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フリージア王国備忘録<第一部>  作者: 天壱
冒瀆王女と戦争
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293.義弟は踏み込む。


「行けぇ‼︎サーシス王国を踏み潰せ‼︎」


サーシス王国、南方。

国壁向こうから既にかなりの数の敵兵が国内にまで足を踏み入れていた。

先程の味方軍すら巻き込んだ爆撃と、城南棟の崩落により一度は勢いの弱まった敵兵だが自軍に被害が出たにせよ、サーシス王国に打撃を与えられたことは大きかった。

武器を取り南方から城へ、城下へと駆け降りる。チャイネンシス王国の防衛で警備が薄れ、更には一部棟まで崩落したサーシス王国など格好の餌食でしかない。



「……と、思ったのならば大間違いだ。」



突如として、敵兵の目の前に新たな軍が姿を現した。

真っ白な団服を翻し、一瞬で勢いを増そうとする敵兵へ統率された動きで攻め上がる。突然の騎士隊の出現に驚き、怯む敵兵を容赦なく斬り伏せていく。態勢を立て直そうと剣を握り、騎士へと斬りかかる敵兵もいるが、実力だけでいえば敵兵の中に騎士相手に一対一で勝てる者など一人も居ない。奇襲ともいえる騎士隊の出現と突然の攻撃にまともな反撃などできる筈もなく、数の有利が全く機能しない。

騎士隊を率いる彼は、眼鏡の黒縁を指先で押さえながら冷静に盤上を見定めた。


「…やはりジルベールの見立て通り、嵩を増しただけの兵か。」

まともな戦闘訓練も受けていない奴隷に武器や鎧を持たせるなど囮以外では愚策でしかない、と呆れたように呟くステイルはそのまま右手を掲げ、騎士隊に更なる指示を放った。


「背後にも注意しろ!既に北上した敵兵が引き返してくる恐れもある‼︎上空も常に確認を!また正体不明の爆撃があれば即刻各自撤退しろ‼︎」

僕を守る必要はない、と。いつもの彼らへの話し方とは違う雄雄しい口ぶりに、騎士達も張り詰めた声でそれに答えた。


「プライド第一王女に勝利を捧げよ‼︎」

おおっ‼︎と再び声を上げる騎士達から更に闘志が湧き上がる。応じるように騎士一人で何人もの敵兵を討ち倒し更に前へ前へと一歩一歩踏み込んでいく。せめて一矢報いようとする敵兵が彼らを統率するステイルへ銃口や刃を向けたが、その隙を見せた途端に全く別の角度から騎士の銃撃を受け、無力化された。

騎士隊の人数自体は大したことはない。だが、それでも多過ぎると錯覚するほどに少数精鋭の騎士達は恐ろしく隙も無駄もない、的確な動きだった。

押し退けようと思えば、出出しを挫くように先頭の兵士が予想外の方向から狙撃され、全体が足を詰まらせた。

少し引こうと防御に身を屈めれば、そこを追い詰めるように容赦なく騎士達は前へ前へと直接敵兵を斬り伏せ、数を減らしていった。

更には一方からではない。騎士隊が少ない数であるにも関わらず、その数倍以上の人数である敵兵は確実に包囲されていた。まるで見えない壁に囲まれたようにそれ以上先には進めず、じわりじわりと南下させられ、先頭の兵士から順に騎士の手により無力化されていく。


「そのまま焦らず斬り詰めろ‼︎策も統率も知らぬ兵士など我らの敵ではない‼︎」


己を餌にし、騎士に敵兵の隙をつかせながら馬上で盤を完全に掌握するステイルは、熱の込められた指揮とは裏腹に冷たい眼差しで敵兵を見下ろした。


「武器を握らせ歩くだけならば誰でもできる。知識と技術、そして統率を取るからこその〝兵士〟と〝騎士〟だ。」

…奴隷となって無理矢理戦場に立たされる彼らに、恨みはない。むしろ酷だと思うし、戦う覚悟も能力もない人間を使い捨てる敵国には怒りも覚える。だがそれ以上に




プライドをあんな目に遭わせた連中全員に殺意が湧いた。




勿論、自分も含めて。

彼女を傷付けた要因その全てへ憤りすらも通り越す。

そして今、怪我治療の特殊能力者の治療を受けたとはいえ一刻も早く休ませるべき彼女が未だ戦場に身を置いている。

彼女に危険を及ぼす可能性のあるものは全て討滅する。

彼女の望みを邪魔する者は全て打ち伏せる。

そうしないと自分の気が収まらない。


「ステイル様!南部の壁が見えました‼︎」

騎士の声で顔を上げる。特殊能力で建物の壁面を垂直に駆け上がった騎士が、その場から敵兵の遥か後方を指で指し示した。どうやら彼処からならば見えるらしい。周囲の騎士達にこの後の指示と一時的な指揮を任せ、俺は報告してくれた騎士の方へと目を向け、能力を使う。


「…ここからか。」

瞬間移動で、視界に入った位置へと移る。壁に垂直に立つ特殊能力を持つ騎士が、そのまま落下の寸前の俺の腕を掴み、落ちないように片腕で持ち上げてくれた。礼を言いつつ、壁に足を掛けた態勢で騎士が先程指し示していた方向へと目を向ける。

少し遠目ではあるが、確かに国璧が破壊された場所が目に入った。…ギリギリ射程範囲内といったところか。


「…このまま、護衛という形で貴方にも同行願えますか。」

視線をそのままに、俺の腕を掴み上げる騎士へ尋ねれば、すぐに返事が返ってきた。彼の顔を確認し、確か最近本隊に上がった騎士だったかと思い出す。まぁ新兵上がりとはいえ、今はアーサーと同じ本隊騎士の一人。問題はないだろう。

騎士の手を握り返し、俺は瞬間移動で破壊された国壁まで移動する。

分厚い壁の上へと着地し、敵兵群を見下ろしながら今度はその最後尾へ目を向ける。…まだそれなりの数が控えてはいるらしい。だが、国内に侵攻が適っていない連中まで相手にしてやる必要はない。この国壁の内側にいる兵のみ殲滅し、外側は入ってこれなくすればそれで良い。


「…先ずは、国外から行きます。」

念の為に僕から離れないまま護衛をと伝え、騎士と共に先ずは国壁の外壁へ降りることにする。直接地面に降りたかったが、敵兵が所狭しと詰まっていた為、奴らの頭上に瞬間移動し、そのまま敵兵を踏み付ける。ぎゃあッ⁉︎という悲鳴と共に踏台が顔を上げた。

「ッなんだ‼︎何処から降ってきやがった⁉︎」

俺に踏まれた敵兵の隣に並んでいた男が驚き、声を荒げる。俺はそのまま



剣でその喉元を切り裂いた。



…やはり、遅い。

喉から血を噴出す敵兵を返す剣で突き倒しながら、更に奥へ奥へと突き進む。背後を騎士に任せ、正面から剣を振ってくる兵士の一閃を自分の剣でいなし、弾き、無力化させることよりも一歩でも前に道を切り開かせることを優先し押し通る。


どいつもこいつも弱過ぎる。アーサーとは比べ物にならない。


まぁ、所詮は訓練も受けていない見せかけの兵士。むしろ比べてはアーサーに失礼か。

思い直し、ひたすら敵の攻撃を避け、いなし、弾いて進む。背中を騎士が守ってくれているのを確認しつつ進めば、途中で誰かが痺れを切らせたか、カチャリと金具の音がした。背後の騎士からも「ッ来ます!」と声が聞こえた途端


瞬間移動で騎士と共に二メートル程上空に移動する。


同時にパンッパン‼︎と銃声が響き、敵兵の叫び声が聞こえた。味方が密集している中で発砲すれば当然だ。上空からそのまま再び落下し、敵兵を踏みつけながら更に前へと押し進む。

敵の攻撃をいなし、避け、受けては弾き、そして短い瞬間移動で追い詰められる前に背後や頭上を取る。剣での実践は殆ど初めてだったが他愛もない。


「…まぁ、このくらいで充分でしょう。」

もうかなり敵兵の最後尾へと近づいた頃。騎士に言葉を掛け、先程の国壁の上へと瞬間移動で戻った。

お怪我はありませんか、と騎士に気遣われるが全く問題はない。騎士の方こそと心配になったが、彼も俺と同じく怪我はない。やはり単なる兵士もどき相手では、いくら束になろうと敵ではなかった。俺の実力というよりも敵兵が弱かっただけだと、慢心しないように改めて自分自身に言い聞かす。

次に、同じように今度は国璧から反対側の国内の方を見下ろし、瞬間移動で降りて同じように敵兵を踏みつけた。今度は侵攻する必要もない、そのまま周囲の敵を斬り伏せながら地面に足を付けたところですぐに俺は瞬間移動をした。







サーシス王国の港に停泊中の、アネモネ王国の船へと。






…これで、下準備は整った。


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