MISSION53 約束
今回は凄い長いです
敵襲だ。しかし、誰の?
ぞろぞろと入ってくる敵は西側のサブマシンガンMP7やM4カービンの散弾銃が装着されたモデルを装備している。
「翔……どうするの?」
高圧コンプレッサーの影に隠れている光は不安そうに翔を見ている。
「光、ケータイあるか?」
「うん。一応……」
「今の状況の映像を撮って神海にメールで送れ。そうすれば鎮圧部隊が来るはずだ」
「うん」
ポケットからスマートフォンを取り出した光に翔はそう指示を出した。ハンガーデッキは現在、10人弱の整備士と奈々子だけしかいない。対する敵は30人近くが船に侵入している。
「ダメ、電波が悪くて」
翔も、自分のケータイの電波を確認したが同じで圏外と表示されている。
「電波妨害か」
「とりあえず、CATCCに行こう。そうすれば、何とかなる」
「うん、行こ……」
「動くな」
コンプレッサーから身を出したとたんに、野太く押し殺された声がした。
翔は後ろに目をやる。コンプレッサーを挟んで2メートルの所にM4を構えた筋肉質な黒人男性がいた。
「吉田光か?」
銃口をこちらへちらつかせ、男は問うた。
†
接舷された難民船の窓から空母の様子を機嫌よく、ベートーベンの第9をハミングしながら小太りの学者系の白人男性はシャンパングラスと共に眺めていた。
「アルファチームが突入しました。ハンガーデッキの制圧を開始した模様です。マスター」
「ご苦労。で、聖母は見つかったか?ガブリエル」
体のラインがくっきりと見える程タイトなスーツ、新型戦闘機Su417のパイロットスーツを着込んだ、ガブリエルマスターと呼ばれる男はシャンパンのグラスを弄びながら問うた。ガブリエルと呼ばれる少女は「はい」と機械的にこたえるだけだった。
「しかし、ガブリエル。君の失態は大きな拾い物をさせてくれた。まさか、ガーディアンをかばったキミが適合者だったとはね……ウリエル?」
「はい。マスター」
ウリエルと呼ばれる少女の長い髪は雪のように白かった。そして、Su417専用のパイロットスーツを身にまとっていた。
「そして、ウリエル。君の生への執着が薬の効果を強めたとも言える」
「……どういう事です?」
「君を回収した時にうわ言のように呻いていたんだ。何だったかな……確かSから始まる人の名前を」
「記憶にありません」
「ははは、そうだったな。『プロトニン』は身体強化のほかに洗脳に邪魔な記憶を一切消す効果があったのを忘れていた」
マスターは声高く笑った。それを二人の少女は無表情な目で見ていた。
†
銃を突きつけられた翔と光は襲撃者が何者なのかを理解できた。
ソ連でもないし難民でもない――そう、第7人工島で自分達を襲撃したあの連中だ。
「ち……違ったら?」
「用は無いが、見られた以上は死んでもらうしかない」
ピリピリと肌に伝わる殺気。彼が本気だという事は翔にも解る。だが、どうしようもない。醸し出す雰囲気からしてプロ。下手に動いたら殺される事は目に見える。
どうする……?
覚悟を決めた翔は、賭けに出た。
「今だ!!撃て!!」
翔は声を張り上げた。
「何だと!?」
男は辺りを確認しようと銃口を翔達から離した。賭けは成功だ。翔の狙いはこれだった。フェイントをかけて動揺した短い時間、刹那とも呼べるチャンスを作り出す事だった。
「クソッ」
男は騙された事に気づき、銃口を翔に向けるが遅すぎた。翔は彼の銃身を掴んで引っ張り、こちらに寄った男に容赦ないひじ打ちを顔面に打ちこんだ。鼻の骨が砕ける嫌な感じがしたがお構いなしに翔は奪ったM4で男の頭部を殴打。ノックアウト。
「ふぅ……」
倒した男から追剥ぎのように弾薬とサイドアームのコルト.45オートを奪い、パイロットスーツのポケットにねじ込んだ。
「すごい……さすが海兵隊員をボコボコにした風宮中尉ですね!!」
愛機に備え付けてあったグロック26を片手に現れた奈々子は感嘆の声を上げた。
ちなみに奈々子が言うのは、翔の武勇伝の一つで、空母で行われた徒手格闘術訓練でスパーリングをした海兵隊員を倒した事である。
「おせーよ、奈々子。もっと早く来い」
「すみません。丸腰で来たらもう少し早く来れましたが、か弱い私が素手で大男を倒すのはちょっと……」
「わーった。俺はこの事を警務隊に報告する」
「はい」
翔はコンプレッサーから身を出し、左右を確認して走り去った。
早くしねぇと!!
廊下を全速力で翔は走る。階段を上り、警務課のいるギャラリーデッキを目指す。
曲がり角の向こうに翔は気配、そして殺気を感じた。足音からして少数。翔は遮蔽物になるであろう、水圧扉の縁に身を隠してライフルを構えた。
来た。
案の定、敵だった。数は5人。
空ではためらう引き金。
しかし、今は光の命がかかっている……容赦なく彼は敵にフルオート射撃。
けたたましい音が廊下に響く。先制攻撃は出来たが、敵は強い。素早い動作で遮蔽物に隠れ、手に持つMP7で応射してきた。
「クソ……時間が無いのに」
翔は銃口だけを縁からのぞかせ連射する。
M4しかない翔と敵とでは圧倒的な火力差があり、相手は室内戦のプロだと伺える……陸戦の訓練は申し訳程度にしか受けていない彼にとっては絶体絶命だ。
「やばいな」
そう呟いて、空になったマガジンを捨て、新しいのに変えている最中だった。やむ事を知らぬ銃撃が突如に終わった。
重く乾いた銃声が5回。弾種は音からしてマグナム系だと、翔は判断した。
「おい。そこのお前。生きてるか?」
「フランク!?」
敵の遮蔽物となっていた角から姿を現したのは、コルトパイソン.357マグナムを手に持ったフランクだった。翔は取りあえずフランクの元へ駆け寄る事にした。
「お前、どうして……」
「たまたま歩いてたら、銃声が聞こえたもんだからな。で、こいつら何者だ?武器からするとソ連じゃ無い事は解るけどよ……にしても、揃いにそろって9ミリたぁ、情けねぇ連中だな。男はマグナムか45だ」
「あぁそうだな。光を拉致ろうとした連中だろ。フランク、お前は警務課の所へ行ってこの事を報告してくれ」
「解った。で、お前は?」
「光と奈々子がハンガーデッキで隠れてるんだ」
「そうかい。じゃ、早く戻ってやれよ。ASAPで向かえに来る」
「フランク、こいつを持ってけ」
翔は黒人の男から奪ったコルト.45オートとその予備マガジンをフランクに渡した。
「お、サンクス。もう、パイソンに弾が一発しか残って無かったんだよ。それと、ガバメントも俺の大好物だ」
「良いから行けよ」
翔はフランクの方をポンポンと叩き、光達の元へ向かった。
†
翔がハンガーデッキのゲートの近くについた時だった。断続的な銃声が聞こえたのは。
「奈々子?」
まずい。
翔の心臓は悪魔の凍った指先で掴まれたようだった。敵の目的は光……奈々子は敵にとっては何ら価値の無い存在だ。間違いなく殺されてしまう。
翔は全速力で駈け出した。
連射音と単射の協奏曲。それは翔を不安にしかさせない。喧嘩慣れしていない奈々子がどれだけ持ちこたえれるか解らない。生きていられるか解らない。
銃声は止んだ。
「奈々子!!」
奥の方にあるコンプレッサーの近くにある外部デッキの入り口の近くに人影が見えた。
白銀の髪に、小柄な体つきの少女――あの時のアイツだ。それにもう二人。遠くて顔が判らないが、同じような長髪の少女と肉付きの良い男がいた。
少女は見覚えのあるタイトなスーツを着ていた。そう――先程、那琥が見せてくれたSu417のパイロットスーツだ。
翔は直感的に理解した。こいつがクララを殺したと。
その手にはSFチックな形をしたサブマシンガン、P90が握られていた。そして、肩関節を決められている光がいた。
「奈々子!!」
翔の存在に気付いた彼女は銃口をこちらに向け、発砲。翔はとっさの反応で前転し火線を避けた。
「まさか……」
翔は祈る。無事でいてくれ。奈々子。奈々子。奈々子。奈々子!!
安全を確認した翔はコンプレッサーへ向かう。頭がおかしくなりそうな程に走る。走って走った。
「奈々子!!」
「……中……尉……」
血だまりと腹部を抑える奈々子がそこにはいた。
「しっかりしろ!!奈々子」
膝をついて、翔は奈々子の手を握るが、握り返される力は弱かった。
「ごめんなさい……役に……たてなくて」
「良いからしゃべるな!!」
血を流す奈々子は苦痛に顔を歪めるでもなく、その顔はどこか穏やかだった。まるで、死を覚悟してるかのように。
「バカ野郎……なんで連れて行かなかったんだよ。俺は!!」
翔はツナギ状のパイロットスーツからシャツを出し、袖を破って止血の為に奈々子の腹部を縛りながら、自分の不甲斐なさと無能を嘆いた。
「頼む、竜也……寂しいのはわーってるよ。奈々子を連れて行かないでくれ!!」
祈るように翔は涙を流しながら言った。戦争は終わったのに、大切な仲間が死ぬなんて絶対にあってほしくない事。
「中尉、私の事は良いです……光さんを……光さんを追ってください。私は……大丈夫です……」
足音が聞こえる。警務隊のようだ。
「看護兵!!急げ!!」
「中尉……短い間でしたけど……楽しかったです……死んだらごめんなさい」
「奈々子!!」
メディックが到着したのを確認し、翔は立ち上がった。その瞳は涙と――怒りに溢れている。
「許さねぇ……」
翔はM4を片手に光を奪い、奈々子を撃ったアイツを追い始める。だが、敵はそれを許さない。護衛の連中が道を塞ぐのだ。
「邪魔……」
怒りの銃火がほとばしる。翔の放った銃弾は一人、
「すんじゃねぇええぇぇえぇえ」
また一人となぎ倒す。怒りの形相で敵をなぎ倒す彼は阿修羅としか形容できなかった。無慈悲な銃撃は道を塞いだ敵全員を打ち倒し、血染めの道を作った。
「翔!!」
光の声がした。方向は……艦尾の機体を甲板へ運搬するエレベーターだ。
「光!!」
翔はエレベーターへ全力疾走。奴らは、飛行甲板へ上がるつもりだ。何をするかは解らないが。
体中の筋肉と神経を走るという動作に一点集中させる。もう、自分なんて如何なっていい。光の為にそう、ただ光の為に。彼女を護る為に。あの優しい温もりをくれた彼女の為に……
エレベーターに到達すると、それが動き出したのが見えた。
動いた高さは2メートル強。翔はM4のスリンガーを肩にかけ、これまでの走力をエネルギーに変えて跳躍。何とか縁を掴む事が出来た。
エレベーターはどんどん昇っていく。高さは海面から10メートル以上。ここから落ちたら間違えなく海面に叩きつけられて死ぬか、船のスクリューに巻き込まれて死ぬか二つに一つしかない。
「翔!!ダメ!!」
翔は腕力を使ってよじ登ろうとするが、光はそれを拒むような言葉を行った。だが、翔は登りきった。
「動かないで」
よじ登った翔にもう一人の長髪の少女が銃口を突き付ける。背後だから顔が見えない。だが、この声はどこかで聞き覚えがある気がする。
「うるせぇ!!」
翔は背後にいる少女に肘を打ちつける。
手応えはある……だが、顔や腹の手応えではなく、掌で止められた感触だ。
少女は翔の受け止めた右手で彼を振り向かせ、その腹に鋭い膝蹴りを叩きこんだ。
「がっ!!」
水落ちに直撃。あまりの苦痛に翔の膝は折れた。少女はそのまま、翔の右手を取り地面にねじ倒す。
「やめて!!翔は関係ないでしょ!?」
「ショウ……」
光の隣で小太りの男は思索にふけり、数秒後にポンと手を鳴らし合点した。
「あぁ、ウリエル。ショウだよ。君がうわ言で言ってたのは!!覚えてるかね?」
「私の記憶には、その名前はありません」
陽気な男の言葉に機械的な回答を少女はした。
「光に何の用だ……?」
呻くような声で翔は問う。
「君のような一介のパイロットに行っても解らない事だよ。ガーディアン君」
「んだと!?ぐっ」
動こうともがくと、肩が更にねじあげられ苦痛が走る。苦悶の表情を浮かべる翔はねじり上げてくる少女を睨む。
「え?」
少女は似ていた。
「クララ?」
クララに。聞き覚えのある声も、顔立ちも似ているが、どこか違う。前より薄くなった髪の色。そして何より優しいまなざしは、氷のように冷たかった。
「クララ!!お前……」
頭が混乱した。クララは俺の目の前で死んだはずだ。あいつに殺されて……。別人?いや、それは無い。声も顔立ち、身体的特徴も何もかもがクララと一致している。
「私は、そんな名前では無い」
「は……」
「はは、クララかもしれないな。彼女は3週間ぐらい前に海で拾ったんだ。ボロボロだったけど、私の薬で治ったんだよ……でもね、薬の効果で必要の無い記憶は全部消えているんだ」
組み伏せられ絶望する翔の顔を見た男は滑稽そうに笑いながら答えた。
「貴様……殺す。殺してやる……」
「そう、怖い顔をしないでくれよ。私はね、君のガールフレンドに人類の科学の新たな一歩のへの礎になってもらいたいだけなんだよ」
「ふざけるな……」
めらめらと燃え上がる殺意が翔の心を黒く染める。こいつを殺してやる。人の命を実験の材料か何かしか思っていないこいつを殺したい、と。
「じゃ、私たちはここで失礼するよ」
男は遠隔操作用のスティック型のスイッチをジャケットから取り出し、親指で押した。
爆発。
空母に接舷されていた船が爆発した。それに合わせ、近くに駐機されていたSH-60シーホークのローターが回りだした。
「これで、ダメージコントロールなどで船は騒がしくなるな。行くよ。ウリエル……その男を殺して」
「はい。マスター」
「やめて!!」
マスターと呼ばれる男が踵を返した瞬間に、光は叫んだ。
「翔を撃ったら……舌を噛み切って死んでやるんだから!!今すぐ翔を放して!!」
「光……?」
「ほぅ、でもそれでは私に何らメリットが無いな」
意地悪く男は笑う。だが、光は続ける。
「解った。翔を放したら、あんたの所へ行ってやるわ」
「バカ!!何言って……」
「決まりだね。ウリエル、放せ」
「はい、マスター」
翔の手を放してクララはマスターの元へ行く。
翔は立ち上がり、光を後を追おうとするが 連れて行かれる光は翔の方へ向きかえった。その顔に不安は無く、あるのは満面の笑みだけだった。
「待ってるよ」
光はヘリの中に入れられた。そして、何もできない翔をあざ笑うかのごとくヘリは飛び去っていく。
「光ぃいぃいいいいぃぃぃいぃぃい!!」
その声は聞こえないであろう。だが、翔はそれでも叫び続ける。
「待ってろよ!!絶対に、絶対に、お前を助けに行くからな!!絶対、絶対に……」
最後の方は涙で声にならなかった。
絶対に助けに行く……たとえ、無限の空が俺の前にあったとしても……俺はそれを飛び越えて行くからな。