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フリージア王国備忘録<第一部>  作者: 天壱
高飛車王女とお祝い
413/877

351.高飛車王女は呆れ、


祝勝会。


一ヶ月ほど前にフリージア王国が参戦した防衛戦。

完全勝利を迎え、更には新たな同盟国を得たことを祝し、城内は大賑わいだった。騎士団の半数が集った祝勝会には、我が国の王族を含めた上層部の人間、そしてランス国王達も交ざり、かなり賑やかな宴となった。

協力をしてくれたアネモネ王国も呼びたかったけれど、この前アネモネ王国へ訪問に行った際に打診したら「見返りが欲しかった訳ではないから。そんなのが無くても力になると示したいんだ」と丁重にお断りされてしまった。あとは謹慎処分中のアラン隊長やカラム隊長も祝勝会に参加できなかったのが残念だ。

母上から乾杯の言葉を受け、私達はグラスを掲げた。

祝勝会が始まってから最初は挨拶通しだったけれど、今はやっと余裕もとれるようになってきた。

ランス国王、ヨアン国王と一緒にセドリックとも挨拶をしたけれど、表向きの挨拶しかできていない。騎士団長や上層部の人達と無事に挨拶を終えた後、ティアラやステイルより一足先に自由になれた私は早速セドリックの方へと目を向けた。

今までも何度か目を向けたけれど、変わらず彼も彼で我が国の上層部と語らっているところだった。話し上手なのか、なかなか男女問わずに一人ひとりとの話が続いている。


「……セドリック第二王子殿下、少し、お話よろしいかしら?」

話している相手には悪いけど、話が終わるのを待っていたら祝勝会が終わってしまいそうだ。私が声を掛けると、話し相手はすぐに身を引いてくれた。

私に返事を返し、グラスを片手に一歩歩み寄ってくれるセドリックは既にまた若干表情筋がピクついていた。パッと身は落ち着いた笑みだけれど、内心は穏やかじゃないのがよくわかる。


「……少し、壁際で話しましょうか。」

人目を引くセドリックの容姿とこんな広間の真ん中で長話をしたら絶対に目立ってしまう。

一度挨拶を交わした後の2回目だから更に。せめて人混みに紛れなければと私から提案すると、セドリックが周りからは私が誘導したと思われないように壁際へエスコートするようにして動いてくれた。

母上達からも離れ、上層部の人達よりも騎士の割合が多い扉の傍に移動する。

壁の花状態にならないようにとセドリックが配置に気を遣ってくれた。エリック副隊長が偶然近くに居たので、私は小さく手を振った。急に騎士団の中に王族が乱入したのに驚いたのか、気が付いてくれたエリック副隊長は目を丸くしていた。緊張か少し顔を火照らしていたけれど、人目を気にするようにしながら私に応えて小さく頭を下げてくれた。

そのままやっとセドリックと会話できる状況になった私は、まだ中身が減っていないグラスを片手にセドリックを目だけで覗く。すると目が合ったセドリックは、ちゃんとわかっていると言わんばかりに緊張した面持ちで喉仏を上下させた。


「…こちらの都合にも関わらずお待ち頂き感謝致します。先程は大変失礼致しました。」

「もう良いから。…それより以前のように話しましょう。何故まだ一ヶ月しか経っていないのに、そんな一歩引くの?」

ガチガチの敬語で固めてくれるセドリックに、問答無用で本題を突きつける。するとセドリックは「ですが…」と言葉を濁し、それから一度静かに大きく深呼吸をしてから躊躇うように私へ口を開いた。


「………マナーと、…教養を全て身に付けた。」


ぼそぼそ、と。普通に話しても良い距離と喧騒だというのにセドリックは小さな声でそう話した。

一瞬、聞きそびれそうになったので私から耳を更に近づけることになる。それからやっと彼の言葉を聞き取れた私は「すごいじゃない」と言葉を返した。まだたった一ヵ月しか経っていないのに、殆どゼロから全てを身に付けるなんて大したものだ。流石天才児。

でも、セドリックはドヤ顔どころか若干顔を赤らめると苦々しそうに表情を歪めていた。そのまま私から思わずといった様子で目を逸らす。


「お陰で、こうして今回の祝勝会にも同行することを許された。……が。」

プルプルと、見れば彼が片手に掲げていたワインの水面が揺れていた。最低限までは整えられた顔をキープしているけれど、明らかにまた表情筋に力が入っている。本当にどうしたのか、明らかに無理をしている様子だ。心配になり、私から言葉を掛けようとすると先にセドリックがワインを持つ方とは逆の手で自分の顔面を鷲掴むように押さえつけた。俯き、金色の髪に顔が隠れたと思えばやっとセドリックから言葉が漏れた。




「…………羞恥で…焼け焦げそうだ…‼︎」




…え?

思わず頭にでた一文字をそのまま声にも出してしまう。

すると、セドリックが再びぼそぼそとした声で堰を切ったように話し始めた。


「俺は、この城でたった三日の間に夥しい数の不敬と非礼を犯してきた。当然のことながら許されるべきでないことも理解している。もう二度とあのような恥の上塗りなどは御免だ。だからこそ改めてお前達に詫びを伝えたかった。今この場での機会も本来ならば俺が自ら用意すべき場であったというのにまことに申し訳ありませ…、…すまない。だがどうしてもお前達の顔を見る度に、城内を歩く度に平静を保つことすら困難になる。俺が恥ずべき言動を犯した全ての場所と相手を見るだけであの時の愚行が鮮明に思い出されて死にたくなる。お前に対しての失態の数々だけでも頭が燃えそうだというのにしかもそれを俺はティアラの目の前でも犯してしまっている大体いまだからこそ問いたいのだが何故お前はあんな俺に手を差し伸べたのかその疑問がいつまで経っても頭から離れな…」


…なんだか途中からは早口になって聞き取り辛く訳がわからなくなってしまったけれど、取り敢えず彼の話を最後まで聞いてから私は頭の中で要約した。

…つまり、マナーと教養をマスターした結果、今までの自分のやらかしに気がついてしまったということだ。

完璧な記憶力を持つ彼だからこそ、機械なみに自分の過去の言動全てから不敬や非礼にあたるものを事細かに照合してしまったのだろう。

一気に話してしまったせいか、顔が大分火照ったセドリックは息も荒い。私が口元だけ引き上がったまま固まっている間に、誤魔化すように手の中のワインを飲み干した。そのまま改まるように「誤解を招くような態度を取ってしまい、申し訳ありませんでした」と今度はまた敬語で謝ってきた。


「当時の醜態を考えると、以前のような言葉でお話しすることすらどうしても躊躇われてしまいまして…。」

はぁ…と、口元を片手で覆いながら語るセドリックはまた更に顔が赤い。ワインのせいか、それともまた私への不敬でも思い出したのか。


「だけど、…貴方確か敬語で話してくれた時だって私に色々不敬を犯していたわよ?」

「勿論存じております。」

思わずの容赦ない問いかけに、セドリックの赤みが若干増した。少し虐めたような気がして急いで彼に私の方から謝る。セドリックは首を振ると「全ては私の不徳の致すところです…」と返してくれた。なんだか言いたいことはわかるのだけれど、話し方が違うだけでやっぱり別人のようだ。


「ですが、…そのような御相手に許可を頂いたからとはいえ、敬語もなくお話しすることは今の私には畏れ多く、とても叶いません…。……もし、許されるのであればもう少々御時間を頂ければ幸いです。必ずやいずれプライド第一王女殿下の御期待に応えてみせます。」

すごく大仰な言い方をしてるけれど、つまりは敬語無しで話すのにはもう少し時間が掛かるということだ。

せめて敬語とはいってももう少し砕けた話し方にすれば良いのに。もしかすると記憶力や修得力が凄まじくても、応用力や思考力は普通なのだろうか。テストは満点でも論文は普通、みたいな。いやセドリックなら頭の中の情報量凄いから実際論文書いたら凄まじいのだろうけれど。

それでもまるで普通の話し言葉を機械で敬語変換したかのような言葉遣いに、道理で勉学不足なことを抜いても生まれ持って天才の彼が悪徳女王プライドにまんまと騙されたわけだと今更ながら納得する。

そういえば、以前に彼が敬語で話してくれた時の言葉も流暢に話せていたのは前もって考えていた定型文のような台詞ばかりだった。あとはポツリポツリの短文ばかりだった気がする。


「わかったわ。…貴方がその方が話しやすいのならばそれで。そしたら私も合わせて敬語で話した方が良いかしら。」

「いえ…‼︎どうか、お気を遣わずそのままの言葉でお話し下さい…!」

何故か食い気味に引かれてしまった。まぁ、私も彼に対してはもうこの話し方が慣れてしまったし、良いというのなら御言葉に甘えさせて貰おう。

私が了承すると、彼はほっとしたように息をついた。再び顔色が段々と頬が染まる程度まで治ったけれど、こんなに赤みが続くと本当に体調不良じゃないか心配になってしまう。


「でも、変わったのが話し方だけなら良かったわ。私達と話も避けてるのかと思ったもの。」

「とんでもありません!…むしろ、私には皆様に言い尽くせないほどの謝罪と御恩があるばかりだというのに。」

…やっぱりいつものセドリックの言葉じゃないと違和感がすごい。訳せば「そんなわけがあるまい!…むしろ俺はお前達には言い尽くせぬほどの詫びや感謝があるというのに」とかだろうか。礼を尽くしてくれるのはありがたいけれど、正直早くいつもの口調に戻って欲しい。ジルベール宰相にパリピ語で話されるぐらいの違和感だ。これは私も彼のリハビリに協力しなければと本気で考える。

ふと、気になって振り返るとステイルやティアラも既に上層部の人達とは話し終えた後のようだった。

私を心配してくれているのか、凄く遠目から私達の様子を窺ってくれている。…よく考えると、この状態はこの状態で今度はティアラに変な誤解を受けないだろうかと凄く心配になる。セドリックのことが嫌いなティアラにはどうでも良いことかもしれないけれど、一ヵ月前にあんな爆弾発言して私とばかり話しては心象も絶対良くない。少なくともティアラに片思いしているセドリックにはなかなか不味い状況だろう。

人目を忍んで私とセドリックが二人きりで長々と語らっているのだから。せめてティアラからの誤解だけは避けてあげないと。


「……取り敢えず、ティアラにもちゃんと説明しましょうか。」


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