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フリージア王国備忘録<第一部>  作者: 天壱
惨酷王女と罪人
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96.義弟は降りる。


…やはり、流石は前科者といったところか。


ステイルはヴァルを上目だけで軽く見ながら、心の中で小さく思った。

下り路を降りて商品置き場まで移動したところで、道が二手に分かれていた。どちらが上級の人間が囚われている場所か悩んだが、ヴァルはすぐに片方の男達の騒ぎ声が多く聞こえてくる道を選んで俺を先導した。大概、こういうところでの商品の囲い方や置き場所は重要度や運び出す流れなどで何処も同じようなものらしい。中級からそれ以下は見張りだけを数人置いて離れた檻に纏めていれる。そして上級からそれ以上は、万が一逃げ出してもすぐに捕まえられるように組織連中全員の共有場所の傍に捕らえられるという。案内通り、上級の人達が捕らえられた檻の場所までスムーズに辿り着くことができた。…正直、意外なところで役に立った。本当はこの罪人の知る子ども二人の確認と、ここまでの移動手段でしか役に立たないと思っていたが。

此処までくる途中に何人か敵に遭遇したが他の連中と同じ格好をした上、口元を隠したヴァルに誰一人疑問を抱く者はいなかった。我が国の民には珍しい褐色肌であったことも疑われなかった要因かもしれない。ただ、手を縛られ、気を失っている振りをしている俺を片腕で抱えていることに関しては声を掛けてくる者もいたが、俺がヴァルに命じた通り「特殊能力を持っていたガキがいたから命令で中級から上級へ移動している」と言えば、どいつも儲かったと喜び、納得していた。…頭の軽い奴らだ。


そうして今、俺とヴァルは上級…特殊能力者の捕らえられている場所まで辿り着いた。岩に囲まれたただ広い空間にライオン一匹分程度の大きさの檻が並べられていた。狭い空間に一人ずつ大人も子どもも閉じ込められている。一人ずつ離しているのは特殊能力者同士が協力して逃げることを避ける為だろう。

檻の端から端までをウロウロと歩いたり、入り口を見張る男達が複数人いる。上級の人間を逃がさない為に警備もそれなりに厳重だった。岩壁一枚隣には組織の連中の騒ぎ声が聞こえる。未だあまりここでも騒ぐ訳にはいかない。ヴァルの銃や俺が素手でも戦闘をすればすぐに騒ぎを聞きつけて応援がくるだろう。プライド達の馬車に気づかれる前にさっさと見張りの連中を片付けないといけない。


まぁ、俺には造作もないことだが。


ヴァルに命じて、その場に待たせる。瞬間移動で目につく人間からその背後を取り、所持している銃だけを残し、本人を我が国の独房へ瞬間移動させる。そのまま次にまた目につく人間の背後へと瞬間移動しまた消す。…それだけだ。

銃が地面に落ちる音だけが洞窟内に響く。だが、そこから消えた人間と異変に気づき、状況の判断や対処ができる人間なんてたかが知れている。理解できる前に全員消してしまえば良いだけの話だ。時々「なっ」や「おい」など声を漏らす奴もいたが、遊ばずに速攻で瞬間移動させれば問題はない。…悪人が恐怖で怯える姿を見物するというのも悪くはないが。

今はとにかくプライドの望みが最優先だ。


十人程いた見張りが消えるまで、五分もかからなかった。全員消えたことを確認して、ヴァルに動くことを許可する。目の前で大人数が消えたことがそれなりに驚きだったのか、ポカンと目を見開いて俺と目の前の光景を見比べていた。


「どうした、ケメトとセフェクの無事を確認しないのか。」


俺がそういうとヴァルは気がついたように肩を揺らし、檻の並べられている方へ駆け出した。

檻ひとつ一つを確認し、中に閉じ込められている人間を睨みつけては次の檻へと進んでいる。十もない檻だし、すぐに見つかると思ったが最後の檻を確認してもヴァルは「クソッ」と怒鳴り、最後には檻を殴り首を振った。


「居ねぇッ…‼︎」

「ならば特上級の檻か?それは何処にある。」

「いやありえねぇ!ケメトは知らねぇがセフェクの特殊能力はただ水を出すだけだ。あれじゃあ特上は…」

そこまで言った途端、はっとヴァルの顔色が変わる。何か思い当たることでもあったのか、突然「だあああああ‼︎」と声を抑えるように唸り、また目の前の檻に拳をぶつけた。中に捕らわれた人が短く悲鳴をあげる。

「命令だ、今は物に当たるな。隣に気付かれる。」

そのまま、説明しろと言葉を促すとヴァルは苛々とした表情のまま口を開いた。

「ケメトの野郎っ…連中に特殊能力あること隠してやがる…、‼︎」

「?何故隠す必要がある。大体、本当にケメトは特殊能力者なのか。」

もしかしたら子どもの見栄や嘘の可能性もある。この男がそれを疑わないとは思えない。


「ッアイツが勝手に約束しやがったんだ‼︎ケメトが中級以下の檻に入れられるならセフェクも一緒に決まってる‼︎あのガキ共は中級以下の檻だ‼︎」


本人もかなり取り乱しているせいか、説明してるつもりなのだろうがあまりに不十分だ。が、…とにかくその通りならば今頃プライドやアーサー達と同じ場所だろう。なら、問題はない。ケメトとセフェクを今ここで保護できなかったのは残念だが、頃合いを見て檻の中にいるであろう姉君の所へ瞬間移動すれば済むだけの話だ。


今は、計画通り進めよう。


俺は未だに一人憤慨中のヴァルを無視して、取り敢えず手前の檻から中にいる人へ手を伸ばす。正体不明の俺にかなり警戒している様子だったが、「大丈夫。国へ帰れますよ」と幼い子どもの顔で笑顔を向けて見せれば難なく手を取ってくれた。そのまま瞬間移動で檻の中から直接彼らを騎士団演習場へと飛ばす。中には人が消えていく様子に怯えて手を取らない人もいたが、そういう場合は申し訳ないが俺が直接、狭い檻の中に一度瞬間移動して問答無用で飛ばした。

こちらもそこまで時間はかからなかった。今頃は騎士団演習場は少し混乱しているだろうが、まぁ大丈夫だろう。捕まっていた全員を瞬間移動させ終わり、俺とヴァル以外誰もいなくなった空洞を見渡す。


「さて、と。…ヴァル、お前はこのまま予定通り行動しろ。俺は次に行く。」

俺の言葉…いや、命令にヴァルは忌ま忌ましそうに舌打ちをしながら答えた。そのまま男達が落としていった銃をひとつひとつ拾い集める。クソガキ共、と呟きが聞こえるが恐らくこれは俺に対しての言葉ではないのだろう。

「それで、特上の人間が収容されている檻は何処にある。」

「一番奥の檻。その傍に隠し穴があった。希少な特殊能力者なんざ滅多に手に入らねぇとは思うが…居るとしたらそこだ。」

拾った銃を入り口の近くまで運び、一気に足元へ撒き散らした。面倒そうに話すヴァルに「何故わかる。」と念の為尋ねると、ただでさえ手に入りにくい特上を捕まえておくのに、わざわざ場所を分けることは少ないらしい。管理の面倒さから上級と一緒の場所に閉じ込めることが多いそうだ。特に、上級の特殊能力者は危険性や逃げられる恐れも高い為、徹底的に自由を奪っておく必要があるらしい。地下に閉じ込めたり、真っ暗な一人分の空洞に入れて大岩で塞いだり…色々他にも非道な手段を聞いたが、改めてこの男が元罪人であることを認識させられた。

プライドの望みは捕まっている人間全員の救出。ならば、念の為にも特上の檻も確認しておかなければならない。

俺は隠し穴の場所を確認してから一度、瞬間移動をする。そして騎士団の武器庫から少しばかり拝借をした後、すぐに戻ってくる。

そのままヴァルの足元へ、俺は持ってきた小爆弾を放った。

「わかっているだろうが、命令だ。俺が戻ってくるまで此処で騒ぎを起こしつつ、足止めをしろ。それまでは破壊行為もある程度は許してやる。組織の連中は殺してもかまわないが、あくまで最優先すべきは殺戮ではなく、注意を引きつけることだ。」

良いな?と釘を刺すと、ヴァルはニヤリと汚く笑い、小爆弾を拾い手の中を玩び始めた。

「畏まりました。…王子サマ。」

小馬鹿にしたように俺へ笑みを向け、ヴァルは灯用に各所に置かれていた炬火を一つ手に取った。そしてそのまま小爆弾に火をつけ、


躊躇なく入り口へと放り投げた。


次の瞬間けたたましい爆音が轟き、地響きと共に入り口だった場所に大量の瓦礫が崩れ落ち、塞がった。俺が耳を塞ぐ間にもまた一つ、もう一つと爆弾を入り口へと放り投げ、再び爆音が響く。

爆音に紛れて隣の部屋にいるであろう一味が何だ何だと騒ぎ、バタバタと走ってくる足音が聞こえる。

塞がった瓦礫の向こうから「一体何が」と一味の騒ぎ声が聞こえる。


「ヒャッハハハハハハハッ‼︎」


男達の喚き声にか、それとも久し振りの破壊行為にかヴァルの引き攣らせたような笑い声が止まらない。

「ッおらよ‼︎テメェらクズ共が入って来れるもんなら入ってきやがれッ‼︎」

ガガガガガガッと更に地響きのような振動を足元に感じ、見ればヴァルが特殊能力を使って単なる瓦礫の塊だったものを強固な壁に作り変えていた。ここへの入り口が完全に無かったかのように塞がれる。なんだこれは、ふざけるなと罵声が響く中、ヴァルは笑いが止まらない。足元の銃を拾い、適当な方向へ発砲した。パンッパンパンッ‼︎と乾いた音が広い洞窟内に響く。


「オラオラオラァッ‼︎もたもたしてると折角テメェらが捕まえた上級の商品全員ぶっ殺しちまうぜぇ‼︎」

ヒャハハハッと笑いながら男達が壁の向こうで右往左往しているのを楽しんでいる。隠し穴にまだ行こうとしない俺の視線に気付くと、悪党独特の悪い笑みを向けてきた。こんな所で初めてこの男の心からの笑みを見ることになるとは。本当にプライドとの隷属の契約さえなければ、この男を信用することなどとても不可能だった。

呆れのあまり、深く溜息を吐きながら俺は奴へ背中を向け、隠し穴へ足を踏み入れる。

人間二人分がやっと入れる幅だ。真っ暗で底が見えないと思ったら、時々小さな光がチカチカと瞬いた。…何かあるようだ。念の為、炬火を持ち、足場がない代わりに垂らされていた縄にもう片手で掴まり、それを頼りにゆっくりと下へと降りていく。


そのまま俺は、息も詰まるような狭い暗闇へゆっくりと身を投じていった。

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