174.男は嗤った。
five days ago.
ジャラ…ジャラ…
「ハァ〜?もう鳩が、って…なんでだよ?まだ二日しか経ってないだろ。なんでさっそく急用の連絡手段が使われてんのさ。」
男がげんなりとした口調で返す。
速達用の鳩が王族用の馬車で二日かかる距離の国から帰ってきたのだ。恐らく放たれたのも数時間前だろう。男の声に答えるように、一枚の報告書を足に結ばれた鳩は小さく鳴いた。
「ったくさぁ…まさかくだらねぇ理由で出したんじゃねぇだろうな?もしそうだったらぶっ殺…ん?」
男は苛々とした口調で鳩から外された報告書を開く。ピラリ、と紙が開かれ、男は深く溜息を吐いた。
周囲の男達が機嫌を窺うように声を掛けると、男は乱暴に報告書を捨てるようにその場に放った。
「うっぜぇ〜〜〜…。」
男達が放られた紙を急いで拾う。そのまま皺がついた紙を広げ、その内容に絶句した。
これは、まさか、と口々に零しながらも男の機嫌を損なわないように声を潜ませた。
「あ〜あ…せっかく一ヶ月くらいは優雅にのんびり過ごせると思ったのにさぁ…余計なことしやがって。」
うっぜ。と再び零しながら男は身を沈めていたソファーから身体を起こした。そのまま大きく伸びをすると、目の前の男達を軽い調子で蹴飛ばした。
「は〜い!んじゃ、お前ら早速帰国したばっかでクタクタだろうけど出発決定〜っ!もっかいあの国に戻りま〜す!」
ほらさっさと馬車出せ鈍間、と戸惑う男達を追うように蹴っては彼は歩み出す。
「大丈夫大丈夫、今度は俺もついていってやるし。…余計なことされちゃあ困るからな?」
めんどくせー…と繰り返しながら、男は周りの男達に身支度を命じる。自分一人は気楽に歩き、足に引っかかるものは全て倒し、蹴り飛ばした。
「あーそうだ、その前に手紙。書状の準備を急げ。ったくさぁ、この前もキモい手紙出したばっかだってのに。」
それ出したら即刻馬車出せるように準備しとけよ、と周囲の男達を指先と声だけで右往左往させながら彼は一人静かに歩む。
「うっぜぇ、忙しくなってきた。」
そう言いながら、男達に忙しなく急がせる彼の口元は不気味に引き上がっていた。
「ほんっと、そんな都合良く回る訳ねぇってのにさぁ。これだから馬鹿共は嫌なんだ。」
俺の商品達の方がよっぽと利口だ、と笑う彼は誰へでもなく「まぁ良い」と呟き、窓の外を仰いだ。
「ま、最悪これでフリージアの商品棚には一歩近づく。」
子どものように陽気な笑い声をあげた彼は書状の準備ができたと聞き、遠慮なく再び口を開いた。書状の内容を語りながら、その目は狂気に満ちていた。
そして最後。書状をしたため終えたのを確認した後、それを使者に急ぎ届けるように命じると男はとうとう馬車に向かい部屋を出た。
「あーあ。ほんとは最後のお楽しみにしたかったってのに。…ま、これはこれで面白いか。」
なぁ?と初めて配下達に笑いかけた。
楽しそうに、その声を跳ねさせて。