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少年と空-EAGLE KNIGHT-  作者: マーベリック
最終章 ソラのかなた、キミのもとへ
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MISSION61 戦火に咲く花

 パイロット達は3つのチームに分かれた。戦闘機の防衛チームと制圧ABチームに。 


 制圧Aチームのイーグルナイト小隊は翔を先頭に研究施設に入った。入り口で他の隊と別れた彼らは施設内を相互に警戒しながら一列に進んだ。


 施設はまだ新しさの色が残されていて、内装も真新しかった。SF作品に出てくる施設が本当にあるのならここはまさにそうだ。


「フランク、後方は?」


 地下へ続く階段をくだり下層についたら、フランクはミニミ機関銃の銃口を左右に振り索敵。何もいないことを確認して、翔に親指を立てて前進を促した。


「アリス?」


 施設の奥へと進む中、エドは背中越しのアリスの震えを感じた。間違えなく彼女は恐れている。空という戦場で幾度の勝利と生存を勝ち取った彼女だがおかでの戦いは未体験に等しい。それに優しい彼女が生身の人間を撃つという状況だ。アリスにとっては非常に厳しいはずだ。


「大丈夫か?」


「へ……あ、大丈夫です」


 やはり恐怖と緊張を隠しきれていない……まるで初陣の兵士のように。


「アリス。もし怖かったら俺から離れるな」


「良いのですか?私……」


「気にするな。女性を守りエスコートするのは男の仕事……」


「来たぞ!!」


 エドの言葉はフランクの声とミニミの発砲音でかき消された。五人の背後にあった地上へ続く階段へフランクは制圧射撃。チェーンソーのような音と共に敵兵は木々のようになぎ倒された。だが、フランクが銃撃をとめた刹那に敵兵は巣穴から出てくるアリのようにあふれ出てきて、こちらに銃口を向けてきた。


 エドはアリスを庇うように身を返し、現れた10人ほどの敵にフルオート射撃。


「あの角を遮蔽物にするぞ!!」


 翔の指差した曲がり角はエドとフランクから10メートルほど離れていた。飛び交う銃弾の中、エドとフランクは互いに顔を見合わせ、意思疎通ができたかのようにうなずいた。


「解かった、翔。隼人と一緒に援護しろ!!」


 身をかがめたフランクとエドは相互援護をしながら目標地点へと前進。たどり着いた五人は呼吸を整えながら今後の方針を話し合うことにした。


「どうする?」


「敵は階段から出てきた。もっといるはずだ……翔と隼人とアリスは先に行け。俺がここを食い止める」


「カーボーイ気取るなよ」


 エドが走ったときにずれたメガネを元に戻しながらフランクに言った。


「俺一人で十分だ。テキサスじゃもっとマズイ修羅場を越えたんだぜ?」


「ここはテキサスじゃない。それにお前一人をおいていけるかよ……大切な相棒マザーファッカーを」


 その一言を聞いたフランクは一瞬だけ呆気に取られたが、「ふ」と笑みをこぼしエドの拳と自分の拳を合わせた。


「言うじゃねぇか……良いぜ、ダチこーの為に地獄へ行こうじゃねーか!!」


「て……事だ。翔、隼人……アリスを連れて先に行け」


「だけど……」


「私もエドくんたちと残ります!!」


 隼人の言葉をアリスはかき消した。


「ダメだ、ここは危険になる。お前じゃ……」


「エスコートしてくださいよ。エドくん……さっきそう言ったじゃないですか?」


 アリスのまっすぐな瞳にエドは負けたようだ。頭をかきながら言う。


「解かった。だけど、無茶はするな……翔、隼人ここで食い止めるから先に行け」


 エドの口元は相変わらずの一文字にむすばれれていた。だが、その蒼眼は決意の炎で燃えていたのは翔と隼人にはわかる。


「お前ら!!」


「そういうこと。早く光のところへ行ってやれよ。おれはここのファッキン・サイコどもを片付けっからよ」


 フランクは迫り来る敵に5.56ミリの嵐を撒き散らせながら銃身を支えていた左手の親指を立てた。


「翔くん、絶対に助けてあげてくださいね。光さん……絶対に翔くんが来るって信じてますから」


 三人の信頼の目。二年に及ぶ地獄のような戦いを共に切り抜けたからこそ得られる信頼が彼らをつないでいた。故に背中は任せられる。例え悪魔と戦うこととなっても。


「わーったよ」


 翔はそう言い残して隼人共に先を急いだ。今、やるべきことはただ一つ。光を見つけ出すことだ。


 走り出した翔と隼人の背中との別れを惜しむかのように彼らは一瞥し、そして今度は己のなすべきことをなさんとした。三人は銃口をこちらに押し寄せる敵兵に向けて制圧射撃を開始した。


 迸る銃火マズル・フラッシュ


 暴力の嵐に身を焦がされないように三人は懸命に自分の手持ちの火器を撃ち続けた。


「ファック!!なんて数だよ!!ジョン・ウェインも真っ青になるぜ」


 時がたつにつれて増える敵兵に苛立ちを覚えながらもフランクは機関銃を銃身が焼け付かんばかりに撃ち続た。フランクは相手に前進する時間を与えないように機銃弾を撃ち、その隙にアリスとエドが敵に命中させる。


「フランク、銃身を休めろ。焼きついたらいっかんの終わりだ」


「わかった」


 フランクは足元にミニミを置き、腰のウェスタン・ホルスターから彼の愛銃であるコルト・パイソン.357マグナムを抜き放った。


「親父……」


 フランクはそのグリップに刻まれた跳ね馬の刻印エングローブに言葉を吹きかけた。


「約束どおり、誰かのために使うよ」


 このコルト・パイソンは彼の父親、ギャングとの銃撃戦で殉職した保安官だったジョージ・ウィルディーからの形見だ。そんな彼はいまわの際に息子のフランクに言った。


『これは自分の為に抜くな。誰かを護る為に抜け』


 彼に自身の拳銃を渡し息を引き取った。それ以来彼は自身のためにこの銃を抜いていない。大切な人に危機が訪れた時だけにこの銃を抜くのだ。


「行くぜ」


 ふぅ、と深く息を吐き彼は銃口を自分たちに襲い掛かる危機に向けた。照星と照門を敵のシルエットに合わせ、トリガーを絞る。


 ズドン。


 重々しく、荘厳な銃声と衝撃が彼の体を突き抜けた。撃鉄に押し出された.357マグナム弾は担い手の狙い通り敵を屠り続けた。


「こっちは看板だ!!エド、援護!!」


「俺もだ。アリス、頼んだ」


「はい」


 アリスは一呼吸しMP5短機関銃サブマシンガンの銃口を遮蔽物から除かせ、敵にフルオート射撃。彼女の手に握られたMP5から放たれた9ミリ軍用パラベラム弾は相手の肉を裂く嫌な音を立てながら死の花を咲かせた。


「ごめんなさい」


 お金で雇われた人々。彼らには帰るべき場所があったはずなのに……同じ人間を殺す罪深さ。彼女はそれに押しつぶされそうになる。でも、耐えて引き金を絞り続けた。


「……」


 指を曲げても弾は出ない。弾切れになってもアリスは壊れた織り機のように立ち止まり引き金を引き続けた。


 からん。


 空き缶の転がる音?否、パイナップルを小さくしたような手榴弾の転がる音だった。


「まずい!!アリス!!」


 エドは装填を終えたM4を放り投げ、アリスのいるほうへ飛ぶように駆け出した。


「アリス!!」


 エドはアリスを遮蔽物へと引き込み、転がって来た手榴弾を野球の内野手のような体捌きで広い上げ、敵の方向へ投げ返した。


 爆発。


 爆煙が視界をさえぎり、敵がよく見えなくなった。だが、これで敵は全滅に近い状況になったはずだ。一安心。そう判断したエドが遮蔽物に戻ろうとした瞬間だった。


「うっ」


 火薬の音と共に右足に衝撃が走った。衝撃の後に焼け付くような激痛が足に広がり、それに耐えかねエドは床に倒れこんだ。


「エドォォオオォォオォ!!」


 フランクが駆け寄るより早くアリスが走り出した。


「エドくんっ!!」


 アリスは倒れこむエドを安全な場所に運び込もうと肩を貸そうとした。


「やめろ。一人でも大丈夫だ。早く戻ってくれ」


「いやです!!私はエドくんが……」


 言葉は最後まで言われなかった。それを一つの乾いた音と運命が拒んだのだから。


「アリス……?」


 アリスは腹部から赤い鮮血を噴水のように散らせながら、エドの右隣に倒れた。その光景は彼の網膜には永遠のような長さで映し出された。


「アリス!!」


 理性が吹っ飛んだ。エドは自分でもこんな大きな声が出るなんて知らないほど声を出した。駆けつけたフランクが二人を片手で遮蔽物の中へ運び込む。


「応急セット出せ!!早くしろ、フランク!!」


「あぁ……あぁ!!」


 フランクは腰のポーチを外しエドに渡してミニミを手に遮蔽物から身を除かせ戦闘を再開した。


「アリス!!アリス!!」


 エドはナイフで患部を覆う服を裂き、消毒液を流し込んで、モルヒネを彼女の二の腕の太い血管に注射した。基本教練でしか応急処置はやったことがないが彼は傷口をガーゼなどで圧迫し止血を試みた。


「エド……くん……」


「しゃべらないで良い。絶対に助けるから待ってろ」


 必死に応急処置を行うエドの頬をアリスは力なく手を伸ばした。彼女の血がエドの頬につく。


「エドくん……言う機会がなくなるかもしれないから……ここで……言います……」


「なんだ?」


「私……エドくんの事……」





「愛してもいいですか?」




 その瞬間に時間が止まったかのようにアリスは感じた。誰にも気づかれることも無い仕事を愚直にこなし続けた彼、感情表現が下手だけど根は優しい彼がアリスは大好きだった。しかし、答えを聞くのがずっと怖かったから言えなかった素直な言葉。もう、答えを聞いても意味が無いけれど……


「あぁ。もちろんだよ……」


 メガネが曇る。涙か?嬉しいのか悲しいのかよく解からない。だけど、彼はひた向きに彼女の手当てを続けた。


「エドくん……嬉しいです」


 そういってアリスは作業を続けるエドの頭に手をやり、自分の唇をエドの唇に近づけた。


「アリス……」


 エドも作業を止め、アリスと同じように彼の顔を近づける。


 重ねた。


 二人の体中が互いの愛で熱くなる。歓びと愛で心臓が高鳴った。


 これなら死んでも良い構わない。でも……死にたくない。こんな素敵な男性と永遠に別れるのは絶対に嫌だ。アリスはそう祈り、死期か打たれたモルヒネか何かで意識が深淵の彼方へと墜ちた。


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