない。つまりは見せるときだけ用意したカードを見せ、そして山札に戻すときにはすり替える前のカードを戻しているということになる。しかも誰にも気づかれないままに。
何度ステイルがタイミングを区切ってカードを見せろ、裏返してみろと証拠を取ろうとしたが全く彼は尻尾を出さなかった。本来ならば、ヴァルが出したカードが全てすり替えたものだと言いたかったステイルだが、それを言えばセドリックが裏面で見分けていたことも認めなければならなくなる。結果、証拠を取らない限りは承認したイカサマに彼らも手を持て余すしかなかった。
「ヒャハハハッ……こりゃあ良い。王族をカモにできるなんざまたとねぇ機会だぜ」
ケラケラとせせら笑いながら、またヴァルは息をするように配られた手札から最強手になるカードへとすり替えた。
城に訪れる前、ケメトとセフェクがプライド達とポーカーをやりたいと話していた時から、既にヴァルは遠からずこの勝負が行われることは目に見えていた。その為、念には念をいれてケメトと同じトランプを王都で買い、イカサマの仕込みをしていた彼の勝利だった。まさかイカサマ自体が承認されるのは予想外だったが、そうでなくてもポーカーに使えるカードを隠し持っていればまたセフェクとケメトを勝たせるのには役立つ。彼らもヴァルほどではなくてもイカサマ手を彼から伝授されているのだから。
しかしやってみれば、まさかの全てが自分の都合の良いように回り結果としてイカサマでステイル達からチップを巻き上げられている。念には念をいれておくものだなと頭の隅で思うヴァルは上機嫌だった。
「どうする王子サマ。これ以上バカ王子を立てんなら形勢逆転しちまうぜぇ?」
ヒャッハッハッハ!と高らかに嗤う彼は顎でチップの山を指した。
既にヴァルのイカサマにより半数近くを削り取られているセドリック達は、あと一度上乗せをされれば首位も掠め取られてしまう。このッ!と忌々しく睨みつけながらステイルはとうとうセドリックとの交代を決めた。
やっと矢面から逃げられると胸の内を撫で下ろすセドリックは、ステイルに謝罪をすると席を明け渡した。自分の力不足で形勢逆転されたことを謝罪するセドリックにステイルは一言返すと入れ替わるように席へ腰掛ける。
いつもの彼にしては珍しく音を立てて椅子に座れば、やっと主犯を引きずり下ろせたことにヴァルも愉快そうに笑みを裂いて立ち上がった。自分を睨むステイルが口を動かさずとも「さっさとお前も交代しろ」と命じているのが手に取るようにわかった。最後の一人であるレオンに席を空けた彼は、最後に嘲笑うかのように手の中から十数枚近い手札を宙に投げた。先ほどまで空だった筈の手からカードが吹き出してくる光景にセフェクとケメトの目が輝く。その殆どが彼が先ほどまで放っていた最強手のカードであることは舞うトランプの柄を確かめる前に誰もがわかった。
私にも教えて、凄く格好良かったです!と二人が壁際に移動するヴァルに駆け寄る中、レオンは優雅な動作でプレイヤーの椅子に腰掛けた。
すると今度はずっと椅子に掛けていたティアラの方が立ち上がる。
「お姉様も交代しましょう!私ばかりやらせて頂きましたからっ」