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少年と空-EAGLE KNIGHT-  作者: マーベリック
最終章 ソラのかなた、キミのもとへ
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MISSION57 目覚める悪魔

 悪魔が眠っていた。


 漆黒の羽の悪魔と純白の羽の悪魔が。その悪魔は人と一つとなって、大空で殺戮を楽しむ。


『神経接続を開始せよ』


「了解」


 駐機されているSu417のうちの白い機体に乗ったウリエルは接続ケーブルが装備されたイジェクション・シートに身を沈め、背骨に打ち込まれたプラグに細い注射針のようなジャックを差し込んだ。


 ぷしゅう、と間の抜けた音と共に彼女はSu417と文字通り一つになった。


 ――クララ?


 コクピットの中でウリエルはふと思い出す。吉田光やガーディアンに呼ばれたクララという名前。なぜかその名で呼ばれると少しばかりか胸が絞まるような感じがする。だが、何も感じない。怒りも喜びも。


 エンジン・スタート


 体の一部を動かすように念じたら、機のエンジンは動き始めた。


「テイクオフしたら、ガブリエルは右翼。ミカエルは左翼に付いて」


『了解』


 ウリエルはマスターに言われたようにフライトプランを二人の少女に伝える。無機質なやり取りだった。


 バーナー・オン。


 その脊髄の電気信号を読み取った、コンピューターはその指令をエンジンノズルに伝達。地下の格納滑走路から冷たい色をした炎を帯びて空へ放たれた。そのシルエットはスホーイ系統の流線美を受け継いでいたが、同時に悪魔的な禍々しさが内在されていた。



 由衣と翔、そしてアリスのカルテットはこの空域では最強だった。迫り来る敵機をちぎっては投げ、ちぎっては投げた。


「兵器だけが取り柄のようね。次!!」


 由衣の戦いは凄まじかった。性能で劣るF-29で並み居るSu39を次々に落としていく。空戦の申し子とも呼べるほどのパイロットだった。その実力は場合によっては翔を凌駕するほどだ。


 自分と機体を知り尽くしたパイロットは強い……過去、航空自衛隊でも旧世代のF-104スターファイターで当時最強と言われていたF-15イーグルとの模擬戦に勝利したパイロットがいたように。


 そして、由衣は得意なトリッキーかつ型破りの機動でまた一機の龍を屠る者を屠った。


「もう、もっとマシなのいないの!!」


 魔女の魔法のような空戦機動から逃れられる物はいない。そう言わんばかりに彼女は敵機を撃墜していった。


 多方の敵機を片付けたアリスと由衣は翔を先頭にV字編隊を組んだ。右翼にアリス、左翼に由衣だ。


「隼人くん、敵はもういないの?」


『いないね。多方やっつけたみたいだ』


「ちぇ。リジーナ・カリヤスキーばりのエースはいないのかな……ん?」


 余裕綽々の声は突然曇った。左翼に現れた2機の戦闘機、一見ベルクトに見えるが細かい違いがいくつかある。未確認の敵機……それから由衣は禍々しい何かを感じ取れた。血に飢えた獣のような気配だ。


「翔、来るよ。何か……ヤバイのが」


 恐怖と共に由衣は下腹部が震えた。歓喜で。強敵に会う時に感じるこの感じ……間違えない。強い敵が来た。


「まさか……417か!?」


『多分ね……黒いのが二機と真ん中に白いのがいる』


 白い機体。翔は直感的に感じた。


「クララか……」


「翔、まさか」


 翔は逃げるか戦うかを迷った。他の機体ではやられるだけだと解っている。だが、クララに銃口を向ける事が出来るかどうか解らない。彼女と殺し合えるかも……いや、多分クララは撃ってくる。でも、自分は引き金は引けないかもしれない。


「どうするの?」


 だが、由衣やアリスはこの事情を知らない。彼女達なら容赦無く彼女を殺すだろう。ならば……


「俺が、クララと戦う……由衣、アリスお前らは黒い機体を叩け。俺は……白をやる」


「翔!!」


「大丈夫だ。俺がアイツを救う……」


 翔は操縦桿を固く握り旋回、由衣とアリスを従えて悪魔の群れを目指す。


 あの悪魔に取り憑かれたクララを救えるのは俺しかいない。


『翔くん、フランクくんを呼ばないと』


『ちょっと、それってどういう意味よ?』


 アリスの提案に由衣は不服そうに突っかかった。


『スペック上、F-29ではあの敵機に勝てるか判らないんですよ』


「アリス、それはあたしを入れたスペック?」


『それは……」


「なら、闘う。あの爆撃バカとあたしなら、あたしの方が役に立つって」


 絶対に闘う。彼女はそう決めていた。後方にいる新兵達にこいつらの相手は困難だとと判断したからだ。だが―-彼女はあの機体の放つ魔性の何かに魅せられたのかも知れない。責任感と言うより、衝動に似た何かが彼女を突き動かしている。


 迫りくる悪魔。その必殺の間合いに入った途端に三人の目は変わった。


「各機散会しろ!!」


『ウィルコ!!』


 散会した魔女、戦乙女そして騎士は刃を交えるように鋭く旋回。


 重力がのしかかる鋼の棺桶の中で翔は呟く。


「クララ……」


 熾烈なドッグファイトが始まった。



 フランクはめぼしい対空兵器に爆弾を落とし終えた。残弾は20ミリ980発。リトルジョンミサイルが2基。


「なぁ、フランク。爆弾もないし、俺らも空中戦に参加しよう」


「そうだな。最近、やってないけどやるか……って、おっと」


 軽く操縦桿をフランクは切り、右に鋭く旋回して敵弾を回避した。


「エド」


「あぁ。後方500にドラゴンスレイヤーだ」


 不意を突かれたか。鳴り響くミサイル警報アラート


「お?……よし」


 フランクはエンジン主力を最大にして迫り来るミサイルを振り切ろうとしたが、やめた。


「フランク……まさか、あれに」


「お、解ってんじゃん。大丈夫だよ。俺に不可能はなぁーい」


 軽口叩いて、フランクは機首を新たに現れた地対空ミサイル車に向けた。そして加速。


「ただでミサイルの餌食になるのも俺の主義じゃない」


「よせ!!フレアを使って回避しろ!!」


 エドの訴え虚しく、フランクは加速と機種の角度を上げずに目標のミサイル車へと接近するのをやめなずにいる。


「よぉーし。入角よし……ミサイルよし!!」


 フレア。


 フラップ全開。


 急上昇。


 フラップは風を掴み、F-36の巨体をひらりと上空へと持ち上げた。そしてフレアの熱源を認知した下へ45度傾いたミサイルはフレアの方へ誘導機能を断たれたまま飛翔する。そして、ゴール地点へ着弾。


 ゴール地点、それはミサイル車だった。そう、フランクはこれを狙っていたのだ。ミサイルの誘導を断って直進させミサイル車にぶつけさせるのが彼の狙いだった。


 サッカーで例えるなら相手の選手にわざと当てて行うオウンゴールに近い荒業をやってのける事が出来たのは、ひとえにフランクの無謀さとそれに伴う技術の技だ。


「はっはー!!フレンドリー・ファイアの気分はどうだ!?マザーファッカーめ」


「寿命が縮む……やめてくれ」


「エドよ、俺たちに明日はないってな」


「うるさい。俺は、こんな稼業やめて大学に行きたいんだ。未来有望なんだよ……だから、後方の敵機をやっつけてくれ」


「あいよ!!」


 フランクは神鳥の手綱を引き、後方の敵機へ宙返りを敢行。戦闘機の物とは思えないような速さでループ機動を行い、すぐに後方へ回り込み機銃撃墜ガンキル


「お見事」


「へ、こっちが本職だからな」


 低空で飛ぶフランク機でも聞こえない地響きがこの瞬間に起きた。島の沿岸、その地下からそれは現れた。



 同刻 第5人工島沖 空母J・グラフトン


 航空隊の活躍により、戦況はこちらに有利に進んでいた。計画通りだと、野崎は内心微笑むが油断はしなかった。たかがテロリストだが、最新鋭の戦闘機を保有できるほどの力がある故に侮ることはできない。


「中将、上陸部隊の出撃はいかがしますか?」


「そろそろスタンバらせてくれ。制空権が取れ次第上陸を開始させて」


 野崎中将は神海に答えると、手元の緑茶をすすった。


「中将……あの……あれ……」


「どうした?」


 青山准尉の呂律はうまく回っていなかった。近い勝利による興奮で?否、恐怖に近い驚きだった。


「これは……」


 野崎は一瞬言葉を失った。画面に映ったその巨大なモノに……


「M314対艦レールガン……!!」


 ナチスの列車砲を連想させる巨大な砲身を持ったそれは連合軍がアメリカ本土に迫り来るソビエト艦隊を撃滅するために試作したレールガンだった。しかし、高すぎるコスト故に量産はできずに製作中止になった兵器だ。


『こちら、護衛艦ウェリントン。レーダー照射を受けてます!!』


 この空母打撃群の先鋒をになっているイージス護衛艦のウェリントンからの通信。それを聞いて野崎の背筋に悪寒が走った。


「退避しろ!!射線からはずれ……」


 遅かった。画像に映るレールガンの砲口に電化が煌めき、雷がほとばしる。


 刹那、ウェリントンは文字通り真っ二つになった。



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