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フリージア王国備忘録<第一部>  作者: 天壱
冷酷王女とヤメルヒト
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幕間 患う人は夢を見る。


「……ア……マリ…‼︎私だ、ジ……ールだ、息を、………で………か…⁉︎」


だれ…?


視界がぼやけて、よくわからない。


息が、苦しい。

身体が凍えるように…寒い。


いくら吸おうとしても、体の芯まで届かない。

苦しくて、踠きたくても手足に力が入らない。


誰か、助けて。


あんなに、覚悟していた筈なのに。

なのに、こんなに怖い。

死ぬことが…怖い。


あの人を、置いていくのが…怖い。


ぼやけた視界に、うっすらと薄水色が見えてやっと目の前にいるのが彼なのだとわかる。

お陰で苦しい筈なのに笑みが零れる。


嗚呼…最期に会えて良かった。


私の愛しい、愛しい人。


きっとまた、泣いている。

あんなに優しい人を、何度も私のせいで泣かせてしまった。


…生きて、あげられなくてごめんなさい。


もっと、貴方と生きたかった。

愛していると、もっとたくさん伝えたかった。


どれ程、貴方に救われてきただろう。

何も持たず、ただ生きることしか意味を成さなかった人生に、意味を与えてくれた。

貴方が救ってくれた。

幸福を、貴方がくれた。

生きていて良かったと、そう思えた。


どうか、お願い。

私の分、生きて。

今まで何年もの間、私の為だけに生きてくれた貴方だから。

どうか、私の分も…幸せであれますように。


誰か、お願い。

彼の傍にいてあげて。

友達でも良い、恋でも良い。…私より愛されてくれても構わない。

とても不器用で、純粋過ぎる人だから。

一度決めたら例え先が暗くても、そこへ真っ直ぐいつまでも走り続けてしまうような人だから。

私ひとりの為に、何年も何年も途方も無い時間を犠牲にしてくれた人だから。

ずっとずっと、一人で耐え続けてくれた人だから。

だから、どうか。

純粋過ぎて、自分を削ることしか知らないこの人を。


伝えたかった、あの言葉を。

声が出なくなる、その前に。

沢山愛してくれて…愛させてくれてありがとうと。

人間らしい幸福と生き方をありがとうと。


その、全てを込めたあの言葉を。


もし、神様がいるなら私の代わりに伝えて欲しい。

私が心の底から彼に伝えたかったこの言葉を。


伝われば、きっと彼は私に囚われずに生きていけるから。


彼が、私無しでも幸福に生きていけますように。

自分を、大事にしてくれますように。


どう…か…


視界が暗がる。

あれほど目から離れなくなった薄水色すら見えなくなる。




嗚呼…



最期に…伝えたかった…




……




「マ…、…ア‼︎…だ、ジ…ベー…だ、…を、息っ…で…ないのか…⁉︎」


気がつくとベッドの上にいた。

息苦しさと寒さを感じ、現実だと思い知らされる。


………何の夢を見ていたのだろう。

思い出せない。ただ、胸が締め付けられるような痛みだけは今も残っている。


後悔ばかりで満たされた、夢の中の痛みを。


息が苦しくて、考えることができなくなる。

視界がぼやけて、目の前に居るのが何かもわからない。


嗚呼…きっと今度が最期なのだと。

それだけを理解する。


音も、視界もぼやけていて。

再び薄れゆく意識の中、うっすらと薄水色が見えて…彼なのだとわかり、苦しい筈なのに笑みが零れる。


なんだろう…何処かで覚えのある、この感覚は。


でも…最期に会えて良かった。






「マリアッ…‼︎」






私の愛しい、愛しい人。


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