39.騎士たり得る者は義弟と。
「その…ンで、ここ…ですか。」
「はい。剣もこちらに予備があるので、宜しければ好きに使って下さい。」
アーサーは周りを見渡し、思わず溜息をついた。
王族専用の稽古場。騎士団のと比べるとかなり小規模だが、個人用だと考えると恐ろしく充実している。着替え室も稽古相手用を含めてたった二つだけだ。模擬剣と真剣だけは予備も含めてピカピカに磨かれたのが数本備えてある。そんな豪華過ぎる程の稽古に
何故か、自分がいる。
この国の第一王子、ステイル様と二人で。
なんで…こんなことになったんだ…⁇
確か、ステイル様と稽古することになって…
プライド様が親父に団服返して…
親父が爆笑して…?
気がついたら馬車の中でプライド様とティアラ様とステイル様なんつう王族三姉弟に囲まれてて…?
ンで、着いたらステイル様に「少しアーサーと二人で手合わせをしたいので。」とか言われて連れてこられて…⁇
…駄目だ、何処からが現実で何処からが夢かわかんなくなっちまってる。
「アーサー殿、どうかされましたか?」
茫然とした俺を、ステイル様が覗き込む。
「あ…いや、…」
思わず、知らず知らずの内に一歩下がっちまう。
「どうか緊張されないで下さい、ここには僕と貴方しかいませんから。」
そう言って笑うステイル様は、俺に模擬剣を一本差し出してきた。
「…その、敬語とか良い…です。俺は第一王子にンなの使って貰える人間でもねぇ…ですし、あと…アーサー殿、っていうのも…」
ぶっちゃけ、この国の第一王子なんて大層な人に敬語とか敬称付けられてもどうすりゃ良いかわからなくなる。
「なら、僕にも敬語や敬称は不要ですよ。アーサー殿は僕よりずっと年上ですし、いっそお互い敬語は無しにしましょう。」
いやおかしいだろ絶対‼︎
年齢なんざ関係ない。ステイル様は俺よりずっと年上の親父や騎士団にだって敬語で話されるような人だ。それを、俺なんざが呼び捨てして良い訳がない。
戸惑っちまって、思わず固まる俺にステイル様は続ける。
「…じゃあ、まず僕から敬語はやめる。それで君が僕を友人としても良いと思ったら君もそうしてくれ。僕も今だけは真っ直ぐに君に向き合おう。…アーサー。」
そういったステイル様はさっきまでの笑顔と薄気味悪さが顔から消え、表情が消えたかと思えば、そのまま剣を構え始めた。
いや待て⁈俺は今日久々に剣を握ったばっかだぞ⁈まさかいきなり打ち合いしようなんざ…
その、まさかだった。
ステイル様が鋭い突きを繰り出し、武具も着けてない俺は取り敢えず身体を逸らして避け、横からステイル様の剣を払う。
よろけたステイル様は右足を軸にして体勢を立て直すと、驚いたような表情で俺を見る。
「寸止めのつもりだったけど…」
ぼそりと呟きながら俺と剣を見比べている。
「アーサー、君は本当に剣の修行を休んでいたのか?」
また、だ。親父と似たような質問をしてきやがる。
「…今朝、数年ぶりに剣を握…りました。」
やっぱり敬語じゃねぇときつい。
ステイル様は何度か瞬きをすると、構えを解いた。
「…やっぱり、アーサー。君はこれから僕と稽古に付き合ってほしい。」
意味がわからねぇ。
だが、ステイル様の目は真剣で、安易に言い返せない。
「そして来年の騎士団新兵入団試験に受かって貰いたい。」
「は…ハァ⁈」
思わず声が裏返る。何言ってんだこの人は。
「い…いや、無理…ですよ。俺ァまだ剣も基礎も全然で…。今から下地作って、早くても三年ぐらいしてから受けようかと」
「別に人生で一回しか受けてはいけない訳でもない。来年駄目なら再来年、駄目ならまた翌年受ければ良い。」
「いやだから‼︎その、受けてもどうせ…」
「僕も全力でサポートする。早く君には騎士になって貰いたい。」
なんで、なんでこの人がそんなことを…
もう頭の中がいっぱいで考えるのを放棄したくなる。
殆ど初対面だ。なのに俺をサポートすると、俺に早く騎士になって欲しいと。
しかも、この国の第一王子がだ。
「…聞いてもいいっすか。」
どうにも話がまとまらない。「どうぞ」と答えるステイル様に思い切って疑問をぶつけてみることにする。
「なんで、俺なんざをそこまで騎士に…。あと、ステイル第一王子なんつー人がそんな稽古相手必要っすか…?ンな教師が教える以外の時間ならもっと法律とか帝王学とか王族らしいことが沢山あるんじゃ…」
王子は多忙だ。それは俺でも知っている。しかもステイル様は庶民から王族になった人だ。まだ覚えねぇといけないことは山程ある筈なのに。王子なら騎士団の他にも別に自分を守ってくれる奴なんざいくらでも…
「姉君を守る為。」
…思わず言葉を無くした。
迷いのない、一言だった。
俺からの疑問の答えが全てそこに集約されていた。
「ご存知の通り、僕の姉君は強い。でも、本当にあの人はあの一件が初めての実践だった。」
あの一件…親父の崖崩落の話だ。
ステイル様は顔を伏せ、ぽつりぽつりと語り出す。
「そしてきっと姉君はこれからもあのような無茶をする。己の手の届く限り、必ず。」
そうだ、あの人はそういう人だ。
俺もそれはよくわかっている。
「でも、姉君は無敵な訳ではない。…以前、本人の口から言っていた。〝どうせ単純な力では敵わない〟と。」
その瞬間、俺は気づいた。
あの時のプライド様の戦いを思い出す。
大人数相手に戦い剣を振るったプライド様。
だが、あの人は攻撃を躱し、いなし、だが一度も力で押し合おうとはしなかった…‼︎
改めて俺は、理解する。
そう、あの人は…
「姉君は力を持たない非力な女性だ。」
俺の心を呼んだかのようにステイル様は続ける。
「僕がこの城に養子になった時、姉君は僅か八歳だった。その時から…あの人は既にずっと何かに怯えていた。」
怯えている…?
俺は昨日のプライド様の言葉を思い出す。
『私がこの国の民の敵と判断した時は…』
ぞわ、と訳も分からない冷たいものものが背筋を走った。それが何かも分からないまま、その間にもステイル様は話を続ける。
「それが何かは僕にもわからない。…でも、今確かに言えることは、姉君の周りには未だにあの人を押し潰すような形のない不穏が渦巻いているということ。」
今度は今朝親父から聞いた噂話を思い出す。
未だにプライド様の悪い噂が後を絶たないと。
「だから姉君を護りたい。その為に学べる事は学び、こうして剣の稽古をやってきた。でも」
そう言ってステイル様はまた静かに俺へ剣を向けてきた。
「まだ、足りない。」
その目は俺よりガキとは思えない程に鋭く、強い意志が宿っていた。
「僕はもっと強くなりたい。姉上を護れるくらいに。…でも、僕はまだ弱い。」
少し、ステイル様の瞳に暗い影が落ちる。
「僕が強くなっても、姉君と並ぶのがやっとかもしれない。でも、それでは駄目だ。」
また、ステイル様が剣を構える。
「姉君を護りたい、この命を賭けて。でもただ賭けるだけじゃだめだ。賭けた上で守りきれなければ意味がない。」
踏み込み、俺の前へ飛び出す。
縦に振り下ろされる剣を俺は同じく剣で受け、防いだ。金属同士の激しい高鳴りが響く。
ギリギリと、剣が擦れ合い押し合う。
「まだ、足りない。」
また、同じ台詞を繰り返す。
この人は全く今の自分に満足をしていない。
「大人達の権力や抗争、外堀戦略…そういうのから守れたとしても、足りない。姉君を凌ぐ程の強さと、そして純粋な力…暴力が立ち塞がった時っ‼︎」
ギリリッと、片手で剣を振っていたステイル様が剣の柄に両手を添え、力がより強く剣越しにかけられる。刃先が俺の顔に近づく。
「僕は、姉君を守れない。」
刃先が目の前すぐにまで迫る。
堪らず俺も力任せに剣を両手で握り、踏み込みと同時に振り切った。
ガキィンという響きと共にステイル様が一歩向こうへ跳ねる。
「アーサー。君はきっと強くなる。僕よりも、姉君よりも。…そして誰よりも。」
なんで、第一王子が俺なんざをそこまで買ってくれるのかがわからない。プライド様の予知が理由か?いくら騎士団長の息子といっても、剣を握ったのすらこの年で久々な俺なんざ。
でも、とも思う。
なれるものなら、なりたい。いや、ならないといけない。
プライド様を守れるくらい、誰よりも強く。
第一王子が剣の相手をしてくれるなんて願っても無い。その上、俺を強くする為にサポートするとまで言ってくれている。断る理由はない。
ただ…
「…あと、もう二つ…良いですか。」
「いくらでも。」
ステイル様は相変わらず躊躇なく答えてくれる。だから俺もせめて臆せず問う。
「なんで俺なんざをそこまで…。それに、プライド様の補佐とはいえ、なんで貴方はプライド様の為にそんな必死になるんすか。」
無礼な質問かもしれない。確かにプライド様は素晴らしい人だ。俺もそれはわかっている。でも、ただの補佐が、しかももともと庶民から成り上がりで王族になった人が、この年からこんなにプライド様の為に必死になるのは少し違和感も感じた。あの胡散臭い笑顔も鑑みると、もし…もしも、あのプライド様を利用したり、何か他の目的の為とかだったりしたら…
そう思いながらステイル様の返事を待つ。
今回は少し間があった。
「…君は、僕と同じだと思ったから。」
ぽつり、とそう呟いた。
意味が分からず、俺はそのまま次の言葉を待つ。
「第一王女が姉君だったから、だから僕はこうしていられる。具体的には言えない。…でも、僕はあの時の事は一生忘れない。」
そういって真っ直ぐに俺を見る。
「僕は誓った、誰でもない己自身に。姉君を守ると。姉君の為に在り続けると。」
羨ましいくらい真っ直ぐな、迷いの無い目だ。
「でも、僕は…、…あまり、周りを信用できない。」
だけど…、とそのまま言葉を紡ぎながらステイルは静かに三年前の宰相達の会話を思い出した。
例え、表面上では褒め称えたとしても、裏ではどう言っているか、どのようにして陥れようとしてくるかわかったものじゃない。
プライドやティアラ、母上や父上、母さん…そして今回のことで騎士団長や副団長は信頼できると思えた。でも、例えば現摂政のヴェスト叔父様やプライドの周りにいる侍女のロッテやマリー達、衛兵のジャック達、剣を教えてくれるカール先生や他の教師、騎士達、そして当然宰相のジルベールのことも、僕は本当の意味では信用していない。
社交界にも少しずつ出るようになった。友人や親しくしてくれる人も沢山できた。でも誰一人信用していない。
いや、信用してはいけないとも思っている。
いつ、誰がプライドを裏切るか、または既に裏切っているのかわかったものじゃないから。
でもつまり、それは本当の意味での味方も少ないということだ。
僕一人が強くなれば良いとも思った。でもそれじゃ足りない。彼女の敵に成り得る人間は多過ぎる。
そんな時だった。昨日の姉君とアーサーの姿を目にして、こう思えたのだ。
彼なら、プライドを守ってくれると。
そして今日、転機が訪れた。彼にもう一度会えた。こんなに早く会えるなんて運命とさえ思えた。
そして、今。彼と手合わせをして驚いた。
彼は僕の突きを初見で避け、払った。
自分だって本格的な剣は学び始めたばかりだ。でも、基礎はずっと前から始めていた。下積みもして、先生にも順調以上だと褒められていた。
剣を本格的に学び始めてからも、御世辞抜きに筋が良い、素晴らしいと褒められた。
さっきだって二度目に彼へ剣を向けた時は全力だった。本気で彼に今度こそ一本取るつもりだった。
でも、取れなかった。
なのに彼は剣を握ったことすら今日が数年ぶりだという。
彼は自分の恐ろしい才能に気がついていないのだろうか。
僕には無い力、そして才能。
彼は必ず強くなる。僕よりも、きっとプライドよりも。
そして…
『一生…!貴方を護らせてください…‼︎‼︎』
そう、彼は言った。それは嘘偽りのない言葉だった。だから。
「貴方は…信じられると思った。」
そう断言してアーサーを見つめる。
彼は目を見開き、でもしっかりと僕の言葉を受け止めてくれている。
「姉君を守ると、そう言ったあの時の君の言葉は紛れも無い本心だと…誓いだと、そう思えたから。」
彼ならきっと、信じられる。
プライドも予知したと言っていた。彼は、将来背中を預けるべき騎士になると。
僕には、プライドには、彼が必要だ。
「僕は姉君を権力や形無い物から守る為の〝盾〟に。そしてアーサー、君には力を行使する何者からも姉君を守り、斬り伏せる〝剣〟になって欲しい。」
アーサーは、何も言わない。
迷っているのだろうか。
彼が疑うのも当然だ。僕だって同じ立場なら警戒しただろう。
でも、どうかわかって欲しい。
「……僕の言葉を嘘だと思うか?君に取り入るための口八丁だと。姉君を、君を利用する為に都合の良い言葉を並べるだけの人間だと」
「思わねぇよ、ンなこと。」
言葉が、切られた。
驚きのあまり、自分でも目を見開いているのがわかる。
何故なら、いま初めてアーサーが自分への敬語をやめたから。
『まず僕から敬語はやめる。それで君が僕を友人としても良いと思ったら君もそうしてくれ。』
自分が最初にそう言ったのだから。
「アンタが…プライド様にどんな恩があるのか…ンで、俺なんざにそこまで期待する理由は全ッ然わかんねぇが…」
そう言って、さっきの萎縮していた様子が嘘のように気怠そうな様子で剣を持ち直す。
「…でも、アンタがプライド様を護りたいっつーことは信じられた。少なくともそこンとこだけはアンタの紛れも無い本心だ。」
じっと、その目は定めるようにアーサーを捉えて離さない。
まるで立場が逆転したように、今度はステイルが黙りこくる。
「俺もプライド様を守りてぇ、ンでアンタもそう思っている。だから一緒に強くなろうってことだろ?その為に毎日稽古しようって話だ。」
間髪入れず、ステイルは頷く。
そう、ステイルの願いはそれだけだ。
「ハッ!〝盾〟とか〝剣〟とかクソ恥ずかしい言い回しばっかしやがって。ガキはこれだからムカつくんだ。…が、」
つい先程まで第一王子だと萎縮していた相手を笑い飛ばし、悪態をつく。投げるように語りながら最後にニヤリ、とステイルに向かって笑みを向けた。
「〝剣〟って言い方は、悪くねぇ。」
ぱっ、とステイルの目に光が射した。
その目から敢えて逸らすようにアーサーは顔を背け、頭をかく。
「言っとくが、さっきから言ってる通り剣を握ンのも数年ぶりだ。テメェの思惑通りにトントン拍子で騎士になれなくても文句言うんじゃねぇぞ?ステイル。」
ステイル、と。彼はそう呼んだ。
養子になってから第一王子として生きてきた彼にとって、家族以外から呼ばれる久々の呼び名だった。
「ああ、勿論だ。君は強くなる、僕がちゃんとサポートする。」
「ッその、〝君〟って呼び方もやめろ!〝お前〟で良い。あと…俺だけじゃねぇだろぉが、強くなんのはよ。」
そういって剣先をステイルに向ける。
驚き、思わず構えもせずにステイルはその剣先を見つめた。
「テメェも強くなるんだろぉが。プライド様の為に。」
ー ステイル様…いや、ステイルのことはまだ全部はわからねぇ。
だが、プライド様を守りたいと。その意志が俺と同じなら…それで良い。
「俺は親父から…入隊したら騎士団からもか。そこで教えられたモン全部テメェに教えてやる。だから…お前も全部教えろ。色々あんだろ?王族の剣術とか、護身の為の格闘術とか色々。」
教え合いなんてガラじゃないことはわかってる。だが、それがプライド様を守ることに…そして騎士になることに少しでも繋がるのなら。
「ああ。…ありがとう、アーサー。」
「…おう。」
無表情ながら嬉しそうに言うステイルの目がなんだか照れ臭い。これだからガキは。
「………あ。あとよ」
アーサーは思い出したように言うと、じろり、とステイルを上から睨み付けた。
「さっき会った時のあのわざとらしい胡散臭ぇ笑顔もやめろ。今プライド様の話をした時の、その面のままで良い。薄気味わりぃったらありゃあしねぇ。」
その言葉にステイルは酷く驚いた。
今まで、笑顔を作ってきてそれを変に思われたことなど一度もなかったのに。
「変…だったか?わりと上手くできていたとー…」
「全ッ然。お陰で無駄に警戒しちまっただろぉが。」
ステイルは驚きで声が出なかった。
相手に好意とは違う意味に捉えられるような、敢えてそういう笑顔を向ける事だってある。だが、ちゃんと相手に好意と思わせたい時に敢えて作る笑顔はプライドやティアラにも…いや今まで誰にも指摘されたことがなかったのに。
そんなステイルの驚きを察するかのように、アーサーは続ける。
「…あー、ウチは親父があの通りいっつも無愛想面で、お袋は逆に表情筋使い過ぎなぐれぇで、ンで店の客の面とか…色々見飽きるほど見てンだよ。」
…アーサーは幼い頃から騎士団長である父親と見比べられて育った。
母親の小料理屋を手伝う中で毎日多くの人と接することが日常にならざるを得なかった。その中で特殊能力を知られてからは特に自分への上辺だけの慰めの表情や話し方を嫌なほど向けられ、目にして来た。
結果、アーサーはそういう取り繕った表情、視線、話し方に嫌な程敏感になっていた。
その視線や表情が嫌な程目に入るからこそ、格好の的である父親似の自分の顔を長い髪で隠し、自分自身の視界をも塞ぎ、逃げるように必要外は店を離れ、裏の庭で畑を耕していたのだから。
「……その、親父みてぇな無愛想面の方が俺にゃ見慣れてる。」
そう言うとアーサーは「ガキのくせして俺なんざに変な気ィ回してんじゃねぇよ」と自分より背丈の低いステイルの頭を軽くわしゃわしゃと撫でた。
姉を守りたい、だから強くなりたい。そして協力して欲しいと。そう自分に願ったステイルがアーサーには気がつけば第一王子ではなく、自分より三つ年下なだけの少年にしか見えなくなっていた。
そのまま剣を適当に構えながら「ンじゃ、先ず最初はどっちから教える?」と気楽にステイルに話しかけていた。
取り繕った自分に気づき、そして人との交流には向いていない、無表情な素の自分の方が良いと言ってくれた。そしてまるでただの子どものように扱ってくれた。
それは今のステイルにとって、貴重な経験だった。
「……アーサー。君に…いや、…お前に会えて良かったよ。」
その時、プライドやティアラがいたらきっとステイルが仄かに微笑んだのがわかっただろう。
アーサーは鼻で笑いながら「恥ずかしい台詞言うんじゃねぇよ!クラークかテメェは」と叫んだ。
ステイルとアーサー。
ゲーム内ではあり得ない関係が築かれた瞬間だった。




