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少年と空-EAGLE KNIGHT-  作者: マーベリック
最終章 ソラのかなた、キミのもとへ
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MISSION Debriefing エピローグ

2016年 1月12日 17時21分


東京 駒込病院


 松葉杖をつきながら廊下を急ぐダッフルコートを羽織った少年がいた。


「アリス……!!」


普段は感情を表に出さないエドは心を踊らせながら10階の2号室を目指した。その様子は待ちに待った事がついに来たと喜ぶ幼子のようだった。


「あ、エドくん」


 ナースステーションの前でエドに声をかけたのは顔見知りの井上と名乗る看護婦だった。


「ミス・イノウエ。あの知らせは本当ですか!?」


「うん。本当だよ。ついてきて」


 医療器具が乗った台車を押しながら看護婦はエドを連れて目的地へ向かう。心臓が高鳴る。期待に胸を膨らませ、個室の2号室へ彼は松葉杖を進めた。


「あまり刺激しないでね。今朝、覚醒したばかりだから」


「はい」


 部屋には夕日が差し込んでいた。その部屋に一人、ベッドを背もたれの状態にしたたずむ少女がいる。夕日を反射する稲穂のような金髪。そして、彼女のサファイアのように蒼い瞳がこちらを見て驚きの色を露にした。


「エドくん……!?」


「アリス!!」


 この前の戦闘で被弾したアリスはMV-22オスプレイでこの病院の集中治療室に運び込まれ、約2週間意識を失っていたのだ。そして今日の朝、意識が戻った。脳障害もなくいたって綺麗に意識は戻った。


「アリス!!」


 ずっと望んでいたこと――-それが今日という日に叶ったのだ。堪えてきた感情が爆発し、エドは涙を流しながら強く強く彼女を抱きしめた。


「エドくん……」


 感極まるべき瞬間のはずなのにアリスの声はどこか悲しい色を含んでいた。


「アリス、どうかしたのか?」


 エドは訝しい様子で彼女の顔を見た。彼女も涙を流していたのとは違うほうの涙を……


「ごめんなさい……私、エドくんのこと……もう、愛せないんです」


「……どういうことだ?」


 突然の宣告。エドは訳が解らないままアリスの言うことに耳を傾けた。


「あの被弾のせいで……私の脊髄が損傷されて……私、二度と立てない体になりました……それに、弾丸が子宮を壊して……赤ちゃんも産めない体になっちゃたんです」


 アリスは涙をぬぐって話を続ける。


「だから……私、エドくんのお荷物になっちゃうし、子作りも出来ないんです……こんな私に女性としての価値はもう……!?」


 続きは言えなかった。いや……エドが言わさなかった。エドは自分を蔑む言葉を吐く唇を自分の唇でふさいだのだ。


「エド……くん?」


「俺を見くびらないでくれ……」


 エドは眼鏡を外して彼女の涙に暮れた眼を見つめた。


「俺は君を愛してる。一人で立てないなら俺が背負う。俺はアリスを背負っていくよ……いつまでも」


「でも、私……」


「俺は頼まれてアリスを愛してるわけじゃない。愛したいから愛してるだけだよ」


「エド……くん!!」


 アリスは彼の子供のように胸の中で泣きじゃくった。温かい涙だった。エドは彼女をあやすように豊穣な稲穂のような金髪を撫でながら温もりを感じたのであった。


 厳しさを増す冬の風を打ち消せるような温もりがアリスとエドを包んだ。二人の行く道は長く険しい極寒の荒野かもしれない。


 それでもいい。


 隣に愛する人がいれば……




 同日 15時12分 


 ニュージーランド クライストチャーチ 


 1月のニュージーランドは夏だった。夏といってもテキサスのように酷暑ではなく涼しく心地よかった。海軍の夏服を綺麗に着こなしたフランクはメモを片手に閑静な住宅街を歩いている。戦争の波はこの南端の島国を襲うことはなく、道路に穴の一つも開いていなかった。


「来てみりゃ案外いい場所だな。ニュージーランドって。なぁ、グレッグ」


 グレッグ―――グレッグ・マクファーソンとの約束で、彼の遺品を彼の家族に届けるためにフランクはニュージーランドのクライストチャーチを訪れる事にしたのだ。


「あと2ブロック先か……」


 この戦争はフランクから多くを奪っていった。グレッグもその一部。次は自分の隊で戦死したロジャーの家族を訪ねなければ鳴らない。これが生者の出来ること……かつての上官、一条大尉も言っていた。


「あった」


 『Macpherson』と書かれた表札の背が低い家をフランクは見つけた。家の前庭にの花壇は名前までは解らないが色取り取りの花が咲いていた。


「どなた?」


 玄関前のベンチでアイスティーを片手に読書するアイルランド系の女性がフランクに声をかけた。年齢はフランクより少し年上くらいだろう。フランクは玄関の前に


「フランク・ウィルディ中尉です。グレッグ・マクファーソン准尉のお宅ですか?」


「えぇ。でも、弟は死んだわ。私は姉のジュリア・マクファーソン」


「その事で参りました……グレッグ―――弟さんとの約束で遺品を届けにきました」


「そう……こんな遠くまで……ありがとう」


 フランクは鞄の中から一つの少し大きめの箱を出した。グレッグの遺品だ。


「ねぇ……中尉さん。グレッグがどう死んだか知ってる?」


「え……」


 その言葉はつららが刺さったかのようにフランクの胸をえぐった。話していいのか?彼は迷いに迷った。


「……自分は彼の所属していた飛行隊で編隊長でした……」


 話すことにした。ここで逃げたら空にいる彼に申し訳が立たない。彼を忘却で再び殺すことになる。フランクはそれは避けたかった。


「彼はソ連の手に落ちたトウキョウを奪還する作戦で、敵の対空砲に特攻して……戦死しました……国のため、自由のために……ではなく、あなたや家族の事を最後まで思ってたと思います……」


「……そうなの……彼は役に立ちましたか?」


 ジュリアは泣くことも無く笑顔でフランクに問うた。その笑顔は痛々しかった。フランクは彼のことを思い出し、きつく締めた涙腺が緩んだ。


「……はい。彼は優秀なパイロットでした。なのに……なのに……俺がもっときちんとしておけば死なずに済んだ!!クソ!!」


 フランクの頬を大粒の涙がつたう。悔しくて悲しくて……いろいろな物が篭った涙。


「よかったね……グレッグ……最後に彼みたいなすばらしい人に巡り合えて……」


 そう言ったジュリアの瞳も涙であふれていた。彼女の涙もきっと複雑なのだろう。もう会うことの出来ない弟を思って涙する。


「では……自分はこれで」

 

 フランクは耐え切れずにジュリアに敬礼して踵を返してグレッグの家をあとにした。


 涙に暮れる家路。これが生き残ったものの義務だ。死んだ者の事と死んだ意味を忘れない為に涙をする。


 勝ち残った背中に悲しみを背負ってこれからもフランク・ウィルディは生きていく……。まだ先の見えない未来を。



 2016年 4月14日 18時21分


 東京 染井霊園



 東京の復興は目まぐるしいスピードで行われた。穴だらけだった道路はきいんと舗装され、ビルも急ピッチで建設されている。

 霊園の一角、爆撃から生き延びた花びらが散り始めたソメイヨシノの下にある墓標に手を合わす少年がいた。


「竜也……終わったよ」


 翔は合掌を終えると墓標に声をかけた。この日、翔は彼を死なすことになった。第7人工島へ出撃し、リジーナ・カリヤスキーと交戦して敗北。そして竜也は死んだ。


「なぁ……エースになりたいって思ってたけど……やっぱ俺が馬鹿だった」


 エースパイロット。これが風宮翔の原風景であり目標だった。だけど、そこに辿り着くまでに多くのものを殺して、多くの大切なものを失った。


「エースパイロットは英雄でも何でもない……平和な世界じゃ大量殺人者の証明書みたいなもんだ。だけど俺は十字架を背負って生きてくよ」


「じゃあな。竜也」


 翔はそう言い残して歩き出した。


そうだ……俺は人殺しだ。勲章や名誉のメッキで塗り固めても、その本質は変わったりはしない。

「翔、こっちだよ!!」


先に入り口で待っていた春物の白いブラウスを着た光は手を降って翔を呼んだ。


「あぁ……お?」


空に爆音が轟いた。V字に並ぶ3つの点……戦闘機の編隊が翔と光の頭上を通り抜け、茜色の空の向こう……純白を残してどこか遠く飛び去っていった。


「戦闘機だ……翔?」


 翔は取り憑かれたかのように空に残された飛行機雲に釘付けになっている。


戦闘機……自分の全てだった。

「もう、良いか」


もういらない。かつての自分の全てなんて……。


「え?どうしたの?」


「何でもないよ。それより行こうぜ」


「うん。お腹空いたから、どこかで食べてこうよ……翔のおごりで」


「ざぁけんな……」


 隣で笑う光を見るとどこか胸が温かくなる。抱きしめたくなる衝動に駆られてしまう……その全てを自分のものにしたくなる。


……これが平和か。

 

 スクランブルも人殺しもしないで済んで、隣に大好きな人が笑ってられる世界……俺はこれが欲しかったのかもしれない。


 翔はふと笑みがこぼれ


「わーったよ。どこでも連れてけよ」


「そう来なくっちゃ!!」 


 光は翔の手を握ってように歩き出す。その足取りはどこか軽く弾み、春の訪れを歌う小鳥のようだった。



 戦争が終わって気づいた。俺が欲しかったのはエースの称号でも、空を飛ぶ事でもなかった。


 この手を包む愛おしい温もりだった。


未来は何が起こるか解らない……また暗い時代が待ち受けてるかもしれない。 でも……怖くない。


 だって未来を共に生きる光があるから。


 伸びる影は二つ。黄昏の光が二人の行く道を照らす……。この先の未だ見ぬ未来という空への誘導灯のように。





〈fin〉

ども、完結しました。


こんな稚作に最後までお付き合いいただき感謝の言葉しか出ないです。


文章もキャラクターもダメダメのこの作品が完結できたのはご愛読してくださる読者様のおかげと言っても過言ではありません。本当にありがとうございました!!


最後にマーベリックからのお願いです。この作品でのお気に入りのキャラクターやシーンを感想欄や活動報告などに書いていただければ幸いです。


以上をもって本編を完結しますが、外伝を書いたりするので、そこでお会いしましょうね!!!

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