336.冒瀆王女は祝い、
誰かが叫んだ。始まりだ、と。
金脈の地、サーシス王国。
「今日は皆の者、大いに飲み!食べ!騒いでくれッ‼︎新たなハナズオ連合王国の未来を祝そう‼︎」
鉱石の地、チャイネンシス王国。
「我らが神に感謝を。そして神の名の下に新たに誓おう!新たなハナズオ連合王国の未来を‼︎」
「「乾杯‼︎」」
乾杯‼︎と、国王のスピーチに誰もが応えるように声を上げた。国中の誰もが彩りを鮮やかに笑い声を上げ、歌い、ジョッキの音を奏でた。
ハナズオ連合王国。
チャイネンシス王国、サーシス王国。その両国同時の祝勝祭は夜通し行われる。城の祝勝会が終えた後も国全体の熱は決して冷めはしないだろう。
城の門が解放され、敷地内であろうとも城の建物前までは身分も国も関係なく誰もが行き来を許された。
元々、両国の民同士が密接だったハナズオ連合王国は終戦を知らされ、すぐに国籍関係なく互いの国に集い合っていた。祝勝祭の間も変わらず民は互いの国を、〝ハナズオ連合王国内〟を行き来していた。この後に待つ締めくくりを、今から待ち遠しく思いながら。
「ごめんなさい、アラン隊長、カラム隊長。折角のお祝いなのにお二人は楽しめなくて。」
私は背後を守ってくれている二人に改めてお詫びを言う。
さっきも一度謝ったけれど、折角のお祝いに近衛騎士任務中の二人だけお酒も飲めないのは本当に申し訳ない。この祝勝会が決まった時、アラン隊長とカラム隊長は自ら近衛騎士の任を申し出てくれた。アーサーも自分がやると言ってくれたけれど「良いから!お前は皆に思いっきり褒められて来い!」「酒の量だけは気をつけるように」と二人に送り出されていた。
「いえ、とんでもありません!それよりも足の方は本当に大丈夫ですか?」
「この後のダンスも、もしお加減が難しいようであれば…。」
首を横に振っては私のことを心配してくれる二人に笑みを返す。大丈夫です、と私からも言葉を返してから辺りを見回した。
さっきまで傍にいた筈のティアラやステイルも今は周囲の騎士や兵士、貴族と談笑している。二人とも私と同じく国王二人が用意させてくれた衣装のお陰で問題なくハナズオ連合王国にも溶け込んでいた。
騎士は皆、鎧姿のままだけれど酒を片手に見事に兵士の方々と意気投合している。やはり同じ死地を戦い抜いた仲だからだろうか、戦士同士の国境の壁が無に等しい。
アーサーを目で探すと、他の騎士の人達に囲まれて何やら凄く褒められている様子だった。照れたように顔を赤くしながら必死に手を振って謙遜している。まだ詳しくは聞けてないけれど、きっと最前線でも凄い活躍だったのだろうなと改めて思う。
足が治ったことだし、同盟を直接結んだサーシス王国で祝勝会をとも話が上がったけれど、結局は長いこと滞在させてもらったチャイネンシス王国の方に参加させて貰うことになった。ランス国王からも「アレを終え次第、私からもチャイネンシス王国へ挨拶に伺いますので」と言って貰えた。さらにはサーシス王国の民へ私からの挨拶も「国中にプライド第一王女殿下はチャイネンシス王国に滞在と伝えておりますので」と気遣ってくれ、本当に至れり尽くせりだ。…その為か、今も元怪我人の第一王女相手はハードルが高いからか、話しかけられないまでも四方からの視線が凄い熱いけれど。
最初のヨアン国王の乾杯のスピーチ前にも、私から一言挨拶をさせて貰ったけれど信じられないほど凄まじい反応だった。彼らにとって珍しい異国の人間というのも大きいのだろうけども、ヨアン国王曰く、私が血の誓いをしたことでチャイネンシス王国の人達に認めても貰えたらしい。
命を賭して国と国王を守った、ということでスピーチで民の前に出た途端に信じられない程の喝采を受けてしまった。割れんばかりの拍手喝采に、予想外過ぎて一瞬よろけてしまったほどに。
今までずっと姿を現さなかったことだし、下手したら無反応か罵声もあるのではないかとヒヤヒヤしていたのが恥ずかしくなったくらいに。中には「プライド様‼︎」「プライド第一王女殿下!」と早速名前で呼んでくれる民もいて嬉しかった。
ダンスは少し緊張するけれど、それより今はこの後のメインイベントが楽しみで仕方がない。そう思って、ふとヨアン国王の方に目を向けるとちょうど家臣達と一緒に席を外そうとする時だった。これは、まさか…!
「プライド様、そろそろお時間となります。」
来た‼︎
行きましょう、と声を掛けてくれた騎士団長に思わず背筋が伸びながら返事をする。今回、騎士団長も私達三人の護衛として付き添ってくれることになっている。
ステイルやティアラもそれに気づいたようにこちらを振り返ると、話を切り上げて私の方に早足で戻ってきてくれた。
「そろそろ時間ですね、姉君。」
「お姉様っ!楽しみですね!」
ステイルとティアラに応えながら、城の窓の外を眺めると私達以外にも次の場所へ向かおうと足を動かし始める人達がいた。
私達は馬車での移動だから良いけど、一般の人は徒歩だから今から向かわないと間に合わないだろう。広間内の騎士達もそれぞれ目的地に向かい足を運び始めた。騎士団長や近衛騎士を含める私達の護衛の騎士達がその背後に控えてくれた。
…と思ったら。
「…あ。…え、ええと…。…え?」
思わず戸惑って何度も周りを見回してしまう。
どう見ても予定よりも護衛の騎士が多い。殆ど全員の騎士が私とティアラ、そしてステイルを囲むようにして歩いてくれている。説明を求めるように騎士団長に視線を向けると、長い溜息を吐いた後に騎士団長は頭を掻いた。
「…全員、馬車までプライド様、ステイル様、ティアラ様を護衛したいそうです。」
申し訳ありません、と謝ってくれながら今回は騎士団長も騎士達を窘める様子はない。
任じられていないにも関わらず、わざわざ私達の護衛を買って出てくれるなんてと驚きながら私は改めて騎士達を見回す。皆、既に少しお酒が入っているのか顔が火照ったり、無性にキラキラした目をしていた。折角の無礼講なのに、こうして私達のことを心配してくれるのが嬉しくて、最後はティアラと一緒に顔を見合わせて笑ってしまう。
「…ありがとうございます、騎士の皆様。とても嬉しいわ。」
ティアラ、ステイルと一緒にちゃんと騎士へ向き直って笑い掛ける。私達のもともとの護衛騎士の一歩背後に綺麗に並び、目を向けてくれる騎士達の顔が更に赤らんだ。そういえば、彼らはティアラの笑顔を至近距離で直撃したのは初めてかもしれない。
「行きましょう、姉君。」
「お姉様!」
二人に両側から手を取られ、改めて馬車まで歩き出す。二人もきっとこの後のイベントが楽しみなのだろう。私と一緒に歩き、前を向くだけですでに溢れるような笑顔だった。
楽しみなのは私も同じだ。フリージア王国では全くなかったことだし、前世でもこの目にしたことはないイベントだった。ここまで来たら絶対に一目みたいと思ってしまう。
この、歴史に残る瞬間を。