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フリージア王国備忘録<第一部>  作者: 天壱
冒瀆王女と戦争
294/877

246.貿易王子は誇る。


サーシス王国国門前


「いけぇぇえええっ‼︎‼︎城下は後だ!先に城を落とせ‼︎」

「邪魔な者は全て殺せ‼︎」

「数で押せ‼︎押し潰せ‼︎」


アラタ王国軍が破壊した国門から次々と侵攻し続けていた。国門を過ぎ、城下街まで侵攻を続ければ、そこから先を守るフリージア王国騎士団やサーシス王国兵士がそれを押し留めていた。九割の敵軍を城に辿り着く前に無力化できたのは、ステイルにより瞬間移動で援軍に駆け付けた騎士が増援したことが大きかった。だが、その数倍の人数が雪崩れ込んでいる国門までは防衛が届かず、ひたすら増している侵攻軍を果てもなく無力化し続けるので手一杯なのが現状でもあった。国門からは立て続けに今もアラタ王国軍が次々と阻む者もなく侵攻を


ドッガァァァアアアアアアアアッッ‼︎‼︎


…突然、地響きと共に轟音と煙が上がった。

国門を今にも潜ろうとした敵軍が一瞬で吹き飛び、今まで滞りなく進んでいた道に攻撃を受けたことで一時的に敵軍の足が緩む。


「っと…結構思ったより敵が多いな、それに負傷者も。アラタ王国全軍がここから侵攻、といったところかな。」


誰もの足が緩んだ中、蒼い髪の青年だけが怖じける様子もなく騎士を連れて国門へ歩みを進めていた。背後に連れる騎士はたった数十名。あまりにも少な過ぎる小編成だった。彼らが守るようにして馬に引かせる荷車だけが、異様な大きさと規模を誇っていた。だが、それでもたかだか数十名の騎士では、国門を埋め尽くしても余る敵軍には滑稽でしかない。更に言えばその騎士は特殊能力を持つ強国フリージアの騎士ですらないのだから。

敵軍が緩めた足が、邪魔するなと言わんばかりに自分達を遮ろうとする彼らに向けられた。彼等など敵にすら入らないかのように再び城へと駆け出す兵士もいる。その中、騎士達を引き連れてきた青年は落ち着いた様子で団服の内側から二、三個金属製の小さな固まりを取り出し、その



手榴弾のピンを抜き、敵軍へと放った。



先程とまた違った激しい破裂音、そして敵軍の叫び声が響きわたり、いとも簡単に先程まで再び駆け出そうとしていた敵軍が無力化された。一つは発煙手榴弾だったため煙が激しく、視界の悪さから更に敵軍は緩めた足を今度こそ完全に停止させた。


「駄目だよ、それ以上は。」


穏やかに語るレオンの声は、完全に戦を前に怒号を響かせる敵軍には異質だった。そのまま様子を窺う敵軍の前へ、優雅に歩みを進め、とうとう破壊された国門の中央までその足を進めた。

まるで立ち塞がるようにポツンと中央だけがレオンと騎士隊に妨げられた。だが、当然それで全てを防げた訳ではない。レオン達を正面から踏み進めなくても左右に分かれれば容易にそのままサーシス国内に侵攻はできる。だが、先程の見たことのない爆発物に誰もが容易に攻め入ろうとはしなかった。


「全体、包囲。」


騎士団にだけ聞こえる程度の声で、レオンが命じた。

陣形の整った彼等は、荷車とそしてレオンを中心に包囲するようにして広がり、花が開くように外側へと己が武器を構えた。ガチャン、ガチャン、と異様な金属音が響き、敵軍が何のつもりかと誰もが眼を見張った。その変わった形の銃をいくら撃たれようとも、撃つ人数がたかが知れている。今、様子を窺う為に足を止めている大軍全員が銃を一発ずつ放てば数秒で片がつく。だが、レオンが見せびらかすように手に持つ小さな金属の塊に敵軍はそれすらも躊躇わされた。

数発の銃よりも、どのような理由で爆発するかもわからない爆発物の方が彼等にはよっぽど恐ろしかった。

その間もレオンはピンを抜く様子はなく、手の中の手榴弾をそのままに、反対の手で白く長い五本の指先を真っ直ぐと自分達が立ち塞がる国門の左右へと広げた。

「第一は、国門の境界線周辺敵軍。……開始。」



躊躇いの無い翡翠色の瞳が怪しく光った。



ズダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ‼︎と連続する銃撃音が、けたたましく鳴り響く。

たった一発だけではない、数秒に何十何百もの銃弾が敵軍を襲った。

ぎゃあ⁈ぐあ‼︎とあまりに一瞬のことに反応も出来ず、馬が、敵兵が身体中に穴を空けて倒れていく。

あり得ない、なんだあれはと、後続の敵兵が思わず声を上げた。彼らの常識ではあり得ない武器が、そこにはあった。

銃は一度に放てる弾は一発。更にはその飛距離もたかが知れている。なのに目の前の敵の銃は一度に何発も放ち、更には威力や飛距離も段違いだった。その上やっと銃弾が切れたかと思えば円状となった騎士達がその場で回転するようにして緩やかに配置を変えた。既に装填された機関銃が再び連続して放たれる。

目の前の騎士達全員が手に撃つそれが、機関銃という武器であることを彼らは誰一人知らない。少なくともこの大陸で知っているのはアネモネ王国くらいのものだろう。世界中の様々な国の商品を扱ってきた彼らだからこそ手にできた、最新鋭の武器の一つなのだから。

あっという間にサーシス王国の国門が、赤い線でも引いたかのように無力化された敵軍で埋め尽くされた。

目の前の惨状に、後続の誰もが息を飲んだ。その間にも本陣からサーシス国内を目指す最後続の敵軍が後ろに詰まり、早く進めと声を荒げてくる。

敵兵の一人が、他の兵に隠れるように手の中の銃をレオンへと照準を定めた。司令塔である彼をまず消せば、こちらに流れを戻せると考えた。そのまま引き金を引き、銃口が火を吹いた瞬間



首を軽く傾け、レオンはそれを避けた。



全く違う方向に視線を移していたにも関わらず、彼は驚きもせずそれを避けた。更には目だけで自分を撃った方向を確認すると、躊躇いなく自分を囲む騎士達に命じて狙撃犯ごとその周囲に再び機関銃を放たせた。

連続する銃撃音に完全に辺りの敵軍が沈黙する。


「第二に移行。配置。」


レオンの合図で荷車の傍に控えていた騎士が、今度は円盤の形をした鉄の塊を何十も荷車から取り出した。最初にレオンがそれを一つだけ受け取ると、何やらガチャリと円盤を弄った後、自分を囲む騎士達の間を縫うようにして円盤を縦に勢いよく転がした。先程のようにすぐに爆発はせず、転がったまま敵軍の方へと近づく円盤が、パタリとその目の前で倒れた。単なる鉄の塊かと、敵軍の一人がそれを蹴り飛ばそうと足で一度踏みつけた瞬間



ドガンッと、低い爆音と共に周囲一帯が破裂した。



先程の手榴弾よりも範囲は広くないが、その分威力が激しいそれに、敵軍が狼狽え悲鳴を上げた。


「どうやって爆発するか、わかる人はいるかな。」

レオンが独り言のように呟いた後、また合図を送る。すると、機関銃を構える騎士達の背後から、別の騎士が手の中の地雷を次々と国門周辺へと放り出した。

地面を走らせるようにして転がし、敵軍の手前やその合間を縫って兵士の間に地雷が倒れ、設置されていく。次々と数十以上の地雷が敵の目前、その合間に設置され、彼らはどうやって爆発するのか、触って良いのか、いつ爆発するのかも何も分からないまま地雷から避けるようにその足を国外へと引いていった。


「待機と迎撃。…じゃあ、ちょっと行ってきます。」


騎士達に命じると、レオンはまた巨大な武器を今度は自分で背負い、そのまま機関銃によって守られた囲いから自ら足を踏み出した。

腰の剣を片手で握り、もう片腕も自由なようにと背中で軽く背負うような形でその武器を運び出す。「お気をつけ下さい!」と騎士達に声をかけられ、レオンは滑らかな笑みでそれに返した。そのまま、単身で敵軍が並ぶ国門奥へと足を運んでいく。

地雷に警戒し、距離をとる兵士達の間を抜け、誰もが恐る地雷を足だけで避け、跨ぎ、地雷を辿るようにして真っ直ぐに進んでいく。踏んだりしなければ爆発することがないことを敵軍は誰も知らないのだと改めてレオンは確信した。


敵兵は平然と自分達の間を縫って歩き、逆流するように国外へと足を進める優男に困惑した。

自分達の間に入る、ということは先程の連続射撃の的にも、そして自分達の剣や銃の的にもなり得るということだ。しかも、司令官らしき振る舞いをしていたレオンに例えここで剣を振るい、銃を撃ち込んでも騎士達は先程のように機関銃を放つことができない。今、その周辺に放てば間違いなくレオンまでも例外なく蜂の巣にしてしまうのだから。

だが、機関銃の脅威に晒されず済んだレオン周囲の敵兵達も安易にそこで立ち塞がろうとはしなかった。

その堂々としたレオンの振る舞い故か。それともその足元にある地雷がどうやって爆発するかを恐れた故か、またはレオンが背に担ぐ鉄の塊がどんな爆発物か恐れた故か、敵兵それぞれが互いの思惑に息も抑えて思考を巡らせた。


一体どうやって目の前の男を殺せば良いか、と。


「…ッ。…クソッ‼︎‼︎」

通り過ぎ際に、たかが一人の優男の侵攻など許してたまるものかと敵兵が剣を振り被った。呑気に歩むレオン目掛けて刃を振るい、鎧からはみ出した生身を勢いよく裂



ー く直前。彼の腰の剣がそれを見事に受け切った。



キィィィンッ!と短く金属音が響き、鞘から出された刃が最小限の動作で敵の剣を止め、逆に捻りあげるようにして落とし、更にその利き腕へ剣を突き刺した。


「良い判断だ。この密集地で撃ったら味方にも当たってしまうからね。」


ぎゃあああ‼︎と刺された男の悲鳴が皮切りとなり、レオンを囲む兵士達がそれぞれ剣を構えた。チャキッと剣を握り直す音がいくつも響き、今にもレオンを滅多刺しにしようと、誰もが剣を振り上げ駆け出した。

男達の殺気をまとめて受け、レオンは小さく「うわぁ」と気の抜けた声を漏らしつつも、身体を捻らす動作だけでその全てを読み切った。更には剣で受け、更には払い、肩や腕に一閃を走らせる。…敵兵が密集した、中で。


「王族の鉄則として…王、そして王となる者はこの手を血で汚してはならないとされている。」

独り言のように、レオンはその口を再び開き出す。その間にも四方から斬り込んでくる兵士を避け、斬り、更に前へ前へと進んでいく。


「処刑以外の理由で、私欲や私情で命を奪うような人間。…そんな穢れきった手で民を導くなんてできるわけがないからね。」

当然だ。そう続けながらもレオンは進む。密集した空間、最小限の動きと単身であるという身軽さを生かし、時には敵同士の相討ちすらも誘いながら。


「ただし、それが適応されない…処刑以外の理由で王となる者がその手を血に染めることが許されることが一つだけ…ある。」

敵兵が大きく振りかぶれば、タイミングを見計らってその場にしゃがみ込む。敵兵に振り下ろされた刃が行き場を失い、レオンの背後を狙っていた兵士を血に染めた。しゃがみ込んだ状態から、レオンは地雷の位置を一目で確認すると、軽く踵で安全な部分を狙って蹴り、自分の背後の兵士達の足元へと滑らせた。


ドガンッ、と破裂して自分の背後に粉塵が舞った。


「我が身を守る為などの緊急事態。王族を守る為、自身を守る為、そして…」


レオンが再び立ち上がった途端、大柄な兵士が力任せに己が大剣でレオンの剣を地面に叩き落した。カラァンッ、と剣が地面に鳴らされ、今度こそと兵士が剣を振り上げた途端


カチャリッ、と。

レオンの反対の手に隠されていた拳銃が、男の眉間を捉えた。






「戦争などに身を投じ、国の誇りが為に戦わねばならぬ時。…僕は喜んでこの手を血に染めよう。」







パァンッ‼︎と乾いた破裂音が、レオンの冷たい声の直後に放たれた。

頭から血を噴いて倒れこむ男を前に、レオンは落ち着いた様子で再び地に落ちた剣を拾った。今度は立ち上がらず、上半身を屈めたままに更に前へと駆け出していく。

兵士の鎧の隙間を縫うようにして剣を突き刺し、それに呻いた瞬間にすぐさま引き抜き、確実に更なる一閃を与えていく。前へ前へと突き進み、ある程度自分が味方の騎士団とも離れ、更には地雷だけを避けられ、敵兵に帰り道も埋め尽くされた状態になったことを顔だけ振り返って確認する。


「…悪いけど、僕の命を君達にはあげられないよ。」


不意に、殺気の渦の中心に閉じ込められたレオンが笑う。

滑らかに、静かに、…そして妖艶な笑みを彼らに向けた。再びレオンに全員で一斉に剣を振ろうとする敵兵を前に、彼は握っていた剣を腰の鞘へと戻した。

キンッ、と音がして剣が元の居場所へと収まる。


言葉に反し、とうとう観念したのかと思った途端、今度はレオンの左手の拳銃が数回、乾いた音と共に火を吹いた。その弾は確実に自分へ剣を振ろうとした男達の眉間に撃ち込まれていた。バタバタバタッ、とほぼ同時に至近距離にいた男達が反応する間も無く崩れて落ちていく。レオンは全て撃ち終わると、弾切れの拳銃を敵兵に見せつけるように宙へと放り捨てた。

今度こそ銃は無いと、倒れた男達の背後に控えていた敵兵が再び、レオンに飛び掛かろうと駆け出した瞬間




「何故なら僕の全ては、愛しきアネモネの物だから。」




バサァッ、とレオンの青い団服が飜る。マントのような衣服の内側には、ちらりと見えただけでも夥しい量の武器が備えられていた。

そして服の中に隠されていた中で一番大きな二丁の銃の内、一つを手に取った。

目に見えない早業で安全装置を解除し、敵兵が見覚えのあるその銃の形状に、急ぎ撤退を決めるよりも速く


ズダダダダダダダダダダダダダダダダダダッッ、と。再び敵の中心部でレオンの小型機関銃が火を噴いた。

ぎゃああああああああああ‼︎‼︎と叫び、一気に背中を向けて逃げ惑う敵兵に、レオンはくるりと自分を軸にして一回転するように四方八方へ撃ち続けた。急ぎ逃げ惑う敵兵の何人かが慌てて足元を見ずに地雷を踏み、更に二次被害を巻き起こした。


自分の前方どころか、後方にすら敵兵が捌けたのを確認し、レオンは機関銃を片手に更に前へ、国外へと駆け出した。


「…小型だし、こっちは未だ鎧までは貫通しないんだけどね。」

さっきの騎士隊の機関銃の威力を目の当たりにすれば、逃げ惑うのも仕方ないかと悪戯っぽくレオンは笑う。

むしろ自分から逃げる為にサーシス王国側へ走った方が、本来の威力を持つ騎士隊の機関銃に今度こそ鎧ごと貫通させられることになるのだと知りながら。


敵兵の群を抜けきると、サーシス王国外に構えていたアラタ王国の本陣らしき旗が目に付いた。

まだ大分控えていたらしい。ズラリと地平線のようにアラタ王国軍が並び、馬に乗り、武器を構えたままレオンを遠目から睨みつけていた。

自軍の侵攻が滞り始めた時点で、残りの兵は態勢を立て直す為に全員が一歩引いた場所で進撃の準備に備えていた。この大群ではレオンの小型機関銃だけで立ちはだかるのは難しいだろう。恐らく本陣は距離で言えば五百メートル程度といったところだろうか。

たった一人の男だけが自軍の大群から抜けてきたことに、まさか他にはいないのかと敵軍の誰もが訝しんだ。

銃を構えられ、弓を引かれ、敵軍の司令官が号令を出せばその全てがレオンに向けられるだろう。その状態で、レオンは使いかけの機関銃を落ち着いた動作で再び服の中へと戻した。そのまま流れるようにして、手榴弾に似た小ぶりのそれを手に取る。ピンを抜くと五百メートル先に居る敵軍に下手投げで軽く放った。力なく放られたそれは当然、五百メートルどころか、その前にすら届かずレオンと敵軍の間で破裂した。


ドッガァァァァァァァアッ‼︎と、最初よりも威力の少ないそれは、破裂した途端に大量の煙を放った。発煙弾が煙を放ち、敵軍からレオンが姿を消す。

爆弾の暴発か、それとも煙玉の一種かと敵軍が惑う間に、レオンは素早く背中に抱えていた武器を降ろし、準備した。ガチャガチャと常人ならばそれなりに時間のかかる準備工程を半分以下の時間で仕上げてしまう。そして発煙弾の煙が萎んだ頃には、全ての準備を終え、彼が構えた後だった。

煙が晴れ、敵軍がレオンの抱えるそれに驚き「撃て‼︎」と敵軍の指揮官が命じる前にレオンは









バズーカ砲を敵本陣へと撃ち放った。









ドォォォォオオオオオオオオンッッ‼︎‼︎と、唸る轟音の塊が勢いよく放たれ、弧を描くようにして敵軍背後の本陣を爆破した。

突然の爆風と自分達の本陣を木っ端微塵にした威力に、兵達は撃つことも忘れて勢いよく振り返る。本陣があった場所は、既に火の海だった。さらにそこからレオンへ振り返ろうすると、ちょうど二撃目のバズーカ砲が放たれた瞬間だった。今度は敵軍を跨がず、真っ直ぐに彼らへ向かいロケット砲が飛んでくる。




厚さ十センチの鉄板をも破る破壊の塊が、薄い鎧に包まれた敵軍へと襲いかかる。





ドォォォォオオオオオオオオンッッ‼︎‼︎





この世界の攻略対象者の一人。

その中でレオンは、心を病んだ〝元、完璧な王子〟…の筈だった。

勉学も、教養も、マナーも、王族の剣術も護身格闘術も彼に苦手なものなど存在しなかった。

そんな王子が心を病まず、貿易に力を入れ続けた。

その中で様々な武器も取り扱い、その複雑な照準方法や扱い、更には応用方法全てを網羅し、把握した。


数種類だけならば、常人でも訓練さえすれば扱える。現に、機関銃という武器ひとつに膨大な時間をかけて訓練し、実戦に使えるほどに洗練された騎士こそが今回レオンが同行を許した騎士達だった。

だが、アネモネ王国が取り扱う武器全てを一目見ただけで何の武器か、使用前、使用中、使用後にどのように扱うか、弱点は何か、良点は何か、どうすれば応用できるか。何よりも〝どうすれば一人で思い通りに扱えるか〟を完璧に把握し、扱うのは常人には不可能だ。ただでさえ、異国の武器は日毎にその種類も品も全く異なり、新しい物が増え、古い物や使えない武器は淘汰されていくのだから。


だが、その中で


自国が扱う数百以上の種類の武器全て把握し、その全てを完璧に自分の手足のように扱いきれる人間。輸入貿易として多くの武器を扱うアネモネ王国で、そんなことができるのはレオン一人だけだった。


〝輸入国〟として世界中の最新鋭の武器を常に集約する力を持ち


〝輸出国〟としてその武器の詳細や使い方を知り得る立場に立ち


客に希望の品を的確に提供する為に、実際にその全てを一度手に取り、実践の機会を得ることができ


その上で更にはその武器全てを数度試用しただけで、扱いにすら長けてしまえる能力を持つような人間は







この世界で、レオン一人だけだった。







世界有数の貿易大手国にして、今や大陸における圧倒的〝武力〟国。アネモネ王国。

大国フリージア王国の同盟国が今、その最大武力を惜しみなく披露する。


完璧なる次期国王、レオン・アドニス・コロナリアによって。



「さて、…まだ弾切れには程遠いかな。」



本陣を、そして整頓された大軍を。

たった一人の武力によって殆ど壊滅近くまで追いやられた敵兵達を前に、バズーカ砲を肩に軽く掲げながら。

レオンは一人小さく首を傾け、滑らかに笑みを広げて見せた。






「僕の愛しき国の力、もっと見たいかい?」






妖しくも眩い光を、その瞳に宿して。


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