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フリージア王国備忘録<第一部>  作者: 天壱
外道王女と騎士団

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そして畏怖される。


「ステイル第一王子殿下‼︎次はこちらに御助力お願い致します‼︎」


「ステイル第一王子殿下‼︎先程要請された包帯等お持ちいたしました‼︎」


「ステイル第一王子殿下‼︎我々に出来る事があれば何なりと‼︎」


騎士達が次々と多くの物資を持ち込んできては、ステイルは表情も変えずにそれを順々と瞬間移動させている。本人に負担があれば止めようとも思ったが、どうやら許容荷重である限りは何度やっても負担は無いらしい。

私はステイルの能力に改めて感心すると同時に自分の役立たずっぷりが情けなくも感じた。自分はステイルに頼んだだけで、何もしていないのだから。

今もこうして作戦指示を行うクラーク副団長と物資を送り続けるステイルを眺めるだけなのだから。

正直、今にも騎士達に邪魔扱いや役立たずの第一王女と思われたらと不安だったがむしろ、怯えられているような怖がられているような…。私が「何か?」と聞いても騎士達全員が首を横に振って詫び、姿勢を正してその場を離れていく。

何だろう、すでに恐怖の女王としての雰囲気でも纏ってしまっているのだろうか。

「プライド第一王女殿下…此の度は心より感謝致します。」

数軍が騎士団の応援に出発したとのことで、一区切りついた副団長が私に頭を下げてきた。

「いえ、まだ礼には早過ぎます。それに、恥ずかしながら私は何もやっておりませんから。礼ならば全てが終わってからステイルに。」

そういって断ると副団長はそれでも私に下げる頭は変わらず、「とんでもございません、全てはプライド様のお陰です。これを全て終えた暁にはステイル様にも当然のことですが、プライド第一王女殿下にも改めて御礼を。」と返されてしまった。

そのまま、なんとなく隣同士に並んで目の前の戦況を眺めると、また騎士達がちらちらとこちらを見ているのに気がついた。

「やはり、私は騎士達にも評判が芳しくないのでしょうか…」

三年前と比べれば私を我儘な姫様呼びする噂はかなり減ったが、それでもどこからか未だに私に関しての悪い噂は流れてくる。実は私とステイルが従属の契約ではなく隷属の契約を交わしているのではと噂を耳にした時は鳥肌がたった。ステイルは笑って「必要ありませんがね」と否定してくれたから一安心したが…やはりこのゲームの流れには抗えないのだとつくづく思い知らされた。

「いえ、あれはそういうものでは決してありません。むしろプライド第一王女殿下への畏怖…畏敬の念、とでもいいましょうか。」

不快にさせたのならば申し訳ありません、と言いながら笑うクラーク副団長は少し苦笑いにも見えた。

「先程の新兵による失言も、申し訳ありませんでした。プライド様が賢明な判断をして下さり感謝しております。」

失言というのは、ステイルに直接爆弾を落とさせようという発言だろう。

たしかにあれば色々焦った。

先ず、王族の人間にそんな作業を提案すること事態不敬行為にあたる。ゲームの中のプライドでなくてもそれで罰する貴族や王族は少なくないだろう。

そして、私は絶対にステイルに人を直接傷つける行為、まして人の命を奪う行為はさせたくはなかった。王族として自衛や時には見せしめの為にそういうことが必要にはなるだろう。だが、必要以上にさせたくはない。武器や弾薬を運ぶことは敵を倒すことだけでなく、我が騎士達への自衛に役立つ。だが、爆弾を落とさせることは直接命を奪う行為だ。ゲームの中のプライドはこの年には既にステイルへ母親以外にも様々な人間を殺させていた。だからこそ、私は絶対にステイルの能力を人の命を奪う事に利用させないと誓ったのだ。

ステイルは、外道で悪逆非道な私とは違う、心優しい善人なのだから。

「確かに…あれは驚きましたね。戻ってきたら彼には改めてしっかりと叱責をお願いします。…まぁ、既に騎士団長が言って下さりましたが…」

私も思わず曖昧に笑ってしまう。

あの時の騎士団長の怒声はすごかった。映像越しの私達まで全員が耳を塞いだほどに。騎士達の中には自分が怒られた訳でもないのに青ざめている者もいた。

「いえ、誠に申し訳ありませんでした。必ずや私の方からも彼には厳しく言いつけておきます。」

「お願いします。あと、できればステイルの特殊能力についても箝口令を。…私は、できることならステイルの能力は我が国の戦力ではなく、彼が自ら望むことや守ることにだけに使って欲しいのです。」

そう伝えると副団長は少し驚いたように目を見開き、最後に優しく笑顔で「畏まりました。」と頷いてくれた。


……



「ッふざけるな‼︎話が違うじゃねぇか‼︎」

「フリージア騎士団の連中…新兵だらけでまともな補充もないんじゃなかったのか‼︎」

崖下の王国騎士団を見下ろしながら、奇襲者達、中でも褐色肌の男は自分の歯が砕けるばかりに歯軋りをした。彼はヴァルと呼ばれていた。隣国にもフリージア王国にも属さない野盗集団の中で唯一のフリージア王国出身の人間だった。

運良く持って生まれた特殊能力のお陰で、他と比べて腕っ節も頭も劣る彼は野党集団の中でもかなり高い位置にいることができた。

この道のりを通る行商人などを狙い、王国軍が来た時は身を隠し、それなりに盗み、奪い、上手くやって来た。

この辺の地帯は崖や瓦礫が多く、闇討ちや身を隠しながら生活する意外にも色々丁度良かった。

フリージア王国からの人間は稀に特殊能力者もいて、運良く生きて捕まえることができれば人間自体が高く売れたし、隣国諸国の連中なら能力もない奴だから簡単に奪うことも殺すこともできた。

転機は数日前。

行商人と思い、いつものように囲った相手が自分達にある依頼をしてきたのだ。奴らは今度行われるフリージアと隣国の同盟関係に亀裂を入れたいと話した。報酬は前払いでもかなりの額を渡され、成功したらその倍を払うと言われた。

その話に乗った俺達は最初にフリージアに向かう隣国騎士団の連中を奇襲し、捕虜にした。大岩を落とした時に何人か死んでも良かったのだが流石無能力とはいえ騎士隊、生きていた。あとは崖上から攻撃し消耗させ、捕虜にしてフリージア王国の新兵団の詳細やルート、日程についても聞き出した。

そして新兵が殆どの騎士団はまさに格好の的だった。同じように岩を落とし、消耗させ、捕虜にして行方不明にすれば良い。

あとは何処か素人が抜け出せなさそうな場所でどちらか生き残った軍だけ助けるといって弱り果てた二軍を殺し合いさせ、両軍全滅するまで放っておけば良い。

その後にどちらかの国に残骸が発見されれば、あとは勝手に両国が自己正当化して相手を敵認定し、争ってくれるだろう。


なのに。


崖下から盾の長い壁を作り続け、今も反撃をしてくるフリージアの連中はいつまで経っても弾の数が尽きる様子がない。既に弾数を節約し始めて良い頃なのに、むしろ段々と勢いが増してこちらにもかなりの被害がでてきている。

何故だ、隣国騎士の連中から聞けることは全て聞き出した。演習内容から新兵の特殊能力の内容まで全て。武器を作ったり、大量に収納できる人間なんて居なかった筈だ。だが連中の武器弾薬の量は尋常じゃない、このままではこちらの方が先に弾切れになってしまう。崖の上にいるからある程度は安全だし、優位だが相手は新兵とはいえ特殊能力者もいる化け物騎士団。こちらが弾切れと気づかれたら逆に追い込まれるかもしれない。それだけは困る‼︎

どうする?どうするどうするどうする⁈


「クッソオォオオォオオオオオオ‼︎」


ヴァルが大きく地団駄を踏む、その時。


“パキッ”


己が立っている地面が、その踏み込みとは関係無く音を鳴らしたのに気づいた者は誰も居なかった。






本当の悲劇はまだ、始まってすらいない。


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