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フリージア王国備忘録<第一部>  作者: 天壱
絶縁王女と幸福な結末
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408.絶縁王女は迎える。


ー さぁ始めよう。最高の幸福な結末を。





「ティアラ様、御誕生日おめでとうございます。」


優雅な曲が流れ、沢山の人が行き交う。

大広間は来賓で埋め尽くされ、ティアラだけでなく私もステイルも大勢の来賓との挨拶に見舞われた。城の周りには何重にも警備が敷かれ、騎士団までも城門から王居、そしてこの大広間まで配備されていた。来賓に事前に書状で断りを入れた上で、城門から城壁、大広間への扉の前には温度感知や透視などの特殊能力者まで配備されている。通常の式典より更に厳重な警備だ。


今回のティアラの誕生祭は今までと規模が違う。

私の十六歳、ステイルの十七歳の誕生祭と同じ特別な御祝いだ。

何せ、ティアラが女性として認められる歳になったのだから。その為、国中の貴族だけでなく多くの同盟国や和平国からも来賓が訪れている。私達にとっても滅多に会えない王族貴族とも顔合わせができる貴重な機会でもある。その為、フリージア王国の王族は全員がかなり忙しい。

既に騎士団やアネモネ王国、レオンと一緒に来てくれたカラム隊長、ハナズオ連合王国とも挨拶を終えて、いつもなら一息つく頃の筈なのに今も全く間が空かない。ハナズオ連合王国の三人なんて、存在も見かけも目立つから敢えて時間をずらす為に遅めに大広間に入ってくれた筈なのに。その三人と話を終えてもまだ、来賓との挨拶は途切れない。この数年でフリージア王国との関係国が増えたことも大きいだろう。

私の誕生祭よりさらに増した来賓の数に、段々クラクラしてくる。こんな中、主役のティアラは本当に大変だろう。金の刺繍を誂えられた真っ白のドレスで着飾ったティアラは、誰の目にも留まってしまうから余計に。……まぁ、私も真紅色のドレスで悪目立ちしている可能性はあるけれど。

ティアラの格好を見たら、私なんてワインを相手の服にわざとかける悪役令嬢が良いところだ。…いや、ラスボスか。

ステイルもティアラもお似合いですって言ってくれたけれど、髪の色に合わせてか赤色縛りが多い私から見ると悪目立ち且つ、代わり映えしない感も否めなくて少し悲しい。しかも、またちょっぴり胸元の見えるセクシー系のドレス。ティアラはあんなにお淑やかの女神スタイルなのに‼︎

そこまで考えると、自分が恥ずかしくなって顔が火照ってきてしまう。ちょうど話していた公爵の目が丸くなり、お加減でも…?と心配されてしまった。

急いで気を取り直しながら、喉が渇いてしまったことを理由に手のグラスを傾ける。こくんっ、と飲み込んでから私は改めて挨拶を続けた。公爵も私に合わせるように話を再開してくれる。


「ところで、噂には伺いましたが今日はティアラ様からも特別な催しがあると…?」

「ええ、そうなのです。私もまだ言えませんが、母上からのお話の前には行われると思います。是非、楽しんで頂けると嬉しいです。」

それはそれは!と嬉しそうに顔を綻ばせてくれる公爵に私も笑みを返した。

そう、今夜のティアラ主催の催し。私も話を聞いた時からすごく、すっごく楽しみだった。

楽しみにしております、と返して公爵が優雅に礼をして去っていった。隣の公爵夫人もにこやかに笑ってくれてそちらにも私から笑みで返す。

次に並んでくれていた来賓に私は目を向け、…少し悩む。また、新しい来賓の方々だ。

母上が毎年毎年新しい同盟や和平を結ぶので会ったことが一回だけの人や、初対面の人が多い。この前のステイルの誕生祭では女性の来賓が多く招かれていたけど、今回のティアラの誕生祭は男性の来賓が多い。その為か、ステイルの時とはまた違った顔触れも多かった。同じ特別な結婚可能年齢の誕生祭でも王子のステイルと王女のティアラだと来賓層がガラッと変わる。いつもの式典では招かれないような来賓が多く招かれるのもそうだけど、主に妙齢の男女比の差が変わる。


「お初にお目にかかります、プライド・ロイヤル・アイビー第一王女殿下。ミスミ王国第二王子の…」

やっぱり初対面だった。お互いに挨拶を交わしながら、再び私は目の前の男性の顔を頭に焼き付ける。

また新たな同盟国の王子らしいし、次に会った時はちゃんと名前で呼ばないと。母上達から今回は私もティアラも色々注意を受けたし気も抜けない。こういう時、セドリックほどじゃないにしろ記憶力が良い方で良かったと心から思う。ラスボスプライドの頭の良さが、ちゃんと第一王女としての社交や政策にも役立てることができている。

これからも是非宜しく御願い致します、と挨拶を終えると私は再びグラスを傾ける。なんだか色々考えていたら喉が乾く。酔わないようにだけ細心の注意を払いながら喉を潤すと、…もう中身が無くなっていた。少し勢いよく飲みすぎた。次の来賓と話す前にと、グラスを運ぶ侍女を目で探すと


「宜しければこちらを。…プライド様。」


まるで見計らったように私の前にグラスが差し出された。

驚いて顔を上げると、見知った存在に思わず肩の力が抜ける。グラスを受け取り、私は御礼を伝えた。


「ありがとうございます、ジルベール宰相。」

ちょうど助かりました、と続けるとジルベール宰相が「いえいえ」と綺麗な笑みで返してくれた。

そろそろ喉が乾かれる頃だと思いまして。と続けてくれるジルベール宰相、流石過ぎる。絶対執事とかウェイターとかやっても優秀なのだろうなと、宰相相手に若干失礼なことまで考えてしまう。

一口飲むと、アルコールがそこまで高くないものらしく凄く飲みやすかった。思わずもう一口だけ味わってからジルベール宰相を見上げると、その背後にもう一人知った人がいることに気付く。


「!マリア。…いえ、バトラー夫人も来て下さったのですね。嬉しいわ…!」


きっと母上やティアラも喜ぶだろう、と思いながら思わず僅かに声が弾んでしまう。

どうしよう、すごくすごく嬉しい!マリアがお城の式典に来てくれるなんて、私の記憶では初めてだ。ジルベールの奥さんのマリアは病気が治った後も暫くは療養していたし、その後には娘のステラも産まれたからなかなか式典に来ることができていなかった。


「ステラもやっと、留守番ができるようになりましたので。」

今日は屋敷で使用人達に預けております。と笑んでくれるジルベール宰相が、そっと背後へ回すようにしてマリアの肩に手を添えた。

本当にどこからどうみてもお似合いの美男美女夫婦だ。薄桃色の髪が綺麗に流れて、ティアラとはまた別の女神様みたいだった。既に主要な来賓への挨拶は全員済ませたというジルベール宰相は、今度はマリアを紹介して回っているらしい。

仕事の早さは相変わらずだけれど、今回は自慢の奥さんを見せて回りたくて余計に張り切ったのかもしれない。


「やっと公式の場でご挨拶できて嬉しいです、プライド様。ティアラ様の御誕生日おめでとうございます。」

丁寧に頭を下げてくれるマリアは、そのまま柔らかく微笑んでくれた。

ジルベール宰相もそうだけど、二人とも年齢が止まったみたいに昔と変わらず綺麗だ。少なくともジルベール宰相は特殊能力を使っていない筈なのだけれど。

私も挨拶を返しながら二人を見る。手を伸ばすと、ジルベール宰相、そしてマリアも握手を交わしてくれた。


「次に公式の場でお会いできるのは恐らくプライド様かティアラ様の婚約者決定の誕生祭、…もしくは女王戴冠の折かもしれませんね。」

ジルベール宰相の言葉にマリアが「その時も必ず」と続けてくれた。

これから先の大きな式典にはバトラー夫人としてマリアも参加できると思うと凄く嬉しい。


「こうしてまた、夫と公の場に並べる日が来たことをとても嬉しく思います。…全て皆様のお陰です。」

多分〝皆様〟には父上や母上、ステイルやアーサーも含まれているのだろう。

私も嬉しいわ、と返すとマリアの柔らかな笑みが花のように広がった。本当の一児の母とは思えないぐらい若くて綺麗だけれど、母上の友人だと思うと少し納得もできてしまう。

ステラは来れなくて残念、と言うと是非また遊びに来て下さいと笑ってくれた。その言葉だけでも嬉しくて、お礼を伝える。

そのままマリアは、ジルベール宰相と一緒に今度はステイルへ挨拶に向かった。ステイルもマリアが来てくれたのはきっと喜んでくれるだろう。

そう思いながら二人の背中を見送ると、再び挨拶が続いた。何人か知り合いの来賓と挨拶を重ねた後、また初めて見る男性が前に出てきてくれた。王子か貴族か、頭の中でいくらか予想した時に大広間の中央から響めきとラッパの音が聞こえてきた。

大広間内の誰もが会話を止めて、中央へと注目した。

どうやらティアラの催しが始まるらしい。私も呼ばれる頃だとわかり、挨拶だけ交わして急ぎ中央へと向かった。今回は特に特別だから絶対に遅れないようにしないと!



「ただいまより、ティアラ・ロイヤル・アイビー第二王女殿下主催によるダンスパーティーを行います。」



広間中の沸き立つ温度に早くも胸が高鳴った。


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