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フリージア王国備忘録<第一部>  作者: 天壱
非道王女と同盟交渉
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198.非道王女は息を吐く。


キミヒカシリーズ第一作目。


セドリックルートで彼は、一年前の凄惨な過去をティアラに語る。

彼らは一年前、突然現れたコペランディ王国に降伏か蹂躙かを迫られた。

降伏すれば、ラジヤ帝国の植民地となるが国名や文化は残る。

抗えばその国ごと強襲し、ラジヤの属州としてそれまでの文化も国名も無くなる。

ただ、どちらの選択肢でもラジヤ帝国の傘下に降れば強制的にチャイネンシス王国は奴隷生産国として自国の民をラジヤに差し出さなければならない。

国王は悩み、ある二つの決断を下した。

その決断を聞いたセドリックは国を飛び出し、大国と名高いフリージア王国にハナズオ連合王国を救って欲しいと懇願する。…女王プライドに。

そして彼はプライドに嵌められ、結果として守ろうとした大事な人達までも自分の行動のせいで不幸にしてしまう。

その時の苦渋と後悔から彼は自ら立ち上がり、国の為に努める立派な王子へと成長する。…二度と人を信じないという決意と、消えない心の傷と共に。


そして一年後のゲームスタート時。彼は再びプライドにその人生を弄ばれるのだ。


「……話はわかりました。」

セドリックの話を聞き終えた母上が、締め括るように言葉を返した。その声だけが静かに空間を脈打たせる。

セドリックが母上の一挙一動を見逃すまいと歪めた顔のまま母上を見上げる。私達も母上の決断を息を飲んで待った。


「ですが、こちらとしては未だ事実がどうかの確証は持てません。もう少し、時間を頂きたいと思います。」

「そんなっ…‼︎」


母上の言葉にセドリックが言葉を詰まらせる。…だが、当然だろう。最初に言われていれば心象は違ったかもしれないけど、先に疑いが生まれてから言われても安易に信じる訳にはいかない。

言葉を失うセドリックの瞳から炎が消えていく。まるで、母上に全てを断られたかのような反応に私は溜息をつきそうなのを必死に堪えた。


こんなところで諦めてどうする‼︎


「…母上。私は予知を致しました。」

静かに声色を抑えて母上に進言する。私の言葉に母上達が目を丸くして振り返る。

「私の予知では、チャイネンシス王国が他国に侵略を受けていました。…恐らくセドリック第二王子殿下の仰ることは真実でしょう。」

本当は他にも色々言いたいことはあるけれど、本当にそうなるかどうか分からない。ただでさえ今回は私の前世の記憶通りでない事が多過ぎるのだから。…今の私に言えることはこれだけだ。

もちろん母上達からすれば、実はコペランディ王国から「見逃してやるから代わりにフリージア王国と…」なんて取引を行っていたという可能性もあるし、一概にこれだけで安心はできないのだけれど。


でも、この国において〝予知〟の一言は大きな力を持つ。


私の言葉に母上は更に考え込み、周りにいる私達にしか聞こえない音量で小さく唸った。

「…ならば、その未来を変えねばなりませんね。」

母上の肯定とも取れる言葉にセドリックの目が輝いた。それは、まさか…!と声を漏らし、母上へ向けるその瞳に再び火が灯った。


…そう。本来ならば我が国はセドリックからの条件を最初から言われても受け入れる心構えはできている。元はと言えばこちらが、同盟を申し出た方なのだから。

むしろ、同盟したいと言ってたのにハナズオ連合王国が他国に侵略されそうなのでやっぱり同盟は結構です。なんてしたら、今まで築き上げてきた同盟国からも信頼を失うことになる。自分達も他国から侵略の脅威に晒されたら切り捨てられるのかと。

ただ協力や和平だけでない。相手国が侵略の危機に晒されたら味方となる。それも同盟を結ぶ上での大きな利点の一つなのだから。だからこそ、同盟関係になった国は強固な結び付きを得ることができる。

…だから、最初からさっきのようにちゃんと話せば良かったのに。そうすれば、きっと問題なく話は進んだ。相手は極悪非道自己中プライドではなく、女王としては完璧な私の母上なのだから。


「同盟については、我が国からも再び調査は進めます。そして、真偽が判明次第、同盟締結に動きましょう。…国王陛下も、その状況では国から動くのは難しいでしょう。」

母上の言葉にセドリックが大きく頷き答える。

ハナズオ連合王国が緊張状態の今、国王が他国へ赴くのは難しい。ならば、セドリックが国王代理として調印するか、または母上がサーシス王国に赴いて調印しなければならない。本来ならばこのままセドリックが国王代理として調印すれば済むけれど…


「調印は、確か元より貴方が代理ではなく、私がサーシス王国へ赴き同盟締結の調印をとの話だったと存じております。」


母上がジルベール宰相とヴェスト摂政に目で確認を取りながらセドリックに聞く。彼もそれに答え、「申し訳ありませんが私は今回、国王代理の許可を得てはおりません」と最後に詫びた。…むしろ、国王代理の許可どころか黙って国を飛び出してきたのだから当然だ。


「…やはり、真偽の確認の為に時間は頂くでしょう。三日だけ、時間を頂けますか。サーシス王国並びにチャイネンシス王国について真偽が取れ次第、同盟を結び、できる限りのことはしましょう。」


同盟の条件は先日ジルベールが交渉した内容で違いありませんか、と冷静に母上が確認を取り、セドリックは目を輝かせて「勿論です」と答えた。

もともと、母上もそのつもりで最初に時間を下さいと言ったのに、この人は。


感謝致します、と叫ぶセドリックは再び深々と母上に、…私達に頭を下げた。その直前、一瞬私と目が合った気がした。やはり私に頭を下げるのは少し躊躇したのだろうか。

…でも、良かった。取り敢えずこれで、事実さえヴェスト叔父様が確認してくれればフリージア王国とサーシス王国は同盟を締結できる。そうすればハナズオ連合王国が奴隷生産国になるのも防げる。


ラジヤ帝国。

ゲーム内でもチラチラでてきた名前だ。

第一作目では物語の主軸後半から女王プライドの協力者でもある。…ただし、ポジションでいえば中ボスとしてティアラと攻略対象者の前に立ちはだかるステイルやアーサー、セドリック、レオンと比べて、言ってしまえば小ボスやモブのポジションだ。しかも小ボスとして立ちはだかっても攻略対象者には全く歯が立たず、苦戦するとすぐに尻尾を巻いて逃げちゃうか、とどめを刺されちゃうし、ラジヤ帝国自体もプライドが断罪されたらあっさりと撤退してしまう。物語の主軸には関わるけど、出番としては殆ど印象にない。

ゲームでの脅威はあくまでラスボス女王プライドが支配する〝フリージア王国〟だったのだから。


それに奴隷大国であるラジヤ帝国全土が攻め込んでくるなら未だしも、それですらないコペランディ王国を含む三国くらいならばフリージア王国だけでも十分太刀打ちできる。

ラジヤ帝国は侵略と奴隷生産で規模を広げて力をつけてはいるけれど、近年はフリージア王国との和平を望んでいる節もあるらしい。奴隷制至上主義な上に我が国の民だった人達もラジヤ帝国で売られたままの為、なかなか難しいのが現状だけど。

国内の奴隷制はその国の自由だ。他国で拐かされたり売られた民に関しても、奴隷制の国で奴隷にされればその国の自由になってしまう。…例えその民が奴隷制撤廃国の民であったとしても。

ジルベール宰相が、他国に売られた我が国の民も保護対象として我が国に取り返す為の法律や仕組みを作ってくれているからそれが完成次第、商品にされた我が国の民達を返して貰うつもりだ。

ラジヤ帝国も我が国と和平を望んでいるのならば、我が国と同盟を結んだハナズオ連合王国に侵略の手を伸ばすこともきっと躊躇う筈だ。

ハナズオ連合王国に侵攻するということは、事実上フリージア王国に宣戦布告するようなものになるのだから。


「同盟締結次第、すぐに援軍を出しましょう。私からもラジヤ帝国にハナズオ連合王国との和平、そして会談を望んでみます。」

そのまま母上が視線を投げかけると、ヴェスト叔父様が承諾したように頷いた。但し、ラジヤ帝国もまた我が国からは日が掛かります。その為会談自体も時間がかかるでしょうが。と話す母上にセドリックは「充分です…‼︎」と再び両手を床につけたまま頭を下げた。…その瞬間、ぽとりと数滴水が床に滴った。


母上もそこまで見通しを口にしたということは、セドリックの言葉を信用してくれているということなのだろう。

きっと、三日後にはちゃんと同盟の為に動いてくれる。

思わずほっ、と息をつく。そのままセドリックに母上が退室を許し、彼は重々しく頭を下げながら扉から去っていった。その目が瞳以外も赤く腫れているのが、金色の髪越しに一瞬見えた。


「御苦労でしたね、プライド。」

小さく振り返って私へ視線を向けてくれた母上が威厳のある笑みから変わって、優しい笑みを向けてくれた。いいえ、と返しながらふとセドリックが去って行った扉を見る。


…やり直しがきいて、本当に良かった。


ゲームの回想シーンでは、さっきと殆ど同じ台詞を我が国に飛び込んできてすぐプライド女王に訴えてかけていた。

相手が極悪非道女王プライドだった為に、そこから更なる悲劇が始まるのだけれど、プライドではなく母上相手だったからセドリックの訴えもちゃんと届いた。


…でも。


ふと、さっきのセドリックの話を思い出して、思う。


思ったより時間はあったのだな、と。


審議の三日と王族の馬車でのんびり片道十日掛けても充分に二、三日前にはチャイネンシス王国の援軍には間に合う。…ゲームではセドリックがプライド女王に訴えた時点でもっと今すぐ動かないといけないレベルのギリギリだった気がしたのに。

やはり、一回やっただけのゲームだし記憶も朧だったのだろうか。さっきの話もまだ私達に言いそびれていることがあるような気がするし。





この時の私は、とっくの昔にゲームの設定が狂い出していたことに気づいていなかった。


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