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フリージア王国備忘録<第一部>  作者: 天壱
傲慢王女と元凶

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469.王弟は頷く。


「今日も、馬車を頼む。」


ハナズオ連合王国から離れ、フリージア王国に一人滞在延期を決めてからひと月と二十三日目。

ステイル王子に滞在の可能な限りの延期を望んでから十七日。

……俺は今も、フリージア王国での滞在を許されていた。

プライドに関してはあれからステイル王子からも何も情報もない。アーサー殿から受けた伝言だけは当日の内にステイル王子へ一字一句違わず伝えたが、……彼の答えは「……彼らしい」という一言だけだった。乾いた笑みがあまりにも痛々しく、顔色の悪さからも彼がこのまま尽きてしまうのではないかという不安に襲われた。

伝言の橋渡しに関しては礼を言われたが、……同時にこれからは騎士団演習場への訪問を控えるようにと願われた。なにか知らず内に無礼でも働いたのか聞いてみたが、彼の答えは「アーサー隊長に願われたら、セドリック殿下は断れないと思うので」とのことだった。確かにその通りではあるが、一体何を願われるのかに関しては力無い笑みだけで流されてしまった。そしてその代わりに


王宮と宮殿への訪問も許された。


プライドが離れの塔に移されたことが理由としては大きいが、お陰で俺はそれから一日一度は王居内も巡らせてもらった。併設された図書館の書物を読む為と、……ティアラ。

プライドが豹変してから部屋に篭ってしまったというティアラにまだ一度も会えてはいない。常に「誰ともお会いになりたくないそうです」という侍女や衛兵からの返答だった。…まぁ、気落ちしている時に嫌っている俺になど会いたくもあるまい。

言付け代わりに手紙を預けた。返事は一向にないが、今の俺にできる精一杯はそれぐらいしか思いつかなかった。力になりたい、できることならば何でもする。…あまりにも月並みな言葉しか思いつかなかった。

十七日間は、再び許される限りの文献を読み漁った。医学、薬学、そして特殊能力。五日前からは城内の探索も全て終わり、手紙を預ける以外は一日中王居の図書館にいることも増えた。


『勉強なさい…‼︎』


……失ったと思えば余計に、過去の彼女の啓示が俺を叩いた。

あの時と同じで、己が無力を嘆く暇があるならばと必死で知識を貪り続ける。いつどこでどのように、……彼女や彼女の愛したこの国に還元できるかもわからないのだから。

プライドにどうか結び付くことを、せめて原因やラジヤ帝国の手口だけでもと。失った過去のプライドの仇をと知識をひたすら貪った。だが、一度考えついた推測もジルベール宰相に投げ掛ければあっさりと論破されてしまった。やはり、俺には推理や推測は向いていないらしい。あくまで状況証拠の羅列……アーサー隊長にも結局は逆に確信を与えられただけだった。

知識をこれだけ吸収しても、未だ役立たずである己を自覚すると余計に一年ほど前までことが恥ずかしくなる。知識を得たところで、応用力も身につけなければ意味がない。顔どころか頭まで熱くなり、馬車の中で顔を押さえて俯いていると、馬車がゆっくりと速度を落とした。

到着し、外から扉が開かれる。馬車を降りていつものように宮殿の玄関でティアラの様子を伺ったが答えは同じだった。用意してきた手紙のみを預け、俺はそのまま図書館へと向かった。

医学関連、薬学関連もとうとう読み終えてしまい、今は特殊能力に関しての書ばかりを読み漁っていた。流石に予知能力に関するものは、王族関連の情報と同じく重要機密事項の為、詳細までは及ばなかった。だが、それでも特殊能力についての知識はある程度理解することができた。


数百人に一人の確率で産まれるという特殊能力者。フリージア王国内でしか産まれず、あとは親のどちらかが血を僅かでも引いていれば覚醒する可能性は等しくある。

その能力も多種多様で未だ全てを把握しきれてはいない。炎や水、氷、植物関連など特殊能力としては珍しくないものもある反面、未だ判明していないものも多い。更には同じ特殊能力でもその扱う形は異なる場合も、その効果も人によりそれぞれだという。

同じ通信関係の特殊能力者でも、己の視界の映像を送る者もいれば視点を固定する者、複数の視点を固定できる者など様々。

それに特殊能力は発症する時期も人により異なれば、子どもの内は未熟や安定しない者もおり、成長と共に発達する者もいるという。その成長過程で特殊能力が成長する者は当初の制限がいくらか取り払われる者、応用が効く者など進化に近いほどに可能なことが増えると。更にはその能力や扱う者によって効果だけでも永続的なものから時間の経過と共に途切れるもの、能力者の命や意識、集中力が切れれば解けるもの、能力者の意思で解けるものと解けぬものなどとにかく幅広い。効果が発動された時も無意識にその者の意志が反映されるものもある。水の特殊能力者ならば水を出す量を、植物の成長を促す特殊能力ならば実をつけさせるか、枯らすかを能力者の望みに反映されると。

知れば知るほど、このフリージア王国では〝神子〟と呼ばれた俺も単なる凡人に過ぎないのだと思い知る。……素晴らしい。

希少や優秀な特殊能力者は昔からそれだけで優遇されてきた。今も上層部になるには特殊能力は必要不可欠だという。……つまりジルベール宰相やヴェスト摂政もそうだということか。

ヴェスト摂政は想像もつかないが、ジルベール宰相はあの賢さが特殊能力に起因しているのだろうか。これまで存在を確認されてきた特殊能力の資料を見れば、やはりステイル王子の瞬間移動もかなり希少な特殊能力らしい。……ふと気になり、当時プライドが兄貴の為に連れてきてくれた病を癒す特殊能力者について調べてみれば、伝説どころか完全に空想の領域だった。怪我治療の特殊能力者は稀にいるが、病は全くの別らしい。過去に存在を確認されたことどころか、具体的な情報すら一度も無いと。………………。


『望むならば俺の直属の臣下にしてやる』


ぐぉおおおぉぁあああっ……‼︎と、当時のことを鮮明に思い出してまた顔が熱湯をかけられたかのように熱くなる。

俺はプライドやステイル王子の前で何ということをと頭を両手で抱えて本棚に打ち付ける。……また、不敬を一つ見つけてしまった。

頭が冷えるまで暫く本を閉じ、再び開ける。

そこで改めて頁を見直すと、病を癒す特殊能力者が記載されている頁だけ妙にどの書籍も劣化の色が強い。何度も開かれたのか他の頁よりも日に焼け、皺も少し多かった。俺以外にも病を癒す特殊能力者について調べた者が何人かいたのだろうか。まさか同じ人物が何度も開き調べ直した訳もあるまい。

それほどまでに求められる特殊能力者であることを再確認し、あの時の特殊能力者に関しては本当に情報を墓まで持っていく覚悟でいなければと改めて思う。……だが。


「……それでも、プライドを癒すことは叶わない……。」

何故だ?発狂した兄貴を癒せたあの者に、なぜ類似した症状とも思えるプライドの病は癒せない?ならばやはり毒類……駄目だ、また最初に戻ってしまう。大体、毒物にもそれらしいものは見当たらなかったではないか。

目につく特殊能力関連の本を読み漁り、様々な特殊能力の事例を記憶する。今、俺がいる城はこの特殊能力者達全てから王族を守れるように配備されていると思うと恐ろしい。ジルベール宰相に論破されたのも頷ける。流石フリージア王国ということもあり、特殊能力者の書籍や資料も多い。国内には特殊能力者を研究している者も多いらしい。

日が暮れるまで俺はいつものように書籍に没頭した。そろそろ帰らねばならない時間に近づいていると気づき、やっと本をとじて元の場所へ戻す。

図書館を出てから、俺は馬車に乗る前に一度庭園へと向かった。王居に訪れることを禁じられていた時は来れなかった庭園だが、ステイル王子から許可が降りてからは図書館の後には定期的に足を運んでいた。

ハナズオ連合王国を離れ、既にふた月近い。たかだか二カ月で郷愁に駆られたとは思いたくないが、我が国にも咲いていたあの黄色い花を見ると心が安らぐのは事実だった。何度か城の侍女に通りすがりに見つかり驚かせてしまうこともあったが、他の部屋からは建物の構造上も見えない筈。部屋の窓から俺の姿が見えてティアラの気を煩わせる心配もない。……俺自身は会いたい想いが強いが。

邪念を首を振って払い、俺は足早に庭園のいつもの場所へと向かう。今日はそこまで時間はない。だが、一目だけでもそこに咲き誇る








…………金色の、華……⁈







「⁉︎ティア………ラ……?」

違う、金色の華ではない。

黄色の花々に囲まれるようにして、美しい金色の髪をなびかせるティアラが芝生の上に座っていた。

突然のことに目を疑う俺に反し、ティアラは落ち着いた様子でこちらを見返し、ドレスを軽く払いながら立ち上がった。


「……お久しぶりです、セドリック王子殿下。侍女に、よくこちらに居られると聞いたので。」


待たせて頂きました、と。

どこか本人も緊張するような面持ちで、細い喉を鳴らした。言葉も出ない俺にティアラは右手の中にある手紙の束を俺に見せるようにして顔の横に掲げた。一枚は単なる白紙やペンも握られているが……殆どが俺が彼女に宛て続けた手紙だ。


「お手紙何度もありがとうございます。……こちらに書いてあること……信じても宜しいですか?」

手紙の内容は、いつ大して変わらない。そこに毎回書き記してきた内容を思い返し、俺は自信を持って彼女に頷いた。


『お前の力になりたい』

『俺にできることならば何でもする。たとえどれほど苦痛を強いられようとも構わない』

『協力は惜しまない』


髪と同じ金色の瞳を輝かせる彼女は、俺の返事を瞬き一つせずに見つめた。そして、その小さな唇をゆっくりと動かした。


「………………お願いが、あります。」


どこか覚悟をするように彼女は口を開く。

できることならば何でも叶えたいと、俺は黙って最後までその言葉を聞き届けた。



……それから、九日後。



「ああ〜〜‼︎やぁっと着いた‼︎」



……時間にして、約二百七時間後。



「おい、お前らちゃあ〜んと動けよ?もし上手くいかなかったら殺すからな。」



俺の、……いや〝俺達〟にとって、この世で最も憎むべき敵。



「あ。あとプライドには手出すなよ?遊びたけりゃ出来損ないの妹にしとけ。手出したら殺すからな。」



怨敵。



「アレは俺の女だ。」



ラジヤ帝国皇太子。

アダム・ボルネオ・ネペンテスが再びフリージア王国にその足を踏み入れた。


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