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1話 砂漠の風

MISSION49でフランクが助けた戦車兵の外伝です。本格的な戦車は初めてなので生暖かい目で見守ってください。

2015年 7月13日 午前11時23分


アフガニスタン フェニックス基地


 乾いた中東の風と全てを焼き払うような日差しがアスファルトをフライパンのように熱す。ここは連合軍の中東方面における前線基地が陸軍の第9機構兵団と海兵隊第3機甲師団が駐屯するフェニックス基地。


 汗をも蒸発させるようなアスファルトの上をロバート・サンデン一等軍曹はこの日行われる作戦の概要を確認すべくブリーフィングルーム代わりのテントへと何食わぬ顔で歩いていた。


 海兵隊第3機甲師団の第一戦車大隊戦乗りのサンデンはこの基地では有名人だ。ワルシャワの戦いを生き残った歴戦の勇士であり絵に描いた海兵隊員として皆は彼を『マリーン・オブ・マリーン(海兵の中の海兵)』呼ばれている。


「お早い到着で、サンデン殿」


 テントに到着したサンデンに今回の作戦の司令官、ヒュー・カーン大尉が皮肉をこめた挨拶をした。


「申し訳ありません」


「ふん、次からは気をつけろ。では、作戦を伝達するぞ、一度しか言わないから心して聞け」


 サンデンは砂漠迷彩のシャツからメモを取り出し、上官の作戦事項に耳を傾ける。


「この基地から西に30キロ行った地点に敵の物資集積場がある。それを我々、戦車中隊で叩くのだ。出撃は1500。質問は?」


「サー」


「何だ、サンデン?」


「随伴歩兵は何人ほどですか?」


 戦車は一見最強の陸戦兵器に見えるが弱点がある。懐の脆弱さだ。敵歩兵の近接攻撃や地雷などを攻撃の前にすると成す術が無く、ゆえに随伴歩兵を必要とするのだ。


「無しだ。今回は単純に敵の物資を破壊し、行動を麻痺させるだけの三時間で終わる作戦。だから、青チョビたルーキーを連れてくんだ」


 サンデンは今になってこのテントにいるのが年端の行かない少年兵ばかりである事に気づいた。


「ですが……この基地5キロ手前には待伏アンブッシュせに持って来いの丘があります。そこで敵兵のロケット弾の攻撃などを……」


 目標地点の近くにこちらから向えば、ちょうど逆U字になるような丘陵地帯があった。高さも戦車を隠すのにはちょうど良い。そこに入ったら敵の包囲に会う可能性も高くなるのは一目瞭然だ。


「私が指揮官だ。貴様ら海兵は黙って私の言う事を聞けばいいのだ」


 若い大尉は怒気を孕んだ声でサンデンを叱咤する。


「サー・イエッサー」


「解ったら解散だ。Oorahウーラー!!」


「Oorah」


 通例の挨拶を終えると集められたサンデン含む車長11人は解散し、各自の持ち場へと戻る。その道中、サンデンはバスケットボールのゴールが敷設された基地の片隅でバスケットボールに興じている自分装弾手であるスティーブ・ロックスタイン伍長を見かけた。


「お、ガニー!!」


 スティーブは手馴れた様子でドリブルしながらこちらに走り寄り


「作戦はどうなんですかい?」


「今日の1500に出発だ。敵の集積所を叩くとのことだ」


「へぇ……随伴は?」


「無しだ」


 その一言を聞いたスティーブは短く刈り込んだ頭をピシャリと叩き『冗談じゃない』のジェスチャー。


「聞いたかよ、リック!!カーンの野郎、俺らを釣りのルアーにするつもりだぜ」


「嘘だろ……そいつぁマジですかい?」


ドライバーのリック・ローソン伍長もたまげた様子でサンデンに聞き返した。


「あぁ……」


「戦車隊とテメェの株上げか……野郎も忙しいもんだ」


 黒人で引き締まった体をしたロイ・マグギリアムズ三等軍曹、通称マギーはゴールへボールを放りながらぼやく。


「だが任務は任務だ。センパーファイ(常に忠実たれ)」


 サンデンがそう言うのと同時に砲撃手の放ったボールが網を揺さぶり、アスファルトを打った。



同日 午後16時32分


アフガニスタン C地点


 傾きかけた西日が舞い上がる砂塵を照らす。潤いの無い死せる大地をM1A3エイブラムズ戦車の戦列がその履帯を刻みつけながら西へ西へと突き進んでいく。


 アフガニスタンは1979年のアフガン侵攻から今にかけてソ連の拠点が多く、連合軍はそれを叩かんと5年以上はこの不毛な砂漠地帯で不毛な戦いを続けている。拮抗していたバランスも最近は連合軍に傾きはじめている。


「ったく。これは戦争なのかボーイスカウトのピクニックなのかさっぱり解りやしねえな」


 とスティーブは装弾手のプラットフォームで漏らした。それもそのはず。今回の編成は20歳未満の未熟な兵士が多くを占めていた。サンデンの登場する『ビッグレッド2』はそれなりの経験者が登場しており大丈夫だが、その他の錬度および精神面がサンデンにとっては不安要素の一つとなっている。


「そういうな。最近じゃ、ガキがエースパイロットになれる御時勢だ。珍しい話じゃない」


 マギーは頭で手を組んでリラックスした様子でスティーブの独り言に相手をした。


「とことでガニー、俺たちはどこまで行けば良いんでしょうかい?」


「あと少しだ、リック。だけど……そろそろ例の丘だ」


 例の丘。サンデンが今回の作戦で最も気にかけているポイントだ。伏兵を仕込むのには最高のポジションともいえる。


『こちらビッグレッド9。エネミー・タリホー10時方向にT72が4両。距離は2キロ先」


『1よりBセクションリーダー。ビッグレッド2、お前らのセクションが一番近い。攻撃せよ』


「Rog」


 ヘッドセットからの指示に従って砲頭の外に身を乗り出しサンデンは10時方向にいる敵を双眼鏡で確認した。


「こいつは……?」


 敵はこちらに向かってこずに例の丘に向かって走行している。誘っているのだ……我々を網に。


「こちらビッグレッド2。追撃はしない方が良い。これは罠だ。あの丘を迂回したルートを取ろう」


『ダメだ。このまま最短ルートを取れ。これは命令だ』


「しかし……このままでは」


『黙れ!!指揮官は私だ。戦功があるからって調子に乗るな!!』


 一方的に通信はきられた。


「ふん、人間のクズが……無能な上官はハインドより怖いな」


 マギーは小さく呟いた。


「仕方ない。スティーブAPDSFS(装弾筒付翼安定徹甲弾)を装填しろ」


「アイ・サー」


 サンデンに言われるがままにスティーブは主砲の閉鎖機にあらかじめ準備していたAPDSFS弾を押し込んだ。


「各車、右から目標をABCDとする。APDSFSを装填せよ。俺の合図があるまで発砲するな。解ったか?」


『了解』


 各車長の復唱を確認し、サンデンは双眼鏡で丘を注意深く凝視し伏兵を探し出そうとする。


「ガニー、敵さん停車して砲塔を向けてきましたぜ」


「距離は、マギー?」


「1.2」


 1.2キロ。新たに日本製の高性能火器完成システムを搭載したM1の120ミリ砲の命中精度は向上し、1.5キロ先の目標を誤差20センチ以内で命中させることが出切る様になった。


「発砲を許可する。6は目標B、7は目標C、8は目標Dを攻撃せよ!!」


「了解!!」


 サンデンの号令が伝達するやいなや、静寂の砂漠に120ミリ砲の咆哮が雷のように轟いた。湾岸戦争では効果的にソ連製の戦車を撃破したダーツのような飛翔体を放つ砲弾は目標AとDの装甲を穿ち、それらを抹殺した。


『BとCが逃げていきます!!追いますか?』


「追う必要は無い。ソ連のお家芸の包囲をやろうとしている。見ろ。周りのに戦車を隠しに良い丘陵がある」


 このまま丘陵という網の中に張れば、ソ連の戦車隊が待っていたと言わんばかりに姿を現してこちらを包囲する。サンデンはそう踏んだ。


『全車、前進しろ!!この丘陵を突破する!!』


 サンデン達の横を最大戦速でAセクションが通過する。


「大尉!!お言葉ですがこれは罠です!!」


『黙れ、前進といえば前進しろ!!』


 ヒュルルルル……


 風きり音が数瞬鳴ると、カーン大尉の搭乗していたM1が爆音とともに吹き飛んだ。


 敵襲だ。


『あれは……』


 前方に広がっている丘陵地帯から15両程のT-72が現れた。


「やはり……後退しろ!!」


『ダメです!!8時及び4時方向からも!!あぁ!!歩兵まできやがった!!』


『クソ!!大尉殿も戦死!!誰が指揮を執るんだ!!』


『9号車、敵の砲撃で履帯が切れた!!』


 指揮官の死と多勢による包囲。これだけあれば実戦経験の少ない兵士達を恐慌状態に陥らすのには十分すぎる。


「落ち着け!!」


 普段は声を荒ぐことの無いサンデンの声は大きく、そして力強く戦車隊全員のヘッドギアのスピーカーを揺らした。


「防御陣形を取れ。3と4は履帯がはずれたの5号車が立ち直るまでカバーしろ。偶数番号は正面に火力を集中。奇数は後方だ。解ったか!?」


『了解!!』


「センパーファイ!!」


 こちらの残存車両は11両で敵は30両以上に歩兵。


 生存不可能とも呼べる戦いが幕を開けた。



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