そして戯れる。
「ヴァル!君も来ていたのかい?」
「アァ?レオン。テメェもかよ、めんどくせぇ。」
…何故か、レオンがヴァルへの好感度が凄い高い。
全員と挨拶を終えたレオンが目を輝かせて、異世界料理を摘みまくっているヴァルへと声を掛けた。来客が来た時点で興味無しのヴァルは他の人達が挨拶している傍ら、ケメトとセフェクの分も料理を皿に盛っていた。
同盟国として我が国に来訪するレオンと、配達人として我が城に定期的に訪れるヴァルは決して接点は多くない。
それでもレオンは我が城に来る度に「因みにヴァルは…?」と私達に尋ねてきていた。しかもヴァルが我が城に戻ってくる日がわかる時にはわざわざ訪問日を調整することすらある。
極秘訪問の時に自分を助けてくれたヴァルに感謝していることもあるけれど、自分に対して遠慮の無い態度が嬉しいらしい。…一応、拗れる前にヴァルの前科と隷属の契約、更には五年前にアネモネ王国の騎士隊を襲った一味の一人であることは伝えている。
てっきり隷属の契約はさておき、アネモネ王国の騎士については流石のレオンも怒るかと思ったけれど「罪を償った者をそれ以上責めはしないよ。その騎士達も結果としてはフリージア王国に救われたのだから。」と驚くほどすんなり受け止めてくれた。…小さな声で「まぁ仮に死者がでていれば、許さなかったかもね」と笑った時は少し怖かったけれど。
それからレオンは、自分に対してはヴァルに王族の不敬どころか、全ての命令を無効にして欲しいと私に望んで来た。
つまり、ヴァルがやろうとすればレオンを殺す事も裏切ることもできるように、と。流石にそれは…と私も断ったし、ヴァル自身も「死にてぇのか?」と当時かなりレオンを威嚇していた。でも、レオンは自信満々に「死なないよ。…君相手ならね。」と静かに笑っていた。私も心の中ではそれに納得はした。ゲームラストで最強女王プライドを倒す攻略対象者の一人であるレオンの実力は本物なのだから。
結局、レオンには嘘や隠し事や逆らっても良い。という許可だけをヴァルへ与えることで納得はしてもらえた。
ヴァルにとっては面倒な奴に懐かれた程度の認識だけど、我が国の第二王女のティアラの次にレオンにまで懐かれるってこれはこれで色々大変な事な気がする。しかも、ヴァルに懐くレオンにケメトとセフェクが最近は若干ヤキモチを焼いている節もあり、時々面白い三角関係を垣間見るようになった。
今もヴァルに歩み寄るレオンに気づき、セフェクとケメトが大声で「はやく料理とってよ!」「ヴァル、僕はこれが食べたいです!」と二人で一生懸命だった。ヴァルは何だかんだでセフェクとケメト贔屓だし、レオンもその様子を微笑ましく眺めているから、第三者からみてもなかなか和む光景だけど。
「ヴァル、今度また飲まないかい?良い酒が入ったんだ。」
「飲み干してもかまわねぇならな。」
…そして、不思議とウマが合っているようだ。本当に不思議だけど。
「何を食べているんだい?僕も一つ取ろうかな。」
「勝手にしろ。それよりテメェはあっちのを先に食わねぇとなくなっちまうぜ。何せ主のお手製だ。」
「プライドの…⁈」
追い払うように手を払って言うヴァルの言葉に、レオンが目を丸くして私を見る。
正確には私とティアラの合作だけれど。と伝えると、素早く駆け足でレオンがデザートのテーブルに直行していった。流石の完璧王子様も私の手製というだけならまだしも、ティアラの手製というのならば食べないわけにはいかないだろう。
他の皆はデザートに一息つき、やっとメイン料理に手がつき始めていた。…といっても、デザートの方はもう数個ずつしか残っていないけれど。流石男性陣。あれだけデザートを食べて未だ料理も余裕らしい。一応取り置きも用意はしていたけれど、なんとかレオンの分が未だテーブルに残っていて良かった。
「おい主!これも何か珍しい材料使ってんのか?」
もう一々取りに行くのが面倒なのか、ヴァルが料理の並んだテーブルの前で直接引っ掴んで食べている。せめて大皿からは素手で掴まないように命じながら、私はヴァルが両手に鷲掴んでいるコロッケを見る。
「いえ、それはジャガイモや豆、パン粉などが主なので特に珍しい食材はありませんね。」
私の答えにヴァルが興味深そうにこちらを睨んだ。両脇のセフェクとケメトが自分達も食べたいとヴァルの皿からコロッケを奪って食いついた。
もしかして気に入ったのだろうか。ヴァルの褐色肌の見かけから勝手にカレーとか好きそうだと思ったのだけれど。…まぁ流石にカレー粉無しでカレーをスパイスから作るのは私にも無理だけど。大酒飲んでおはぎドカ食いして今度はコロッケってまるで前世の下町のおっちゃんみたいだ。
そのままヴァルがまた一個、さらに一個と頬張りながら私にレシピを寄越せと言ってくる。
「別にそれは構いませんが…。………作るの?」
「俺が作るように見えるか?」
即答だった。横にいるケメトが、美味しいです!と声を上げながら「ベイルさんに作って貰うんですね」と笑った。聞けばヴァルの行きつけの酒場の店主らしい。セフェクが「私もこれ好きだわ」とコロッケを口に頬張りながらヴァルに同意した。その店主さん、客の希望で知らないレシピ料理まで作ってくれるような方なのだろうか。なんか仕事を増やしそうで申し訳ないのだけれど。
「…それよりも、さっきから同じのばかり食べて飽きないのですか?」
そんなに炭水化物が好きなのかと思いながら聞いてみれば、ヴァルは片眉を上げながら「他に何を食えと」と言わんばかりに睨んできた。いや他にも色々あるのだけれど!
「例えば一緒に食べ合わせるならこれとか…。」
揚げ物セットの定番かつ、炭水化物でもある混ぜご飯おにぎりを一つ、包みごと手に取ってヴァルに差し出して見せる
と、躊躇いなくそのまま齧りつかれた。
がぶっ、と上半身ごと乗り出すようにし首の角度を変えて齧りつく姿はまるで動物だ。一口で半分以上食べきったヴァルは平然とした様子で口の中を飲み込みきらない内に「悪くねぇ」と咀嚼しながら呟いた。せめて飲み込んでから言って欲しい。
「…ちゃんと受け取って下さい。」
本人は両手にコロッケを鷲掴んでいたし、 その途中で差し出した私の方も悪いのかもしれないけれど。
私が怒りきれずにそう言うと、ヴァルは面倒そうに手を伸ばして私の皿から食べかけのおにぎりを回収した。そのまま残りを口に放り込むヴァルに、私よりもセフェクがポカポカと殴りながら「主相手に失礼でしょ‼︎」と怒ってくれていた。
「パーティーだし、どれを食べるかは任せますけど…一人で全部は食べきらないで下さい。」
他の人の分もあるんですから。とため息混じりに私が言うと、ヴァルが生返事をしながら今度はコロッケを仕方がなさそうに皿に一度盛った。やはりそれが食べたいらしい。何故そこまで気に入ったのか。
「……そんなに気に入ったの?」
思わず聞いてしまうと、ヴァルより先に両脇のセフェクとケメトが返事をしてくれた。そのままヴァルがコロッケを皿から一つ摘むと、見せつけるように一口齧って見せた。
「主も食うか?」
ほれほれと、手の中のコロッケをもう一口で食べきると新たに皿に盛ったコロッケを摘み、からかうように見せつけてきた。いや一応私が提供の料理なんだけど、と思いながら
素早く一口だけ齧り付く。
流石に人のご飯を盗み食いするのは行儀が悪いので、急いで小さく一口だけ齧ってすぐに顔を上げた。こっそり周りを見回したけど、セフェク達だけにしか見られてなかったらしくほっとした。
「……………。」
見れば、珍しくヴァルが目を丸くして口をあんぐり開けていた。流石に同じ方法でやり返されるとは思っていなかったらしい。ちょっと一矢報いられた気がして、心の底で得意な気分になる。コロッケを飲み込んでから「うん、美味しいわ」と笑顔で勝ち誇って見せる。
「………タチがわりぃ。」
私から顔を逸らしたヴァルが、小さく口の中で忌々しそうに呟いた。まさかのドン引きだ。自分だって最初に同じことをしたクセにそこまで行儀の悪さに引かなくても!
やはり一般人と王族がやらかすのとじゃ違うのだろうか。…なんだか少しへこむ。
ヴァルが無言で私の食べかけをセフェクに手渡し、まだ皿に盛られたコロッケをケメトに押しやると、頭を掻いたまま俯いてしまった。予想外に怒らせたらしい。なんだか申し訳なくなって「ええと…とにかくその料理のレシピはちゃんと用意しておくから‼︎」とお詫びも兼ねて三人に声を上げて約束する。すると
「えっ⁈レシピ貰えるんですか⁈」
突然、別の方向から声が上がった。