216.男達は歯噛みする。
「ふざけるな!」
誰かが、最初に怒鳴った。
「なんで秀逸な人材がどいつも事を起こす前に捕らえられた⁈」
フリージア王国内、下級層の外れ。
密命を受け、フリージア王国に侵入した男の一人だった。
フリージア王国内に入り込むのすらかなりの労苦を強いられた。その上、城下町から王都では更に何人もの間者が内部に入る前に捕らえられた。
そして結局王都内に入り込めたのはたった極少人数の精鋭達だけだった。しかもその誰もがまともな武器は全て検問で捨てざるを得なかった。唯一運び込めたのは大量の爆薬のみ。それもその殆どが今は運び込もうとした男達と共に城の中へ没収されてしまった。
たった一日で人数は大幅に削られた。
ある者は、城への荷車に扮装したが城門を潜る前に拘束された。
ある者は、衛兵になりすましたというのに容易く見破られた。
ある者は、容易に疑いをかけられないようにと城を出入りすることの多い貴族になりすましたが、それでもやはり容易に捕らえられた。
更には本当の城の人間を操れば良いと思い、脅迫すればそれを逆手に捕らえられた。
残されたのは自分を入れてこの場にいる四人のみ。
フリージアは特殊能力を持つバケモノの国とは有名だった。だがたった一日で、城内に侵入を試みた全員が捕らえられるなどあり得ることだろうか。
「一体城の中にはどんな特殊能力者がっ、バケモノが潜んでる⁈」
ドンッ‼︎と強くテーブルを拳で叩き、怒鳴る。彼らに時間はない。十三日間の時間をかけて辿り着いたフリージア王国。そして彼らにはコペランディ王国と連絡を取る手段は無い。ただ、知っていることは自国であるコペランディ王国の進軍の日が早まり、それにフリージアが関わる可能性があるということだけだ。
だから、彼らは動かなければならない。せめてフリージア王国が万全の体制で動かないように何かしらの形で打撃を与えなければならない。特殊能力を持つバケモノ達がどのような方法で、十日はかかる道のりを突破してくるか予想もできない。
だが、フリージア王国に常識は通用しない。
それだけは、彼らにとって変えようのない真実だった。
馬車で門から乗り込む時も、侍女を脅迫した者が誘き出された時も、遠方からその様子を監視していた男によれば、どの時にも騎士や衛兵を従えている一人の男がその場には居たという。
薄水色の髪を揺らした、この国の宰相だ。
フリージア王国では特殊能力者の優秀な者や希少な能力者が上層部として城で働けるという。ならば、その男も恐ろしい特殊能力を持ち合わせているのだろう。心を読む能力などを持ち合わせていれば、ここまで容易に精鋭が見破られたのも合点がいく。
「城内が敵わないなら民家を落とせ。王族が無視できない程の被害を出せば城の守りは当然、兵を民の防衛に回さざるを得なくなる。」
男がそう言えば、目の前の二人の男が頷いた。それなら任せておけ、と自信満々に胸を張る。四六時中騎士や衛兵に守られている城と違って民家ならば守りも薄く、被害も出しやすい。ニマリ、と賤しい笑みを浮かべながら男達は去っていった。
これで良い。これで最悪でも仕事をしたことにはなる。武器をまともに持ち込めないこの国で、城を落とすだ騎士団に打撃を与えるだのは無理なことぐらい依頼人もわかっている筈だ。民家への無差別が上手くいけば、今度は範囲を広げてやれば良い。そうすればフリージア王国は援軍どころではなくなる。
男は一息ついて、椅子に腰かけた。ガタン、と椅子を鳴らして時間が経つのを待つ。
開戦の時はそこまで来ていると、そう確信しながら。