〝非日常〟
おれは無職で、さらに言うと筋金入りの無能だ。だから誰もおれを評価してくれない。生きる意味が全く分からない人間だろう。
高校時代は教室の隅で団子虫のように
縮こまって、石の裏を掘り起こされないように必死に生きていた。
根っからの「陰キャ」だ。いじめられっ子で、顔を見ただけで文句を言われる始末だった。
でも、誰も俺を助けようとはしなかった。
なんとか高校は卒業したけれど、その後は大したアルバイトもせず、家に引きこもっていた。
親はおれに金を使いたくないらしく、
仕送りもしてくれないし、
そもそも俺も家にも寄り付こうとは思わない。
やることも無く、仕方なく毎日ネットで動画や
ゲームをしたりして過ごしている。
まさにしょうもない人生だ。
しかし、ある日を境に、
おれの日常を「非日常」が訪れた。
某狩猟ゲームで募集をかけたところ、
1人の人間と出会った。
ひょんなことから知り合いになったんだが、
そいつは多分、おれとは真逆の「陽キャ」で、いつも明るくて誰とでも仲良くなれるタイプだった。
おれは直接助けられたわけではないが、
なんとなくその背中を追いかけてみたくなった。
おれが追いつけるとは思っていないけれど、
あいつみたいなやつの〝隣〟に立つことが出来ればと考えてしまったんだ。
これが最初のあらすじだ。
「お前ってさ大学生なん?」
そう言いながらおれはゲームのコントローラーをカチャカチャさせながら大技を繰り出そうとしていた
「そうですね」
「おれ医学部ですよ」
「へぇ偉いな勉強したんだなどこの大学なん?」
「〝東大〟です」
「は?」
「東大の医学部です」
「え?え?はぁ!?まじで言ってんの!?」
ゲーム画面とスマホを交互に二度見するようにおれは驚きながら呟いた
「はい。まじですよ、あとうるさいです」
「そりゃうるさくなるって… 驚かれたりせんの?」
「まぁ、よくされます。でももう慣れましたわw」
「いやいやいやいや……正直まぁなんとなく頭いい予感はしてたけど東大医学部ってあの?東京なんちゃら大学じゃなくて?」
「はい。東京ですね」
「うっそやん……」
「本当ですよ」
「……なんで医学部なん?」
「……え、それ聞きます?w」
「いや、気になっただけやけど……」
「まぁ……特に理由とかはありませんよ。ただ勉強が好きだったのと勝てる勝負が好きなので頑張ったら入れました」
「もしかして現役合格?」
「現役ですね」
「うっそやろ……まじ?」
「はい、マジです」
「……なんか人として色々負けてる気がしてきたわ……」
「あ、死んでますよ」
「……は?え?」
≪力尽きました≫
「ほら、死んじゃってますやんw」
「え?は?いや、ちょまてや!」
「はい。待ちます」
「いや、お前が待ってどうすんねん!協力ゲーなんだから待ったら……」
≪クエスト失敗しました≫
「まぁそうなりますよね」
「お前……まじか……」
「はい。」
「え?でもさ、医学部って頭ええのはわかったけどさ、なんでゲームなん?」
「いやまぁ、ゲームも好きなんですよ」
「いや、でもさ……なんかこうもっとあるやん!俺には想像できないすごい理由がさ!」
「あーまぁ確かにそうですよね」
「じゃあなんでなん?」
「んー……まぁ簡単に言えば〝勉強〟が嫌いだからですかね。」
「……え?それだけ?」
「はい。それだけです。」
「え?でもお前さっき勝てる戦いが好きって……」
「はい。言いましたよ」
「いや、でも勉強が嫌いなんはわかるけど……じゃあなんで東大なん?頭ええなら他の分野でも良かったやろ!」
「……んーまぁ、そうですね。確かに他のところでも良かったかもしれませんけど……僕は〝勝ち〟たいんですよ」
「勝ちたい?」
「はい。そうです。僕は〝勝つこと〟が好きなんです。」
「……は?」
「だって負けたってなんも良いことないでしょ?じゃあ勝った方が良くね?ってことです。まぁちょっと意味が違うかもしれませんがそんな感じです」
「……まじか……」
「はい。まじですよ」
「……それってなんか理由とかあんのか?」
「いや、特にないですね」
「え?じゃあただ単に勝ちたいから東大入ったん?」
「はい。それだけです」
「いや、でもさ、勉強とか嫌いならなんで勉強しに行くん?」
「んー強いて言えばそうですね……ゲームで言うなら〝縛りプレイ〟みたいなもんですね。」
「縛りプレイ?」
「はい。まぁ簡単に言えば自分が不利な状況で勝ったり楽しんだりすることです」
「知っとるわ馬鹿にしやがって…w」
「だから僕は〝勝つために〟大学を医学部にしました。それに勉強ってある意味アクティブユーザーが1番多いゲームじゃないですか?」
「まぁ、確かに考えようによってはそうかもしれんけど……」
「だから僕は〝勝つために〟勉強しました」
「……なんかすごいなお前」
「はい。よく言われます。」
「……なるほどな……でもさ……なんでそのこと俺に話したん?」
「え?いや特に理由はないですけど……」
「は?」
「いや、ただなんとなく話そうかなって思っただけです」
「……まじかw…………まじかw
なるほどな……」
依頼に失敗したゲームから流れる音以外は静寂となった空間におれは耐えきれなくなった
「まぁ おれは……だからといってお前に対する態度は変えないつもりだけどなw」
気のせいだが 一瞬通話の先で反応が遅れたようなきがした。
「…なんなんすかそれw」
「いや、ただ単に思ったこと言っただけやw 」
「え?」
「だってお前だけ話すなんてずるいやんw」
「……まぁ……確かにそうですね……」
「やろ?だからおれも話すわ!まぁ、でもそんな大した話じゃないけどなw」
「はい。それで構いませんよ。僕も話したんですから。」
「そうか。じゃあ話すわ!俺はさ、ゲームが好きなんだよな!」
「はい知ってますよ」
「え?まじで?」
「はい。まじです。」
「いや、おれ言ってなかったはずやねんけど……」
「はい。聞いてませんがなんとなくそうなんかなって思ってました。」
「……え?じゃあなんでわかったん?」
「ゲームをしている時の顔とテンションで分かりますw」
「……そんな顔に出てたんか?」
「通話してるのに顔見れないじゃないすかw」
「そりゃそうかw」
「…まぁ……多分……普通に分かりやすかったですよw」
「まじか……」
「はい。まじです。ガキかよとw」
「おい!それは言い過ぎちゃうか!?」
「いや、でもまじでガキですよw」
「うっわ……なんかお前に言われるとめっちゃ腹立つな……」
「……まぁでも僕も態度変える気ないっすよ」
「は?お前それさっき俺が言ったやつやんけw」
「はい。真似しましたw」
「はぁ!?なんやねんそれ!」
「……あ、もうこんな時間ですか……じゃあそろそろ寝ますね。おやすみなさい」
「え?あーもうこんな時間かぁ」
「はい。まぁ、こんな時間ですから……明日も学校ですし……」
「……そうだな。おやすみ」
「はい。失礼します」
「……あ!あとさ!」
「なんですか?」
「……いや別になんでもないわwじゃぁな!お休み!」
「??……はい。おやすみなさい。ではまた
次も楽しみにしときますね…!」
こうしておれの〝日常〟は幕を閉じた…
しかし、〝非日常〟と云う幕は上がり始めるのであった。