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フリージア王国備忘録<第一部>  作者: 天壱
傲慢王女と元凶

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488.女王は判断する。


「残す問題は……ティアラとプライド、ですね……。」


玉座の間。

特別会議室から戻った女王ローザは、少し力が抜けたかのように小さく息を吐いた。

緊急会議が終わり、集めた上層部との決議も終わった彼女は再び自分の公務の場の一つでもある玉座の間へと戻ってきていた。王配のアルバートとステイルとの相談も終え、摂政のヴェスト、そしてジルベールと共に先程決まった内容を確認し終えた。

そして残す問題は……二つ。


『じゃあ命じてやるからプライドの王位継承に邪魔な第二王女殺してこい!』


ティアラの命を狙うアダムの言葉。

プライドに妙な執着を持っているアダムでは単なる悪態にも思える。だが今この状況では危惧せずにはいられない。城内にはアダムの協力者、もしくは姿を眩ませた同行者が潜んでいる可能性があるのだから。


『大体さぁ、どうなってんだよ⁈まだ来ねぇじゃんか!本当ならそろそろ来ても良い頃だろ⁇なぁ、なあ⁈まさかアイツが裏切っ……、……なわけねぇか。』


〝来ない〟〝来ても良い頃〟〝アイツ〟……そのどれが誰なのか。または全員が同一人物なのか。その後のアダムの言葉を聞いても確信には至らなかった。しかし、確実に一人は居る。フリージア王国の誰にも見張られず、水面下で動ける人物が。

それが姿を眩ませた同行者なのか、その同行者を連れ出した別者なのか、また他の第三者なのかはわからない。

一瞬、その誰でもない一人の人物がローザ達の頭には浮かんだが、今この場では誰もそれは言わなかった。……言わずとも、全員が思っていることだ。何よりそれは〝あり得ない〟筈なのだから。

どちらにせよ、それらの可能性が僅かでもある限り楽観視はできない。既に先程の会議でも城門と王居の警備を強化するようにすることは決まったが、……その場では語れない未定の部分も多かった。


「……どう致しますか、陛下。警備や護衛ならば騎士団の領分ですが。」

アルバートの言葉にローザもすぐには答えられなかった。

警備の強化。通常ならば、それは騎士団に依頼するものだ。彼らほど絶対的な守りに適した者はいないのだから。元はと言えば、アダムを捕らえた時から騎士団を派遣してもおかしくない状況だった。ただ、それを今までせず衛兵のみに任せていたのは、騎士団にプライドのことを秘匿する為だ。近衛騎士以外、誰もプライドの異変については知らされていないのだから。

先程ステイルの提案で近衛騎士にも再び一部の許可をアルバートが与えることにはしたが、騎士団全体にはまた別だ。

プライドはアーサーが離れの塔から引き止め続けているが、万が一にでもその協力者や同行者が騎士団の手により捕らえられれば秘匿は難しくなる。だが、全てを隠す為に王族の身の安全を確保できないのもと、ローザが考えあぐねた時だった。


「それならば私に御提案が。」

「それでしたら僕に提案が。」


殆ど同時にジルベールとステイルが声を合わせた。……というよりも同時に言葉が被った。

あまりにもぴったりなタイミングにジルベールは少し目を丸くし、ステイルは若干むっと眉の間を近づけて互いに見合わせた。

ローザが少しぽかんとして二人を見比べると、彼女が指定するよりも先にジルベールがステイルに恭しく譲った。昨日と打って変わってかなり本来の調子が戻っているように見えるステイルに、顔の綻びが隠しきれないままに。

ローザに発言を許されたステイルは少しだけジルベールを横目で睨んだ後、改めてローザへ向き直った。


「…母上、姉君のことはアーサー元隊長がもう離れの塔付近からは逃亡を許さないと思います。なので騎士団に離れの塔からかなり離れた場所である地帯であれば、城門と王居に関しても問題はないと。」

ジルベールもその言葉に無言で頷いた。彼の案でも、そこに関しては伝えようと思っていた。

既にアーサーが守ってから今の今まで一度もプライドは離れの塔からそれ以上の逃走を遂げてはいなかった。


「あと、ティアラのことですがー……。」

ステイルは一つひとつ言葉を順立てながら話し出す。

既にアダムの企みを明らかにする策を提案しただけでなく、この後の確認にも大きく貢献したステイルの発言は大きい。彼の提案に、今回も最初は誰もが躊躇いの意思を抱いたが、しかしそれ以上に利点は大きかった。プライドはアーサーと衛兵が離れの塔で本人の脱出防止と同時に護衛も担っている。アダムの目的がプライドとティアラの命であれば、むしろ身の危険が大きいのはティアラの方だ。彼女の安全が保証されれば、それだけ騎士団や自分達も動きやすくなる。それに、ティアラの身を狙っているのはラジヤ帝国だけではない。


『今度は、母上の本当に愛しいティアラに刃が向いちゃうかもしれないから』


自身の王位継承権を奪えば、ティアラを殺すと。プライドのその発言をローザ達は嫌でも忘れてはいなかった。

もし今後ラジヤ帝国の企みが判明したとして、プライドが元に戻る保証はどこにもない。

どこまでが関係しているのか、最初のアダムの言葉通りに治療方法があるのか、それは全くの未知だ。更にローザ達上層部は、プライドの豹変は十年間の奇跡だと飲み込んでしまっている部分も大きい。

ステイルの提案に「考えましょう」と一言答えたローザに、ステイルも「是非」と大きく頷いた。それから一歩引いたステイルからジルベールに発言権が移る。「ステイル様ほど革新的な策ではありませんが」と苦笑しながら、ジルベールはローザへ一歩前に出た。


「騎士団の派遣は、私もステイル様同様に問題がないと考えます。それに、御許しさえ頂ければ私から騎士団長に〝ラジヤ帝国のことのみ上手く〟説明して置きましょう。……プライド様のことのみ覆い隠す程度、難しくはありませんから。」

にっこり、と敢えての優雅なジルベールの笑みにアルバートは気付かれないように息を吐いた。

彼が含んでいる言葉の意味を理解し、かなり信頼できる方法であるとは考える。ステイルも「なるほど」と軽く口にして見せながら薄く笑んだ。ジルベールが〝情報操作〟に関して誰よりも精通していることは、嫌というほど彼も理解している。

ローザはヴェストとアルバートに軽く目線だけで確認した後、その場で今度は了承した。「ならば、騎士団への依頼は貴方に任せましょう」とローザに許され、ジルベールは手を胸に当てて深々と礼をした。

「では、残すところは今、拘留しているラジヤ帝国への対処ですが」



「ええ、彼らにはもう客室など不要でしょう。」



独房へ、と。

低められた女性の声でローザはヴェストの言葉を切り、告げた。

もはや、ラジヤ帝国に対して隠蔽も配慮の必要すらない。

彼らがフリージア王国を狙い、プライドを狙い、ティアラの命を狙い、まだ何かを隠しているという確証を得てしまった今は。

刃物のようなローザの言葉にヴェストは深々と礼をした。「仰せのままに」と、これから戦になりかねないラジヤへの投獄にもただただ同意した。ヴェストの言葉を切ると同時に、とうとう女王である彼女からも凄まじい怒りに満ちた覇気が滲み出た。母親として、娘達に危害を加える存在を許せるわけがない。そして何より



〝フリージア王国の敵〟に、容赦はない。



……



ガン、ガン、ガンガンガンガンガンガン!


「………。」

騎士団演習場の騎士館。

アランは、目の前の光景に苦笑いのまま固まってしまっていた。

彼の背後には、自分と同じく演習を終えたカラムとエリックが立っていたが、二人もまた同じような表情だった。

どうすべきか、いっそ背中を向けてしまいたい気持ちに駆られていると、諦めろと言わんばかりにカラムがアランの肩を叩いた。エリックからも「お願いします」と頭を下げられ、いつも陽気なアランにしては珍しく大きな溜息を吐いてから言葉を放つ。


「……あー……、……何か用か?ハリソン。」


ギロリ、と。鋭い眼差しでアランの言葉にハリソンは振り向くと、無言で扉を叩く手を止めた。「そこにいたのか」と一言告げるハリソンは、問いには答えず扉から一歩引くとアランへさっさと扉を開けろと言わんばかりに彼を睨んだ。


「ハリソン、目立つ行動はやめろ。お前もカードを受け取ったのだな。」

声を潜めたカラムの叱咤に、ハリソンは黙って指先に挟んだカードを軽く掲げた。やはり彼もステイルに呼び出されたのかと思いながら「周りの部屋にいる騎士に気付かれたらどうする?」とカラムがもう一度窘める。するとハリソンは目を合わせないままに口を開いた。


「問題ない。全てもう叩き終えた。」

は……⁈と思わずカラムが周りを見回すと、確かにあんなにハリソンが扉をガンガンと叩いたにも関わらず、誰も部屋から出てこない。普通ならば何人か様子を見に顔を出していて当然だ。

つまりは既にこの周囲の扉を全て叩いた後、ということになる。


「まさかハリソン副隊長、……アラン隊長の部屋がわからなかったのでは……?」

「……。」

エリックの恐る恐るの問い掛けにハリソンは答えなかった。

だが、扉を開けて彼らを先に部屋へ通すアランも、眉間を指で押さえたカラムも「絶対そうだ」とエリックの言葉に心の中で唸り、頷いた。今まで殆ど他の騎士との交流のなかったハリソンが、アランの部屋を知っているわけもなかった。演習後、アランの部屋があるであろう棟を訪れ、既に端から端まで扉を叩いて誰の部屋かを確認した後だった。

演習後に疲れて休んでいるところを叩き起こされ、扉を開けてみればよりによって騎士団でも恐れられているハリソンが佇み、「違った」の一言で去っていかれた彼らが不憫だとアラン達は心から思う。

最後にエリックが扉を閉め、久々となるアランの部屋を見回した。そのまままた大分酒瓶が散らかったアランの部屋を、無言で片付け始める。「アラン、酒をもう少し控えろ。または飲んだ後に片付けろ」とアランを叱りながらカラムもそれを手伝った。第一王子であるステイルが来る前にこの部屋は流石に見せられない。「わりぃわりぃ」と苦笑いしながらアランも手を動かした。


カードに指定された時間よりまだ大分時間のある彼らは、アランの部屋を片付けながらその時を待った。

……一人部屋の隅に佇んだまま動こうとしたないハリソンを置いて。


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