270.義弟は改める。
…本当に…学習しないな俺は。
プライドの元へ送る騎士達を次々と瞬間移動させながら、眉間に皺を寄せたい気持ちを必死に抑える。
プライドの傷を負った姿が目に入った途端、気が動転してしまった。
傷を負った彼女の姿に胸が詰まり、視界が暗くなって点滅し、歪んだ。最初に頭を過ぎったのは「近衛騎士がついていながら何故」という、的外れな憤りだった。
早くフリージア王国に、医者に、やはりアーサー以外に任せるべきではなかった、今すぐアーサーを、俺のせいで、俺が居なかったから、アーサーに任されたのに、何故、誰がこんなことをと。負の感情が醜く混ざり合い、息をすることすら困難だった。
更にセドリック王子の言葉を真に受け、怒りを感情のままにぶつけようとまでしてしまった。まさかジルベールの時と同じような醜態をこんなところでプライドや騎士達の前に晒してしまうとは。
…守ると、言ったのに。
俺自身、誰に向けて零した言葉かわからない。
俺も、アーサーも、…カラム隊長もアラン隊長もエリック副隊長もプライドを守ると言葉に誓い、…そして我が国の多くの騎士もまた心にそれを誓った筈だった。
なのに、守れなかった。
もし、傷が痕に残ったら。…それだけでも大ごとだ。本来ならば今すぐフリージア王国に俺が特殊能力で強制帰還させたところで誰も咎めはしないだろう。
だが、彼女の望む道を俺のエゴで歪めるわけにはいかない。
「……プライドの望みならば。」
また、気がつくと口から溢れた。
小さく息のように吐かれた言葉は幸いにも騎士にも届かなかったようだ。俺に聞き返す騎士に笑みで返し、彼もまた城へと瞬間移動させる。
プライドは信頼してくれた、この俺を。
俺が補佐として、彼女の意を汲むと。だから俺をあの場に呼んでくれた。
きっと、プライドならば俺が母上の意思通りにフリージア王国へ帰還させたがるのも、…それに自身が抵抗できないこともわかっていた。
それでも俺を呼び、一番に己が身に起こった禍言を知らせてくれた。
両脚が動かないという危難に、この俺を呼んでくれた。
彼女が望むなら、何でもしてみせる。
彼女が願うなら、何でも叶えてみせる。
その為にならば
俺は、何度でも。