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フリージア王国備忘録<第一部>  作者: 天壱
外道王女と騎士団

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22.外道王女は反撃し、


…信じられないことが起こった。


騎士団長のロデリックは目の前の光景に茫然とした。

新兵の多くが重軽傷を負い、しかも逃げ道を塞がれ、まともな物資もない状態で、その物資すら使い切りかけていた現状で。

特殊能力者の先行部隊はもうすぐ来てくれるとのことだが、速さを優先させている分、きっと多くの物資は望めないだろうし何人か逃すことはできても戦況を完全にひっくり返すのは難しいだろう。

自分はともかくせめて新兵の彼らを一人でも多く生き延びさせなければ…最悪、自分が囮になる方向でも。

そう思った、が…


「騎士団長‼︎弾薬補充完了致しました‼︎」

「傷ついた兵の応急処置も進んでおります‼︎包帯の補充要請をしてもよろしいでしょうか⁈」

「止血はできました…!俺も戦線に戻れます‼︎」

「おい!あっちにも武器が届いている‼︎誰か取りに行ってくれ‼︎」


急拵えの盾で敵の銃撃から身を守り、怪我人の保護と微かな反撃しか許されなかった現状で…今、目の前には次々と一纏めにされた盾や武器、そして包帯や薬が出現している。


最初はその現象に圧倒された新兵も、王族からの救援処置だと説明すれば先程までの疲弊が嘘のように士気を取り戻している。


ステイル第一王子。

第一王子として養子にされるには、それなりに高く優れた特殊能力が必要不可欠だという。

だが、まさか彼が瞬間移動の特殊能力者だったとは。

特殊能力は人によってバラつきがある上、使い方によっては恐ろしい脅威になる。

第一王子の能力を知っているのは、極一部の人間と王族だけだ。王国騎士団長である自分すら、今日まで知り得てはいなかった。だが、別に国として秘匿されていたわけでもない。過去には特殊能力をひけらかす王子も、逆に死ぬまで隠し通した王子もいた。

そして、ステイル第一王子。彼はとても聡明かつ、慎重な人間だと城内でも有名だった。彼は城内のどのような人間とも親交を深め、社交界でも既に懇意にしている重役も多いと聞く。だが、彼の能力を知る人間は誰一人いなかった。一部では第一王女であるプライド王女に禁じられているという噂もあった。が、それを本人に確認すれば必ず彼は涼しい顔で否定し、「ですが、プライド第一王女が望めば今すぐにでもお見せする覚悟はあります」と笑む。それを自分自身、多くの式典で見てきた。それに関し、プライド様が「貴方が見せたいならば私は構わないわ」と言えば「姉君が許可ではなく、望む時に使いたいのです」と返す。誰の目にもそこには強固なプライド様への忠誠と信頼が見て取れた。

そして彼は、王族になってから三年間それを人前に見せるどころか、明らかにすらしなかった。


…なんという恐ろしい奥の手を隠されていたものだ。


ロデリックは正直、ステイルよりもプライドに畏怖を感じていた。

…恐らく自分だけではない、ここで事情を知る新兵も、そして映像の向こうにいる副団長のクラーク、他の騎士達も皆が感じていることだろう。


ステイル様の特殊能力をプライド第一王女…彼女は今まで一度もひけらかさなかった。補佐であるステイル様の力はそのままプライド様の力と見られる。なのに、一度もだ。今まで何度、それを披露する機会があっただろうか。そして今、そのままステイル様の能力を隠し通すこともできた筈だ。

なのに、彼女は何の躊躇いもなくステイル様にその力を使わせた。そして、今までどんな重鎮にも能力については口を閉ざしていたステイル様もまた、彼女の言葉に何の躊躇いもなくその能力を惜しむことなく発揮させている。


若さ故に彼の能力には幾らか制限はある。だが、距離を問わずほぼ望むその座標に物を移動させる。今まで届いた物資も全て、殆ど自分から三メートルも離れない場所に出現している。


もし、ステイル様が

もし、プライド様が


これを暗殺など最悪の形で悪用していたら。


考えただけでぞっとする。


考え無しに蹶起付いた新兵が「いっそステイル様に敵兵側へ直接爆弾などを落として頂くのはどうでしょうか」と叫んだ時は思わず怒鳴ってしまった。

その上、ステイル様もまた「姉君が望まれるのでしたら、僕は構いませんが」と顔色も変えずに答えたのだ。プライド様がすぐに「なりません。それはステイルがすべきことではありません」と強く言って下さらなければ、どうなっていたことだろうか。

そう…敵を倒し、時に命を奪うのは我々の役目だ。





人を殺めることを、決して彼に慣れさせてはならない。





もし、それを彼に慣れさせれば一軍を超える脅威になるだろう。幼いながら既にこれだけの特殊能力を発揮させている少年。これからの成長が末恐ろしくもある。

現段階でも、プライド様の命令ならば躊躇いなく人を殺める行為もするという姿勢は既にその兆しが感じられもするが…

一部では、ステイル様のあまりのプライド様への従順さに「本当は従属の契約ではなく、隷属の契約を交わしたのではないか」と疑う声もあった。

だが、今我々の目でそれは完全に否定された。理由はわからない。しかしステイル様は確実に己が意思でプライド様の為に尽くし続けているのだ。隷属の契約で縛れるのはあくまで本人の行動のみ。意思や心は縛れない。

だが、目の前にいるステイル様にははっきりとした意思が宿っている。

「全てはプライド第一王女の為に」という強い意思が。我が選りすぐりの騎士団にもあそこまで強い意思を持った者が何人いるだろうか。


ステイル様が次々と瞬間移動させる物資によって敵兵への反撃は勿論、兵の応急処置も進んでいる。これならば特殊能力者の隊どころか、他の騎士団達が応援に来るまでも耐えることができるだろう。


「本当に…頭が下がる…」


この特殊能力を使って下さったステイル様に、そしてその命を下さったプライド様に。


画面を通した向こう側に聞こえないように小さく、王国騎士団団長はそう呟いた。


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