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フリージア王国備忘録<第一部>  作者: 天壱
惨酷王女と罪人
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83.義弟は提案する。


…やはり、こうなったか。


ステイルは気づかれないように静かに息を吐き、少しだけ頭を後ろへ逸らした。

ヴァルという男。奴をここまで運んだ時点でプライドがこうすることは予想がついていた。しかも口を開けば人身売買、更には子どもを助けてほしいときた。そんな状況をプライドが見過ごせる訳がない。

ふと気になり、横目でアーサーを見た。プライドの意思を汲み、そして跪いたコイツはもう覚悟が決まったらしい。

自分の父親を嬲り殺そうとした男。それをプライドの意思とはいえ、すぐに助けると応じられたことには正直関心する。…俺ならきっと許せないだろう。ジルベールのことで怒りに我を忘れたことがある俺だからわかる。

これが普通の罪人だったら、誤魔化しや嘘でプライドを嵌めようとしているのではないかと疑った。だが、奴は隷属の契約者。プライドのことを陥れることは不可能だ。恐らく、奴の言っていることは真実なのだろう。それにプライドに話したくない、頼りたくないと抵抗する姿も演技には見えなかった。

更にあの罪人の言う事が真実で、我が国で違法な人身売買が行われているとしたら例えヴァルのことが無くても見過ごす訳にはいかない。将来プライドが治めることになるこの国を汚すことは何人たりとも許しはしない。

プライドに命じられて詳細を求められたヴァルは未だにプライドの言葉が信じられないように顔を痙攣させながらもポツポツと事のあらましを語り始めた。


話によると、この男は四年間浮浪者だった子ども二人と生活を共にしていたらしい。大体七歳と十一歳の男女二人。名前はケメトとセフェク。どちらもこの国では聞かない名だ。二人とも特殊能力者で、ケメトの方は自称なので能力内容は不明だが、セフェクは水を出す特殊能力者らしい。そしてヴァルは今まで建築や土工の下作業や瓦礫拾いで生計を立てていたとのことだ。まぁこの男にしては妥当なところだろう。

そして昨夜にヴァルが住処に戻った時には既に男三人に二人が捕らえられた後だったらしい。一人は鎖を自在に使う特殊能力者で、鎖で囚われたまま一方的に条件を叩きつけられ、二人を連れて行かれた。そして隷属の契約でプライドに命じられた通りにここまで引き寄せられ、途中で力尽きたということだ。ヴァル曰く、その鎖を自在に操る特殊能力者はその界隈では随分昔から有名な男らしい。

…皮肉なものだな。

その子ども二人はさておき、ヴァルも以前はその男達と同じような所業をしていた筈だ。隷属の契約を経て、今度は同業者により同じ目に遭わされたなど、自業自得ともいえる。ある意味、隷属の契約が正しくこの罪人を裁いたというところか。

だが…


それでも、プライドは助けるというのだろう。


眼鏡の縁を押さえながらそっとプライドを見る。特に鎖の特殊能力者の話が出た時は少し考え込む仕草をし、その後も唇を強く結び、真剣な眼差しでヴァルの話を黙って聞いていた。

「…おい、アーサー。大丈夫なんだろうな?」

視線をプライドから離さないまま、顔だけを少しアーサーの方向へ傾ける。

「…あぁ。プライド様が決めたことなら従う。」

やはり思った通りの返答が帰ってきた。本当にコイツのそういうところは羨ましいと思う。そのままアーサーは一歩前に出て「鎖を使う特殊能力者の噂なら俺も昔聞いたことがあります」とプライドへ進言した。

「ただ、それ以上は何も分かりませんが。」

アーサーの言葉にプライドが頷き、そして俯き、苦々しく顔を歪めた。

単純な方法ならば衛兵達と待ち伏せ、その場で捕らえてしまえば良い。第一王女であるプライドの命であれば衛兵でも騎士団でも動かすことは可能だろう。ただ、その子ども達が約束通り連れて来られない可能性も十分ある。その場合、男達を捕らえられたとしても子ども達を助けられるかどうかはわからない。例えその後にアジトを吐かせたとしても仲間が戻ってこなければ速攻で殺される可能性も、逃げられる可能性だってある。どちらにせよ、確実な方法などない。せめてその悪党共のアジトや人身売買の取引場所さえわかれば、方法や手段もいくらでも策を練られるのだが…。


「………ハァ…。…仕方がありませんね。」


この手だけは使いたくなかったのですが。と小さく零しながら溜息を吐き、俺も一歩前に出る。プライドもアーサーも、そしてティアラも驚いたようにこちらへ注視した。ヴァルは片眉を上げながら訝しむように俺を目だけで睨んでいる。

この罪人に酷い目に合わされた筈のプライドも、父親を嬲られたアーサーも、そして以前はあんなに怯えていた筈のティアラすら協力の意思を示しているのに、俺だけがいつまでも腹に据えかねている訳にはいかない。

「…異国に〝蛇の道は蛇〟という言葉があります。こういう件は専門家に聞くのが一番でしょう。」

俺の言葉にプライドが「専門家…?」と首を傾げた。その動作が少し可愛く見えて、俺は笑みで返しながら「居るではありませんか」と続け、一度言葉を切る。



「人身売買と罪人に精通した何処ぞの宰相が。」



今日は休みを取っているし丁度良い。俺はそのままプライドにこの場にジルベールを連れてくる許可を求めた。


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