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フリージア王国備忘録<第一部>  作者: 天壱
冒瀆王女と戦争
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295.貿易王子は尋ねる。


「…さて、と。サーシス王国の国門はこれで終わりかな。」


コキ、コキと腕ごと肩を回しながらレオンは一人呟いた。残り一弾しかないバズーカ砲を抱えながら、周囲を見回す。



更地となった、元敵軍本陣を踏み付けて。



振り返れば、サーシス王国の国門にあれほどいた敵兵が誰一人として立ってはいなかった。中には形容しがたい状態に成り果てた者もいた。彼らを一人で壊滅に追いやったレオンだけが、そこに凛然と佇んでいた。


「…騎士の皆、大丈夫かな。」

彼らと別れた国門へと歩み寄りながら、目を凝らす。遠目で見たところ、敵兵の骸の先に確かに人影があった。

その姿を捉え、ほっとレオンは顔を綻ばす。そのまま愛しい愛しい自国の民の無事に胸を灯らせた。

タンタンタン、と早足で彼らの元へと駆けて行く。距離が近づくにつれ、自分に気づいた騎士達がレオン様、と口々に声を上げた。片手で応え、騎士達の方からもレオンへと駆け寄った。「御無事で何よりです」「お怪我はありませんか」とその一言一言に答えながら、彼らにも近況を尋ねた。各拠点から受けた報告も入れて、全てを事細かく。そしてその最後の報告を聞き終えた後、レオンは小さく頷き、口を開く。



「…では、サーシス城の本陣に、通信を願います。」



フリージア王国から派遣された、通信兵にそう告げた。


……


「お待たせ致しました、レオン王子殿下。」


この度は御助力感謝致します、と続けながらジルベールは映像への視点に頭を下げた。

映像の中のレオンもそれに答えながら、ジルベールに向けて礼をする。


『御無沙汰しております、ジルベール宰相。手短に伝えますと、サーシス王国の国門は防衛完了しました。手が空いたので、他の陣営にも援助可能です。…そこで、なのですが。』

一度言葉を切り、映像越しにジルベールの顔色を窺うように目を細める彼は、少し溜めてから再び言葉を続けた。


『こちらに受けた報告から察するに、今一番助力が必要なのはそちらのサーシス王国城陣営、もしくは人数的警備の薄いチャイネンシス王国城陣営と存じます。』

にこやかに事実を語るレオンに、ジルベールは少し困ったように眉を垂らす。手厳しいですね、と軽く返しながらもレオンのその冷静な判断に感心もした。

続くようにレオンから、そちらの現状をお聞かせ願えますでしょうか。と求められ、ジルベールは舌を動かした。


「今は騎士と兵士が健闘し、城内に入り込まれるまでは至っておりませんが…騎士が塞いだ城の扉を押し上げ、破壊しようと敵兵が挙っているのが現状です。他陣営の活躍で、城に雪崩れ込もうとする敵兵の増加は止まりましたが、既に城前に挙る敵兵に関しては今は遠方からの攻撃以外手をつけてはおりません。」

城を落とさせないことが最優先ですので、と続けるジルベールの言葉にレオンも頷く。今回はあくまで防衛戦。敵を倒す為に他の警備を薄くしたり城の騎士兵士の出入りを増やすことよりも、大事なのは城という名の本陣を守り抜くことだ。


『流石です。…そこで、貴方にお伝えすることがあります。先ず、僕らアネモネの戦力ですがー…』

レオンは滑らかな笑みと共に今度は自軍の状況を説明する。今現在、手にある武器で使用可能な物が何割か、更に船にはどれほどあるか、そして動かせる騎士の数。その必要な情報だけを選び抜いてジルベールに伝えた。

レオンの話を全て聞き続けたジルベールは、次第にその目を見開いた。たったその極少人数で城門を守り通したこともそうだが、その武力。更にはレオンのみが可能だという全ての武器、中には恐ろしく強大な威力のものもあった。

たった数年で何とも恐ろしい国に成長したものだとジルベールは思う。しかも特に急成長したのはこの一年。アネモネ王国の次期国王としてのレオンの評判はジルベールも耳にしてはいたが、噂以上の御人だと思い知らされた。


『…それで、これを前提としてお聞かせ頂けますか、ジルベール宰相。僕らアネモネは、〝どう動きましょうか〟』


説明を終え、にこりと笑うレオンにジルベールは思わず一瞬表情を固めた。数秒躊躇ってから、やっと口を開く。


「…何故、アネモネ王国の第一王子殿下が、宰相である私に指示を仰がれるのでしょうか。」

確かに、ここで戦況を最も把握しているのは己であるという自負はある。だが、仮にも第一王子が自ら他国の宰相に指示を求めるなど。

こちらから各本陣に助言をすることは確かにあるが、まさか真っ向から指示を求められるなどジルベールにとっても想定外だった。


『プライドとステイル王子、ティアラからも伺っていますから。人を動かすのにジルベール宰相ほど優れた方はいないと。』

滑らかな笑みも崩さず問いに答えるレオンに、またジルベールは虚をつかれた。まさか、そのような話をされていたとは、と。しかもプライドやティアラだけでなくステイルまでその名に入っていたのだから。

ジルベールが何か言葉を返さねばと思考だけを巡らせていると突然、今度は映像の中のレオンが『あ』と声を漏らした。見れば、映像とも視点とも違う遠い報告に目を向けた彼は、『すみません、すぐ戻ります』と声を掛けると一度、映像から姿を消した。





…直後。凄まじい轟音が映像から響き、更にジルベールは目を丸くした。


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