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フリージア王国備忘録<第一部>  作者: 天壱
高飛車王女とお祝い
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354.高飛車王女は迎える。


「っし。…行くか。」

着慣れた筈の、鎧を身に纏う。

ガチャリ、ガチャガチャともう身体の一部のように彼は手早く固定し、剣を腰に差した。


「……時間だな。」

着慣れた筈の、団服を身に纏う。

バサリ、と袖を通すだけでもマントのように丈の長い団服が軽く翻る。銃を懐に仕舞い、最後に身嗜みを整えた。


扉を、開く。

何度も何度も開け慣れた筈の扉を開き、彼らは部屋の外へと踏み出した。


「おはようございます!アラン隊長‼︎」

「おはようございます!カラム隊長‼︎」


それぞれの部屋の前から、勢いよく騎士達の声が揃って上がった。

アランの部屋には一番隊、カラムの部屋には三番隊。そしてそれ以外にも彼らを慕う騎士達が揃って早朝から部屋の前で集まっていた。

今日から復帰することになる二人を、迎える為に。


大勢の騎士による出迎えにアランは思わず声を上げた。「おぉ⁈」と慄き、それから騎士達が頭を下げてくるのを見て苦笑した。「大袈裟だって」と副隊長のエリックを始めとする部下達の肩を叩き、口を開いた。


予想外の出迎えにカラムは目を丸くした。三番隊だけでなく、他の隊の騎士まで迎えてくれていることに感謝しながら、小さく笑んだ。騎士達の最後列にはアーサーの姿も見える。彼らの善意に今は応えようと、姿勢を正し、口を開いた。


「ただいま。」

「待たせて済まなかった。」


一ヵ月の謹慎が解けた彼らが、初めて〝復帰〟を肯定したその言葉に、騎士達は沸き上がった。


……


「おはようございます、プライド様。」

「お久しぶりです。」


その日の朝、近衛騎士としてカラム隊長とアラン隊長が二人揃って私を迎えてくれた。

エリック副隊長の復帰後、謹慎処分を受けて一ヵ月が経っていた。

二人が復帰して騎士として戻ってきてくれるのか。それとも処分を正式に受けた後にそのまま退任してしまうのか、ここ三日は特にそればかりが気になって碌に眠れなかった。


「カラム隊長、アラン隊長…。」


あまりに不意打ち過ぎて、二人の名前を呼んだ後は続きが出てこなかった。

午前はどちらかが来てくれるだろうかとか、二人とも騎士団を去ったとかアーサーやエリック副隊長から告げられたらどうしようとか色々考えていたらまさかの二人同時にだ。

この一ヵ月間、嫌な想像も沢山したせいで、もし早速お別れの挨拶とかされたらどうしようと、固まってしまう身体に反して心臓がバクバクいった。


「…長らく、ご迷惑をお掛け致しました。」

「今日から改めて宜しく御願い致します!」


〝改めて〟⁉︎

その言葉に思わず私は目を皿にする。それは、つまり!と確認するように二人を見返せば、ちょうど私に向けて頭を下げてくれるところだった。

嬉しくて、一気に色々込み上げてきて、二人が顔を上げてくれるまで無言で見つめ続けてしまう。そしてゆっくりと顔を上げた二人は、私の顔を見て…笑ってくれた。


「これからもプライド様を御守りさせて頂きます。」

「もう二度と、あのような事態を許しはしません。」

これ以上ない、答えだった。

アラン隊長とカラム隊長の言葉が凄く嬉しくて、ほっとして、気が付いたら目の前が滲んだ。滲む寸前にアラン隊長とカラム隊長が凄く驚いた表情をしたのが見えた気がした。「ぷっ、プライド様⁈」とどちらともなく二人が声を重ねて心配してくれた。思わず目を擦ってしまうと、専属侍女のロッテがハンカチを手に私へ駆け寄ってくれた。


「良かったぁ…。」

子どものような感想しか出て来ず、ロッテに目元を拭われながら笑ってみせる。

泣き顔で不細工になってるであろう顔が恥ずかしかったけれど、それ以上に二人が戻ってきてくれたことが嬉しいと伝えたかった。涙をロッテに拭われ、視界がはっきりした目で二人を見る。

いきなり第一王女を泣かせたことに焦ってしまったのか、見れば二人とも顔が真っ赤だった。また心配をかけたのかもしれない。「戻ってきてくれて嬉しいです」と伝え、私はアラン隊長とカラム隊長の手を片手ずつその指先を掴んで鎧越しに握り締めた。


「…おかえりなさい。これからもどうか末永く宜しくお願いします。」


言葉にした途端、また涙が込み上げたけれど今度は息を止めて我慢する。代わりに握った二人の指先に力をいれる。強く握りしめた鎧の指先部分が少し温かくなった気がした。



………いや、気のせいじゃないかもしれない。



「…?…お二人とも…大丈夫ですか…?」

なんか、鎧越しなのに凄く熱を感じる。しかも、二人同時に。見上げれば、何故かカラム隊長もアラン隊長もさっきより更に顔が真っ赤だった。


「あっ、いえ‼︎これはっ…‼︎」

「なななななななんでもないです‼︎‼︎」

カラム隊長は姿勢を正したままガチガチに固まっているし、アラン隊長に至っては近衛を任せた最初の頃のように動作がぎこちなく、声も凄く吃っていた。

まさか一ヵ月のブランクで私相手に緊張するようになってしまったのだろうか。少しショックだけど、今はそれより二人がこうして私の前に居てくれることが嬉しい。

思わず顔が緩んだまま「アーサーやエリック副隊長はご存知なんですか?」と聞くと、二人とも声と同時に頷いて答えてくれた。

きっと二人とも喜んだのでしょうね、と返すと今度はティアラが部屋から朝の支度を終えたであろう私を迎えに来てくれた。

ティアラもアラン隊長とカラム隊長に、あっと声を上げた後に二人の復帰継続をすごく喜んでいた。「お姉様も、兄様もアーサーもエリック副隊長も代理近衛騎士の方々も皆、お二人のことを案じておられましたっ!」とティアラに言われ、二人とも少し照れたように笑っていた。


「午後にアーサーやエリック副隊長と話すのが楽しみですねっ。」

嬉しそうに笑うティアラに私も答える。…その時、突然アラン隊長が「あー…」と声を漏らした。

私とティアラが廊下を歩きながら振り返ると、カラム隊長が「朝食後にお伝えしようと思ったのですが…」と少し言いにくそうに口を開いた。


「…申し訳ありません。恐らく、アーサーに会えるのは暫く後の日になるかと。」


えっ⁈

私もティアラも思わず声を上げる。なんで⁈予定では今日は何の任務も無いはずなのに‼︎

まさか騎士団に何か緊急の任務でもあったのか、それともアーサーに何かあったのかと、心配になってその場に立ち止まってしまう。

アラン隊長も難しそうに笑いながら「実は、アーサーに今朝急用が入ってしまいまして」と若干濁すように話し、カラム隊長と目を合わせた。

「急用…ですか?」

ティアラも心配そうに言葉を返しながら、アラン隊長を覗き込む。すると、アラン隊長は頬を指先で掻きながら重そうに口を開いた。



「騎士団長に許可を得て、演習場でハリソンと決闘をしていて。」



何故⁈

もう意味がわからない。確かハリソン隊長はアーサーにベタ甘な筈では⁈なのにアーサーと決闘なんて、一体何があったのか。


「…以前、アーサーがハリソンから納得いく返答を受けられなかった件について、アーサーが今朝正式に抗議をしまして。……そこでハリソンが『ならば私と戦ってみろ』と。」

カラム隊長の説明に開いた口が塞がらない。言葉で納得いかないから物理で決着なんて。八番隊は一体どこまで戦闘部族なのか。アーサーもそれに応えちゃうところが流石だけど。…でも、あのアーサーがそこまで納得がいかないことって何なのだろう。しかも、そんな言い合い喧嘩みたいなことに騎士団長は何故許可を降ろしたのかも謎だ。

詳しい話はステイルが訪れてからに、とカラム隊長に言われ、私とティアラは茫然としたまま再び廊下を歩き出した。



一難去ってまた一難、という言葉が頭の中でぐるぐると回った。


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