36.騎士たり得る者は羨望し、
親父とプライド様の無事がわかった後も、作戦会議室は変わらず騒がしかった。
クラークが親父の怪我の具合はとか、プライド様をどうやって送迎するかとか、女王陛下と王配殿下に御報告をとか話しながら、時折ステイル様とも何か相談をしていた。
暫くして、プライド様と親父の送迎を先行部隊が行うと副団長のクラークから聞いた。
移動手段に特化した特殊能力者が送迎すると言うからすぐに到着すると思ったが30分は掛かると言われた。
俺が思ったよりも遠くにいたのだと、初めてそこで知った。
最初に連絡が入ったのはプライド様の到着だった。
王族の住居側へ送迎されると聞いた途端、ステイル様が文字通りに消えた。さっきのプライド様みてぇに。
クラークに聞いたら瞬間移動の特殊能力者らしい。色々聞きたかったが、そのままこれは内密にと口止めされた。
騎士団も数人の通信係を残し、王居へ向かった。俺もその後ろに続くようにプライド様の元へと向かう。
王居には、既に従者や衛兵などと一緒にステイル様やその妹君であろう小さな姫様がいた。恐らくは第二王女であるティアラ様だろう。顔を青くして、心配そうにステイル様の裾に掴まっている。大丈夫だ、と背を撫でるステイル様も未だ顔色が悪い。
誰もが並び、先行部隊とプライド様を待っている。
どれくらい経っただろうか。
だんだんと変な形の乗り物が物凄い速さで近付いてきた、プライド様だ。
ゆっくりと減速し、俺たちの前で止まる。
操縦していた先行部隊に手を取られ、降りてきたプライド様に従者達やティアラ様が息を飲んだ。
当然だ、第一王女がこんな泥まみれのボロボロでいるんだから。騎士団の上着を羽織っちゃいるが、そこからチラつく豪奢なドレスは屑布のように変わり果て、美しく波打つ真紅の髪は枯蔦のように萎びている。いつも綺麗に整えられている筈の化粧も剥げ、泥が目元までこびり付いていた。下級層の住人の方がまともな格好をしている。
…俺のせいだ。
そう思うとどんなツラをすれば良いかも分からなくなり、隠れるように騎士団の後ろに身を引いた。
ステイル様とティアラ様が駆け寄り、プライド様を抱き締める。二人とも、泣いていた。
一番キツい想いをした筈なのに、何故か当の本人が逆に泣いている弟妹を慰めている。
なんで、こんなに平然としていられるのだろう。
本当に何ともなかったのか?
一度も怖くなかったのか?
この人には、恐怖心というものがないのか?
そう思った矢先、二人を抱き締めて笑うプライド様が、遠目の俺から見ても少し震えていることに気がついた。
…じゃあ、なんであんな風に笑ってられんだ。
泣いても良いのに、怒っても、誰かを責めてもいいのに。
なんで、この人はこんなに強いんだ。
あの人は怖くなかった訳でも、無敵な訳でもきっとない。
それでも立ち上がり、立ち向かう強さを。
そして自分以外の奴の弱さすら受け止める強さを持っている。
それが今、俺にはただただ眩しかった。




