304.副隊長は得る。
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼︎‼︎
まるで津波のように、勝利を報せる騎士の鬨の声は北方の最前線に轟いた。その声と、更に見る見るうちに武器を落として膝をつく敵兵の姿に、ロデリック達を見送った三番隊、四番隊を含む騎士達もまたその鬨の声と同じように剣を掲げて天に吼えた。
「ッ聞こえますか⁈我が軍の勝利です!防衛戦が終わりましたよ‼︎」
七番隊の騎士が咆哮の中、最後衛に下げられた騎士へと声を上げる。自分の声が届くようにと喉を張り、その騎士の肩を揺らせないことを歯痒そうに手を惑わせた。
すると、また別の七番隊の騎士が同じように声を弾ませ報告にと駆け込んできた。
「御報告です‼︎我が騎士団の勝利です‼︎敵兵は戦意喪失、最前線へ突入した騎士団長とアーサー副隊長、そして」
「聞こえてるよ…。」
倒れ込んだまま、薄く開いた目を隠すように両目を手の甲で覆った騎士が初めて言葉を放った。微睡んでいるようにも聞こえるその声で彼らに答えた後、騎士はその口元を綻ばせた。
「良かったなぁ…アーサー。」
言葉が話せない状態でも、ひたすら騎士団の報告だけは耳に届いていた。ロデリックが一番隊二番隊、そしてアーサーと共に突入したことも、ちゃんと彼は知っていた。
「エリック副隊長‼︎御体調の方はいかがでしょうか⁈」
傷は一時的には塞がりましたが、と続ける騎士にエリックは片手を上げて応えた。
弾を取り除かれた時は激痛で死ぬかと思ったが、その後は怪我治療の特殊能力者のお陰で血も止まったし、何とか意識だけは保っていられた。戦線復帰できなかったことだけが死ぬほど悔しかったが、一命を取り留めてくれた七番隊には感謝しかない。
…アラン隊長、怒るかなぁ。
終わった、と思った瞬間に気が抜けて下らないことを考えてしまう。折角一番隊を預かったのに、最終局面まで行けずに途中退場なんて一番隊の副隊長としては良い恥だと自分で自分を叱咤した。
エリックが会話ができることに気づいた騎士達が次々と集まり、彼の体調はと覗き込む。「御存命で何よりです」「あの場で騎士団長を守れるとは」「流石です」「エリック副隊長のお陰で騎士団の勝利です」「きっとアラン隊長も喜ばれるでしょう」「流石一番隊副隊長です」と口々に声を掛けられ、最後には七番隊の騎士隊長に「よくやった。今は休め」と労われてしまい、思わず苦笑いを浮かべた。
「エリック副隊長、傷の方ですが痕はいかが致しましょう?」
笑みを浮かべたエリックを見て、大分回復したと判断した七番隊の騎士が声をかける。彼らの特殊能力で、銃弾程度の傷なら最終的には跡形もなく消すこともできる。だが、騎士団長を守った勲章だ。本人に聞かず、治療者の一存のみで簡単に消すのは憚られた。
「ああ、残してくれ。…なるべく、はっきりと。」
ありがとな、と軽く柔らかい笑みで返しながらエリックはそっと自分の脇腹を包帯越しに触れた。
己への戒めと、彼にとって何にも勝る勲章に。
「……雪辱…果たせた、か…?」
俺も、アーサーも。と、今度は頭の中で留まらず言葉に漏れた。
返事なんて、返ってくる筈もない。
答えなんて、誰からも貰えない。
そんなことは百も承知で、つい口にしてしまう。当然、何もわからない騎士達は揃って聞き返しては目を丸くした。独り言だ、と今度こそ心から笑って返すと、そのままエリックは一度意識的に目を閉じた。
返事も答えも望めない。ただ、一つ断言できるのは
六年前の自分が、欲しくて欲しくて堪らなかった勲章を今、彼は確かに手に入れた。
76.5