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フリージア王国備忘録<第一部>  作者: 天壱
非道王女と同盟交渉
251/877

209.宰相は読む。


ガラガラガラ…


男達は、ゆっくりと荷車を進ませた。

入国手続きを何とか済ませた彼らが更に向かった先はフリージア王国騎士団の演習場だ。

馬を進ませ、山のように積まれた荷を揺らしながら城まで進んで行く。


城が近づき、門兵と手続きを行う。


「中の荷は何だ。何処からの品だ。」

「フリージア王国の同盟国、アネモネ王国からの品です。レオン第一王子殿下より、急ぎの品とのことです。」

「そんな報告は来ていないが…。」

「急ぎ、とのことでしたので。必要ならばどうぞ女王陛下にご確認を。」


注意深くも、小川のようになだらかな問答がいくつか交わされる。急ぎの品、更には同盟国であるアネモネからの品だ。もし、緊急性の高いものならば女王に確認する時間すら惜しいのではないだろうか。衛兵が少し考え込み、その間も荷車の男達は笑みと共に「極秘とのことで、中身は我々も詳しくは知らされておりません」と説明をする。


「とにかく、暫くここで待つように。もう暫くはこの門に誰も通すなとの御命令だ。」

「我々は構いませんが…何度もお伝えします通り急ぎの品なので、もし何かあった場合は貴方の」



「おかしいですねぇ、そのような報告。この私ですら受けてはおりませんが。」



突然、問答の最中に割って入るように男の声が遮った。

振り向けば、にこやかに笑む薄水色の髪の男性が優雅に歩みながら荷車の男と衛兵を見比べている。

衛兵は急ぎ敬礼をすると「お待ちしておりました!」と声を上げた。衛兵の敬礼に笑顔で答えながら薄水色の男は「お待たせして申し訳ありません」と彼を労う。そのまま荷車の男を切れ長な眼差しでじっと見やる。


「アネモネ王国…ですか。この馬車、初めて見ますねぇ。新しいものでしょうか?…いえ、それにしては幾分汚れているようですが。」

ジロジロと見られ、不快そうに馬車の男達は顔を歪めた。

「…ああ、もしかしてプライド様への贈物でしょうか?」

実際、レオンからプライドへの贈物自体は珍しくもない。ふと、思いついたように声を弾ませる男に、馬車の男達は同時に頷いた。

「ええ、実はその通」


「おや?先程中身も知らないと仰っていた筈ですが。」


ザクリ、と切り捨てるように言い放つ男は笑みを崩さないまま彼らに首を捻った。馬車の男達が不穏を感じ取り、目で示し合わせるとそれに呼応するように薄水色の男は薄く笑った。


「まぁ、お遊びはこれぐらいにしましょう。…先に荷車の中身を拝見させて頂きます。」

「!構いませんが、これはレオン第一王子より極秘と仰せつかっております。安易に中身を検めるのは」

「御心配なく。私は既に女王陛下、王配殿下。そしてヴェスト摂政殿下より権限を頂いておりますので。」


また更に彼らの言葉を遮り、返す。

〝女王〟〝王配〟〝摂政〟…この国の最上位権力者の存在を出され、男達は目を丸くする。その間にも薄水色の男は衛兵に命じ、荷車の方へと回った。止める男達の制止も聞かず、荷車の中身を検めようと近づいていく。

「ックソ‼︎」

荷車の男の一人が飛び出す。そのまま懐に忍ばせていた銃を


バシンッ、と。


その瞬間、目の前の衛兵の槍によって男の腕が真っ直ぐに叩かれた。手が痛みと同時に痺れ、怯む隙に衛兵が首元に槍を突きつける。隣の男が判断より先に逃げようと馬車から飛び降りる。荷車の中身を確認しようとする兵士の背後を一瞬で通り抜けようとした瞬間


「動くな‼︎」


銃声よりも厳しい声と共に、荷車の背後から剣を構えた騎士達が立ち塞がった。男に真っ直ぐと剣先を向け、睨む騎士に男は喉仏をヒクつかせ、両手を挙げた。


「残念ですが、貴方方が門兵と問答を始めた時には既に、背後は騎士達が守っておりました。」


にこにこと笑いながら変わらず平然と語る男を荷車の男達が睨みつける。だが、それでも男の笑みは変わらない。むしろ、騎士や衛兵に取り抑えられた男の一人にゆっくりと歩み寄り、切れ長な目を開いて男の瞳を覗き込む。


「中身は何でしょうねぇ?まずは貴方を入れて確認して見ましょうか。…爆薬、毒物、お仲間。……爆薬。…あぁ、爆薬ですか。」

男の瞳孔の動きを確認しながら一つひとつ確認していく。最後に確信を持ち言い放つと、怪しげな笑みを釣り上げた。心を読まれたように当てられた男は、目を見開き白黒させる。

薄水色の男はそのまま中身を開けるかの判断を待つ衛兵に、火気にのみ気をつけるようにと指示をして確認を許した。荷物に刃を入れ、包みを剥がせば全てが火薬だった。恐らくは火をつけて爆発させるつもりだったのだろう。


「彼らは、何処に荷を?」

男達と問答を続けていた衛兵が「騎士団演習場と言っておりました」と答えると、成る程、と満足げに怪しげな笑みを男達に向けた。


「確かに。騎士団に大打撃を与えれば援軍も削げますから。…よかったですね?これからお目当ての騎士団演習場へ御招待しましょう。勿論、この荷は没収させて頂きますが。」

にこやかに微笑み、そのまま衛兵に命じて男達を連行させた。離せ!クソッ‼︎と喚きながら男達の声が遠のき段々と小さくなっていく。


「ジルベール宰相殿下、…彼らが仰られていた間者でしょうか。」

そっと、耳打ちする程度の音量で衛兵が尋ねる。ジルベールは「まぁ、恐らく」と軽い口調で肯定した。


「ですが、まだ終わりではないでしょう。これから更に来ると思うので、どうぞ宜しくお願いします。」

期待していますよ、と笑むと衛兵は恐縮したように敬礼をした。そのままジルベールは自分の目でも荷車の中身を確認すると、近くの衛兵にその処理を託した。更に騎士達には再び門の影に潜めるように指示を出す。


「さて、まさか戻ってきて早速釣れるとは。…では次は。」


仮にも王都までの警戒網を潜り抜けた者達。恐らく、同じ手をするとしても時間を開けてくるだろう。更には違う手段を考えてくる可能性もある。ならば。


「騎士団も、どうやら午前のプライド様の演説で士気が高まっているようですし、協力頂くとしましょうか。」


独り言のように呟きながら、ジルベールは城の中へと入っていく。先ずは王居の侍女や使用人から。この城内で働く全ての人間、更には出入りする上層部の人間。その全員と顔を合わせるべく彼は足を踏み出した。


「…鼠一匹、見過ごしてはやりませんよ。」


クッ、と噛み締めるように笑い、誰へでもなく一人呟いた。




フリージアに仇なす者全てを排する、その強固な意志と共に。


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