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フリージア王国備忘録<第一部>  作者: 天壱
非道王女と同盟交渉

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208.騎士は脈打つ。


…父上が、プライド様と共に高台へと登っていく。


カラム隊長と一緒にプライド様の背中を守り、クラークと一緒に二人の背後姿に目を奪われた。

風に揺られ、それでも上へ上へと登っていく父上も、プライド様も、すげぇ格好良くて。


…あれから、六年。


一度も忘れたことがねぇ、あの時のことは。

もう六年経ったことが信じられないほどに、あっという間だった。


俺はあと何度、この二人の英雄が並んで歩くところを見ることができるんだろう。


カン、カン、と階段が踏み鳴らされながら俺の心臓も高鳴った。

最後の一段、父上の次にプライド様が登りきる。俺達も続くように登り、父上とプライド様の背後に立った。


「お待ちしておりました、プライド・ロイヤル・アイビー第一王女殿下。」


じわり、と父上の言葉に鳥肌が立った。全身爪先から頭の先まで一気に震え、涙が滲みそうなのを必死に堪えた。


そうだ。俺は、俺達はずっと待っていた。

この時が来るのを、ずっと。


「女王陛下より我らが騎士団に勅令が下された‼︎」


父上の声が、高々に響き渡る。

プライド様の前に出て、騎士団長として威厳と覇気に満ちた声が空気に振動して俺の肌を震わせた。


「今から六日後!プライド第一王女殿下の指揮の元、ハナズオ連合王国の防衛戦にあたる‼︎任じられた騎士は速やかにそれに準じよ‼︎」


かっけぇ。

何度も、何度も、その背中を見る度に思う。

その声に、身を震わされる度に思う。





いつか俺も、と。





『まぁ、騎士団長くらいまで行けば満足してやっても良い』


…なりたい。


ステイルの言葉を思い出し、急激に胸が熱くなった。

まだ、俺には分不相応過ぎてとても口にはできねぇけど。

まだ、実力も能力も全てが足りていねぇけど。


〝まだ〟


でも、いつか。

俺も、父上みたいな騎士団長に。

父上の跡を継ぐに相応しい、立派な騎士に。


胸が熱すぎて、思わず拳で胸を鎧越しに押さえつけた。唇を噛んで堪え、前を向く。

父上が場所を譲るように数歩引き、入れ替わるようにプライド様がそこに立った。

真紅の波立つ髪がなびき、陽の光に当てられた。


「第一王女、プライド・ロイヤル・アイビーです。」


その声は、凛としながらも少し震えていた。

あんだけ大勢の騎士を前に、緊張しているのか。それでもプライド様は足を踏み締め、胸を張ると今度はさっきよりも張りのある、熱を帯びた声を響き渡らせた。


「ッこの度、…我が同盟国となるであろうハナズオ連合王国が、我々の力を必要としています。」


〝我々〟と。プライド様が言ってくれた。まるでプライド様と、俺達騎士が一つであるかのように。


「私は、ハナズオ連合王国に行きます…‼︎多くの民を守る為に、どうか誇り高き貴方達の力を貸して下さい‼︎私をっ…」


張り上げた声が、一度詰まった。

背中から、大きく息を吸い上げ、その細い体を目一杯膨らませているのがわかる。

何を言おうとしているのか、全く見当もつかなかった。ただ、ひたすらに騎士達へ向けて前を向くその人の背中は六年前と変わらず美しかった。

吸い上げ終えた身体と共に、プライド様が顔を上げた。更に向こうに、奥まで並ぶ騎士達にも、その声が届くように。

そして、高々にその灼熱の声が放たれた。









「ッ私を‼︎助けて下さい‼︎‼︎」










次の瞬間。

空間全てを貫くような、鬨の声が上がった。


騎士の、誰もが声を上げ、腕を振り上げ、天へ吼えるように喉を震わせた。

城下にすら届くんじゃねぇかと思うくらいの、激しい歓声だ。

隣に並ぶ騎士の声すら打ち消そうとしてるかような鋭い咆哮だ。


おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお、と雄叫びしか聞こえない中。確かに騎士達の別の声が、言葉にならない声が、…聞こえてくるようだった。



〝待っていた〟



今こそ、この人の為に戦う時だと。

今度こそ、俺達が力になる番だと。


プライド様自身も驚いたように騎士達の声に少しよろめき、そしてすぐに自分を奮い立たせるように姿勢を正した。騎士達の声に手を振り、身体を向けて応えた。


あの人が、やっと自分から助けを求めてくれた。

それが、すげぇ嬉しい。


その間、プライド様への歓声は暫く止まなかった。

やっと落ち着き、父上がプライド様に代わり騎士達に散開を命じてからやっと耳が落ち着いた。


「…さて、と。志願者がこれから殺到するな。」

突然、声が聞こえるようになったと思ったらクラークがくっくっと喉を鳴らして俺とカラム隊長の肩に手を置いた。


「そうですね…むしろ選抜でまた殴り合いにならなければ良いのですが。」

カラム隊長がクラークの言葉に小さく笑う。

「騎士団の内、プライド様と共に行けるのはたったの半数〝だけ〟だ。副団長の私は残念ながら留守番になるだろうが…カラム、アーサー、ちゃんとプライド様を…そしてロデリックを頼んだぞ。」

はい!と一気に声を張ってクラークに答えた。何故かその後カラム隊長の前だってのに俺だけクラークに頭を撫でられて少しムカついた。


「アーサー!」


抑揚のある声に振り向けば、プライド様が父上に背中を守られながら俺達の方に歩んで来た。お疲れ様です、と声を掛ければ間近で見るプライド様はその額に信じられないほどの汗を滴らせていた。


「大丈夫だった?私、ちゃんと話せてたかしら。」

恥ずかしそうに手で自分を仰ぎながら笑うプライド様に、思わず胸がぎゅっと締まる。なんでこの人はいつもこんなに綺麗なんだ。


「はいっ…とても、素晴らしかったです。俺も、皆、感動しました。」

胸が詰まりすぎてガキみたいな感想しかでてこねぇ。それでもプライド様は安心したように笑ってくれた。


「良かった。…一人でも力になってくれると嬉しいわ。」

いやむしろ一人でも減らすのに父上とクラークが苦労するんじゃねぇのか、と心の中で思う。プライド様から半数と聞いた時も、父上はどうやって半数に絞るか悩んでたし、父上の珍しく困った表情に俺だけでなくカラム隊長も笑いを噛み殺すのに必死だった。


「あ!そうだ、アーサー。ちょっと耳をっ…。」

ふと、プライド様が何かに気がついたように声を上げると突然俺の肩を両手で引き寄せてきた。ふらっとプライド様の方に顔が近づき、心臓がバクバク鳴った。


「実は、お願いがあって…。」


プライド様が俺に、耳打ちする。手短に伝える為に早口で語られたその言葉に、…何よりその息遣いが直接耳をくすぐってきて、話よりもそっちの方に頭が持っていかれそうになった。

でもプライド様の言葉を聞いて、一気に思考が覚醒する。俺に話し終わり「どうかしら…?」と至近距離で顔を覗かせたプライド様に、顔の熱を払わねぇとと言葉より先に何度も頷いて答えた。

プライド様が嬉しそうに笑ってくれて、それだけで息が詰まった。こうして話してくれただけでも嬉しいのに、こんな間近で笑まれたら次は心臓が止まっちまう。


「では行きましょうか、プライド様。」

俺とプライド様が話し終えたのを確認したカラム隊長が、そう言って柔らかく笑んでプライド様の手を取った。…こういう時にさらっとできるカラム隊長は本当にすごい。父上とクラークが先頭に立ち、カラム隊長が手を取り、俺が背を守る。


高台を降りると、…既にすごい人数の騎士が集まっていた。

「騎士団長!是非自分に出陣を‼︎」「騎士団長‼︎隊ごとの分割でしょうか⁈それとも隊の編成を…」「プライド様‼︎ぜひ自分を」と騎士達がステイルとセドリック第二王子を守る衛兵達から更に一歩引いた位置で、今にも飛び出しそうな勢いで声を上げていた。ふと、気がついて声のした方を振り向くとまさかのアラン隊長が「ステイル様!近衛騎士は全員出陣ですよね⁈」と叫んでいた。あと数時間したら交代でその内聞けるのに、すげぇ覇気が漲っていた。


「お疲れ様です、姉君。素晴らしい演説でした。」

ステイルがいつもの口調と笑みでプライド様を迎える。その隣にはセドリック第二王子が、どこか複雑そうな表情のまま小さく俯いていた。ステイルに何か釘でも刺されたのか、来た時よりその表情が余計に影を落としていた。

プライド様がステイルに礼を返し、次に父上やクラークと挨拶を交わした。そのまま、一歩引いた位置から声を掛けてくる騎士一人ひとりにプライド様は言葉を返していた。「ありがとう」「期待しています」と意気込む騎士達に笑顔で答えていた。…完全に騎士の先輩達全員行く気満々だ。本当にまた殴り合いどころか殺し合いになるんじゃねぇのかと考えて、思わず肩に力が入る。


「…アーサー、後で話を聞かせてくれ。」


いつのまにか俺の隣に移動していたステイルが、他に聞こえない音量で俺に声をかけてきた。「姉君にも後で話は聞くが」と続けながら、眉間に皺を寄せてプライド様とセドリック第二王子を見比べていた。そうだ、コイツはプライド様がなんでセドリック第二王子を女王の前に引っ張ってきたかもしらねぇんだ。

わかった、と短く答えるとステイルが小さく俺を目だけで見上げた。


「…わかってると思うがお前は姉君と共にハナズオ連合王国だ。近衛としてでも、八番隊としてでも。」

望むところだ。頷いて答えれば、ステイルが最後にプライド様に駆け寄る間際に俺の肩を叩いた。


「……頼りにしている。」


そのまま俺の返事も聞かず、プライド様の隣へ駆け出した。騎士の先輩達の声で聞こえるかどうかもわからねぇ、隠れるような声だった。

「…あぁ。」

誰に向けてでもなく、俺も一人それに答える。


守ってみせる。プライド様も、ステイルも、皆。

俺の大事なモン、全部。




騎士の、俺の誇りに賭けて。


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