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フリージア王国備忘録<第一部>  作者: 天壱
傲慢王女と元凶

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490.義弟は守りたい。


「帰還……と……?」


緊急会議を行った翌日。

セドリックはステイルからの言葉を思わず聞き返した。

滞在延期を望んでから来客用の宮殿に宿泊を許されていた彼だったが、四日前から〝諸事情〟によりステイルやティアラが住む宮殿の客室へ移されていた。既に容疑が晴れている上、ラジヤへの容疑が高まっている今、彼をアダムと同じ宮殿に宿泊させる訳にはいかなかった。そしてラジヤ帝国の危険性が判明した今、仮にもハナズオ連合王国の王弟である彼をこのまま巻き込むわけにもいかない。


「申し訳ありません、セドリック王子殿下。色々と事情が変わり、これ以上の滞在は難しくなってしまいました。」

この通りです、と深々頭を下げるステイルに一瞬何かを問おうとしたセドリックだったが、喉を震わす前に諦めた。

「わかりました」と一言返し、重々しく息を吐く。

もともと、容疑が晴れた後もできる限り滞在したいと我儘を望んだのは自分。更に、言われたらすぐに退去するとも言ったことも覚えている。それに何よりも


「……結局、私は何一つお役に立つことはできませんでしたから。」

滞在を伸ばしても、自分ができたことは微々たるものばかりだと、セドリックは肩を落とした。

この一ヶ月近く、部屋での外出禁止を伝えられるまではひたすらフリージア王国の書籍から知識を吸収するだけだった。プライドを取り戻せないと理解してからは余計に本にのめり込み続けた。

彼にとって、この一ヶ月の滞在で自分ができたことなど本当に微々たるものだ。ステイルによるアーサーへの伝言とその返事。そしてティアラに望まれた署名の記載。そして


「!とんでもありません。……貴方が、例の証言をして下さったお陰で本当に助けられました。この御礼は、全てが終息した暁には必ず僕からお返しします。」

ありがたい励ましだと、ステイルの言葉に力なく笑みで返しながらセドリックは頭を下げた。

ラジヤ帝国が拘束されたことも現状を何も知らない彼にとっては、ステイルの気遣いだけが身に沁みた。以前会った時よりも遥かに顔色も優れ、表情も柔らかく見えるステイルの姿には安堵する。「すぐに帰還の準備を」と侍女達に荷造りを頼もうと立ち上がるセドリックを、ステイルは言葉で止めた。


「それに。……セドリック王子殿下、実は一つ重大なお願いがあるのですが。……これは、本当に、貴方にしか望めません。」

声を静め、一言ひとこと切るように真剣な面持ちで語るステイルにセドリックは一瞬だけ動きを止めた。

次の瞬間には再びソファーに座り直し、テーブルを超えるほど前のめりになって「何なりと」と続きを促した。


「先ず、この書状を預かって頂きたいのです。母上からランス国王への手紙です。」

再び伝言役を?と手紙を受け取るセドリックの肩透かしのような表情にステイルは苦笑する。

「王弟殿下にこのようなこと申し訳ありません」と言ってみればすぐにセドリックは首を横に振った。それでも、お役に立てるならばと続けるセドリックに、ステイルは今度こそ本題を切り出す。


「そして、こちらが本題です。ハナズオ連合王国の王弟殿下で在らせられる、貴方に。……少々、立場を悪くさせるかもしれませんが。」

最後は少し眉間に皺を寄せて苦そうな表情を見せるステイルだったが、やはりセドリックは一言で承知した。どうぞ用件をと望むセドリックに、ステイルはとうとう本題を語り出す。

その依頼に、セドリックは大きく目を見開き、一度絶句した。「何故っ……⁈」と言葉を零し、その後のステイルの話しに首筋が湿り気を帯び、思わず肩を強張らす。ならば私もと再び立ち上がりかけたがステイルに首を横に振られ、またソファーに腰を落とした。

これ以上の介入は受け入れられないと言わんばかりに言葉を示すステイルに、胃が絞られながらもセドリックは暗く頷いた。すると、気落ちするセドリックを宥めるようにステイルは自ら強く身を乗り出し彼の手を両手で掴み、握った。


「どうか、お願い致しますセドリック王子殿下。今は貴方だけが頼りなのです。我が国の事情を理解して下さる、貴方にしか。」

ステイルにここまで強く願われることも、自ら手を取られたことも初めてのセドリックは瞬きも忘れた。

真摯に自分へ訴えかけてくれるその姿に、例え相手が大恩あるフリージア王国の第一王子でなくても頷いてしまうほどに心を揺り動かされる。「……わかりました」と茫然としたまま口を動かせば、ステイルが信じられないほど深々と自分に「ありがとうございます」と頭を下げてきた。では、今すぐに準備を。謁見の間で母上とお待ちしております。と立ち上がるステイルに、今度はセドリックから「ひとつ、だけ……宜しいでしょうか……⁈」と干上がりかけた喉で問い掛けた。どうぞ、と立ち上がったまま見返すステイルにセドリックは依頼されてからずっと気に掛かっていたことを問い掛けた。その問いにステイルは



「………………勿論です。」



少しの間を置いて、笑んでみせた。

その返事に、ほっと息を吐くセドリックにステイルは今度こそ挨拶をして扉まで歩を進める。扉を開け、部屋の外で待っていた侍女にセドリックの荷造りを進めるように言葉を掛けた。そして扉を閉める間際「セドリック王子殿下」と投げ掛け、またにっこりと笑顔を見せた。


「信じています。貴方はきっと約束を果たして下さる御方だと。」


……どこか意味深にも聞こえるステイルの言葉に小さく首を傾けながら「勿論です」とセドリックは答えた。

では、後ほど。と言葉を切り、ステイルが扉を閉めさせてからも、セドリックにはその真意まで辿り着きはしなかった。


今は、まだ。




……




「…………よし。」


セドリック王子の扉を閉めた後。

護衛と共に廊下を歩きながら俺は一人息を吐く。次にすべきことも頭に入っている、手の不自然な震えもない。あと少し、あと少しだと心臓が内側から俺を叩いて前に前にと突き出した。


……セドリック王子には、悪いことをしてしまったが。


最後のセドリック王子からの問いを思い出し、少し気が咎めた。だが、今は迷っている暇などない。アーサーが全てを捨てる覚悟で身を張ってくれているのに、俺だけが楽をしていられるものか。

セドリック王子にはプライドのことがあってから、……正直、良いように協力して貰ってしかいない。平静を取り戻した頭で考えると最後の最後まで申し訳ないことをしたと今から先に反省してしまう。それでも、彼が以前プライドに犯した不敬を考えればお互い様だと思えなくもないが、やはり全てが終わった時にはちゃんと俺からも何か詫びを考えておこう。セドリック王子には悪いが、お互い様にして当時の不敬を許したくもない。


「予定通り、専属侍女達を呼んで下さい。僕から話します。」

自分の部屋へと戻りながら、背後にいる彼らに声を掛ければすぐに返事が返ってきた。

階段を降りる前に一度足を止めて窓を見る。ちょうどここからだと、少しだけだがラジヤが居る宮殿の端が見えた。恐らく、……そろそろ奴らにも迎えの馬車が向かっている頃だろう。ラジヤ帝国の者達を宮殿から牢獄へ連れる為に。

昨日のラジヤ帝国の会話。あれを宣ったのはたしか将軍職の男だったか。


『フリージア王国如きの生温い拷問で吐くことなどあり得ません……‼︎』


「……俺ならば生温いとは言わせない。」

フン、と鼻で笑いながら奴らへの殺意が口から漏れる。

「ステイル様?」と衛兵に声を掛けられ、笑顔でそれに返す。何を言ったかまでは聞こえなかったらしく、彼らも一言返せばすぐに頷いてくれた。再び早足で階段を降りながら、再び奴らのことを考える。もはや〝そういうこと〟は旧時代の遺物として強情な相手か急を要する相手にしか使われない。

更に言えばここ数十年、本格的なものは母上の代からその為の塔も封鎖され殆ど無くなったとヴェスト叔父様から聞いた。我が国には契約による尋問もある上、罪人への尋問等は騎士団に委託している。罪人を捕らえるのは衛兵か騎士団。彼らの手を持ってしても、口を割らなかった者はいない。特にここ十数年は一人も。あの性格も口も悪いヴァルでさえ、当時一日で口を割ったのだから。……いや、奴はもともと自分の為ならば秘密などいくらでも吐く男だ。

そこまで考えて、ふとアネモネ王国にいる彼らの事が気になった。あの時は俺も大分目の前しか見えていなかったが、大丈夫だろうか。

彼ら自体はレオン王子に任せておけば大丈夫だろうが。…………レオン王子は。

当時、眠るプライドに最後に会わせた時のレオン王子の背中を思い出す。酷く肩を、身体を震わせ泣いていたレオン王子の姿は、今思い出しても胸が痛む。小さく何度も囁くようにプライドへ語っていた言葉は少し離れた俺の耳にも聞き取れないほどに微かだった。

彼がプライドのことで心を痛ませてくれたことは明らかだ。……とても心優しい、本当に俺とは違って身も心も清らかな王子だと思う。そして、彼らの為にも我が国はこれ以上ラジヤ帝国の好きにさせるわけにはいかない。万が一にもフリージア王国がラジヤ帝国に飲まれでもすればそれは



我が国と逃げ場のない海に挟まれたアネモネ王国も、ラジヤの毒牙にかかることになるのだから。



『……仰る通りです、ステイル王子。ですが、同時に僕はー……』

……一年前、防衛戦前にレオン王子が武器提供で俺に言ってくれた言葉を思い出す。

あの言葉があったからこそ、俺はプライドにも内緒でレオン王子からハナズオへの出国前に武器補給の申し出に応じたのだから。

こうして我が国が窮地に立たされていると思うと再び彼にまた援助を望みたくなる気持ちと、……これ以上巻き込みたくないとも思ってしまう。既に極秘でヴァル達の保護を任せてしまっているから、余計に。

自室の扉を開けさせ、自室に入る。一度窓辺に立って彼女らを待つ。窓の外を眺めれば、本当に小さく、うっすらとだけ離れの塔が見えた。


「……プライド。」


窓越しに親指一本分もないその塔に手を重ねる。

瞬間移動でいつでも傍にいけると思ったあの時と比べ、酷く遠い。だが今は、…アーサーが彼処にいると思えば以前ほどは胸も痛まない。


「俺も、アーサーに負けてはいられませんから。」


守ってみせる、過去のあの人がずっと愛してくれた者達を。

ラジヤ帝国から、そして



『大体さぁ、どうなってんだよ⁈まだ来ねぇじゃんか!本当ならそろそろ来ても良い頃だろ⁇』



……プライド、から。


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